〜 【Relational Novel】 〜
◇◆◇FINAL CRYSTAL◇◆◇

エピソード4<FFVIII>









『イイ色じゃねぇか。』

モンスターのようだと、蔑みの対象だった私の真紅の目を覗き込んで、サイファーは言った。

『泣いてばっかじゃ勿体ねぇな。』

私の涙を拭うために、グローブを外したその手は。





とても、温かかった。







〜 White Wind 〜








  浅黒い大きな手が私の両肩を掴む。
 「サイファーが居ないもんよ!!」
  巨躯に見合ったその力で、思い切り揺さぶられる。
 「懲罰室にも、ガーデンの何処にも居ないんだもんよ!!」
 取り乱した雷神の目を覚まさせるべく、肩の手を振り払い、右のローキックを入れる。
 「……既知。我、脱走幇助。」
 雷神の顔面が蒼白になる。
 「そんなことしたら、二人ともガーデン追放されるもんよ…?」
 「黙!!サイファー願!口出無用!!」


  自分でも哀れに聞こえる叫びを上げると。

  眼帯の下の左眼が、少し疼いた。

  俯いた私を気遣うように、再び肩に手がかかる。
 「サイファーどこだもんよ?連れ戻すもんよ?」

  この大男の優しさが辛かった。
 決して誰の事も非難せず、この大きな手で全てを許そうとする、その優しさが。

  きつく押さえた左眼が、熱かった。

  「……無理……。サイファーは魔女の所へ行ったの…。」

  いつも子供のように夢を語ってくれた、翡翠の瞳を想った。
 誰よりも一途な強さを想った。
 人には見せない優しさを想った。

  ………涙が、止まらなかった。………

  「魔女の騎士になるためにSeeDを目指して、
  魔女の騎士になるために、自分の正義を貫いて、
 孤独だったサイファーが…、自分の居場所を、帰る所を必死で作ろうとしてる…。
  ……どうして、止められるって言うの……?」

 私は泣いた。

 サイファーに助けられて、虐げられていた日々から抜け出したあの日。
 あの時、もう決して流すまいと誓った涙を流した。
 いくら泣いても、想いは届かないのに。

 「それでいいのか?」
  低く思いやりのこもった、けれど鋭い言葉に嗚咽を飲み込む。
 「正しいとか、そんなんより、風神の気持ちはどうなんだもんよ?」
 「………関係ない………。」
  握り合わせた両手に力が入る。
  言わないで。
 サイファーの言葉は絶対だと決めておきながら。
 それでも、飛発つ鳥を絡めたいと願う私の気持ちなど。
 「でも風神…、」
 言わないで…!
  醜い嫉妬を生むこの感情を。
 「サイファーのこと好きだもんよ。」
 「関係無いっっ!!!」
  言い当てられた邪な気持ちを隠すように、雷神の手を乱暴に払った刹那。

  弛まぬはずの眼帯がするりと落ち、役目を果たさぬはずの涙腺から、透明な雫が零れた。

  頬を伝ったそれは自ら輝きを放ち、ゆらゆらと揺らめきながら色と形を変えてゆく。

 引力の干渉を無視するかのように、ゆっくりと落下して私の掌に収まると、意思表示にも取れる煌きを見せる。

 「………石………?」
 目を丸くした雷神が、私の手中の「それ」を覗き込む。
  透明感のある宝石のような「それ」のほのかな熱は、穏やかな、けれどとても強い意志を感じさせる。
 「ガラス…でもないか…。」
  澄みきった海、晴れ渡った空を思わせる青さが、私の心を捉えた。
 「サイファー……。」
 不敵な笑顔に心奪われた日。
  屈託のない言葉に癒された時。
  初めてその激烈な強さを目にした瞬間。
  見上げた長身の男を縁取っていた空の色に。
  とても、よく似ていた。

