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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.15




暗い鉄格子の中、薄ら寒い部屋の片隅にうずくまる影。


   ここに入れられてからどれくらいの時間がたったんだろう

   訳わかんねーまま連れてこられて、そんなこと考える余裕なんかなかった

   ユウナ

   会いたい

   ユウナ…

   まだ、オレのこと、待っててくれてるよな


微かに差し込む廊下からの松明の明かりに照らし出されるティーダの顔は、すっかり生気をなくしやつれ果てていた。日がな一日、ぼんやりとして、今ではもう暴れる気力もない。ここしばらく外部との接触は食事を渡される時だけ。それ以外は廊下の監視でさえ姿を見せなかった。この閉ざされた空間にただ一人きりという状態は、思いのほかティーダにダメージを与えていた。それは、査問と称して連れ出されていた頃の方がまだマシだったと思えるくらいだったのである。
だが、伏せた腕の影から覗くその瞳だけは、ギラギラと輝き、ただ一点を見つめ続けていた。



いくら責めたてても頑として受け付けないティーダの態度に、業をにやした旧エボンの上層部は作戦を変えてきた。
強気の態度や言葉ではティーダの証言は得られそうもないとようやく分かったのだ。かといって、懐柔策に出られるほど柔軟な考えを持つ者もいなかった。プライドが邪魔をするのである。もはや無きに等しい威厳にしがみつくしか生きる術を持たぬ旧エボンの僧侶たちは、過去の栄光とそれを再現するという夢のためにさえプライドを捨てるという方法を選ぶことができなかった。

そして、ようやく出した結論は、ティーダを餌にしてユウナの身柄を確保するというものだった。

そう、例のティーダの牢の様子が映されたスフィアを使ったのである。

スフィアは旧エボンの手によってわざと流出させられていたのだった。
たとえ罠だとわかっていても、おそらくユウナたちはティーダ救出に乗り込んでくるだろう。だから一兵士を使い、新エボンへと横流しをさせた。確実にユウナの元へと届くようにと。案の定、即日のもと、そのスフィアはシェリンダからリュック、ユウナへと手渡された。すべて旧エボンの目論見通りのはずだった。


しかし、ここでいくつか誤算が生じていたのである。

まず、旧エボンはスフィアがユウナの手元に渡るまでには数日を要するだろうと踏んでいた。だが、実際は一両日もかかってはいない。まさか、新エボンがリュックやシドと細めに連絡を取り合っているとは思い至らなかったのだ。それはシェリンダやシドが充分に偽装工作して情報のやり取りに気を配っていたおかげでもあった。そのため、ユウナが決断しベベルへと乗り込んでくる時期の予測が、大きく狂ってしまったのだった。

そして、大きな誤算としてシェリンダの存在がある。
新エボンに身を置きながらも、彼女は常に新・旧エボンの橋渡し役であり、中立の立場を守ってきていた。その態度に旧エボンの側にもシェリンダを信頼する風潮が根付いてしまっていたのである。まさかその彼女がユウナたちと連携して、攻め入ってくるとは露ほども考えてはいなかったのである。

いや、おそらく一番の誤算は、強力な指導者の不在だっただろう。
マイカやシーモアのようにカリスマ性を持ち、先を見通す絶対の支配者が、今の旧エボンにはいなかった。そうなり得る人材は、時代の流れを読み、とうに旧エボンを見放していたのだから、無理からぬことでもあったのだが。

そして。

その間、当然毎日のように行なわれていたティーダへの尋問は行なわれなくなっていた。ただ一人牢獄の中に取り残された形のティーダは、もはや怒りのやり場もなくなってしまった。暴れても叫んでも、何の反応もないという状態では気力もすっかりなくなるというものである。
始めのうちはいくら監視を廊下からも撤退させたとはいえ、旧エボン側もスフィアの隠し撮りだけは続けていたのだが、まったく動かなくなってしまったティーダの様子に加え、既にスフィアを流出させてしまっていたため、これ以上は必要なしと判断され、すぐにそれさえもなくなってしまっていた。

この頃になるとさすがにティーダも隠し撮りされていることに気がついていた。それ故、かえって冷静になれたのだった。このことも旧エボン側の誤算の一つといえよう。

一度、どん底まで陥ったことのある人間の精神力は予想外に強い。その上、ティーダは今までにも普通では経験できないほどの様々な事象を乗り越えてきていた。

――― たとえ僅かでも希望があるうちは、絶対諦めない!

――― それに……

ティーダの瞳に暗い光が宿る。しかし、それも一瞬で消えてしまった。

冷えた頭であたりを見回すと、この監獄にもまったく動きがない訳ではない。外界からの光はもとより、音でさえも完全に遮断された空間ではあったが、人の手によって左右できない存在もあるのだ。
あの孤島ではほとんど見られなかった幻光虫が、ここにはうようよいるのである。今もまた一つ、じめじめした壁からスーっと抜けてティーダの目の前を流れていく。諸悪の根源でもあった死人らの拠点だった場所だ。幻光虫の数も半端ではないだろうことは、容易に想像がつく。それでもまだマイカらがいた頃に比べれば、幾分はましなのだろうか。この幻光虫こそが、外が今どうなているのかを知ることのできる、僅かだが唯一の手がかりだったのである。

そして、ここ数日、幻光虫の密度が次第に濃くなってきているのをティーダは感じていた。

――― 何か、動きがあったのか?

