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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.21




のちに、「新生エボン抗争」として伝えられるこの戦いは、圧倒的な新エボン側の勝利に終わった。
これ以後、新エボン派は「レボニア」(re-ebon-ia)と名を改め、エボン寺院に代わり広くスピラに普及していくことになる。


中盤までは戦況的にはほぼ互角だった。
勢力的には遥かに勝ってはいたものの、新エボン側には「魔物・死人しびと以外は命を奪わないように!」との厳命が布かれていたからである。加えて旧エボンは、大量の魔物や死人を投入してきた。
そのため僅かに優勢に見えた旧エボン側に、実は予想外の事態が起こっていたのである。

それは前線の兵士たちの、離反だった。

戦力不足を補うために投入された数々の魔物や死人しびと。それが、末端の兵士たちの信仰心を打ち砕いてしまったのだ。兵士とはいえ、僧兵、すなわち信者であるところの彼らは、聖なる場所であるべきベベル寺院内に魔物や死人を呼び込んでいるのが、自分たち旧エボン派であると知ってしまったのである。

古来、巨大な組織の全貌や内情などは、それを構成する大多数の者たちに知らされはしない。ほんの一握りの指導者たちしか知り得ないことがほとんどである。盲信するがあまり、自分たちが単に利用されているに過ぎないということですら気付かぬ者のなんと多いことだろう。

しかし、今までは疑問に思いつつも上層部に上手く言いくるめられてきた彼らとて、目の前に現実を突き付けられては気付かぬはずもない。最も忌むべき存在の魔物や死人と共に戦うという状況が、特に信仰心の篤い僧兵たちの旧エボンに対する信頼をきれいさっぱり奪っていったのだった。

ある者は戦線を離脱し、ある者は逃走し、そしてある者は新エボン派に寝返った。

「私たちは、決して戦いたくて争っている訳ではありません。これからでも遅くはないです。目を覚まして下さい。そして今の状況を良く見て考えて下さい。戦う意志のない人を捕らえたりはしません。人は皆、平等であり、自由なのですから!」

闘いの最中でも、常にシェリンダは訴え続けた。相手が魔物か死人でない限り。

『同じ人なのですから、いつかはきっと分かってもらえるはずです!』

シェリンダ自身の信念を貫き通すために。

彼女の訴えに、それまで疑念をいだき始めていた旧エボン兵士たちは、一人、また一人と戦場から離れていった。

『そう! みんな、おかしいと思っていたはずです。私たちはそのキッカケを作ったにすぎないんです』



シェリンダは、武器を持たない。

白魔法も、極めてなどいない。

しかし彼女の、心からの《 言 葉 》が、この戦いの最高最大の「武器」だった。



シェリンダは言う。

「武器を捨てて下さい。武器は人に向けるものではないです。大切な人を守るため。大事な物を守り貫くため。そして、自分の目的を成し遂げるためにこそ、武器は必要とされるべきです」

揺らぎ始めた結束は、シェリンダの言葉によって脆くも崩れていった。連鎖反応的に急速に。
これによって新エボン派は始めのうちはほとんど戦わずして進んでいった。

そして、このまま楽々と勝利を収める、かに見えた。

だが、最深部に近づくにつれシェリンダの言葉の威力も効果がなくなっていったのである。

100人いれば100通りの考え方・物の見方があるように、それらにまったく左右されない者もいた。中枢部により近ければ近いほど、その傾向が強まってくる。
自ら進んで悪事と呼べる所業に手を染めてきた者たち。
それらに荷担して、甘い汁を吸ってきた者たち。
それに、己が目の前で行なわれているにもかかわらず矛盾を受け入れられず、ひたすら旧エボンの掲げる建て前を盲信して止まない、いわゆる狂信者たち。

