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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


君に vol.12




海を渡ってきた風がさらさらとユウナの髪をさらっていく。
よく見知ったのとは違う、柔らかな陽射し。
ビサイドでは強く反射してキラキラと輝いていた小波や浜辺も、ここではゆったりと光を飲み込んで波間にとけていく。
同じ浜辺でもこうまで違うと、まるで潮の香まで別物のようだ。


ピィーーーーーーー

ピィィーーーーーーーーー


ユウナのいる浜辺の光景では必ず聞こえる指笛だけは、ここでも切なく響いていた。



「ユウナ〜〜〜ん」

海とは反対側にあたる方向からリュックの声が近づいてきた。

「リュック。どうしたの? そんなに急いで…」

はぁはぁと息をきらして駆け寄ってきたリュックは、しばらく両手をつっかいぼうにして両膝で支え息を整えてから、目の前のユウナをガバッと振り仰いだ。

「あのさ、すっごいことがわかったんだ。急いでアジトまで戻って!」

「え? すごいことって?」

「い〜から、行けばわかるって! さ、行こ行こっ!」

「う、うん」

ユウナはリュックに急き立てられるように浜辺を後にしたのだった。




アジトとは、現在ユウナたち一行がいわゆる隠れ住んでいる小さな家のことを指している。アジトなどと言えるような大層なものではないのだが、リュックが自分たちは旧エボン対して一番有力な対抗勢力なんだから、とその呼称を譲らなかった。

ユウナたちが旧エボンから姿をくらますために選んだ場所は、なんとベベルとは目と鼻の先にある小さな村だった。召喚士たちの修行の旅のルートからは外れていたので、ユウナやルールーも一度も訪れたことはなかったし、はっきりとは顔も知られていなかった。スピラでは今現在一番の有名人であるはずのユウナでさえもである。更には一般の街道からもかなり奥まったところに位置しているため、単なる集落と言ってもいいほどのうらぶれた村だった。スフィアなどという代物はおそらく見たこともない村人がほとんどだろう。

灯台元暗しのこの策略は今のところ的を得ており、旧エボンからの捜索の手もこの村には届いてはいなかった。もちろん万が一のことを考えてのそれなりの偽装も彼らは欠かさなかった。

ワッカとルールーが新婚夫婦というフレコミで最初に村に入った。本人たちは猛烈に反対したのだが、この機会に煮え切らない二人の後押しをしようと画策するユウナとリュックに強引に納得させられてしまっていた。そして、ユウナはその二人を頼ってきた知り合いの娘だといって、わざと時をずらして村に来たのである。『シン』のために家族を亡くしたという、まことしやかな設定までつけて。確かに事実ではあったのだが…。

とにかくこのご時勢である。疑われずにすんなりと村に入れさえすれば、後は村人は皆日々を生きていくのに精一杯で、他人のことに構っている余裕なぞほとんどないほどに一般の人々は貧窮していた。その上、新婚だからという理由で(本当は目立たぬようにというのが一番の目的なのだが)村の一番はずれのあばら家を明渡してもらい、住み着くことにしたのだった。

リュックは敢えて住人とはならず、リンから横流ししてもらった物資を旅行公司という名目で行商をしに堂々と村に出入りしている。これはアルベド族ならではの最適な役回りだった。さすがに目立つキマリは、不本意ながらも裏方専門でリュックと行動を共にしている。だが、これならば気にかけて止まないガガゼトにも時折様子を見に行くこともできるのだから、キマリの立場から不平を言う訳にはいかなかった。


隠れ住んでいるとはいえ生活や情報収集のために働かなければならない他の仲間たちと違い、ユウナの生活は今までと180度変わってしまった。絶えず人目に晒され、人に会い、自分の時間など皆無に等しかった毎日が、いきなり何もすることがなくなってしまったのだ。日々、ルールーの家事を手伝い、召喚魔法が使えなくなったがための白魔法の修練に勤しむユウナだった。それに、リュックが村に立ち寄る度に最新の各地の情報や様々な文献を渡してくれる。
が、それらの研鑚もそこそこに、ユウナは一日の大半を近くにある浜辺にやって来てぼんやりと過ごしていた。
ほとんど習慣のようになってしまった指笛を吹きながら。

そのことに気付かない仲間たちではない。どれだけユウナがティーダのことを想い、自分自身で探しに行きたいのか。あてのない状態では目立つ彼女が動き回る訳にはいかないと自覚しているだけに、ユウナの自制心にかえって自分たちの不甲斐なさを感じ苛立つガードたち。
極力周りの人々に不審に思われないように気をつけながらも、必死であらゆる方面へと手を伸ばし、あらん限りの情報を集めていたのだった。

ユウナにもガードたちにもジリジリと焦燥感のみ募らせる時が過ぎていく。

そして、ついに確かな手がかりを掴んだ・・・。



アジトに帰ると家主の二人はもちろんのこと、キマリも既にユウナを待っていた。

「どうしたの? 何かあった?」

トレードマークであった黒い服を脱ぎ、すっかり若妻といった感に雰囲気の変わったルールーがユウナの問いに答える。

「ええ。実はね、まずは見て欲しいの。リュック、あれを…」

「わかってるよ〜」

ユウナの後から部屋に入ってきたリュックが、ユウナの目の前に差し出した物。

一つの変わった形をしたスフィアだった。

「? これって? 何だか普通のと形が違うね」

「うん。いいから見てみて」



そのスフィアが映し出したのは…。

かなり映像が荒く乱れてはいたものの、確かにティーダの姿だった。

それも暗い牢らしき場所で、鉄格子に食らい付くように叫んでいる。

神経を逆撫でされるかのような、悲痛な叫び……。



唐突にスフィアの映像が途切れて終わった。
その場にいた皆が一斉にユウナを振り返る。


ユウナは。

両手で自分の口元を抑え、大きく見開いたままの蒼と碧の瞳から。



ポロポロと果つることなく溢れ出る涙を、流し続けていた……。




--- next to vol.13 ---



○あとがき○

今回から又ユウナ編になりました。
ついにティーダの情報を得たユウナたち。
う〜ん、さてさて。
これからどーしよー?(by ドナルド・・・キャッ♪)
DVDが出たことで随分ED後って書きにくくなってるんですよね。でも、今作は一応ティーダの10年後、20年後もある程度想定して書いてます。それで政治的部分も欠かせなくなっているという…。
あは。これ以上は最後までお付き合い下さる方のみぞ知る、ですねー。
あう、ちょっと今後の展開をほんの少しだけバラしてしまいました……。
ま、いいかぁ。きっと、わかんねーよ、これくらいじゃ(爆)

次回はティーダ救出作戦の前夜か前哨戦、かなぁ?いえ、保証はないです。この作者はかなりいい加減だから。
どんな展開になるのか、今のところ全くわかりません(爆)
書き始めたら、筆(指?)が勝手に進んでくれるだろう・・・、きっと、おそらく、たぶん・・・。

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