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〜 FF NOVEL <FFVII> 〜
by テオ


夢路の果てに

【FFVII Inter ED After】 中 編






「夢……だったのか?」

 いやにリアルな夢だった。
 目覚めてしまった今でも、一つ一つの光景をはっきりと思い出せる。

 ザックスが笑っていた。
 ザックスが楽しそうに話していた。
 ザックスと二人で、なんでも屋をやろうと……。

 ベッドの上に起きあがり、白いシーツの上に置いた俺の両手が小刻みに震えていた。
 胸の奥から、熱い塊が次々とせり上がってくる。

「…………っく!」




 ここは、ニブルヘイム。
 そう、俺の故郷だ。
 だが、もう俺の家はない。
 あの時、セフィロスが放ったと思われる炎で焼かれてなくなってしまった。母さんとともに。幼い日の思い出だけを残して……。
 神羅の思惑があって、村は完全に元の姿に再現されてはいる。ミッドガル近辺と違って、ここはほとんどメテオの影響はなかったようだった。神羅に強制的に住まわせられていた人々も、今では普通に暮らしているらしい。
 しかし、俺の知っていた村人は皆無だ。
 だから、ティファは二度とこの村に帰るつもりはないと言う。

『だって、空しいじゃない? 自分の生まれ育った村なのに、まるでよそ者みたいに見られて』

 俺もそうだった。二度とこの地を踏むつもりはなかった。

 あの日、ヴィンセントに会うまでは。






 運命の日。

 セフィロスとの死闘をやっとの思いで切りぬけた俺を、ティファが待っていてくれた。
 しかし、近づき過ぎたメテオは、もう誰も止められない。
 誰もがそう思った時。
 セフィロスが倒れたことで、やっとエアリスの祈りの発露・ホーリーが発動した。
 そして、飛空艇の上で見た、メテオをも退けたライフストリームの奔流。
 ホーリーを守護するかのごとく、まるで意志を持った生き物のように、ミッドガルを中心に集まってきた。

 圧巻だった。

 星の意志を、まざまざと見せ付けられたようだった。

 そして、メテオは消滅し、この星は残った。
 様々な狂気と野望と犠牲を呑み込んで。



 それ以来、俺たちは事後処理に忙殺される毎日だった。
 俺たちといっても、ユフィは案の定コトが終わるとさっさとマテリアをごっそり持って姿を消した。まあ、いいけどな。もうそれほど必要なものでもなかったし。
 ヴィンセントも同じように姿を消した。おそらく………。
 シドはロケット村に帰っていった。ミッドガル再建(と言えるかどうか)を手伝えないことをすごく気にしていたっけ。だけど、待っていてくれる人がいるんだから帰るべきだ。無精の艇長に代わって、シエラさんがよくティファに近況を知らせる手紙をくれているらしい。
 レッドサーティーンことナナキもしばらくは手伝ってくれていたが、結局、谷に帰っていった。今度は自分が谷を守るのだと、強い意志の瞳を持って。
 俺・ティファ・バレット、それにケットシーの本体だったリーブは、ミッドガルの再建というか、要は神羅のもたらした不始末の尻拭いをさせられていたって訳だ。だが、リーブに「住民たちに罪はない」と必死に頭を下げられては、無下に断るわけにもいかなかった。
 俺だって、一時期とはいえ、自分から望んで神羅に身を置いていたんだしな。
 でも、そのせいでこんな身体になってしまったんだが……。



 ……………。

 すべてが解決したかのように見える、今。
 たった一つ、俺の心の隅にひっかかっていることがあった。
 誰にも言えず ―― もちろん、ティファにも ―― 俺の心の奥底に住みついたまま決して消えることのない思い。

―― ザックス……

 エアリスと違い、俺はザックスの生死を確認していない。
 だから、きっと生きていると信じていた。
 いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
 そうでなければ…………俺は………。



