MENU / BACK
〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.8




グアドサラム。


かつてはエボンの老師たるシーモアを長に頂き、異界の管理者としても栄華を誇っていた。
しかし今では、シーモアの失脚と屋台骨でもあったエボン寺院自体の衰退によって、グアド族全体がかなりの憂き目にあっていた。

おそらく最後の族長であろうシーモア。彼の野望の実態は今やスピラ中に知れ渡っている。だが、ユウナたちがおいそれと口にするはずもない。それはエボン内部から漏れ伝わっていった。

エボンを支えていた虚構の理(ことわり)。

  『シン』を完全に倒すことは不可能。
  唯一、召喚士が究極召喚で『シン』を倒し、一時的なナギ節を迎える以外は。
  『シン』は人々の罪の現れだから。
  いつか罪を償いきれば、『シン』はいなくなる。
  だから、エボンの教えに従いつつ『シン』に怯えながらも生きていくしかない。

マイカ総老師の消失後、ユウナたちによってエボンの教えそのものの虚実が明らかになってしまった時、エボン上層部は少しでも寺院の瓦解をくいとめようと、シーモアを槍玉にあげた。
繁栄に溺れていた者たちほどその末路は醜い。責任を押し付け、罪を逃れようとお互いの内情を暴露し合い、なお一層衰退に拍車をかけたのだった。人々は呆れ、又は怒り、当然のごとく寺院から遠ざかっていった。そしてグアド族も同じくスピラ中の人々の非難の的となってしまっていた。

なまじ最盛期を経験しているがためにその落差を受け入れることができず、種族自らが内部崩壊していったといってもいいだろう。若者を中心とした大部分がグアドサラムを離れ、人々の非難の目を逃れる道を選んだ。残ったのは過去の栄光にしがみついて生きるしかない老人と、異界の守り手として最後の誇りだけは貫き通そうとするごく少数の性根の座った者たちだけだった。



前回訪れた時とはうって変わったうらぶれた都。
ユウナは自分たちが導いた一つの有り様を目の当たりにして、驚きを隠せないでいた。けっして間違ったことはしていない。だが結果として一つの都が、一つの種族が陥ってしまったこの事実をあらためて重く受け止めるユウナだった。

「ユウナん、大丈夫みたいだよ。まだ寺院の手は回ってないみたい」

いつものように、異界の入り口を偵察に行っていたリュックが戻ってきた。
人気のないグアドサラムの入り口付近で緊張気味に待っていた一行に安堵の空気が流れる。

「でも、いつ連絡くるかわかんないからさ。急いだ方がいいよ」

今のうち、今のうち、と来たばかりの道を皆を先導するようにリュックが戻っていく。遅れないようにとユウナたちも急いで後を追った。

「うん。急ごう」


時は夕刻。
昼間は数は少なくなったもののまだまだ異界を訪れる人々がいるため、グアド族の見張りがいる。しかし『シン』がいた頃に比べて極端に訪れる人の数が減り、そして見張りに立てるグアド族も僅かしかいないために、夜は見張りがいなくなることを事前に確認してあった。もちろんリュック自慢の情報網のおかげだ。

「見張りは?リュック」

追いついてきたユウナが少し前を行くリュックに尋ねる。

「ん、大丈夫。さっき帰ってったから」

「そっか」

軽く振り返りながら応えるリュックにユウナが安心したように微笑みかけた。

『ユウナん、もしものこと考えてないのかな・・・』

少しだけ不安に思いながら速度が鈍ったリュックをユウナが追い越していく。閑散としたグアドサラムには夜ともなるとまったく人気がない。一行は誰に見咎められることもなく足早に坂道を登っていった。
真っ先に異界の入り口に着いたユウナが皆を振り返る。追ってリュック、キマリ、ワッカ、ルールーの順に到着した。

「それじゃあ、わたし、確かめてきます」

心配そうに見守る仲間を見渡し、ユウナは強めの口調ではっきりと言った。
声をかけるにかけられないでいる仲間を代表して、ルールーが問い掛ける。

「ユウナ、ほんとに一人で大丈夫?」

「うん。きっとここにはいないって信じてるから」

儚げな笑みの中の強い瞳に、固い決意の光りが宿る。
ルールーは半ば諦めたように軽く目を瞑り、再び双眸を開いた時には優しく微笑んでいた。

「わかった。いってらっしゃい。私たちはここでちゃんと待ってるからね」

例え不本意な結果に終わったとしても。
ルールーが言外に滲ませた意味を確かに汲み取り、もう一度ユウナが笑う。

「ありがとう、ルールー。それにリュック、キマリ、ワッカさん。行って来るね」

さっときびすを返し、シャボン玉のように淡く光る異界の入り口の壁の中にユウナが入っていった。


「ほんとに大丈夫かぁ? ユウナ」

ユウナがいた時はと言えなかった一言をワッカがやっと口にする。
すると、今まで押し黙っていたキマリが応えた。

「ユウナは強い。だから、大丈夫だ。キマリは信じている」

あいかわらず腕ぐみをして微動だにしないキマリは、目線をユウナが消えた異界の入り口に据えたままだ。その言葉を受けて、みんなから少し離れたところに座り込んでいたリュックが俯きながら独り言のように呟いた。

