「クレイラ・・・砂の都」 次に向かうべきはそこだった。 砂嵐に囲まれた美しい街。いまだかつて消えたことのないその砂嵐。それがさきほど、忽然と消えたの だ。 それがあの男の仕業なのかどうかは分からないけれど・・・。 「第1班突入します!」 アレクサンドリア兵達が砂嵐の消えたクレイラを上っていく。 目的は・・・ 「宝珠を手に入れるまでの時間稼ぎです。手を抜かぬよう」 「は!」 レッドローズのテレポットなるものを使用してこのクレイラの街へと降り立つ。 そして従うべき女王の望みの品、宝珠をこの手の中へ収める・・・。 「2班も5分後に突入!いいですね!」 「は!!」 青い空の下、栗色の髪の毛が風になびく。 この巨大な幹の頂上・・・そこにあると思われる宝珠。 「準備が整い次第、私は黒魔導士班と共に転送ポットでクレイラ内へ入ります!」 黒魔道士。それは作られた心を持たない戦闘人形。それを利用し、さらに莫大なる力を手に入れようと している女王。そしてそれに従う者達・・・。彼女もまた、その一人。 「はッ!」 揃った返事と敬礼。クレイラを上っていく彼女達の背中を見送り、そっと空を仰いだ。
〜 夜明け前のアメジスト 〜
吹き抜ける風が心地よい。 見下ろすその、砂の消えた美しい都は、恐怖に怯え震え上がる・・・。 次々と街へ降り立つ黒魔導士達の姿。ブルメシアでもその恐怖を味わった彼等は、当然のごとく逃げ回 る。普段はのんびりとしたクレイラの民もまた同じ。 「将軍!そろそろ・・・」 彼女の声にうなずき、転送ポットへと入る。少しだけ冷たくて気味の悪いそれは、再び彼女の体をレッ ドローズの外へと連れ出すのだ。 行き先は・・・クレイラの大聖堂。ここに宝珠があるはずである。 必ず、手に入れるべきもの・・・いや、必ず手に入るもの。 静かな大聖堂。降り立った先には狙いの品。 ネズミ達の話し声に、誰もこちらの様子には気が付かない様子。そっとその宝珠へと近寄った。 その時だった。ちらりと振り返った大祭司と目が合ったのだ。 驚きの表情を隠せない彼。そんな彼とは裏腹に、落ち着き払った彼女はそっとその喉元へ自慢の剣の切 っ先を向ける。 「ひえぇぇぇぇぇ!!」 耳が痛くなるような悲鳴。恐怖に怯えたその瞳の中に映るのは冷酷な彼女の瞳。 「ひえぇ。命ばかりはお助けを・・・・!」 大祭司のその悲鳴に、しっぽの劇団員やブルメシアの龍騎士達が振り返る。雨の都から尻尾を巻いて逃 げ出した王の姿もあった。 「ふっ、情けないネズミどもよ!」 戦うこともせず、ただ逃げ惑い、怯え・・・。そう弱いだけのそんな生き物。命乞いをする彼をそっと 見下ろす。この剣を振り下ろすまでもない・・・。相手にもならないちっぽけな存在。 「おまえたちには、この宝珠を持っておく資格はありません!」 カチン 嫌な音がした。弦の切れたハープから空高く放り出される宝珠。彼女の剣の先は再び彼を恐怖へと陥れ る。 宙を舞い、そのまま宝珠は彼女の手へと吸い込まれていく。 不思議な魔力を持つその宝珠。それを持つにふさわしいのは彼らではない・・・。 「そ・・・その宝珠は!」 「この宝珠さえ手に入れば、もうこの街などに用は無い!」 宝珠を失った今、クレイラはもう砂の嵐再生することもできない。ブルメシアの民も、もうアレクサンドリ アへ刃向かうこともないであろう。そう、役目は果たした。 その軽い体をひらりと翻し、彼女は大聖堂を駆け抜けた。
転送ポット。やはり慣れることのない感触に溜息をつき、それから出る。 青空を飛ぶレッドローズ。女王を乗せたこの飛空艇。晴れ渡ったその空は相変わらず変わることなく・・・。 ただ、大きな爆発音と・・・それと共に現れた真っ黒な煙・・・。それだけが違った。 カラン ふいに切なく、美しい音がした。床へと零れ落ちたものは先ほど手に入れた宝珠とは違って・・・ 「純白の・・・宝珠・・・?」 一体何処から現れたのか・・・。きらきらと輝くそれは、太陽の光を浴びてさらにまぶしく映る。 そっと拾い上げたその瞬間 「!?」 軽い眩暈に襲われる。手すりを握り、なんとか体制を整えもう一度しっかりとその石を見た。 白・・・それは失った純粋さ。そんな気がして・・・ 「ふふ・・・私には似合わないものね」 ぎゅっと握り締める。