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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.17




飛空艇がベベル寺院の最上階に隣接して静止する。物資搬入用のゲートが開き、連絡通路が飛空艇に向かって伸びてきた。

ゴォン、ガシャン、ガチャン

いつもの搬入の手順で飛空艇と寺院が連結される。もっともこの度は運んできたのは物資ではなく、人であったのだが。

連絡通路がしっかりと固定されるや否や、ベベル寺院側から小さな人影が駆けてきた。

飛空艇の搬入口扉の前では、戦闘準備を整えたユウナたちが扉が開くのを今か今かと待ち構えていた。
そして、扉が開いた途端に飛び込んできたその人は……。

「ユウナ様っ」

「シェリンダさん」

スフィアではなく実物同士が面と向かい合うのは、ルカスタジアムでのあの日のユウナの演説以来である。

「お会いしたかったですっ」

「私も」

固く両手を握り合う二人の女性。現在のスピラで最も重要な鍵を握る二人と言っても過言ではないだろう。

ユウナと同じくシェリンダにもあれから一言では言い尽くせないほどの様々なことがあった。その最たる事の一つが、自分が望んでいないのにも関わらず新エボンの指導者的立場になってしまっていることである。だが、それが新エボンの、ひいてはスピラの人々のためになると周りから説得され、自分でも納得したからこそ今がある。いくつもの重大な選択を余儀なくされてきた逞しさが、シェリンダにも備わってきていた。

ただそこにいれば、まだ年若く儚げでなよやかな女性たち。しかし、その担うものの大きさは計り知れない…。

そのままお互いに言葉もなくじっと目を見つめあう。二人の胸に多くの思いが押し寄せているだろうことは、周りで見守るガードたちもよく理解していた。

 焦れる日々。

 辛い選択。

 悲しい決断。

それでも譲れない想いがあるからこそ、二人はここにいる。

語り合いたいことは山ほどある。それこそガガゼトの頂を越えるほど限りなく。だが、それは今ではない。
二人はそれを、互いの瞳の中の決意の光で認め合う。

「まだ、これから、ですね」

「うん。がんばろうね。きっと……」

途切れた言葉のその先に、声にならない思いを込めて、ユウナとシェリンダは並んでベベルへと通路を歩き始めた。交わす言葉もなく、ただひたすら前を見据えて。


その様子を見て、ゆっくりと後を追いながらルールーとワッカが感慨を洩らす。

「本当に、強くなったわね。ユウナ」

「…ああ。まったくな」

ガードとしてというよりも、姉として、兄として、しっかりと足元を踏みしめ歩いていく妹を見つめる。
かつての旅の頃とは又違った意味で、一回りも二回りも大きくなったかのようなユウナを、ほんの少しの寂しさをも凌駕する頼もしさを感じつつ。

「アタシ、先行くね」

リュックもみなぎる緊迫感を抑えられないとばかりに走り出し、ユウナたちを追い越していく。

しんがりを勤めるキマリは、変わらず静かに皆の背後を守る。
鋭い眼差しを僅かに細めながら…。


ベベルへと降りたち主力部隊と合流したユウナたちに、シェリンダは現状を手短に説明する。

 「イサールさんからの連絡によると、やはり魔物が入り込んでいるようです」

当初の手筈通りに、イサール率いる先行部隊は既にベベルの階下へと突入していた。予測していたことではあったが、旧エボンは戦力不足を補う手段として魔物と死人(しびと)を使ってきた。本来なら魔物を寺院内に入れることなど決して許されないことではあったが、背に腹は代えられないというところだろう。そのこと自体がもう既に人としての教えから大きく外れていることを、気付くものさえいないということでもあった。いや、エボン中枢部に至っては人道的という言葉でさえ失われて久しいのである。なにしろ、長い間、死人に占有されていたのだから。僅かばかり残っていた、心ある指導者も当の昔に寺院から離れてしまっている。

 「しかも、以前よりも数段強力になっていると報告してきています」

旧エボンに未来はない。それは誰の目にも明らかだった。

最後まで旧エボンを見捨てなかったのは、むしろシェリンダだったのである。
幾度となく諦めようとのイサールらの勧告も頑なに退け、あくまで説得と話し合いでの解決を目指していた。人であれば必ず通じるはずだと。スピラを思う気持ちは同じのはずなのだからと。何度無視されようと、足蹴にされようと、めげることなく日夜説得し続けた。

