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〜 FF NOVEL <ALL-FF> 〜
by テオ



イヴの夜空はあの人と

<オムニバス・ラブストーリーズ>


(4)







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ FF] ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




タッタッタッタッ・・・・・


女の子が駆けてくる。

一抱えほどもある荷物を持って、必死の形相で走っていく。
板張りの粗末な桟橋の上、何度も転びそうになりながら。

『ああ、遅れちゃった。間に合うかなぁ』

前方から、ボォ〜ッと連絡船の出発の合図である汽笛が聞こえてきた。

「あっ!待って〜、乗ります〜」

船の搭乗口には、心配顔でウロウロしている少年が一人。
懸命に駆けてくる少女に気づくと、パッと顔を輝かせながら手を振って声をかける。

「ユウナッ!遅いっスよ!」

間一髪、なんとかユウナはリキ号の出帆に間に合った。

「はぁっ、はぁっ、ご・ごめん、ね。心配、かけちゃ・って。はぁっ」

上半身を屈めながら苦しい息が収まる間もなく、ユウナはティーダに心配かけたことを謝っていた。
ティーダはいつもより少し厳しい表情で、両手を腰にあてながらなおも言い募った。

「オレだけじゃない。みんな、心配してたんだ」

そう言われて顔を上げたユウナは初めて、ティーダの背後にいつもユウナのことを最優先に考えてくれるこの上なく頼りになる仲間たちの姿を見つけた。

「あ、ごめん。みんな、も」

自分のほんの小さな我がままのために、そんなに皆に心配をかけてしまったのかと、ユウナは今更ながら申し訳なさにいっぱいの気持ちで頭を下げる。だが、間に合わなかったのならまだしも、とにかく無事に船に乗れたのだからと皆の表情は一様に穏やかになっていた。

「もういいわ。ユウナ。とにかく間に合ったんだから。ね、ワッカ」

他人には厳しいが(特にワッカには)ユウナには甘いルールーが、早速その場を取り成す。

「ん?ああ、まあ、な」

半強制的に同意を求められて、ワッカもいつものように朱いとんがり頭を掻きながら苦笑している。

「ユウナが無事ならキマリはそれでいい」

いつもは必ずユウナの傍にいるはずのキマリも、今日はユウナのたっての願いで先に船に乗り込んでいた。だから本当は誰よりもイラついていたはずのキマリがそう言ったことでその場は丸くおさまった。
本気で怒っていた訳ではないから、ティーダも今度は笑いながらユウナに問い掛けてくる。

「で、何でそんなに遅かったっすか?」

当然の疑問である。

ユウナたち一行は、キーリカの村に来ていた。もう一度異界送りをやって欲しいと頼まれたのだ。前回の異界送りの時には無事だったが、その後、また様々な理由で命を落とした人々を送るために再度訪れたのだった。それが召喚士であるユウナの勤めなのだから。
それも滞りなく終わり、今日はビサイドへ帰るだけのはずだった。
しかし、皆が船に乗り込む間際に、ユウナがちょっと用事があると言って一人キーリカの村に戻っていったのだった。その用事というのがいったいなんだったのか、知りたいのが人情というものである。だが、もうすっかり息も整っていたにもかかわらず、ユウナの答えは歯切れが悪かった。

「う、ん。ちょっと、ね」

こんなにユウナが皆に隠し事をするのは珍しい。だが、その表情から深刻な問題ではないのだけは読み取れた。ならば、それ以上追求する必要もない。ティーダ以外はさっさと船のあちこちに散っていった。
ティーダも別にこれ以上ユウナを責める気もなく、ただ一緒にいるためだけに傍に残っていた。今ではそれが当たり前になっていた。

自然と二人、船の舳先の方へと足が向く。いつも船に乗るとそこにいるのが習慣のようになってしまっていた。船が行くべき方向へと波を掻き分けていく様が二人とも好きだった。心地よい潮風を受けながら、大きく伸びをするティーダ。ユウナも目を細めて、舳先に当たっては砕け散る波の飛沫を見つめていた。
居心地のいい、静かな空間。

