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〜 FF NOVEL <FFVIII> 〜
by テオ


GRADUATION(卒業)


−Waltz for the Moon−




「スコール、いる〜?」


山のような荷物を抱えた長身が、旧式のドアを蹴飛ばし部屋へ入ってきた。

「こら〜!ドアはちゃんとノックせんと、ってそれじゃ無理やな〜」

手を振り上げて、入ってきた不精者をたしなめようとしたセルフィだったが、顔も見えないほどの荷物を抱えたアーヴァインに同情を禁じえず招き入れる。

「ちょっと手伝ってよ〜」

今にもこぼれ落ちそうになっている荷物に根をあげて、助けを求めるアーヴァインの手からスッと一番大きな荷物が取り払われた。

「何も一度に持ってくることはないだろう」

いかにも呆れたという風体のスコールの顔が、手にした荷物のすぐ向こうに覗く。

「いいじゃない。結局持ってこれたんだからさ〜」

だが、返ってきたのはいかにも冷たい言葉。

「おまえはよくても、荷物が壊れたら困る」

「つ、冷たい。スコール」

くすん、と泣きまねをするアーヴァインの頭に小さい手が乗せられる。
見ると、セルフィが背伸びをして片手でアーヴァインの頭を撫でていた。

「よしよし。よう頑張ったな。おかげで助かったわ。ほな、早速、準備に取り掛かろうか」

ドアとは反対側の部屋の片隅にいたキスティスとリノアが、作業の手を休めてクスクスと笑う声がする。

「うう、セフィーだけだよ〜。僕の味方は〜」

尚も泣き言を言うアーヴァインにセルフィのきつい一言が飛ぶ。

「分かった言うてるやろ。ほら、さっさと荷物置いて。はよせんと日が暮れるわ」

たしなめられて、しぶしぶ荷物を部屋の中央にあるテーブルの上に置き、もう一度みんなを振り返るアーヴァイン。

「でもさ。本当に大変だったんだよ。これ落とさずに全部持ってくるのって〜」

無視。

「うっうっ。みんな、冷たい・・・」





明日はいよいよ、卒業式の日。

SeeDとして活躍していたスコールたちも例外ではない。
さすがにこの時期になると、卒業後のみんなの行く先もほとんど決定していた。
スコールはバラムガーデンに残り、キスティスと同じく教師を兼任しながら、SeeDの任務につくことになっている。
風神は、既に昨年からSeeDの専任要員として主に辺境の地を渡り歩いているサイファーと雷神の後を追う。
セルフィとアーヴァインはトラビアへ赴くことが決まっている。
セルフィがトラビア赴任の希望を出したことを知ったアーヴァインも迷わず彼女と共に行くことに決めていた。
ゼルはエスタ大統領とシド学園長の立案によって新たに設置された、SeeD調停工作員の役を引き受けることとなった。表に裏に、あらゆる手段を嵩じて戦争を終わらせる、又は回避させるという任を負った大事な役割だ。

そして、リノアは・・・・。

彼女は首都、エスタへ行くことになった。
魔女の存在の意味。
二度と自分たちのように苦しめられる人々が現れないようにと、その存在と意味を解明し、解決する方法を見つけて欲しいとリノア自らが大統領であるラグナに申し出たのだった。

卒業式が終われば、共に戦った仲間たちも離れ離れになる。
だったら、せめて最後に一緒に何かをやろう、と珍しくもスコール自身が提案したのだった。
この提案に仲間たちは一も二もなく賛成した。
なにより、永遠ではないにしろ遠く離れてしまうことになる、この恋人たちのために。


目指すは卒業式の後の卒業パーティー。

ド派手なことを一発ぶちかまし、みんなをアッと驚かせてやろうと画策していた。
こういうことになると俄然張り切るのは、セルフィを代表としたアーヴァイン・ゼルの三人組だ。
提案はスコールでも、アイデアから計画・準備・実行までのほとんどをセルフィが仕切っていた。
セルフィ曰く。