 「ティーダさんはおそらく階段途中の隠し牢に監禁されていると思われます」

淡々と、シェリンダは報告を続ける。

旧エボンはユウナとティーダを最悪の手段で利用しようとしたことで、最後の味方さえをも自ら失ってしまう結果を導いてしまったのである。
自分の命を、最愛の人を、限りない未来を、犠牲にしてまでスピラのために尽くしてくれた人たちを踏み付けにするやり方に、シェリンダは震えがくるほどの憤りを覚えた。彼らは自分の主張を曲げてでも守るべき人々だと、彼女は決断したのだった。

 「そこまで私もご一緒します」

それから以後は臨機応変、出たとこ勝負という訳だ。
結局、懸命に調べたにも関わらず、その後のティーダに関しての情報は得られなかった。楽観視はできないが、希望がない訳でもなかった。ティーダの身に何かあれば、もっと旧エボン内に動きがあってしかるべきなのだが、それらしき動向は見られなかった。

それ故、こちらから行動を起こした現在、早急にティーダの身柄を確保しなければならない。とち狂った旧エボンの誰かが、身動きならないはずのティーダの身に害を及ぼす可能性が高まっているからである。戦況が新エボンに有利に運べば運ぶほど、その危険性は高くなってくる。

シェリンダに説明を受けている僅かな間でさえも、ユウナはいてもたってもいられない心持ちで今にも駆け出してしまいそうだった。引き結んだ唇から血の気が引き、固く結んだ両手が小刻みに震えている。その様子を目にしたシェリンダが、強く頷いた。

「では、まいりましょう!」

「はいっ!」

――― やっと、ティーダに会えるっ!

一同が階下へと繋がる入り口へと向かう。


その時。


ふいにあたりが暗くなった。

「?」

直後、鋭い風に煽られる。

全員が頭上を見上げる。


「!!! あれはっ!」

「エフレイエ…!?」


かつて、聖竜として聖ベベル宮を守護していたモノ。

ワッカとリュックはティーダと共にゾンビとなったエフレイエ=オルタナとも対峙している。間違うはずはない。

「なんで…? 2回もやっつけたじゃん!」

「へっ! おおかた、旧エボンの奴らがなんかしたんだろうよ」

早々に戦闘態勢に入りながら、ルールーが思案顔で頷いた。

「おそらくそうでしょうね」

しかも今頭上にいるエフレイエはオルタナの時にはなかった羽を持ち、より聖竜の時の状態に近いことが見てとれる。飛空艇に再度乗り込んでいるような暇はない。

「ええい! ちくしょうめっ!」

飛空艇に待機していたシドもベベルと連結されていたため、すぐに対処することは叶わず舌打ちしていた。
まさかこんな空中戦があろうとは想定していなかったシェリンダたち新エボンの兵たちは立ち往生するばかりである。

ベベル寺院の上をかすめ飛び去ったエフレイエは、大きく旋回して再びこちらに向かって来る。
早めに決着を付けないと、被害は寺院の建物のみならず、周辺の街にも及ぶであろうことは必至だ。
こちらが動けない以上、チャンスは極端に少ない。
逆に危機は無限大である。

頼りとしていた召喚獣のいない今、ユウナは自分の無力さを痛感していた。

――― こんな時に

しかし、絶望よりも怒りに、ユウナの瞳は燃えている。
キマリがユウナを背後に庇うように立ち塞がる。だが、ユウナはキマリを押し止どめ、ずいっと前にでる。

「ユウナ!」

「私も戦う!」

仲間たちが一斉に振り返る。

「だけど、ユウナ…」

皆の思いは同じ。

――― 召喚獣は、もう・・・


すると、意外にもリュックがこう言い放ったのである。


「わかった! ユウナん、一緒にやっつけちゃお!」




--- next to vol.18 ---



○あとがき○

最後のユウナ編です。(前回のティーダほっぽっといて……)
次回で交互視点が終わる予定です。

やっとシェリンダの実物が出てきました。記述では随分出演してくれてるのにね。はははっ(⌒〜⌒)
いつの世も影で支えている女性たちを表舞台に!という主旨で書いてる訳ではありません、あしからず(笑)

ホントにいつになったら二人を会わせるんでしょうか、作者(苦笑)
でも、もうすぐです。ほとんど佳境に入ってます。いわゆるクライマックス?(言われなくても分かるって)
前回ティーダが戦闘で活躍したので、今回と次回はユウナとガードたちの出番ですねっ♪
さあ、どうやってエフレイエをやっつけるのか? リュックの作戦とは?

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