 私しか、知らない色。

 「…サイファー…!」

  もう一度話したい。
  もう一度笑いかけてほしい。
  もう一度そばに行きたい。


  あなたの、帰る所になりたい。



  今まで抑え続けてきた激情。

  溢れ出したそれを止める術を、私は知らなかった。

  「サイファー、一人じゃ寂しがるもんよ。本当は俺たちいないとダメだもんよ。」
  目の前に屈みこんだ雷神が、私を見上げている。
 「間違えたことしてたら、俺たちが止めるもんよ。」
  白い歯をのぞかせて、満面の笑みを見せる。
  「俺たち、仲間だろ?」
  どこまでも追いかけてやるもんよ、と快活に笑う。
  追いかけることを、疎ましく思われるのは怖かったけれど。
 それでも、共に居られることを考えると、それだけで幸せになれるような気がした。
 

  「…うん。…行こう…。」



  手の中の「それ」を軽く握りしめると。

 とくん、と小さな鼓動を感じた気がした。





サイファーは。

未来の魔女の、哀れな想いに翻弄されていた。

いくら傷ついても。
何度も立ち上がって。

それが
正しいことかなんてわからなかったけれど。


私たちは
サイファーを失うわけにはいかなかった。



サイファーだけのために。



戦って。



戦って。



戦って。




『英雄』…と。
称えられるようになる男の背中を見送った時。



自分のしたことが、サイファーのためにはならなかったことに気付いた時。





地に伏し。

ボロボロに打ちのめされた、サイファーの身体を抱きしめた時。





ヨレたグローブに包まれたままの指が、頬に触れた。









 「風神…。泣いてばっかじゃ勿体ねぇって言っただろ。」

 「…サイ…ふぁ…ッ…。」

  「スコールの勝ちだ。帰る所もなくなっちまったな。」

 傷ついた指は、優しく私の涙を拭い続ける。

 「お前ら、俺を置いて行け。…一緒に捕まったら、お前らも戦犯だぜ…?」

  荒い息を吐きながら冗談めかして見せた笑顔は、子供のように無邪気で。

 「かえ、ろ?一緒に、帰ろ?」

 しゃくりあげているせいで、上手く言葉が継げない。

  「駄目だ…。お前らまで…巻き込みたく、ねぇ…ん…だ……よ…。」

  私の涙に濡れた手がゆっくりと床に落ちる。

  何者をも寄せ付けない鋼鉄の扉のように、目蓋が霞んだ翡翠を覆って行く。

 「わか……った…な……。」

 掠れた声で最後まで虚勢を張りながら、サイファーは意識を失った。


  私は、どこで、どうして、何を間違えてしまったんだろう?

  涙は流さぬと決めた。
  弱さは見せぬと決めた。
  共に戦うと決めた。

  どれ一つとして満足に果たせなかったけれど。

  大切な人を守りたいという願いは、今も変らないのに。

  そんな小さな願いですら、間違いだったのだろうか?



 「………あ……っ……。」



  ふと、あのほのかな熱を感じて、胸に収めてあった「それ」を取り出す。


  清廉な青さだった「それ」は、眩いばかりの白色へと変化していた。





  人を愛する気持ちは過ちではない、と。

  無垢であるが故に違えた道ならば。

  歩み直すがよい、と。



  純白の「それ」が。



  静かに語ったように思えた。






私の心も、美しく潔癖な白でありたいと。

「それ」を目の高さに掲げて微笑んだ時。

一陣の白い風が巻き起こり。


「それ」は風に浚われるように。



私の元を去った。











  「雷神…。帰ろう。」


  犯した罪は重いけれど。

  いつかは許され、再び笑いあえる日のことを思って。



  私たちは長い戦いを終えた。






エピソード4 FIN.









  淡くも激しい秘めたる想い。
  己が非力を嘆く少女の。
  無垢なる想いを映す白。
 


  風伯の繰(く)る風に乗り
  

  
  石は漂う。
  



  新たな物語を紡ぐため…。




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