彼らに対峙した時にも、シェリンダは懸命に説得を試みる。が、それが受け入れられないと見切りをつけると、以後の決断に迷いはなかった。

「仕方ありません。今は分かってもらえなくても、きっといつかは……」

その合図とともに、それまで防戦のみで耐えていた新エボンの仲間たちは、一転、攻勢に移る。もっとも、作戦前に伝えられていたシェリンダの切なる願いを忘れぬように。

「どうしても理解してくれない相手には攻撃もやむ負えません。だけど、くれぐれも命だけは奪わないで下さいね。生きてさえいれば、いつかは分かり合える時が来るかもしれないのですから」

心からの信頼で繋がれた新エボンの強さは圧倒的だった。『今を生きるスピラ全ての人々のために』という新エボンの基本思想は、一兵卒に至るまで深く浸透していた。真に守るべき物を得たがための強さ。命令されたからではない、自分の心と頭で、考え悩み導いた結論に従うということ。

これが、旧エボンとの決定的な違いであった。

快進撃とも言える早さで、ベベル寺院を次々と制していく新エボン派。

そして、いよいよ残るは最深部に立て篭もる現・旧エボン派指導者たちだけとなる。
そこに、ティーダを救出したユウナたち一行も加わった。
もちろん、ユウナのケアルガのおかげでやっと自力で歩けるまでになったティーダも、ユウナに支えられながらも一緒である。

しかし、先を行くシェリンダたちにユウナは声をかけることをしなかった。気付かれぬように見守り、後をついていく。

「これは、彼らの問題だ。キマリたちは手を出すべきではない」

「うん。そうだね」

万が一の場合だけ手助けしよう、と皆で話し合って決めてあった。

シェリンダが仲間の兵士と共に最後の決戦の場に到着した時、先行していたイサールたちは苦戦を強いられていた。
退路を絶たれた指導者たちは、死に物狂いで応戦してきたのである。とは言っても、事ここに至っても我が手を汚そうとはしないところが、彼らの真の姿を物語っている。彼らの回りを守るのは少数の僧兵のみ。だが、部屋を埋め尽くさんばかりに呼び込まれた魔物と死人の数々。それらに妨げられた部屋の最奥にある祭壇に座した彼らは、如何なる呪文を唱えているのか、倒しても倒しても次々に新しい魔物たちを呼び込んでいるのである。
シェリンダが来たことを知らされたイサールが、戦いの指揮を緩めることなく大声で問い糾す。

「これではキリがない! シェリンダ君!」

問われた意味を正確に汲み取ったシェリンダは、一瞬、苦しげに目を瞑る。
そして、次の瞬間にはキッと顔を上げ、揺るぎない瞳でイサールに向かい叫んだ。

「はい! これは、後には引けない戦いなのですから!」

その悲痛な叫びを聞き、イサールがふり返る。そして、シェリンダの背後のユウナを見つけたのだった。

「ユウナ様!」

「えっ?!」

シェリンダも驚きふり返り、ユウナたちの姿を見とめた。

「無事にティーダさんを助けられたのですね! 良かった…」

ティーダにぴったりと寄り添い支えるユウナは、切なげな、しかし、ほころぶような微笑で応える。

「ええ。シェリンダさんたちのおかげです。だから…」

「はい?」

シェリンダが聞き返すが早いか、ユウナの頼もしいガードたちがズイと前にでる。

「ザコは私たちに任せてちょうだい!」

「おうっ! やっと出番だぜー!」

「アタシだって、やっちゃうよ〜」

「道は、キマリたちが開く」

言うが早いか、彼らはすぐに戦闘に入り、次々に魔物たちを撃破していく。フレアが炸裂し、ブリッツボールが飛び交い、爆弾が吹き飛ばし、槍が叩き伏せる。あっという間に道ができていく。

「す、すごい…」

彼らの戦いぶりを目の当たりにしたシェリンダが、思わず呟いていた。エフレイエとの戦闘を見てはいたものの、一瞬で終わったあの時とは凄まじさが違う。
魔物の数などものともせず突進していく様は驚嘆に値した。
シェリンダの傍まで歩み寄ってきていたイサールも感嘆の意を告げる。

