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〜 FF NOVEL <FFVIII> 〜
by テオ



Melty Kiss


< 後 編 >

〜 BL・アーヴァイン編 〜





頭を一振り二振りして気合いを入れてから、まだフラつく足を逢いたい人のいるはずの方へと向けるスコールだった。

―― 確か、211教室…だったな

 足が縺れるたびに手で壁に寄りかかり体勢を整えては、スコールはなんとか教室の方へと歩いていった。さすがに空腹にウォッカはキツかったようだ。まだ、目が回っている。
 元々、スコールはアルコールが強くない。慣れていないと言った方が適切だろうか。意外と取られるかもしれないが、普段からいついかなる時でもすぐに戦闘体勢に移れるようにという生活を続けてきたスコールは、瞬時の判断や動きが鈍くなってしまうアルコール類を極力避けてきたきらいがあった。
 それも、こんな事態を引き起こすなら、少々考えを改めなければならないだろう。要するに、こんな弱点を残しておくといざという時、敵にそこにつけこまれる可能性がゼロとは言えないからだ。
―― くそっ! 情けない…
 たかがあれくらいの量で、とスコールは己を苦い思いで叱咤する。

 賑やかな一団がスコールのすぐ脇を通り過ぎていった。幾度も「トゥリープ様」という名前が聞えてきたから、おそらくは先程ニーダが言っていた講演会に行く生徒たちだろう。待ちに待った講演会のことで頭がいっぱいらしく、誰一人としてスコールに気づく者もいない。
―― 相変わらず人気あるな、キスティスは…
 自嘲気味にそんなことを思う彼は、自分がそのキスティスとガーデン内の人気を二分していることなど、露ほども知りはしない。以前の取りつくしまのなかった頃と違い、今では随分と雰囲気が柔らかくなった。たまには笑顔でさえ見せるほどに。
 それは、リノアともう一人の人物のおかげだと言っても過言ではないだろう。

 ……リノアの気持ちは、よくわかっているつもりだった。
 けれど……。
 どうしてもそれを受け入れることができない。

―― 俺には……あいつがいるから

 211教室の前に、ようやく辿りつく。
 入り口の前に立つと、シュンっと小気味いい音をたててドアが開いた。一歩中に入ると、すぐに目的の姿を目で探していた。いつもは余分なもののない無機質な教室も、今日ばかりはパーティ会場の備品やら準備の後やらで雑然としていた。
 その中に蠢く人影を見かけて、スコールの表情が我知らずに緩む。
 ためらう間もなく、声をかけていた。少しだけ遠慮がちに、静かに歩み寄りながら。
「アーヴァイン……」
 ギョッとした様子を隠しもせずに、背の高い長髪の青年が振り向く。だが、いつものテンガロンハットどころか、胸のあたりまで脱ぎかけたきぐるみ姿の彼は、多いに慌てた風体だった。
「スッスコールッ!」
 スコールを見とめた途端、うー、と唸るような声を絞り出すアーヴァイン。
 不機嫌そうなその表情を見て、スコールは訝しげに尋ねていた。
「何をそんなに驚いてるんだ?」
 憮然、という言葉そのものの顔で、アーヴァインはそっぽを向いて応えていた。
「……誰だって、こんな格好のところ、好きな人に見られたいはずないでしょ」
 未だ酔いに支配されていたスコールは、緩慢な動きでまず「こんな格好」という言葉でまじまじとアーヴァインを見直して、プっと吹き出した。そして、次に「好きな人」という言葉に思い至り、サーッと目元を赤くする。
 回らない頭で必死に言葉を探して言い募るスコール。
「な、なんのきぐるみなんだ? それ…」
 まったくスコールらしくない百面相や、すっかりどもってしまっていることに気づきもしないアーヴァインとて、多いに焦っていたのだった。きぐるみを早く脱いでしまいたいのに、慌てているものだから、変にひっかかってしまって悪戦苦闘している。
「だから〜っ! トナカイだよ〜、クリスマスなんだから。見てわかんない?」
 わからない?と訊かれて、本気で分からなかったスコールは、右手の拳を口元にあてて言い澱んでいた。
「い、いや……。あんたの顔しか…見てなかったから…」
「……えっ?」
 聞き間違いかと、思わず訊き返してしまったアーヴァインに。
 それに、生真面目に応えるスコールもまた。
「いや、だから……。あんたの、顔しか……。うわっ!アーヴァ…」
「スコールっ!!!」
 数歩の距離を文字通り飛んで行って、アーヴァインはスコールに抱きついていた。上半身だけきぐるみが脱げた状態で。
「スコールがそんなこと言ってくれるなんて〜」
 感極まるというように、ギュウっと強く抱きしめてくる。
 今の状態ではすぐに対応できないことも手伝って、スコールはされるがままに抱きしめられたままだ。更には、ぐいと押しつけられるアーヴァインの裸の胸に、一層体温が上がってしまいそうになっていた。
「ア、アーヴァ…イン…」
 喘ぎにも似たスコールのその声に、遅まきながらやっと、スコールの普通ではない様子に気づいたアーヴァインだった。
「スコール? どうしたの? なんだか身体が熱いような…」
「なっなんでもないっ!」
 焦りながら必死でアーヴァインを押しのけようとしているらしいのだが、その腕には全然力が入っていない。
 スコールらしくない。まったくスコールらしくない。
 よくよく観察してみると、まっすぐ立っていられないほどふらふらしている様子といい、緩慢な動きといい、そしてなにより……。
 赤く染まった目元と潤んだ瞳。
「もしかして……酔ってる? スコール?」
 途端に、動きを止め、縋るような目つきで首を小さく振るスコール。
「これはっ。間違ってっ、…ゼルが……俺はっ酒なんか…」
 要領を得ない返事ではあったが、アーヴァインにはすっかりわかってしまった。
―― なるほどね
 だったら、この状況を利用させてもらうことに、なんの躊躇いもない。
 まだ言い訳のセリフを続けようとするスコールに構わず、アーヴァインは次の行動に移ることにした。
「聞いてるのか? アー……」
 んっ、と甘く塞き止められる声。
 唇が塞がれてしまったから。
 意味もなく暴れていた両手を、アーヴァインの両手に強く掴まれて。
 一瞬、大きく見開かれていたスコールの瞳が、すぐに静かに閉じていった。