これが似合うのは、可憐で純粋なあの姫君・・・。そんな気がした。 そっと吸った空気は少しだけ焦げ臭くて・・・。 「なぜブラネ様は・・・」 白い石は相変わらずきらきらと光輝き・・・。見つめれば見つめるほど。握り締めれば握り締めるほど。 胸の奥が熱くなった。そこから何か、じわじわと湧き上がってくるのがわかる。 彼女は思わずそう・・・つぶやいた。 「クレイラを街ごと消滅させる必要があったのだ・・・」 そう、宝珠を取り上げてしまえば・・・それでよいのではなかったのだろうか。それだけでクレイラを・・・ そしてブルメシアの民を抑えることができるのではないか。 「なぜブラネ様は召喚獣や黒魔導士なぞを使われる・・・」 人ならざるもの。どうしてそのようなものを使用する?どうしてそのようなものを必要とする?・・・ なんの、ために・・・? 人々を襲い、街を滅ぼし・・・。それは必要なことなのだろうか。 「私はこのようなことのために、技を磨いてきたわけではなかったはずなのに・・・」 「黒魔導士ども、こっちへ来なさい!」 アレクサンドリア兵の声にはっと我に返る。どうやら先ほどの独り言は聞かれていないようだ。少しだけほ っと、した。 なんだかどこまでが本音なのか・・・自分でもわからないくらいぼーっとしていた。決して聞かれてはなら ない言葉の数々・・・。 彼女のあとをしっかりとついて歩く3体の黒魔導士。どこか奇妙なその光景。 「お前達3体はテレポットを使って先にアレクサンドリアへ戻り、城の防備にあたるのです」 背筋が・・・ぞっとした。彼女の言うことに何も疑問など持たずに、あとに続く彼ら。心がないのだからも ちろんそれは当たり前。 「私は、あのような心を持たぬ者たちと同じ働きしかできないのか・・・」 女王の命令に従う自分の姿とダブった。言われるままに行動し、従う。深く考えることもせずに・・・。 そう・・・心の隅では気がついている。だけど彼女に逆らうことなどできやしない。いつだって主は正しい ・・・。そう思い続ける。そう、願い続ける。 そっと重たい足を彼女の待つ船頭へと向ける。宝珠を待っているに違いない。 溜息が一つ。空へと吸い込まれていった。
「いま、何と?」 声が震えた。信じられなかった。信じたくはなかった。顔が、青ざめていくのが分かる。 宝珠を受け取った彼女はひどく上機嫌だった。それでも、彼女の働きに対するねぎらいの言葉は一言もな く・・・。 その彼女が突然不機嫌な声を発したのは、ベアトリクスのたわいもない一言だった。そう、ずっとそばにお 仕えしてきた少女の安否を気遣う言葉。 「ええい!何度も言わせるな!このレッドローズがアレクサンドリアに到着したら、ただちにガーネットは処 刑すると申したのじゃ!」 イライラした女王の声。美しき女将軍は眉をひそめた。震えているのは声だけではない。わずかに手も震え 始めていた。 分からない解らないワカラナイ 「お前は早くあと一つの宝珠のありかを探し出せ!」 「ブラネ様・・・」 眩暈がした。 子供を愛していない親なんていない。子供に手をかけるなど、考えられぬこと。人間だって、動物だって。 そして、モンスターさえも・・・。 アレクサンドリアを・・・そして女王陛下と王女・・・それを守ることが使命だと、思い続けてきたのに・・。 頭の中を、あの少女の笑顔、そして満足げな女王の顔が次々と浮かんでは、その不気味な笑い声にかき 消されていった・・・。
レッドローズは予定通りにアレクサンドリア城へと着いた。 「ブラネ様は、本気・・・なのだろうか・・・?」 さっきの彼女の言葉が頭から離れない。 「ガーネット様は、ご無事なのだろうか・・・」 「あ!!!女将軍でごじゃる!」 「いいところにきたでおじゃる!」 聞きなれたうるさい声。ベアトリクスはそっと顔を上げた。いつも以上にひどく慌てた様子のゾーンとソー ンは階段を転げ落ちそうな勢いで降りてきた。 「なんですか。騒々しい・・・」 「大変なのでごじゃる!」 「今すぐ来てほしいでおじゃる!」 慌てて今降りてきた階段を上り始めた彼らの後へ続く。 バタン 乱暴に開けた扉の向こうには、見慣れた顔があった。 かきあげた髪が、さらりと肩に落ちた。 「お久しぶりですね、スタイナー。