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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.9




薄暗い浜辺に横たわる影一つ。


「はっ、はっ、はぁっ、はぁっ」


ティーダは大の字に身体を投げ出し、大きく胸を上下させている。
いったいどのくらい泳いできたのだろうか。何かに取り付かれたかのように一時も休まずに泳ぎ続けた。むしろ、茜空の向こうに陸地の影が見え始めてからの方がきつかったかもしれない。さすがにブリッツで鍛えた身体も限界だった。後は絶対に泳ぎ着くという意地だけで手足を動かし続けていた。その気力も浜辺に辿り付くまでは何とかもっていたが、水から離れた途端に萎えた。崩れ落ちるように乾いた砂の上に仰向けに倒れこみ、一つまた一つと瞬き始めた星を見上げる。陸地には着いたものの極度の疲労のせいで思考がマヒしていた。考えなければならないことは山ほどあるというのに。

視界が霞む。

 夜のとばりが癒しの眠りを誘う。

『ダメだ、早くここがどこかを確かめなくちゃ』

 しかし、はやる気持ちに身体がついてこない。

『見覚えがあるような気がする。この浜辺・・・』

 多大な期待は裏切られた時の失望が大きい。

『だけど、確か、に・・・。ここ、って・・・』

 疲れきった身体は、瞼でさえ重く感じる。

『ね、む、ぃ ・  ・  ・』

そのまま、むさぼるような眠りにティーダは落ちていった。





がやがやと人の気配で目が覚めた。
眠気が完全に消える前にティーダは自分の身体が妙なことに気付いた。


「?!」

身体が? 動かない!


目を開くと同時に立ち上がろうとして、上手く立ち上がることができず、「うわっ」と無様に浜に転がった。いつの間にか、両手を縄で後ろ手にきつく縛られていた。あたりは夜が明け、すっかり明るくなっている。
ティーダは当然のごとく、声を荒げる。

「なっ、何なんだよ、これ」

その声にティーダから少し離れたところで見張っていた、僧兵らしい二人の男の一方が無表情に答える。

「目が覚めたな。立て」

自分の投げかけた疑問にまったく応える気配のない僧兵の態度に、ティーダはカッとなって怒鳴った。

「だからっ!いったいこれはどういうことだよっ」

だがまともに話す気はないようで、僧兵は早くしろとばかりにただ睨むばかりだ。

「くそっ!」

いったい何故、自分が縛られなければならないのか。しかも、ゆうべこの浜辺に泳ぎ着いたばかりだというのに。ティーダはあのまま眠り込んでしまったことを悔やんだ。だが、ここでいつまでもらちのあかない押し問答をしていてもしょうがない。しかたなくティーダは肩を支点に重心をとりながらよろよろと立ち上がった。

視線が上がった途端に飛び込んでくるあたりの風景。

見慣れた浜辺。

船着場。

そして、少し奥まった入り江。


  ここは!!


「ビサイド!」


自分の今置かれている状況も忘れて、ティーダは歓喜に震えた。

「あ、は。な、んだ。ここって、ビサイドだったんだ・・・」

  あれほど焦がれたユウナのいるはずの場所。

  ユウナの村。

  ユウナ!

  村に行けば、ユウナに会える!

  こんな、こんなに近くにいたなんて。

「あ、は、はははは」

嬉しさに涙を滲ませながらティーダは笑った。

突然笑い出したティーダの奇怪な行動を、薄気味悪そうに見ていた僧兵がいいかげん焦れて小突いた。

「早く歩け」

押されて足場の悪い砂浜にティーダはつんのめりそうになり、はっと我に返った。


  ここがビサイド島だと分かったのは、いい。

  だけど、これはいったいどういうことなんだ?

  それになんで、オレが縛られなきゃならないんだ?

  さっぱり分からない・・・・・


無駄かもしれないと思いながらも、一番手近な疑問を口にしてみる。

「なあ、歩けって、どこへ?」

するとあっけなく僧兵は答えた。

「ビサイド寺院だ」

「!!! ビサイド寺院?」


  だったら何の問題もないじゃないか。

  オレがこれから行こうとしていたのもそこだ。

  ユウナはきっと寺院か自分の家にいるだろう。

  だけど・・・


再び浮かび上がってきた現状への疑問を無理矢理押さえ込み、ティーダは黙って僧兵たちに従うことにした。何がどうなっているのかは分からないが、まずはユウナに会うことが先決だ。きっとこれは何かの間違いだろう。それとも誰か他の人物と取り違われているのか。とにかくビサイド村へ行き、ユウナに会えばすべて分かることだ。

ティーダが逃げ出さないようにとの配慮からか、僧兵たちは左右を挟むように槍を突きつけながら歩いていた。

『何だよ。んなことしなくったって逃げたりしないって』

先ほどからの僧兵の態度に少しは学習したのか、ティーダは無駄口を開かず、胸の内で毒づいた。



−−−だが、後日、この時のことをティーダは死ぬほど後悔することになる−−−



懐かしい光景に目を奪われながら歩いて行くティーダの前に、あの孤独な島で何度も夢見たビサイド村の姿が見え始めていた・・・。




--- next to vol.10 ---



○あとがき○

ティーダ編のに戻ってからの話はかなり難航しそうだと思っていたのに、書き始めたらあっという間だった・・・。どういうんだろ、これ。ま、いいや、とにかく書けたんだから。(苦笑)
さあ、いよいよティーダがビサイドに戻ってきましたねー。でも・・・?
これからどうなるんでしょうか、ティーダ君。聡い皆様の中にはもう想像ついちゃった方もいるかな?

「永遠のナギ節」との違いですが、作者はもう完全に無視することに決めました。
だって、時間的なことはどうにかなっても、きっかけがリュックとシェリンダじゃ違いすぎるし。それにルールーやワッカ出てこないとつまんないんだもん。リュックとユウナの二人旅じゃ、書きにくそう〜。
あ? そうか! これはこれで別の話を書けばいいのか(爆) それはまたいつの日にか・・・。たぶん。(きっとこないな、そんな日)

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