「ホントにユウナんは強いよ。あたしなら・・・きっと、行けない」

そんなキマリとリュックを横目で見ながら、ワッカはそれでも言い募る。

「だけどよ。よりにもよって異界とはなぁ」

ただただ待つ身の手持ち無沙汰で、何かしゃべってないと間が持たないとばかりにウロウロうろつくワッカを今度はルールーが叱咤する。

「少しは落ち着いたら? ワッカ。あの子がいないことを確かめたら、ユウナすぐに戻ってくるわよ」

「それだ!なんで異界でそれが確かめられるんだ? あいつはザナルカンドから来たんだろ?」

我が意を得たりとルールーに詰め寄るワッカ。
しょうがないわね、とため息をまじえつつルールーが説明を始めた。

「以前、私たちがチャップに会いに来た時があったでしょう? あの時、ユウナ、あの子のお母さんに会ったらしいのよ。もちろん、この異界でね。そしてジェクトさんは来なかった。あの時はまだ『シン』だったから。だから、例えザナルカンドの人でも亡くなったら、とはあの子の場合はちょっと違うのかもしれないけど、とにかくここであの子に会うことができなければ、必ずスピラに戻ってきてるはずだってユウナは言ってたわ」

そこでひとつ呼吸を切って、ルールーは言葉を紡ぐ。

「それを確認しないと前に進むことができない、ともね」

ユウナのためにもティーダにスピラに戻ってきていて欲しい。自分たちの願いでもあるその思いが皆のそれぞれ心の中を占めた時、ユウナが異界の入り口に再び姿を現わした。

「ユウナ!」

複数の声が掛かる。
少しばかり心配味を帯びたその掛け声は次の瞬間、払拭ふっしょくされた。
ユウナの晴れやかな笑顔によって。
ユウナが物言うよりも早く、ルールーが語りかけるように確認する。

「来なかったのね?」

「はいっ!」

間髪入れず応えるユウナ。その声が嬉しそうにはずんでいるのは、決して気のせいではないだろう。まるで別人のようなその様子に、ユウナを取り巻くガードたちも一様に雰囲気が明るくなる。今まで澱み停滞していた川の流れが、塞き止めていた堆積物を力強く押し流していくかのように。

ユウナの瞳に力が戻った。
いや、これほどまでに希望に煌いているユウナはついぞ見たことがない。
『シン』を倒す旅の時でさえも。
いつも希望と背中合わせだった絶望。
期待と不安。
願いと、あきらめ。
今まで必ずと言っていい程まとわりついていた影の部分が、今のユウナにはカケラも見当たらない。
そのことが何より嬉しく心強い仲間たちだった。

寺院からの追っ手が来る前にと、早々に一行はグアドサラムを後にした。
だが、その足取りは軽い。
例え何の手がかりもない雲を掴むごとき頼りのない人探しの旅だろうと。
人々の目を避けねばならない辛い旅だろうと。

異界でティーダを呼んだその時まで、ユウナは自分の心がカラカラに乾いていたことに気付いた。
そして今は、溢れる希望に満たされている。
ユウナの状態を本人以上に把握していたガードたちも、この曇りのない笑顔を守り、更に極上の微笑みをもたらすまで、自分たちに出来るあらん限りの力を尽くすことを新たに決意するのだった。



ユウナたちが戻ると飛空艇はすぐに飛び立った。
一息つく間もなく艦橋に集まった皆は、改めてこの旅がただ寺院から姿を隠すためだけでなく、ティーダを探し出すことが第一の目的であることを確認し合う。そして、そのために必要なもの、素性を隠すための衣類や道具、そしてなによりティーダに関する情報を得るために次に向かうべき地について話し合っていた。


星空が名残り惜しげに霞んでいき、暁の空に明るい陽光が弾けだす。



飛空艇は希望の光を全身に受けながら、静かに雲間に影を映して進む・・・




--- next to vol.9 ---



○あとがき○

今回で序章にあたる<復活編>が終了です。
ティーダはそのまんまですが、ユウナも心が復活したんです。きっとあのエンディングだとユウナしばらく(ずっと?)心が死んでるだろうなぁと作者は感じていたものですから。
それにしても長い序章だ・・・。序章でこれだと全編だとどれくらいになってしまうんだろう?それは作者にもわかりません。(爆) 終われるんだろうか、これ・・・。(不安)

前回、質問していたユウナの行きたい場所。読んでいただけたらもうお分かりでしょう。正解はグアドサラムでした。
でも、きっと「あ!なるほど〜」と納得していただけたんじゃないかな、と作者は勝手に推測しております。

既にインターナショナルの「永遠のナギ節」をご覧になった方もいると思います。作者も見ました。本当にこの「君に」の設定に似ていて、嬉しい驚きです。いや、こっちがあっちに似てるのか・・・。(笑)
が!『どうするよ、これから!』ってのが正直、今の気分ですねー。
作者はなるべくゲームの本筋に沿った話を書くことをモットーにしているので、これはかなり困りもんです。ED後なら自由な発想で書けると思ったのにぃ〜〜。やってくれるよスクウェアさん〜。(泣)
話の筋は似てるんでいいんですけど、なんせ時間が・・・。二年と数ヶ月じゃ違いすぎるぞ。う〜〜む。
やっぱ、そこだけは無視して進めるしかないですかね・・・。でもなー。(懊悩)

二人の復活編が終わりましたので、次回から又ティーダ君の登場です。さて、ティーダが着いた場所はいったいどこだったのか?

BACK