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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.16




――― どーなってんだよっ! ここはっ!

叫びだしたい衝動を必死に押さえつけるティーダ。

「グルルル・・・・」

それはトカゲタイプの魔物だった。

――― そういや、ここの地下にいたっけ、こんな奴…

対峙した途端、動きを止めたティーダは、魔物の目を睨みつけながらそんなことを考えていた。

――― でも…なんか、違うような…

どこが、とははっきりとは分からないのだが、以前戦ったことのある魔物とは確かに違う。大きさも一回り以上大きい。その上、伝わってくる圧迫感自体が違う。

――― この感じは……ナギ平原の…

そう、かつてモンスター訓練場で戦ったことのあるオルニトレステスによく似ていた。もっともまったく同じという訳でもなく、ちょうどヨーウィなどのトカゲモンスターとの中間というところか。

――― なんで……!!! そうか…

少しでも目を逸らせば飛び掛ってくるであろう状態を、用心深く気をつけながらティーダは態勢を整える。ガードとして旅の間に培われた戦闘の感覚は、まだ失われてはいない。

――― 『シン』がいなくなったからか…

そこまで考え及んだところで、焦れた魔物がとうとう攻撃してきた。

「グルル、グワァッ!」
「くっ」

咄嗟に、ティーダは手にした剣を盾代わりに受け止める。
スピードに長けたこの魔物は攻撃を避けられるやいなや、踵を返し元の位置へと立ち戻る。
やはり以前戦った時より、力もスピードも格段の差がある。
ティーダはかろうじて攻撃をかわしたものの、よろけて開いたままの扉の所から牢の方へと数歩押しやられた。だが、やられっぱなしのつもりは毛頭ない。

「今度はこっちから行くっスよ! はっ!」

相手が攻撃に移ろうとする一瞬を見極めて、素早く切りかかる。

ズザッ

確かに手ごたえは、あった。
しかし、たいしてダメージを与えてはいない。

――― チェッ、この剣じゃな

ここにフラタニティがあれば、と思わずにはいられない。

――― そういえば、あの剣はどうしたんだろう
――― ワッカ、ちゃんと持っててくれてるのかな

戦闘の真っ最中だというのにそんな考えが脳裏をよぎる。その僅かな隙に次の攻撃が来た。

「ガァァッ!」
「うわっ!」

今度は、魔物は一撃離脱ではなく、続けて二撃三撃と仕掛けてきた。
さすがにすべての攻撃を避けることはできずに、ティーダは左足の付け根あたりを噛み付かれてしまった。
まるで火の塊を押し付けられたかのような激痛に襲われる。

「んぐっ」

苦痛に顔が引きつる。
全身が痺れ、剣を取り落としそうになる。

――― まずい、このままじゃ…

ティーダは死に物狂いで魔物を引き剥がし、もう片方の足で思いっきり蹴り上げた。

「グギャ」

運良く急所に当たったらしく、奇妙なうなり声をあげて魔物が退いていく。

「っ痛ぅ〜」

なんとか食い千切られずには済んだようだ。
しかし、この深手では戦闘が長引くのは不利だ。
実際、痛みのため力が入らなくなってきている。

――― どうする…

しかもこの手の魔物は石化攻撃も仕掛けてくるはずだ。

――― 相手が弱ったところで確実に、か…

魔物はこちらの状態を窺っているのか、まだ次の攻撃に入ろうとはしていない。

――― だったらっ

ティーダは前触れもなしに、いきなり反撃に出た。

「はっ」
右上斜めから袈裟切り。
 ガッ

「く」
返す太刀筋を真横に払う。
 ガキッ

「まだ、やれるってんだっ」
手首を返し、真下から切り上げる。
 ズシャ

だが、ティーダの速攻の連続攻撃も、魔物に多少のダメージは与えられたものの致命傷までには至っていない。
かえって手負いとなった魔物は、背びれらしきものを震わせいきりたって咆える。

「グアァァァ!!」

そしてティーダが飛び離れ、元の位置に戻ると同時に怒り狂って襲い掛かってきた。

――― 今だ!