今までどこへ行っていたのですか?」 アレクサンドリアの2大兵力、プルート隊の隊長でもある彼は、美しき姫君と共にあの日から姿を消してい たのだ。それなのに今、再び目の前へと現れた。しかも・・・ 「まさか、このようなケダモノたちと遊んでいたわけではないでしょうね?」 ブルメシア、クレイラ両国で戦ったあの者達も一緒だった。劇団員、龍騎士、そして少しだけ小さな黒魔導 士。 「なんだと!ケダモノはどっちだと思っているんだ!!」 「まだ、こりていないようですね」 戦闘の構えを見せる彼らへセイブザクイーンを向ける。すでに2敗しているにも関わらず、彼等はひどく挑 戦的な瞳で・・・。しかしその奥にわずかながら哀しみを感じる。 彼等は本気だった。それはかわす刃からも感じられた。それでもやはり、アレクサンドリアの女将軍には 勝てることなどなく・・・。 「お前達の力では、私に勝つ事など到底不可能です」 自信に満ちたその声に、そこから湧き上がる怒りをおさえることなどできずジタンは一歩、踏み出した。 「ちょっと待てよ・・・」 その声が怒りからなのか、わずかに震えているのが分かる。 「お前、確かアレクサンドリアの女将軍だったよな・・・。女将軍であるお前の使命はなんだ!?」 心臓がどくんと音を立てた。レッドローズでの女王の言葉が再び頭の中を支配する。 「ガーネット姫を守ることじゃないのか!?あのイスで気を失っているのが、誰だか分からないわけじゃない だろうな?」 強い口調でそう言った彼の振り返ったその先・・・。 「・・・」 すべてが否定される。今まで信じてきた誇りも気高さも。 それは確かに、昔心に決めたこととは異なっていて・・・だけどいつの間にか、それが本物のような気 が・・・していただけ。 横たわる姫の姿に涙さえ零れそうになって・・・。 この者達の言うことのほうが・・・正しかった・・・。 「やはり・・・ブラネ様は、ガーネット様の命をとろうとしておられたのです・・・」 胸が、苦しい・・・。一体・・・なんのためにあのようなことをしてきたのだろう・・・。その結果が、こんな ことになってしまうなんて。 そう、すべては過ち。決して許される事は無い。 「スタイナー、もはや答えはひとつしかないようです・・・。長い間の迷いが解けました」 押し寄せる後悔。だけどそれは、もう消すことの出来ない、過去の話。 「ブルメシアの民よ、私は許されない過ちを犯してしまっていたようです・・・」 「当たり前じゃ!私はそなたを簡単に許すことができぬ!じゃが、いまはダガーとやらを助けてやりたいと思 う・・・」 心が締め付けられる。今まで信じてきたもの、それは間違ったもの。 この者達は・・・どうしてこんなにも温かい心を持っているのだろう・・・。 「そなたの力で、その娘を助けてやる事はできぬか?」 「私の力でどこまでできるかは分かりません。ですが、できる限りのことはやってみましょう!」 彼女の取得している聖白魔法。その力のすべてを指先へと集中させる。 どうか・・・どうか助かって! 淡い光が、ガーネットへと降り注ぐ。祈りを込めた癒しの力。 「う・・・うん」 何度目だっただろう・・・。ようやく彼女が瞳を開けた。 「ガーネット様・・・」 心が、少しだけ軽くなった気がした。この大切な姫君を助ける事ができた。あの女王の黒い企みを1つ だけ・・・止める事ができた・・・。 安心したのもつかの間。あの黒い心の持ち主がこの騒ぎを見逃すはずはなかった。 「何の騒ぎじゃ!」 大きな身体を揺らし、部屋へと入ってくる彼女の表情はやはり険しい。 道化師達は彼女のそばをちょろちょろと動き、いきさつを説明する。誰かのそばでしか生きていけない コバンザメ。そう・・・少し前までの自分と重なる。 「ガーネットを捕らえて牢屋へ閉じ込めておしまい!!」 女王の母親とは思えない・・・いや、人間とは思えない非道な言葉が溢れかえるこの部屋の中。 カラン あの石が再び床へと転げ落ちる。純白の石。
過ちを犯したのなら・・・それを償え・・・。 悪しき者に立ち向かえ・・・。