連日かけられていた魔法は、しばらくほっておかれたせいで効果はとっくに切れている。食欲がなくても、与えられる物は無理にでも流し込んできたおかげで体力も充分だった。あとは機会を伺うだけだ。

――― せっかくバタついてくれてるんなら、これを利用しないってのはないよな

もうすぐ、食事係りの兵士がやってくる頃だ。
このところティーダがまったく動こうとせず、以前は感心するほどしっかりと食べていた食事をそのまままったく手付かずで残しておくことが数回続いた。切り札でもあるティーダに死なれては困る彼らは、最近ではわざわざ牢の中に入ってティーダの足元に食事を置いていくようになっている。それもティーダの思惑通りだったのだが、兵士はティーダがすっかりまいってしまい、動く気力も無くなっているのだと思い込んでいるようだった。

――― 今日は特にうるさいな、こいつら

いつもならゆっくり流れていくだけの幻光虫が、忙しなく行き来している。次から次へと。おそらく外の人々の状態に感応しているのだろう。

――― チャンスが…きたのか?

カツン、カツン、カツン

カチャカチャ、ガチャッ

兵士の足音の後に扉を開く音がする。
しかし、すっかり警戒心を解いてしまっている兵士は、案の定、鍵を掛け直している様子はない。食事を置いたらすぐに出られるようにと思っているのだろう。完全に油断している証拠だ。しかも、なんだかいつもより急いでいるようでもある。
うずくまったまま、ティーダは一人ほくそえむ。

――― 来た!

やっと、待ち望んでいた機会…。失敗はできない。ティーダは歯を軽く食いしばり、腹に力を溜める。

「おい! 食事だ」

ティーダは顔を伏せたまま動こうとしない。兵士は短く舌打ちする。

「ちっ。またかよ」

ガチャガチャ、カシャン

ティーダの牢の鉄格子扉を開く、音。


その瞬間!


今までピクッとも動かなかったティーダの腕が一閃する。

「はっ!!!」

「グェッ」

ドサッ

がしゃん

奇妙な呻き声と共に、兵士はあっさりと倒れた。

いきなり中腰のまま突進したティーダが、その両腕に架せられた重い枷を兵士の腹めがけ、渾身の力を込め真横に振り抜いたのだ。一撃だった。食事用の皿を持ったまま、兵士は身構える間もなかった。兵士は真後ろに吹っ飛び、鉄格子にしたたかに頭と背中を打ちつけ気絶してしまった。取り落とされた皿が中味を盛大に振りまき、コロコロと床を転がっていく。
ふぅっと大きく息をつぎながら、ゆっくりとティーダが立ち上がる。

「なぁ〜んか、あっけななかったっすね」

久々に、ニッと笑いを浮かべたティーダは、兵士の側に屈み込んでその衣服を探る。いくら目は慣れているとはいえ、この暗さに加えて未だ重い枷付きの両手はなかなか目当ての物にいきあたらない。やっと、指がカチッと固い感触にあたる。鍵束だった。すぐに不自由な手で鍵を合わせてみるティーダ。十数個もある鍵の中からようやく自分の枷に合う物を見つけ出し、枷を外す。両腕が自由になるとあとは簡単だった。足の枷の鍵を合わせ外し、代わりに兵士につけてやる。すぐに追ってこられては面倒だからだ。鉄格子扉をくぐり抜ける前についでに兵士の腰の剣もいただいておいた。

「んじゃ、交代なっ」

カシャン、ガチャッ

牢の外に出て鍵を掛け、やっと一息つくことができた。
改めて自分の手を眺め見る。長い間、枷に繋がれていたため、まだ少し痺れが残っている。足もふらついていておぼつかない。兵士から奪った剣を杖代わりにして、人の入っていない同じような牢をいくつややり過ごしながら、やっとの思いで外へと通じるはずの扉のところまで歩きついたティーダだった。

「くっそ、冗談じゃないっての」

せっかく逃げられても、途中で連れ戻されれば元も子もない。だが、ぐずぐずしていたら他の兵士に見つかってしまう恐れがある。
よろめきながらもティーダは意を決して、扉を開けた。


「!!」


しかし、そこには……





――― 魔物がいた ―――







--- next to vol.16 ---



○あとがき○

やはり、当初の予定通り、今回からティーダ編に戻ってまいりました。
今回から戦闘を楽しみにしていらした方(いるのか?)ごめんなさいです。
徐々に近づきつつあるティーダとユウナを書きたかったので、初志貫徹させて頂きます。
だけど、この展開じゃ次回は絶対戦闘は避けられない〜(泣)
誰か、戦闘シーンの書き方、伝授してくれー。
いや、ここはテオ式のらりくらり戦法で・・・・(爆)

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