 ザックスとの思い出は、あのニブルヘイムの事件でぷっつり途切れている。
 俺の生命を救ってくれた恩人だというのに、その当時のことを俺はほとんど覚えちゃいない。断片的な映像として、頭の片隅に焼きついているだけだ。
 無理もないだろう? あの事件の後、俺は魔晄浸けにされていたんだから。

 俺が憧れていたソルジャーとは、実は魔晄とジェノヴァ細胞により人為的に作られた存在だった。
 そんな自然の摂理を冒涜するような行為が、はなから上手くいくはずもない。ジェノヴァ細胞から生まれたセフィロスだけが、特殊な例だった。ほとんどのソルジャー候補たちは、魔晄によって自分の意志を失い、ジェノバ細胞に導かれてリュニオンへと向かうだけの廃人と化した。それを耐えきれるほどの強い意志と肉体を持った極一部のものだけが、ソルジャーになれた。
 ザックスもその一人だ。
 俺は……ダメだったが。まだ、ソルジャー候補にもなれない一兵卒にすぎなかったんだから、それも当然というものだろう。……悔しいけど、事実なんだから仕方ない。

 もしかしたら……ザックスにだって、リュニオンへの誘惑はあったのかもしれない。
 決してそんな素振りを見せはしなかったけど。きっと、比類ない強い意志でそれを抑えこんでいたんだろう。
 だから、狂ってしまったセフィロスに返り討ちにされた俺たちが、神羅屋敷の地下で実験動物よろしく魔晄浸けにされても、ザックスはそれらに対する耐性があったんだ、と俺は思っている。
 これは、あの地下実験室を調べた時にわかったことだ。実際そこにいたはずの俺は、まったくその頃の記憶がない。ほぼ廃人に近い状態だったんだろう。ミディールの時のように。ミディールでのことだって、後でティファに無理矢理聞き出して知ったことだ。

 俺自身のことなのに。

 記憶がない時間があるってことは、ものすごい空虚感がある。
 虚ろの時間……。
 それを何度も経験してしまっている俺は、俺自身に自信が持てない。
 また、いつなんどき、そうなってしまうかわからない。

 俺は、自分の中のそういう部分 ―― 狂気 ―― が……

―― 恐いんだ……

 廃人になってしまうなら、まだいい。

 だけど、もしも……。

 セフィロスのように、己の狂気に支配されてしまったら。
 決して消えることのない、俺の身体の中に今でも息づいているジェノヴァ細胞に意志を明け渡してしまったら。

 俺の大切な仲間たちを……。

―― 俺は、それが恐いんだ



 だから、一人で旅に出ることに決めた。
 ミッドガルの後始末も、一応最悪の状態からは脱したと判断した時に。
 バレットに話すと殴られそうだったから、ティファだけに告げて。
 ティファは泣きそうな顔になりながらも、何も言わなかった。
 けど、その瞳が伝えていた。

 必ず戻ってきてね、と。

 俺は、一人で旅立った。
 唯一の気がかり、ザックスを探す旅へと。
 きっと……生きてくれていると、固く信じて。
 俺と同じように、いや、俺よりももっと魔晄にもジェノヴァ細胞にも適応していたはずのあいつが、簡単に逝ってしまうはずがない。
 そう、信じて。



 神羅屋敷を抜け出した後のことなら、ほんの僅かだが記憶の片隅に残っている。断片的な映像の切れ端として。

『なあ、クラウド。落ち着いたら二人でなんでも屋をやらないか?』

 ガタゴトと揺れるトラック。
 その時の俺は、物を考えることさえできず、ただザックスの言葉を聞いているだけだった。
 どんな苦境の最中でも、いつも明るく前向きだったザックス。

 ミッドガルを望む丘の上。
 ついに神羅の追手に追い詰められて、自分の剣を俺に託してあいつは言った。
『逃げろ!』
 そして、その意味もザックスの状態も理解できぬまま、その言葉に従った俺。
 今思えば、震えるほどの後悔が襲ってくる。