ふと、ティーダが今気づいたかのようにユウナに訊ねた。

「それ、何すか?」

ユウナが抱えていた荷物を見ながら聞いている。
あっ、とユウナが急いで荷物を背後に隠す。

「あ、うん。何でもないっ!」

今更隠したって遅いのに、何だかやたらとその仕草がかわいくて。
ティーダは笑いながら言った。

「いいっすよ。もう」




その日、夕刻。
ビサイド村に帰ってきた一行は、帰った早々、イヴに賑わう村の準備に借り出されていた。
異界送りのため、疲れているユウナを除いて。
だが、自分の部屋で休んでいるはずのユウナの姿が見えない。
ユウナはキーリカ村で準備してきたあることのために、みんなに内緒で走り回っていたのだった。


準備も一段落して、部屋に帰ってきたルールー。
部屋に入るとなんだか妙な違和感があった。
「?」
よく部屋の中を観察してみると、部屋の真中のテーブルの上に見慣れない包みが置いてあった。
近寄ってみると、小さなカードが添えてある。

[ルールーへ いつもありがとう ユウナ]

思わず零れる、優しい微笑み。

「あの子ったら。そう、それで・・」

キーリカでユウナが遅れた理由。
それは、いつもユウナのことを見守ってくれるみんなに、心ばかりのプレゼントをするためだった。
いつも行動を共にしているため、なかなか一人になれないユウナ。内緒のプレゼントをしたくとも普段は絶対に無理だった。だから、キーリカでのほんの一時の間に一所懸命探したのだろう。その様子が目に見えるようでルールーの笑みは更に深くなっていった。

「私たちこそ、ありがとう。ユウナ」

ユウナがこの場にいなくても、言葉にせずにいられなくてルールーは呟いていた。

同じ頃、ワッカとキマリもルールーと同じ行動をとっていたのだった・・・。



イヴを楽しむ村人たちの輪から離れ、ユウナとティーダは浜辺に来ていた。村から出る時には一緒にいたはずの仲間たちも、今宵だけは二人だけにしてあげようと途中で静かに消えていた。二人は仲間たちの細やかな配慮に感謝しながら、二人きりの大事な時を幸せな想いとともに感じていた。
波打ち際まで来たところで、こういう場合に不釣合いにも見える不恰好な荷物をやっとユウナはティーダに手渡す。

「はい。これ」

「ん?なに?」

薄々は分かっていたものの、ユウナが自分に何を選んでくれたのか、はやる気持ちを抑えながら包みを開くティーダ。

「! これって・・」

それは、練習用のブリッツボールだった。
激しいティーダのシュートは、ブリッツボールをすぐに傷めてしまう。特殊なコーティングの施されたそれは随分前に他のチームの選手から聞いて、ティーダがずっと探していたものだった。

「これ、探すの大変だったろ」

嬉しさよりも驚きの表情を隠せないティーダに、ユウナ自身の方が嬉しくなってきてしまう。

「うん。だからね、リュックにも協力してもらったんだ」

ユウナが自分の気持ちを打ち明けると情報を探すためにリュックは全面的に協力してくれた。そして、つい先日そのボールがキーリカ村の近くに住んでいる人が製作していることがわかったのだった。

だから、あの時あんなに遅くなったのか・・・。
村の外まで出かけたのなら、無理もない。

ユウナは楽しげに言葉を続ける。

「私、頼んでおいたから。これからはいつでも作ってもらえるよ」

「・・・ユウナ」

愛しくて、愛しくて、でも・・・。

「オレ、イヴだってのに何も・・・」

ティーダが申し訳なさそうに俯いて呟くと、ユウナは強くかぶりを振って言い募る。

「もう、もらってるよ。今・・・」

二人っきりの大事な時間。ティーダとみんなからのユウナへのプレゼント。

「私にとっては一番嬉しい、贈り物だよ」

「ユウナ」

どちらからともなく近づく二人。
湿った砂地に足を取られ、倒れこむようにユウナはティーダの胸にたどり着く。
青白の月明かりだけを頼りにお互いを見つめあう。
だが、もう明かりは必要なかった。
心も身体も、何も邪魔することなどできない距離で、一番愛しい人と触れ合っているのだから。
そして、互いを映して揺れる両の瞳が閉じられる。
あたたかくやわらかい唇を感じるために・・・。