砕けそうになる足腰を懸命に踏ん張り、静止したティーダの鋭い瞳が魔物のただ一点を見つめる。
魔物が大きく口を開け、牙を剥き出し飛び掛ってきた。
勢いに圧され、真後ろに崩れ倒れるティーダの上から、魔物の大きな身体が覆うように圧し掛かる。


ドウゥゥンッッ!


一瞬の後。


「グギャァァァーーーー――――!」

魔物の絶叫がほとばしる。


倒れたティーダの上を完全に覆っている魔物の背から、剣の切っ先が覗いていた。


そして。


次第に魔物の姿が薄れていき、いくつもの幻光虫へと姿を変える。
やはり以前とは比べ物にならないくらい密度が濃いらしく、只ならぬ数だった。
後に残されたのは、仰向けに倒れたまま大きく肩と胸を上下させているティーダだけだった。
その手には、既に折れて使い物にならなくなった剣があった。
それは真っ直ぐ天を向くようにしっかりと両手で支えられていた。


通常の攻撃ではまったく効き目のない魔物相手に、今のティーダには自分の技を繰り出す余裕と体力がなかった。それ以前に、このなまくらな剣ではティーダの技に耐えられそうもなかったのだ。そのためティーダは最後の手段として、自分の身体を囮に相手の力と重さを利用したのである。

倒れながら先ほどの急所の場所を見極め、その位置に剣をあてがうだけで良かった。ただ、その意図を見抜かれないための細心の注意と、剣を支えるための懇親の力を要しはしたが。

魔物が完全に消えたことを確認し、ようやくティーダは身体を起こした。しかし、荒い息の収まらないティーダは立ち上がることは叶わず、そのまま近くの壁に寄りかかって一息ついた。安堵感から思わず弱音が洩れる。

「しょっぱなからこれっスか? かんべんしてくれよ」

ここに魔物が現われたということは、これから先も同じことが起こり得る。いや、もっと多くの魔物が闊歩していると考えておいた方が良さそうだ。とは言え、今のティーダの状態ではこれ以上の戦闘は到底無理だった。このままでは満足に歩くことさえできそうにない。だが、なんとかしなければやっと抜け出した牢獄に逆戻りだ。
ティーダはやっとの思いで、気だるい身体に鞭打って僅かながら使える回復魔法を自分自身へとかけ、なんとか傷だけは塞ぐことができた。

「あ〜あ、こんなことなら、ユウナにもっとしっかり白魔法習っとくんだったな」

想いとは裏腹のおどけた口調も、今はただ空しく胸を締め付ける。

いつも、寄せては返す波のように去来する想い。
怪我の痛みよりもなによりも。


――― ユウナ

心が、イタイ。

――― 君に

瞳の奥が、アツイ。

――― 会いたい

息が、デキナイ。

――― 会いたいよ ユウナ


想いの強さが、ふっとティーダの意識を遠のかせる。

開いたままの扉の向こうから、遠く喧騒が響いてくる。
だが、それが何なのか考える間もなく、ティーダはそのまま白い闇に呑みこまれていく。


――― ダメ…だ………追っ…手……が………


階段を駆け下りる複数の足音が、次第に近づいてきていることも気付かぬまま・・・。







--- next to vol.17 ---



○あとがき○

ひぇ〜、大変でした。今回は大半が苦手の戦闘シーン。
どうもまったり気味(笑)になるのを引き締めるのが一苦労でした。
私なりに頑張ってみたのですが、いかがだったでしょう……アセアセ( ̄_ ̄ i)タラー
ティーダに独り言を言わせるのも、もう飽きた〜(爆) いやはは、自分で書いてるんですが…。
でも、これでティーダ一人ぽっちもようやく終わり……のはず…?(ニヤリッ)

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