「本当に凄いな、彼らは。さすが『シン』を倒しただけは、ある…」

ここまで善戦し続けてきたイサールは、もう魔力もほとんど使い切っていた。ユウナと同じく召喚魔法の使えなくなってしまった彼も白魔法を極めてはいたが、いかんせん戦いに効力のある白魔法は魔力の消費が激しいのである。一緒に戦ってきた兵士たちも傷つき倒れ、そのほとんどが半死半生の状態だった。
そのため、ここにきて強力な助っ人の存在は素直にありがたかったのである。


「悔しいな…」

「え?」

小さく呟いたティーダの声を、仲間たちの背後からホーリーで援護していたユウナが聞きとがめた。
ユウナが魔法を唱えるため、今はティーダは部屋の壁に寄りかかり一人で立っている。

「オレも、戦いたい…」

「でも、その身体じゃまだ無理だよ」

心配の色を隠せないユウナに、ティーダが明るく応える。

「もう大丈夫ッス! ユウナが回復してくれたから」

「だけど…」

そこへ、思わぬ援護の声が届けられた。

「ほらっ! これ、使えっ!」

「え?!」

声と共に放り投げられたモノ。

「フラタニティ!!!」

受け取ったティーダは、その手にしっくりと馴染んだ水の滴る快剣を、ザンッと一振りする。

「ワッカ!」

投げてくれたブリッツ仲間へと感謝の笑みを向けるティーダ。
その様子を、戦いながらも常に見守っていた仲間たちが微笑み頷いている。

「よしっ! 行ってくるっ! 援護、よろしくっ! ユウナ」

生き生きと輝き始めた青い瞳が、水を得た魚のように駆け出して行く。

「えっ? あ…。 ……うんっ!」

引き止めたい気持ちを押しとどめ、ユウナは笑ってティーダを送りだす。

『心配だけど、沈んでるキミより、今みたいに元気良く走ってる方がキミらしい、よね』

新たな戦力の投入により、見る見る最奥への道が出来あがっていった。

「さあ、シェリンダさん、イサールさん」

「え? でも、ユウナ様…」

「これは、あなたたちの戦いだよ。私たちはただちょっと手伝っただけ」

ユウナの言葉にお互い顔を見合わせ、頷き合う二人。

「はい! そうですね。ありがとうございます」

「感謝します。ユウナ様」

次第に広がっていく道の真中をシェリンダたちが駆け抜けていく。
自分たちのために戦ってくれているガードたちの声を浴びながら。

「こっちは引き付けておくから」
「思う存分」
「やっちゃって〜」
「ケジメを」
「つけるッス!」

そして、最後の祭壇。
追い詰められても尚も尊大な態度を取り続ける者、仲間を差し出し命乞いする者、逃げ道を探し自ら魔物の群れの中に入り引き裂かれる者。

『諸悪の根源だけは絶たなければ…』

憐憫の二文字を一時忘れ、二人は断腸の思いで最後の処断を決行した。


その後、残った魔物たちを一掃したユウナたちと共に、新エボン派によってついに聖ベベル寺院は解放されたのだった。






--- next to vol.22 ---



○あとがき○

前々回と前回(19&20)でティーダとユウナがやっと再会を果しました。
そして、裏設定でもあるエボン抗争にケリをつけたのが今回になります。
もーシェリンダ大活躍ですねぇ。(しみじみ)当初、こんなに出番が回ってくるはずじゃなかったのに…。これじゃサブメインじゃん!(苦笑)意外と作者、彼女のことかなり気に入ってたみたいです。(爆)彼女が主役の話も一本書いてるしねー。

エボンの決着、サラリと流すつもりがいざ蓋を開けてみると、筆が進む進む……。
やっぱり、こういうの向いてるのかしらん・・。うーん・・(〃 ̄ω ̄〃ゞ
恋愛モノより、戦記モノや歴史モノのが?(いや、それはない!)
後半は全員での乱闘(違っ!)でしたー。あー、楽しかった♪

次回で最終話を迎えます。
では、どうか最後までお付き合い下さいますよう…ペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ


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