Birthday Kiss 【FFIX】 ジタガネ |
アレキサンドリアの酒場の片隅のテーブルで、ゆらゆらと尻尾らしきものが揺れている。 椅子の背もたれに顎をのせ、行儀悪く寄りかかっているのはジタン。 何を悩んでいるのか、先ほどからう〜んう〜んと唸っている。 腕組みをしてみたり、椅子に座る向きをかえてみたり。 立ち上がって、テーブルの回りを二・三周歩いたりもしていた。 眉間に皺を寄せ、かなり真面目に悩んでいる様子が窺える。 その真剣さに、いつもなら何かとからかい絡んでくる他の常連たちも、触らぬ神に祟りなしとばかりにジタンを遠巻きにしていた。 「う〜ん。どうすっかなぁ。ダガーの奴、大抵のもん持ってるからなぁ。ん〜〜」 今日はガーネットの誕生日。 もちろんジタンはガーネットに、とっておきの物をプレゼントをしたい。 だが、一国の女王でもある彼女は何でも持っている。 物質的な贈り物がダメなら、精神的なものを用意するか、もしくは行動を起こすか。 しかし、そのタイミングがまた難しいのだ。 いつも彼女の傍近くにいて、身辺警護をしている頭の固いスタイナーとベアトリクスがいる。 彼らの目をかいくぐり、ダガーの元へとたどり着くのは生繁華なことじゃない。 しかもそうするだけの価値のある誕生祝いの品を、今の今まで決められないでいるのだ。 ジタンが大いに悩んでいるのも頷けるというものである。 「うーーー」 そこに場違いとも思える能天気な声が掛かる。 「なんや、まぁだ、うんうん唸ってんのか?」 「ん〜〜?」 椅子の背もたれに乗せた顎はそのままに、ジタンが声のした方に顔を向けると、いかにも呆れ顔のルビィが立っていた。いつものようにフリルたっぷりの水色のドレスにリボン。その姿にまったくそぐわない、容赦会釈のかけらもない言葉が続く。 「まったく、ガキの恋愛やあるまいし、何そないに悩んでんの?」 「だってよー」 悩み過ぎてすっかり覇気の無くなってしまったジタンの様子に、ルビィはだんだんと苛立ってきた。いらぬお世話と思いながらも、つい強い口調で言ってしまう。 「好きな人から贈られたんなら、女は何でも嬉しいわ。そんなことも解らんで、よう色男気取っとったな」 「あ」 水でも掛けられたかのようにジタンの動きが止まった。 「そっか。そーだよな!」 ジタンはガバッと立ち上がり、今までの迷いが嘘のような晴れやかな顔でルビィに言った。 「サンキュ、ルビィ。おかげで踏ん切りがついたぜ」 そう言って、今まで女の子たちを蕩かせてきた極上の顔で微笑んだ。 「そうと決まったら、こうしちゃいらんねーや」 まるで水を得た魚のごとく、勢い良く店を飛び出していくジタン。 「あーあ、あんなに張り切っちゃって。しゃ〜ないなぁ、もう」 ため息まじりに独り言を呟き、ルビィはあっという間に姿の見えなくなったジタンを見送っていた。 その日の夜遅く。 ガーネットはやっと自分の誕生祝いの晩餐会から解放されて、自室に戻ってきていた。 豪華な夜会服を脱ぎ、夜着に着替えようとして、ガーネットはふと思いとどまる。 今日、結局ジタンはガーネットに会いに来なかった。 だが、ガーネットの誕生日を忘れるようなジタンではない。 そう言えば誕生日だというのに、いつもに増して忙しい一日だった。 例えジタンが城に来ていたとしても、きっと今まで近寄る隙がなかったのかもしれない。 今もこの部屋の扉の外にはベアトリクスが控えているはずだ。 『でもきっとジタンは、今夜中に会いに来てくれる』 一人頷くと、ガーネットは夜着を元に戻し、別の服に着替えることにした。 着替えが終わって、明かりを落とし、何気なく窓の外のバルコニーの方に目をやると。 フワリ 風に揺れたカーテンの向こうに、影が流れた。 「!」 三日月の月明かりを背景にやわらかく浮かび上がるシルエット。 揺れるカーテンに負けず劣らず揺らめく尻尾の影に、ガーネットは満面の笑みを浮かべながら窓辺に近づく。 あと一歩でバルコニーに出ようとした時、突然ガーネットはカーテンに巻き込まれた。 「ジ・・!」 思わず声を上げかけたガーネットの唇が、熱く甘い吐息ととも塞がれる。 月にさえも見せたくはない、二人だけの蜜時・・・・・。 二人の情熱にあてられたのか、弦月もその姿を恥ずかしげに薄雲に隠す。 しばらくしてそっと目を開くように眉の月が雲の間から現われると、夜風も協力してカーテンを二人から吹き離した。 誕生日おめでとう、と言おうとしていたジタンの顔が、淡い光の中のガーネットを見た驚きと喜びの表情に彩られる。 「ダガー!その服・・・」 一緒に旅をしていた時に着ていた服をまとったガーネット。 そしていつのまに結んだのか彼女の髪には、その服によく似合うオレンジ色のリボンが飾られていた。 ジタンの瞳に微かに映る自分の姿を覗き込み、ガーネットもハッとする。 二人、同じ想いを抱き、重ねて。 再び熱い抱擁と口づけを交わす恋人たちには、もはや自分たち以外のことを気にかける必要などなかった。 たとえ夜風が彼らのためにカーテンを揺らし、その衣擦れの音色で小夜曲を奏でていたとしても・・・・・ |