 あの時、生き残るべきはザックスの方だったのに。
 何故、あいつはこんな俺のために……。

―― そうだな、……あいつは……ザックスは、そういう奴だった



 旅立ちの始めに、俺はあの丘に来ていた。
 あいつに託されて以来、ずっと俺の傍らにあった大剣を携えて。
 ズン、と地面にそれを突き刺して、今の思いの丈を込めて言う。

「お前の分も生きよう。そう誓ったのにな…」

 そう誓った思いに、偽りはない。
 だが、その思いとは裏腹に、お前はまだ死んではいないと信じている俺がいた。

 その後、たとえ僅かな手がかりでもお前の情報を訊ねて各地を回った。そのほとんどが空振りだったが、俺は諦められなかった。

 そんな時、ヴィンセントに会った。
 彼も俺と同じように、ある人を探して旅をしている。
 ヴィンセントの凍りついたような瞳の奥に、どれほどの思いが隠されているのか、俺には推し量ることもできはしないが……。
 偶然なのか、わざわざ俺を訪ねて来てくれたのかわからなかったが、ふいに俺の前に姿を現した彼が俺に向かって言った、たった一言。

「ニブルヘイムに行け」


 ミッドガル以外の心当たりのある場所はほとんど訪ねていった俺だったが、たった一箇所、ニブルヘイムにだけは行かなかった。
 辛い思い出ばかりが残る場所。
 俺とティファの故郷。
 炎に包まれた村が、俺とザックスとセフィロスの運命を変えた………。
 違う、そうじゃない。
 すべての運命の歯車が狂い始めた場所だ。

 ニブルヘイム。

 そうか、神羅屋敷か!

 なにもかも、あそこから始まったんだ。


 ニブルに着いてから、本当はすぐに神羅屋敷に行くつもりだった。
 だが、俺の記憶の根底に染み込んでいた恐怖が、どうしても自分の足を向けさせてくれなかった。
 仲間たちが傍にいてくれたあの頃とは違う。今の俺は一人だ。
 今更、とは自分でもそう思う。けれど………。
 だから、思いきりをつけるために、村にたった一件しかない宿に泊まった。






―― やはり、泊まるんじゃなかったな……。

 あんな夢を見るくらいなら。……だけど、かえってそれが良かったのかもしれない。
 俺はベッドを抜け出し、身支度を整えながら夢の中で見たザックスのことを思い返していた。
 飾り気のない宿の窓から差しこんでくる、朝の陽ざしを浴びながら。俺の思惑なんかまったく関係ないとでもいうように、陽はすべてに平等に降り注ぐ。

 そう、だな。ザックスの笑顔を見られたんだから。
 たとえ夢であっても。
 あの人なつっこい笑顔をもう一度見るためだったら、俺はなんだってできるはずだ。


 その朝、身体中に絡みつく躊躇いを振り切り、俺は諸悪の根源たる屋敷へと向かった。





   つづく



○あとがき○

この中編はえらくテンポが悪いです〜(泣)
まあ、いわゆる解説編だから仕方ないことではあるんですが・・・。

あ、あと、ザックスとクラウドが神羅屋敷を抜け出した後の会話は正確ではありません。(大汗)
記憶が定かでないうえに、ビデオ等を確認している時間がありませんでした。すみません〜ん。まあ、ゲーム中に出てきた以外にもこういう会話もあってもいい、と思ってくださいませ。

ジェノヴァ細胞と魔晄に関しても、かなり私の勝手な考察が入ってます。もしも、明らかにココは違うという指摘がありましたら、どうぞつっこんでやって下さい。後で修正しま〜す。(おい)

えーっと、途中で「おわっ!」とにんまりされた方も多いと思いますが(汗)、そうです、例のFF7ACの事前映像特典の中のクラウドのセリフを故意に使っております。たははは〜。
だって、使いたかったんですもん。違和感があったらごめんなさい。(但し、わざとセリフは変えてあります)

ではでは、いよいよザックん(笑)が登場するはずの後編。いったいどんな展開になるのか、お楽しみにっ!


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