 熱くも優しい蕩けるようなキスを交わしながら、アーヴァインは頭の片隅で考えていた。
 現場を見たわけではなかったが、皆が浮かれまくっていた今夜のパーティの様子から、大方の予想はつくというものだ。
 スコールは、おそらく浮かれ過ぎたゼルあたりに、間違って飲み慣れない強い酒でも飲まされてしまったのだろう。普段ならそんな失態など絶対するはずもない彼も、今夜だけは気が緩んでいたらしい。アーヴァインにとって、これ以上ないくらい都合のいいことに。
―― パーティに感謝〜だね〜♪
 もとから頼りのなかったスコールの腕が、すぐに抵抗をやめ降りていった。掴んでいた手を外すと、ためらいがちではあったが、その腕が行き場をアーヴァインの背中に求めた。
 アーヴァインの裸の背中にスコールの両腕が回される。
 アーヴァインの方は、最初からスコールを強く抱きしめていたが、だんだんとスコールの腕にも力がこもってきているのがわかる。
 アーヴァインは天にも昇る心地だった。
 お互いの想いは通じ合ってはいても、スコールの方から積極的に求めてくれることなど、ついぞなかったことだったのだから。
 この好機を無駄にするつもりなど、さらさらない。
 アーヴァインは、有頂天になってスコールの熱い口腔をむさぼっていた。
「…ん…んんっ……」
 キスの合間に苦しげに継がれる息遣いさえも、アルコールのせいなのか熱い湿りを帯びてそそられる。
 たっぷりとスコールの甘い吐息を味わってから、やっと離れていった唇と唇の間に零れたお互いの唾液が、スーっと細く糸を引く。
 そして、夢じゃなかろうかと感極まっているアーヴァインに、スコールがもっと凶悪な言葉を吐く。
「……アービン…。ここじゃ……」


 この後、狂気乱舞したアーヴァインが、きぐるみを脱ぐのも忘れ、周囲の奇異の目もまったく意に介さず、スコールを抱きかかえるようにして自分の部屋に飛んで帰っていったのは、言うまでもない。

 ただ、翌日、ウォッカを飲んでから後のことをスコールはまったく覚えていなかった、というオチがあった。
 このことが、アーヴァインにとって幸運だったのか、不幸だったのか。それとも両方か…。
 アーヴァイン本人にしか、わからないことだった。





〜 ☆ 〜 E N D 〜 ☆ 〜






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