星空が凪の海に映って、海と空の境もないほどの。

一面が輝ききらめく、スターライトシンフォニー。


星が、永遠を約束する時。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





−イヴ−


聖誕祭・前夜

恋人たちに


〜〜〜 祝福の夜を 〜〜〜





**********  Fin  **********






【あとがき】

FF7〜10の主人公カップルの4連作です。1作1作が思ったより筆がノッて、出来上がってみたらえらく長くなってしまいました。テーマノベルは短編で、と自分で言っておきながらすみません。(汗)
しかし、オムニバスは短編の集合ですから、作品自体が短編のままのはずがないんです。(反省)
ただ、作品的には4本の物を1本にまとめてしまったので、なんだか作者は損した気分です。(←自業自得)
最後まで読んで下さった方々、お疲れ様でした。(苦笑)そして、ありがとうございました。

今回のテーマであるイヴというのは本当はクリスマス・イヴのつもりだったんですが、FFの世界観がみな微妙に違うので単にそれぞれの世界の重要な日のイヴ(前夜)という形に定義しました。時期はすべてエンディング後のいつか・・・という設定です。ネタバレはほとんどありませんので、10をプレイしてない方も安心して(笑)読んで頂いて大丈夫ですよ。

1話目=FFZ (クラウドXティファ)
この7は4つの中でも作者的には一番大人っぽいカップルなので、逆にさらりと流したつもりですがいかがだったでしょうか。(え?そうでもない?あれぇ?変だなぁ)
あと、最後の星の意味ですが、お分かりのとおりエアリスのことを指しています。でも、エアリスはライフストリームとなって星の内部を駆け巡っているのでは?と指摘される方もいらっしゃると思いますが、そこはそのイメージといいますか、気持ちの問題なのでどうぞご了承下さい。(ぺこり)

2話目=FF[ (スコールXリノア)
ひょっとしてリノアのイメージがかなり違うかもしれません。でも、作者はこんな感じで見ていたのでご理解頂きたいと思います。
しかし、いざとなったらやるじゃん、スコール!(笑)
ホントの話、書いていくにつれ、どんどんキャラたちが動いてくれました。なかなかないんですよね、こういう風にキャラが勝手に動いていくことって、私の場合。ですから、書いていてとても楽しかったです。自分でもどういう具合に話が進んでいくのか読めないところがありましたから・・。(いいのか?・・苦笑)

3話目=FF\ (ジタンXガーネット)
9は実はあんまりキャラよく覚えてません。FFシリーズは他はみんな2回以上プレイしてるんですが、9だけは1回きり・・。なんでだろう・・・。面白かったのに。不思議だ。
そういう訳で9をよくご存知の方は、このキャラちょっと違う、というのがあるかもしれません。見逃して下さい。(笑)
でも、7・8よりもすごいな、この2人。2回もラブシーンあるぞ。(爆)どうしてこういう展開になったんだろ。不思議だ。(爆X2)

4話目=FF] (ティーダXユウナ)
10は私にとっては一番作品数が多いので、場面を考えるのに悩みました。おまけにネタバレにならないようにと気をつけたもので、4作中一番の難産でした。(笑)
書き慣れているだけに難しいというのを初めて体験してしまいました。(苦笑)
ただ、書き始めたら皆ちゃんと動いてくれましたが。
そして、オムニバスの最後の話でもあるので、かなり締めくくりということを意識して書いています。そのことを少しでも感じていただければ嬉しいです。



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