「・・・」 そう、だ・・・。もう白へは戻れない。だったら・・・ 「その命令、どうかお取り下げください!」 もう、怖いものなどない!もう恐れる必要はない! 「あなた達!この場は私にまかせて早く逃げなさい!!」 そう、それがせめてもの償い。彼女の命を取り上げさせはしない!そして・・・彼等の命も! 「私はこの場を去れぬ!ジタンよ、早く逃げるのじゃ!」 隣へと並ぶ彼女にそっと、目をやる。そして・・・目が合う。 許してもらえたとは思わない・・・。だけど、それでも・・・ 「ついさっきまでは敵と味方だった者が今は手を組むか。ほほう、面白い・・・」 隣へ並び、一緒に立ち向かってくれる人がいることが・・・嬉しかった。たとえそれが、ほかの誰か のためだとしても・・・
「さすがにキツいのう・・・」 息が上がる。剣を持つ手もわずかに震えた。姫は・・・そして彼らはうまくこの城から脱出することが できたのだろうか・・・。 「まだ気を抜くのは早いようです!」 一時も気を抜くことなどできない。しかし、初めて戦闘を共にした者同士とは思えない息の合った戦い 。いつの間にかお互いが、背中を預けられるほどになっていた。 「ベアトリクス!フライヤ!」 「スタイナーではありませんか!?」 ガションガション いつものように鎧の音を響かせながら、姫君に付いていったはずの彼が戻ってくる。 慌てて走ってきたのか、息がすっかり上がってしまっている。 「プルート隊隊長、・・・アデルバート=スタイナー・・・。誉れなる御両名に加勢いたしたくただいま 、はせ参じました!」 相変わらずの堅い口調。それも今は・・・嬉しく感じた。 こうして共に戦う仲間が増えて・・・。こんなに辛い状況でも、喜べる自分が少し不思議だったけれど。 「あいさつは後じゃ!」 フライヤの声が螺旋階段に響いた。モンスターは絶えることなく襲い掛かってくる。
いくつもの戦闘。いくつもの傷。 「ベアトリクス!!」 スタイナーの声を聞いた・・・。右腕が、ずきずきと痛んで、体が傾いた。 カラン そう、あの音がして・・・。目の端に映ったものはもう純白ではなく 「アメ・・・ジスト・・・?」 紫色に輝く、あの石だった―・・・。
「・・・?」 そっと、目を開ける。見知らぬ天井が映る。 「気が付いたか?」 聞きなれないその声に、ふと振り返る。 「あなたはタンタラスの・・・」 そう・・・確かマーカスとブランク・・と言った彼等。一瞬、なんだかよく分からなくなって辺りを見 渡した。 隣では同じように横たわったフライヤとスタイナーの姿があった。 起こした身体のあちこちがずきずきと痛む。徐々に蘇っていく記憶は、途中でぷつりと途絶えた。 「アレクサンドリアの地下で倒れてたっス!それを兄貴と2人でここまで担いで来たっス」 「ここはルビィの小劇場だ。しばらくここに身を潜めといたほうがいいぜ」 そうだった・・・。あまりにも長く続く戦闘。削り取られていく体力、限界がくるまではそう長くはな かった。 「ありがとう、ございます」 小劇場を後にする2人へしっかりと敬礼をする。 静寂を取り戻したその場所で、彼女は眠っている2人を起こさぬよう毛布一枚を手に外へと向かった。 毛布を頭から被り、空を見上げる。東の空が、わずかな光を帯びている。 あの戦いで手に入れたもの。それはとても大きくて・・・。決して忘れることはないだろう。 信頼できる人がいること。それがどれだけ素敵なことか・・・。 「あ・・・」 ふと胸元へ手をやる。だけどそこにはもう、あの石はなく・・・。 「あの石の、おかげね」 空を見上げ微笑む。 ぼんやりと光差すその空を、一つの流れ星・・・ 「あ・・・」 それはアメジストの輝きを残し、夜明け前の空へ消えていった―・・・。
エピソード5 FIN.
そう、すべては彼女の胸の中。 真の気高さ 真の強さ そして真の自信 彼女自身の中にあって、もうずっと忘れられていたもの・・・ 心の底に、眠っていたもの・・・
気高き色 強き色 美しき色
輝く石は、また夢を見る
時を越え 世界を超えて・・・
物語はまだ、終わらない―・・・
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Copyright (c) 2002 小沢美月
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