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〜 FF NOVEL <ALL-FF> 〜
by テオ



イヴの夜空はあの人と

<オムニバス・ラブストーリーズ>

(1)








−イヴ−


聖誕祭・前夜

でも、恋人たちにはステキな予感の


〜〜〜特別な夜〜〜〜








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ FFZ ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



タッタッタッタッ・・・・・


女の子が駆けてくる。

大きな紙包みを抱えて、長い艶やかな黒髪をなびかせながら。

時折、後ろを不安げに振り返りながら、懸命に走っている。雑然とした街並みの中、古い石畳が敷き詰められた道の窪みに今にも躓きそうになりながらも走るのをやめようとしない。
煤けた壁の曲がり角にきた所で、彼女はようやくその歩調を緩めた。

『もう大丈夫かな?』

荒く息をつきながら、今来た方向を右に左に念入りに確認している。

「そんなに急いでどこ行くんだ?」

「!?!」

突然、近くの建物の影から声をかけられ、彼女はビクッと立ち竦んでしまった。
そして、覚悟を決めたように紙袋を抱え直すと、その声のした方に眼を凝らしながら身構える。

「よっ!」

赤茶けた今にも崩れ落ちそうなレンガの建物の壁の影から出てきたのは、不思議な光を放つブルーアイズを持つ金髪の逞しい青年。

「!!!クラウドッ!」

安堵と怒りの綯交ぜになった声を張り上げるティファ。
今の今まで張り詰めていた緊張が一気に解ける。
と同時に、ティファは沸々と怒りが湧き上がってきた。
やつあたりと自覚はあるものの、どうにもこの怒りをぶつけないとやり場がない。

「なんで・・どうして、こんな時にまぎらわしい事するのっ!」

ちょっとした悪戯心で、からかい気味に声をかけただけだったクラウドの方が今度はビックリする番だった。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ、ティファ。何でそんなに怒ってるんだ?」

これくらいで怒られるとは夢にも思ってなかったクラウドが、逆にティファに訊ねた。
そう言われて、ティファは自分が柄にもなく逆上しているのを再度認識してしまい、今度は恥ずかしさと悔しさに唇を噛む。

「ちゃんと説明してくれ」

先ほどの軽口とはうって変わった真剣な面持ちでティファの前面に回り、その手から大きな紙袋を譲り持ちながらクラウドが言った。
しばらくは言い難そうに視線を彷徨わせていたティファも、観念したのかため息まじりに事情を説明し始める。

「だって、だってさっきから何だか変なのに後をつけられてたみたいだったんだもの」

今度はクラウドが厳しい顔になる番だった。
それを聞くと、クラウドはキッとティファの背後を睨み、

「ほんとか?どこだ?」

ティファを背後に庇いながら、辺りに眼を配る。

!!・・・

ふいにティファの目の前が暗くなり、大きな背中しか見えなくなった。
クラウド、本気で怒ってる・・?
今までの憤りなどウソのように消え去り、ティファの胸の奥が暖かいものに満たされていくのが分かった。
自分のそのあまりの現金さに思わず自嘲の笑いもこみ上げて来る。

トン、とその広い背中におでこをつけてティファは小さく呟いた。

「ありがと、クラウド」

「ん?どうした?ティファ?」

クラウドはティファの行動が理解できず、振り返ろうとするが自分の背中が邪魔になってティファの顔が見えない。くすっと笑って、ティファはクラウドの背中から離れ、手を伸ばしてもう一度クラウドの手から紙包みを受け取る。

「もう大丈夫。諦めたみたい」

「いったいどうして後をつけられるようなことになったんだ?」

怪訝な顔で聞いてくるクラウドにティファは、ふふっと笑って答えない。

「それにティファなら、そこら辺の奴らなんか相手にならないはずだろ?」

なおも言い募るクラウドに、少し気分を害されたティファは仕方なくその紙袋を差し出した。

「たぶん、これのせいだと思うの。ちょっと奮発しちゃったから・・」

「これ、って?」

ガサゴソとティファの手の中の紙袋の口を開けようとするクラウド。

「ここで開けちゃダメ!」

きっぱりと一喝するティファ。
びっくりするクラウドに、一転、楽しげな笑みを浮かべてティファは言った。

「ツリーなの。近くのアンティークショップで買った」

「ツリー?」

もっと訳が分からない様子のクラウドにティファは夢見るような表情で語った。

「とってもきれいなの。小さいけど、特殊なライトチップが付いてて。キラキラ光るのよ。お店に飾ればステキなイヴになると思うの。きっと、マリンも喜んでくれると思うし・・。かなり、高かったけどね」

『ああ、それでか』

クラウドもそれでやっと納得した。まだまだ庶民の暮らしは貧しい。こんな贅沢品の類は高嶺の花だ。こういう所では当たり前の盗むにしても、店の中だと警備も厳重でなかなか手が出せないが、か弱い女の子が持っている物ならば、奪うことも容易そうに見える・・・。普通の女の子なら・・。
「それじゃ、早く帰って飾らなくちゃな」
再度、ティファの手からツリーの入った紙包みを取って、抱え直しながらクラウドは歩き出す。

「あ、待って、クラウド」

さっさと行ってしまいそうなクラウドに置いていかれまいと急いで走り出したティファは

「あ、そう言えば・・」

と言って立ち止まったクラウドの背中にもろにぶつかってしまった。

「いったぁ〜。何?どうしたの?クラウド」

少し赤くなったぶつけた鼻を抑えながら、ティファが少し怒ったように聞くと

「今日、店は休むってバレットが言ってた。マリンにせがまれて友達のパーティーに付き添って行くんだって・・」

クラウドはなんだか自分が悪いことをしてるような気分で、言いにくそうにそう告げると

「え〜〜っ!そんなぁ、せっかく私が・・・」

案の定、がっくりと肩を落として落胆するティファ。
すると、スッとティファの手を取る大きな手。普段は大剣を携える無骨な手が、今は優しくティファの手を包んでいる。その手からきゅっと少しだけ力が伝わる。

「いいさ。今夜は二人で・・・」

そこで言葉は途切れてしまう。
ティファがそっと顔を上げてその手の主の顔を盗み見ようとしてみても、照れているのかそっぽを向いていてどんな顔をしているのか見えない。

『ふふ、ほんと不器用なんだから。でも、・・・・』

でもそんなところが・・・

「・・大好き・・」

小さく小さくささやいた。その人だけに聞こえるように。他の人には聞こえないように。
絡めた手を外さないよう、更に腕にもたれ掛かるようにして二人でまた歩き出す。
相変わらずあらぬ方向を向いたままのクラウドだったが、ボソッと何かを呟いたようだった。
その言葉が何だったのかは、ティファの零れんばかりの幸せそうな笑顔が物語っていた。

朱く染まった夕暮れの街並みを歩く二人の頭上にチカリと光るものがあった。

「あ、流れ星!?」

「ん?まさか、まだ夕暮れなのに?」

それは沈みかけた太陽が名残りの朱光を滲ませているのとは反対に位置する空に。
赤く煌く星、ひとつ。
一緒に見つめた二人の気持ちはすぐに通じあっていた。

「いつも見守ってくれてるんだね」

「うん。そうだな」

朝の初めに。夕の初めに。

儚げなのにしっかりとそこに有り、その星は力強く輝き続ける。

二人を、そしてこの星の全てを愛おしむように。






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