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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.6




「なんだって?エボンが!」
「なんですって?エボンが!」

みごとな二重唱で聞き返したワッカとルールー。
その息のあった様子に思わず口元をほころばせながらも、ユウナは真剣な面持ちで頷いた。
ユウナの手にはスフィアが一つ乗せられていた。

ユウナを訊ねてきた僧侶はベベルからの使者だった。
ベベル−−−ユウナが幼いころ父ブラスカと一緒に過ごした街。そして、エボンの本拠地でもあった場所。
そのベベルから来た僧侶というからには、又もやエボンからのしつこい誘いかと、ユウナたちもいささかウンザリ気味に応対していた。
もはやエボンの崩壊は時間の問題。
これはスピラに住む多くの人々の見解である。
だが、違う認識の者たちもいた。
それはもちろん今までエボン中枢に位置していた者たちである。
彼らはあくまで、エボン中心のスピラという有り方を諦められないでいる。
眼に見えるがごとく人々の心がエボンから離れていくのを、なんとか食い止めようと足掻きにあがいていた。
そこで眼を付けられたのがユウナである。
「ユウナ参り」の現象が定着し始めた頃から、ベベルから再三の呼び出しがあった。
すなわち、人心が離れつつあるエボンとは逆に、それを一身に受けているユウナを担ぎ上げることによって、なんとか人々をエボンに繋ぎとめ、更には以前のように盛り返したいと画策していたのである。
そのようなあからさまな行為に、なによりもガードたちが納得する訳がない。
招待とは名ばかりの呼び出し要請に、その都度、ワッカとルールーがけんもほろろに使者を追い返していた。
その剣幕といったら、当のユウナが仲裁してやらなければならないほどだった。

『あんなに辛い思いをしてまで、スピラのために戦ったユウナをこれ以上いいように利用なんてさせない』

ワッカとルールーの二人が、互いに暗黙のうちに決心していたことだった。

だから、今回もてっきりその使者だと高をくくっていたのだが・・・・。

僧侶がユウナたちのいる部屋に入ってきた時、いつものように二人が嫌味交じりに追い返そうとしたのだったが、僧侶は部屋に入るが早いか、手にしたスフィアをユウナに手渡した。
そして、言葉少なに「どうかまずはユウナ様お一人でご覧下さい」とだけ言うと、そのままユウナの前にひざまづき頭を下げていた。
その只ならぬ様子に何か重大な意図を感じ、ユウナは急ぎ別室に入り、躊躇いもなくそのスフィアを見たのだった。
そのスフィアに映し出された姿は、シェリンダだった。

   ◇◇◇
   ユウナ様。ご無沙汰しております。
   事が事だけに、用件を取り急ぎ申し上げます。
   ユウナ様。どうぞ、できるだけ早くそこをお離れ下さい。
   ベベルのエボンの旧体勢派がなかなかお出で下さらないユウナ様にしびれをきらし、
   とうとう強行連行すると言い出しました。
   私もイサールも(ユウナ様もご存知ですよね)一所懸命止めたのですが、
   慕われ敬われることに慣れ、それが当たり前のように過信してしまって
   いる今のエボン指導者たち・旧体勢派に今は何を言っても無駄のようです。
   もちろん、ユウナ様にはあの『シン』をユウナ様と共に倒したガードの皆様がついていらっ
   しゃることは存じております。
   ですが、今までユウナ様たちが倒していらしたのはモンスターや死人たちです。
   生きた普通の人たちを、果たしてユウナ様が倒すことができるでしょうか。
   もちろん、生き人たちとの対峙も全くなかったとは申しません。
   それに、出すぎた真似だということも十分わかっております。
   それとも、たとえ生き人であろうとも戦い、命を奪う事になるかもしれない、
   そのお覚悟がユウナ様にお有りですか。
   いいえ。そのような人々であってもユウナ様はきっと生きた人たちと戦うことに躊躇われ、
   もしも戦い勝っても、そのためにエボンが完全に崩壊してしまうようなことになれば、
   ユウナ様が悲しまれることになってしまうでしょう。
   なにより、せっかく平和になったスピラに、争いの種を撒いてしまうことを
   一番恐れていらっしゃるのは、ユウナ様ご本人でしょう。
   ですから、そういう事態を避けるためにも、今すぐにでもビサイドを離れ、
   しばらくどこかに御身を隠されることをお薦めします。
   その間に私たちは出来る限り彼らを説得し、エボンを立て直すために努力致します。
   いえ、エボンを立て直すのではなく、正しく人々を導いていくことができるような
   新しい、そうですね、組織のようなものを確立したいと考えています。
   既にそのために必要な知識人たちとも連絡を取り合っております。
   旧体制派を抑え、新体制が整ったら、その時は又ユウナ様に改めてご協力をお願いする
   ことがあるかもしれません。
   その時のためにも、今はユウナ様の存在を隠したほうがいいと思うんです。
   ユウナ様のような存在があると、人はどうしても頼り、自分たちの足で立つという
   事を忘れてしまいがちです。

   ユウナ様が大変辛い思いをされたこと、先日お会いしたリュックさんから
   お聞きしました。
   ですから、なおさらユウナ様には新たな争い事に巻き込まれて欲しくないんです。
   これは、私からのお願いです。
   どうぞ、これからは人々のためではなく、ご自分のために生きてください。
   ◇◇◇

そこにはシェリンダの、ユウナを気遣う想いが溢れていた。
ユウナはシェリンダの気持ちに打たれ、目頭が熱くなっていた。

スフィアにはまだ続きがあった。

   ◇◇◇
   これまでのように、船や徒歩での旅はユウナ様の今回の目的にふさわしくありません。
   なにより、人々の目に付かないように行動しなければ、すぐにエボン旧体勢派に
   感づかれてしまうでしょう。
   そこでリュックさんが協力して下さるそうです。
   シド族長の了解を取れ次第、そちらに向かってくださることになっています。
   飛空艇が目立たぬようにそちらにが着くのは、たぶん今夜半過ぎになるでしょう。
   どうか、手遅れにならないうちにご判断下さいますよう、お願い致します。
   ◇◇◇

途中から呼び入れられていたワッカとルールーを入れた三人が、その全部を見終わった時、互いに言葉は無くとも思いは同じであった。
強く頷いて、ユウナが言った。

「私を頼って来てくれる人たちには悪いけど、私、今夜、行きます」

ルールーとワッカも頷きながら、同意する。

「そうね。それしか今はなさそうだものね。もちろん、私も行くわよ」

「ああ。そうだな。当然、オレも行くぜ」

ユウナもこの二人に対しては、遠慮する必要などないということは良くわかっている。

「はい。私からもお願いします」

新たな目的が与えられ、ユウナの瞳は今までになく輝いていた。
その事がなにより嬉しく思うルールーとワッカだった。
たとえその旅が人目を忍ぶ旅だとしても・・・。


その夜遅く、闇に紛れ、飛空艇がビサイドの村から少し離れた所に降りたった。


そして、その夜以降、ユウナたちはビサイドから姿を消した。


<急ぎの旅に出ます>というユウナの一通の置手紙だけを残して・・・。


旅の行き先は、未だ決まっていない・・・・・




--- next to vol.7 ---



○あとがき○

今回は、ほとんどシェリンダの一人舞台ですねぇ。(映像スフィアだけど)
実は、ユウナの今の置かれている立場というか現状をシェリンダの言葉を借りて語らせています。これで少しは「君に」のユウナ側の状態がご理解頂けたのではないでしょうか。

ユウナの新しい旅が始まりました。さて、最初の目的地はどこでしょう?

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