「経験者にまっかせなさ〜い」

そう言われて、スコールたちは準備は手伝わされているものの、何をやるのかでさえはっきりとは知らされていなかった。

『まあ、それもいいさ。どんなことになるのか、楽しみでもあるしな』

スコールがそんなことを思っていると、ふと、同じように忙しなく手を動かしていたリノアと目が合う。
思いは同じとばかりに微笑むリノア。
その微笑に一抹の寂しさを感じ取り、スコールの胸にもチクリと痛みが走る。
明後日になれば、みんなは、そして、リノアは行ってしまう。
自分たちで決めたこととはいえ、辛いことには変わりはない。

『リノア・・・』

スコールが自分の卒業後のことを語った時、リノアが言ったことを思い出す。


  スコール
  私ね
  あなたのお父さんのところへ行こうと思う
  みんな、自分の未来のために歩き出そうとしてる
  でも、私は・・・
  私が魔女でいる限り、いつも不安なの
  いつか、また、私を利用しようとする人が現われるかもしれない
  このままだと私、未来なんて信用できない
  だから、私、決めたんだ
  私のこと、徹底的に調べてもらおうって
  そして、ね
  できたらね
  魔女、って呼ばれないようになりたいって
  きっと、あなたのお父さんなら、私の願いをかなえてくれそうな気がする
  信じて、やってみたいの

  あなたとの未来を・・・・

  信じたい

  わかってくれる?

  スコール・・・


あとの言葉が溢れる涙で聞き取れなくなるほどの決意。
あれほどスコールの傍にいたがっていたリノアの、身を切る思いの切ない覚悟。
自分自身を信じきれるようになるために。
スコールとの未来を築くために。

遠慮がちに付け足された最後の言葉が、スコールの胸をえぐる。

  「でも、たまには、会いに、来てね・・・」

泣き濡れた笑顔で言ったリノアの、小さなわがまま。


スコールは、あの時気の利いた言葉を何一つ言ってやれなかった自分を呪った。

過酷な運命に立ち向かい、しっかりと前を見据えて歩き始めたリノアに、俺は何をしてやれるのか。




       * * *



3月3日、バラムガーデン卒業式の日。

式が無事に何事もなく終わり、みんなが待ち焦がれたパーティーが開催された。
思い思いに友人たちと最後の時を過ごす、卒業生たち。
皆一様に希望に溢れ、将来を語り合う。
在校生たちから記念写真を撮られたり、最後の言葉をねだられたりと、中にはもう会えなくなるからと想いを告白する者や、感極まって泣いている集団までいる。
どの卒業の光景でも見られる様相がここでも繰り広げられていた。
スコールたちも例外ではなく、あちこちで友人や在校生に取り囲まれていた。


そして、宴もたけなわとなった頃。


いきなり、パーティー会場に大音響が鳴り渡る。

「は〜い。みんな〜。学園祭実行委員のセルフィが卒業パーティー実行委員として帰ってきたで〜」

先ほどまで会場の片隅でひっそりとクロスをかけられて隠されていたドラムやキーボードが姿を表わし、既に他の仲間たちがスタンバイしている。
当日の詳しい予定を知らされていなかったスコールとリノアが、慌ててそちらの方へと向かおうとすると、

「はい!そこのお二人さん!そのまま、そのまま〜」

とまるでそれが演出であるかのようにセルフィに制止され、戸惑う二人。
パチンとウィンクで合図を送りながら、会場の中央の方へ行けとセルフィが手で指図する。
訳が分からないながらも、二人はその通りに移動していった。

「さあ、まずはうちらの音楽、ちょっとの間、聞いといてな」

ゼルがドラムでリズムをとり、アーヴァインがベースを鳴らし始める。キスティスのキーボードとセルフィのギターが加わり、いつかみんなで演奏した懐かしい曲が流れ出した。
それを部屋の中央に辿り着いたスコールとリノアがあっけにとられて同時に呟く。

「俺たちはどうすればいいんだ?」
「私たちは何をすればいいの?」

みごとにハモった二人の声に、お互いが顔を見合わせ、次の瞬間、弾けるように笑い出す。

「ハモっちゃったね」

くすくすと片手で口元を押さえながら、楽しそうに笑うリノア。
スコールも珍しく腹を抱えて、大笑いしている。

「まったくだ。これからいったい何をやらされることやら」

結果的に仲間外れにされたのだが、きっとこのままでは終わらないという確信があった。
それゆえ、二人は期待を胸に仲間の次なる行動を待っていた。

曲が変わり、今度はゆっくりとしたバラード調になった。

この曲は!

