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〜 FF NOVEL <FFVIII> 〜
by テオ



降るようなKISSを君にあげよう

< 前 編 >







 ウィーンというほんの微かな振動音とともに、冷え切っていた部屋が瞬く間に暖かくなっていく。夜間用に明度の落された照明でも、文字を読んだりするのでなければ充分な明るさがある。
 ドアが閉じた瞬間から、外界とは完全に遮断されたかのように、お互いの存在しか感じられない。
 久しぶりのスコールの部屋だというのに、リノアは部屋の中央までくるとひとりでに足が止まってしまった。
 いや、久しぶりだからこそ。
 部屋の主の次に、この部屋をよく知っているはずなのに。
―― だって…、なんだか…
 よそよそしさを感じてしまうのは何故だろう?
 きちんと整頓された室内は、いつも見慣れた光景で、以前見た時とまったく変わりはないというのに。
 自問自答しながら、リノアにはその答えが解っていた。
 そう、きっと。
―― 私の気持ちが、不安でいっぱいだから…
 遠く離れて逢えない時は、逢いたい気持ちが募って、逆に恋しさも大きくなっていった。けれど、いつでも逢えるはずなのに逢えない今は、不安ばかりが先走る。
 忙しいのは知ってるけど。
 でも、一目だけでも逢おうと思えば逢えるはずなのに。
 いつもいつも、私ばかりが逢いにいって、かえって迷惑なんじゃ…?
 そんな憶測ばかりしている自分自身にも疲れていって。
 心が、荒波に揉まれる小船のように漂っているのがわかる。
―― ……私は、スコールに……



 何気なく視線を戻した先に、リノアが佇んでいた。
 部屋の中央で、所在無さげに。
 以前なら、スコールの部屋に入った途端、嬉しそうに抱きついてきた。そしてそれを、スコールは困ったような顏をしながら受けとめていた。本音は自分も嬉しかったのだけれど。どうしても素直に表すことが難しくて。
 それでも、リノアは笑って受け入れてくれていた。
―― そうだな…、俺が…
 いつも、そっけない自分。
 なのにいつも、許してくれるリノア。
 お互いの気持ちは通じているのだと。
―― 甘えていたのは、俺の方か
 本当の気持ちは、ちゃんと言葉にして言わないと伝わらないんだということを。
 それを教えてくれたリノアを、今度はスコールが追い詰めてしまっている。
 今、目の前で儚げに立っている、いつも明るく華やかだったリノアが、憂いを帯びたその背中だけで多くのことを語っている。
 寂しかった、と。
 逢いたかった、と。
―― だから、今度は俺が!
 スコールは意を決して、愛しい人へと近づいていく。


「リノア」
 ふいに、大きな腕の中に背中から抱え込まれて、ビクっと竦んでしまった。
「…ス…コール?」
 後ろを振り向こうとして、ギュウっと力を込められて、それを果たせない。
 耳元に、囁かれるスコールの声。
「ごめん。本当に寂しい思いをさせて」
「…………スコール…」
 きゅん、と胸が熱く高鳴る。
「ううん。…仕方ないよ。スコール、忙しいんだし…」
 搾り出すような、悲しげなリノアの声音が、更にスコールの気持ちを煽る。
「いや、だから、俺が……」
 ちゃんと言おうと決めたはずなのに、どうしても言い澱んでしまう。
 己の口下手が呪わしくなってくる。
 もっとリノアを安心させられるような、気の利いた台詞の一つも喋れない。
 クッと下唇を噛んで、スコールはリノアをいきなり抱き上げた。
「えっ? すっスコール?」
 4・5歩の距離を一足飛びで横切り、部屋の隅のベッドへと辿りつく。
 そっと壊れ物を扱うように、ベッドの上にリノアを横たえて。
 びっくりして瞳を大きく見開いたままのリノアの上から、優しく覗きこんで言った。
「俺は、まだ上手く言えないけど……」
 そのまま愛しい人に覆い被さるようにして。

 最初に、綺麗な額に唇を落とす。

 次に、こめかみに。

 そして、すうっと閉じられた瞼の上に。

 小さく睫毛が震えている、もう片方にも。

 形のいい鼻の頭に、両頬に。

 それから…。

 ……甘い吐息が零れる、くちびるに。




  <後編へ続く>
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