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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.13




「だけど、問題はどうやって助け出すかなんだよなぁ」

う〜ん、と腕組みしながら考え込むワッカに限らず、その場にいた全員が考え込んでしまっている。

今までは旧エボンの目から逃れることだけを考えていれば良かったのだが、今度はその本拠地に乗り込もうというのである。当然、その困難さが思いやられるというものだ。

事ここに至るまでにも一悶着あった。

まずは、ユウナの気持ちが落ち着くまで待たねばならなかった。彼らにとってはユウナの意向をはっきりと聞いておく必要があったのだ。すなわち ― ティーダを助けに行く ― という。
それに伴う数々の障害が予想されるだけに、しっかりと全員の気持ちをまとめなければならなかった。ユウナの気持ちが最優先のガードたちである。それがいかに苦難を強いられるとしても、ユウナが望めばどんなことでも果たしてみせるという気概はある。いつも自分の欲求を後回しにするユウナだからこそ、僅かな我がままでさえ叶えてやりたいのだ。しかもそれがティーダの安否に関わることなら、躊躇うものなどいるはずもなかった。

ティーダも共に戦った大事な仲間なのだから。

既に届かぬ人は、いくら願っても戻ってきはしないのだから。

もしも、可能性があるのなら、全力でそれに立ち向かう。



「わたし、行きます! ティーダに………」

 ――― 会いたい ―――

せっかく乾いた双眸が、再び濡れるのをこらえるために最後の言葉を飲み込んだユウナ。

仲間たちもユウナの言葉に全員が力強く頷いていた。

数少ない家具の、それも村人から壊れかけの物を貰い受けてワッカが修理した貧相なテーブルに全員が着くと、そこは質素で小さいながらも、スピラ一の急進派の密談場所と化した。もっともキマリはその大きさに見合う椅子がなかったため、ユウナの背後にいつものように直立して控えていたのだが。

次に問題なのはティーダが捕らわれているらしい場所はどこか、ということだった。
が、これは早々に結論が出た。現在のスピラで、こんなことをしでかしそうなのは旧エボンしかいない。万が一違ったとしても、画像の乱れたスフィアでさえも見てとれるほどの堅牢な監禁場所といえば、まずベベル寺院以外考えられなかった。

皆の意見をまとめて、ルールーが長い黒髪をうるさげに払いながら言う。

「まあ、ベベルだと思ってまず間違いないわね」

「でも、前の時とは、場所、違うみたいだよ?」

「一度破られた牢をまた使うほど、旧エボンだって馬鹿じゃないでしょう」

「そっか」

そこで、ルールーは眉根を寄せて、しばし目を瞑った。

「ん? どうした? ルー」

不思議そうに尋ねるワッカに答えるともなく、目を閉じたままルールーが口を開く。

「1000年もの間に……」

ゆっくりと大地の色の瞳を開けて、ルールーは暗く遠くを見つめるように視線を流す。

「……いったいどれくらいの闇が巣食っていたのかしらね」

ルールーの深いため息まじりの言葉が、皆に重くのしかかってくるのだった。


だが、これで場所の限定も目算がつき、いよいよ救出の具体的な方法へと論点が移っていった。





「だからよ。こないだみたいに、飛空艇でバーッと空から行きゃあいいんじゃねーか?」

「まったく単細胞なんだから。同じ手が二度も通じるはずないでしょう」

相変わらずの夫婦漫才もどきの二人の掛け合いに、真面目な作戦会議の雰囲気もやわらかくなごむ。ユウナもそれまで強張っていた表情を崩し、微笑みが漏れていた。その横でキマリは変わらず仁王立ちだったが、ツッとリュクが静かに椅子から立ち上がり身を引いたのがユウナの目に止まった。

「リュック? どうしたの?」

ユウナの声で議論に熱中していたみんなの目がリュックに集まる。
リュックは部屋の隅まで後ずさりして、キメの荒い木の壁に背をもたれさせ俯いていた。
キュッと握り締められた両手が小さく震えている。

「リュック?」

ルールーも重ねて声をかける。

「なんかさぁ」

僅かに身じろぎして、リュックが答えた。

「…なんか…おっちゃんのこと、思い出し、ちゃっ…て……」

更に深く俯くリュック。

「リュック…」

そっとユウナが近づき、静かに手を伸ばしてその頭を自分の胸にかき擁く。

「そうだね。 アーロンさんなら、きっと…」

―― 自分より歳若い従姉妹。
―― いつも賑やかでしっかり者だといっても、この歳でたくさんの辛い経験をしてきた。
―― たくさんの仲間を失ってきた。
―― たくさんの……想いも……。

「大丈夫だよ。 きっとアーロンさんが手伝ってくれるよ」

はっと頭を上げ、ユウナの瞳をその片方と同じ色の両瞳で見つめるリュック。

「……異界から?」

「そう。 異界から」

微かに滲んだ渦巻きが笑う。

「父さんやジェクトさんもね」

フワリと二人の上に穏やかな風が流れたように感じた。
気のせいかもしれないけれど。
きっと……。

ルールーとワッカも優しく微笑みながら二人の様子を見守っている。



ふと、部屋の一角で気配が動く。それまでジッと何事かを考えていたらしいキマリが、初めて口を開いた。

「キマリは考えた」

「えっ」と全員が振り向くのを待って、キマリがゆっくりと語り始める。

「キマリたちだけでは無理だ。ベベルの中から協力してくれる者が必要だと、キマリは思う」

もう一度「あっ」と驚き、そして再び全員が大きく納得の頷きを返したのは言うまでもなかった。




--- next to vol.14 ---



○あとがき○

やっと具体的な救出作戦の開始・・・前夜です(爆) だって、真面目に救出作戦を成功させようと思ったら、充分に作戦練りますよ?普通。ねえ。 小説も同じですけどー。ははは。 今回、ちょっとだけ懐かしい名前をちらりと。 ティーダ編では一話分(vol.2)のほとんどを使ってアーロンを回想させているんで、やはりこちらでもと思いまして。少〜しだけアーリュ風味?(笑)でも、作者は別段アーリュのつもりで書いた訳ではありません。多感な年頃のリュックは、本来はこうやって感傷的になりやすいはずなんです。いつも見かけ以上に頑張ってるからね。うん。 んで、最後おいしいとこ持ってってるのが、キマリ。う〜ん、でも適役だ。(と勝手に思う作者)

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