二人が初めて踊ったあの曲。

どちらからともなく手を差し出して、ごく自然に踊りだす。

時間が戻っていく。
思いが辿る。
まだ何も知らなかった、あの頃に。

だけど、もうあの頃に帰りたいとは思わない。
もちろん、現実は辛いことの方が多いけれど。
それでも、この想いを知らなかった頃には戻りたくはない。
この手を二度と離さないと決めたのだから。


その瞬間、スコールの脳裏に何かがはじけた。


『そうかっ!』


リノアが踊る。
明日の別れを一時忘れ、風に舞う花びらのように軽やかに。
差し出すその手の向こうにある、スコールの瞳をただひたすら見つめながら。


ふいに、訪れた静寂。


いきなり曲が途切れた。
突然のことに、その場にいた全員が一瞬戸惑う。
みんながざわめき始めようとするその直前に、照明まで落とされ、次いで鳴り響く破裂音。


     バババババッ


決して大きな音ではなかったが、静寂と暗闇の中では異様に響いた。

そして、その音の後には・・・・。

急に訪れた闇に慣れないその目には、まるで輝くオーロラに囲まれたようだった。

次第にはっきりと見えてくる。

ホールを取り巻くように揺れるキャンドルの波。

その幻想的な光景に、あちらこちらからどよめきが起こる。

リノアも例外ではなく、呆然と、だが、うっとりと囁いていた。

「きれい・・・」

その声にやっとリノアの場所を確認したスコールが、そっと傍につきそう。

「うん。これだったんだな。俺たちが準備していたのは」



中身を知らされなかった大荷物。
スコールは、何故、セルフィたちが自分たちにこの仕掛けのことを秘密にしていたのかを悟った。
直前に演奏された、あのワルツ。
この日、この時、この場面でワルツを踊るのは、きっと明日から離れ離れになるであろう恋人たち。
だからせめて、最後の時をすてきな思い出で飾ってあげたい。

それに、今日はリノアの誕生日でもあった。
この日だからこその仲間たちからの、心からのプレゼント。


ならば、俺がリノアに贈ってやれるのは・・・・・


ひとつ、また、ひとつとキャンドルの光りが中央の方へと流れてくる。
協力を申し出た在校生たちが、ガーデンを忘れないでと思いを込めて、手渡すキャンドル。
スコールとリノアの手の中にもそれが届く。
優しい揺らめきの中に浮かぶお互いの顔を見つめて微笑みあう二人。
意を決して、スコールはリノアにとつとつと語りかける。


  リノア

  しばらくの間だけ、待っていてくれ
  エスタの研究所には及ばないかもしれないが
  魔女に関することは、現実に戦った俺たちが一番よく知っている
  だから、俺はこのガーデンでリノアを助ける方法を探す
  シド学園長やママ先生だっている

  少しでも手がかりがつかめたら

  そうしたら、きっと

  迎えに行くから


「!!!」


リノアは手にしたキャンドルを落としてしまいそうになった。


  迎えに行く・・・


会いに行くではなく。


その言葉の意味。


揺れるキャンドルの光りが一層ぼやける。

大きな瞳いっぱいに浮かぶ、喜びの小さな海が。

光りをさえぎり、スコールの姿が見えなくなる前に。



リノアはその厚い大きな胸に飛び込んでいった。






  −−− 若者たちの希望溢れる未来を願って    卒業 おめでとう! −−−







<テーマノベル>として「一緒にTALK」に投稿した作品です。

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