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〜 オリジナル 〜
by テオ


南の島に降る雪は <前篇>



眠らない街。
中天に輝き点滅するネオンの明かり。
星なんか見えなくてもまったくかまわない。
この街は俺に似合いだ。
今日の俺は気分は最高。
通りすがりの酔っ払いにさえ、陽気に声をかけたくなる。
首尾は上々、あとは明日の結婚式を待つばかり。
そういえば、これで何度目の結婚式だったっけな。
はっ、覚えてねーや。
更には顔さえ覚えてない相手だっている。
そう、俺は結婚詐欺師。
生まれ持ったこの容姿に磨きをかけて、世の女性たちに夢を売ってるのさ。
当然その代償は払ってもらう。
身体と金で。
その後のことなんて知らないね。
しばらくの間だけでもいい思いさせてもらって、夢を見させてやったんだ。
感謝されてもいいくらいだね。
だが、それもおそらく今回の結婚で終わりだ。
やっと見つけた最高の女。
はは、別に年貢の納め時なんて殊勝なことを言うつもりもないし、マジで惚れたんでもないさ。
問題はあいつの実家の財力。
日本はおろか、世界中にチェーンを展開するホテル王の娘。
長年磨き上げたこの手腕で、あいつはもちろん、親たちでさえ落とすのは簡単だった。
ふん、そのまま跡取りとしてホテル王の座につくも良し。
万が一の時には、一生遊んで暮らせるだけの金を持って外国へトンズラさ。
当然、裏ルートで顔を変えてね。
はっはー、笑いが止まんねーな。

いい気分で歩いていて、その曲がり角を曲がったのはほんの偶然。
『ん? あんなところに占い屋なんていたか?』
ふと、気にはかかったが、構わずに通り過ぎようとした時だった。
「もし」
低い小さな声で呼び止められた。
女か男かさえも定かではないその声には、無視できない何か不思議な響きがあった。
「ん? 俺のことか?」
「そうです。あなた…」
そこまで言うと、占い師はふいに言葉を切って黙り込んでしまった。
すっぽりと頭から濃い灰色のフードらしきものを被ってはいるものの、まだそれほどの歳ではなさそうな声のそいつは、顔なんかはっきり見えはしない。
だが、目の前に据え付けられた水晶珠をじっと覗き込んでいるのは確かなようだった。
「なんだよ。んなとこで話切るなよ。気になるじゃねーか」
酔いも手伝って俺本来の口調で不平を言った。
もちろん、普段は女たちを喜ばし蕩かせるために、礼儀正しいバカ丁寧な言葉を使ってるさ。
それで歯の浮くような言葉を並べ立てれば、まず落ちない女はいない。
それもこれも当然俺のこのかなり見場のいい顔あってのモノダネだ。
「あなた、雪に気をつけなさい」
「はぁぁっ?」
思わず呆れ声を出す俺。
「こんな季節に雪、だぁ? 何言ってんだ?」
今はもうすぐ梅雨を迎えようとしている時期だ。
もう少し前なら、季節はずれの雪だってあったかも知れないが、例の異常気象とやらで毎日うんざりする程の暑さだ。
しかも俺は式が終われば、ハネムーンで南方の島へ行くことになっている。
「何寝ぼけたこと言ってんだよ。あんた」
「水晶に映っているのです。あなたが雪の中で永遠の眠りにつくところが…
 悪いことは言わない。明日から三日間、自分の部屋から出ない方がいい…」
それを聞いた瞬間、怒りよりも笑いがこみ上げてきた。
「馬鹿言ってんじゃねーよ。それに俺は明日の今ごろは、南の島だ。
 雪なんて降った事もないようなとこさ」
「水晶は真実のみを映し出す…」
「はっ、付き合ってらんねーや」
捨てゼリフを残し、後も見ずその間を離れる。
せっかくのいい気分に水を注されて、酔いもすっかり醒めちまったい。
腹立ち紛れに道端に捨てられた空き缶を蹴飛ばす。
カランカランカラン、ころころころころ……
「ふん。それにしても、雪ねぇ。笑っちゃうね、どうも」
おそらくその時、俺の顔に浮かんでいたのは、嘲りの笑い。
『ま、いいさ。雪なんて、そこに住んでるやつら見たこともないような所に行くんだ。心配なんぞする必要もない。
 そして帰ってくれば、俺は次期ホテル王だ。はっ、ははは……』
俺の甲高い笑い声が、真夜中のビルの間に間に響き渡っていった。

翌日。

教会の神父の前で誓う相手は、親の財力がなければなんの魅力もない普通の女。
傍から見れば、とても作ったとは思えない幸せいっぱいの笑顔の俺。
式の後の披露宴の間さえ、終始笑顔を絶やさない。
その上、披露宴のクライマックスの花束贈呈では涙まで浮かべて見せたんだぜ。
はん、なかなか上出来だね。
言っておくが、もちろん俺の方の招待客なんて全部偽者さ。
金をばら撒いて集めた、プロのエキストラたち。
ま、大事の前の小事って具合で、今回の俺は金に糸目なんかつけちゃいない。
ケチって大魚を逃がすわけにはいかないからな。
これで本当に俺の懐はスッカラカンになってしまった。
だが、これからはもう金のことなんか心配しなくてもいい生活が待っている。
この従順そうなお嬢さんの相手さえちゃんとしてやれば、金も女も名声でさえ思いのままさ。
おっと、いけねぇ。
思わず顔が緩んじまったぜ。

とりあえず式も無事終わって、その後、俺たちはすぐに新婚旅行のために成田に向かった。
直行便がないらしく、一回香港で乗り換えなきゃならないのが面倒だが、ずっとエグゼクティブクラスだからな。
そんなもの気になりもしないさ。
しかし、俺の頭の中は今から行く旅行のことよりも、帰ってきてからの薔薇色の人生のことに占められていた。
そう、だから前夜の占いのことなんか、これっぽっちも覚えちゃいなかった。
思い出す必要さえなかった。

……はずだった……。




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