MENU / BACK
〜 FF NOVEL <FFVII> 〜
by テオ


〜ミディール〜


「クラウド。ほら、今日もいいお天気よ。」
窓を開けながら、ティファは努めて明るい声で言った。
「今日は、ちょっと町の外まで行ってみようか。」
ベッドの中のクラウドからの反応はない。
「あ、でも、みんなが来るといけないから、早く帰ってこなきゃね。」
何も映さない、ただ見開かれたままの虚ろな瞳。
以前よりも、いっそう透明度が増したような、その青い瞳。
油断するとすぐに視界がぼやけそうになる自分を、ティファは叱咤する。
「さあ、じゃ、すぐに食事の支度するね。」
まるで重さのないマリオネットのように、
立たせようとすると立ち、手を引くと歩く。
そこに人としての、いや、生きているものの意識は皆無だ。
流れにまかせているだけ、そこにいるだけのモノ。
ティファはクラウドにざっと着替えさせると、
車椅子に座らせ、朝食として用意したスープをクラウドの口元へと運ぶ。
「少しでもいいから、食べて。お願い。」
ほとんどが口から溢れて流れ落ちてしまう。
だが、それでも毎日毎食、ティファがあきらめずに
食べさせようとしたかいあってか、流動食ながら
少しは口の中に入ったものを嚥下できるようになっていた。
しかし、それも所詮は条件反射にしか過ぎないのだろう、たぶん。
そういう状態にもかかわらず、クラウドの身体機能は衰えていなかった。
普通ならば、とっくに衰弱してやせ衰えていてもいいはずなのに。
やはり魔胱を浴びたからなのか。
それともライフストリームのせい?
たとえ、今はクラウドの人格がなくとも、ちゃんと生きてくれていることが、
ティファには救いだった。
クラウドは、ここにいる。
そして、きっと戻ってきてくれると信じてるから・・・。


『すいません。ティファ、さん。僕はクラウドじゃありません。』


ふと脳裏によみがえったあの告白に、ティファは足元をすくわれるような
気がして、ゾッとした。
「違う、違う。あなたはクラウドよ。クラウドなのよ。」
長い黒髪を乱しながら、強くかぶりをふって否定する。
あなたがクラウドでなければ、私は、私は・・・。

あなたとの思い出は、いつもあの給水塔から始まる。
あのことだけは、私とクラウドの二人だけの秘密。
大事な思い出。
それ以前のことは、実はよく覚えてないの。
自分のことも他のことも。
なんだか白いモヤがかかったみたいで。
特にあなたのことは、全くと言っていいほど。
でも、あなたが私に宣言して村を出ていってから、
すごく気にしてたのよ。私。
手紙のひとつもくれなかったけど。
たまにあなたのお母さんに、今どうしてるか、
様子を尋ねたりもしたわ。
あんなに大見得切って出ていったくせに、
どうして私にくらい連絡くれないのって、腹が立ったりもしたわ。
だけど、決まってその後、あの給水塔に行きたくなるの。
そして夜になって、そこから星空を見上げると、
はっきりとあの夜のクラウドの言葉がひとつひとつよみがえってきた・・。
待ってたのよ。私。待ってた。
あのたった一時で、私をひきつけたあなたを。
あなたが連絡をくれるのを。
一緒に行こうって。
そうなった時、決して足手まといにならないように、
必死で武闘の訓練もした。
やってみたら、私にあってたみたいだけど、ね。
そして、あの日。
神羅の人たちが、それも、ソルジャーが来るって聞いて、
私、絶対、クラウド、あなただと思った。
今まで連絡をくれなかったのも、実は、いきなり帰ってきて
私を驚かすつもりだったんだって。
ああ、やっとソルジャーになれたのね、って。
私、すごく嬉しくて、楽しみで、ワクワクしてて。
でも、来たのは、クラウドじゃなかった。
そのあと、あの、惨事・・・。
もう、私、クラウドしか頼る人、いなくて。
ううん。頼るんじゃなくって、自分であなたを探そうって、決めたの。
待ってるだけじゃ、ダメだって。
このまま、会えなくなってしまったかもしれない。
だから、絶対探し出して、そして、今度はずっと一緒にいようって決めたの。
それからは、本当に大変だったのよ。
全然、あなたの情報がなくて。
神羅って、情報コントロールしてるから。
そしたら、バレットが声をかけてくれたの。
「俺たちと一緒に神羅と戦おう」ってね。
私も神羅のやり方には、相当頭にきてたから、仲間になったの。
もちろん、クラウドがソルジャーになってたら、敵になっちゃうけど。
神羅に少しでも関わっていれば、ひょっとしたら、
クラウドのこともわかるかもしれない。
でも、あなたは神羅にさえ、いなかった。それくらいは、調べられたの。
私、結局、クラウドにもう二度と会えないのかなって。
少し諦めかけてたの。

その頃よ。
あなたが、いたの。駅に。
いつも見に行ってたけど、私にはあまり用のないところだった。
あの雨の夜。
なんだか胸騒ぎがして、いてもたってもいられなくなって、
急いで駅に行ってみたの。
もう、最後の列車も終わってた。でも・・・。
最初は、半信半疑だった。
そしたら、半死半生の上、すごく混乱しているらしいあなたが
「ティファ」って。呼んで、くれた。
嬉しかった。自分の目と耳が信じられないくらい。

あの瞬間と給水塔のことだけで、私はあなたがクラウドだって信じられる。
だから、待ってるから、今度こそ、あなたのそばで待ってるから。
早く帰ってきて、クラウド・・・。


「また、地震ね。今度は長いみたい。そろそろ、帰りましょ。クラウド。」
物思いにふけりながら、村はずれまできていたティファは、
地震がいったんおさまるのを待って、急いで車椅子を押しながら診療所に戻った。
しばらくして、遠くから聞きなれた重低音が聞こえてきた。
しかも、どんどんその音量が増している。
「どうやら、みんな様子を見に来てくれたみたいね。」
と、いきなり、近づいてくるハイウィンドの音を凌駕する大音響、
いや、大咆哮が響いた。
「ア、アルテマウェポン!ど、どうして・・・?」
ティファが呆然としている間に、着地したハイウィンドの仲間たちは
次々に飛び出し、既に戦闘に入っている。
今は、見守ることしかできないティファは、
クラウドの乗る車椅子の縁をギュッとにぎりしめながら、
仲間たちの勝利を祈っていた。
しかし、その闘いの最中、突然、アルテマウェポンが逃げ出した。
ア然としたのもつかの間、その直後、今までにない大きな揺れが起こった。
「こりゃ、かなりやばいようだぜ。」
現在のリーダーであるシドがみなを促して、避難させている。
シドの言葉どおり、揺れは大きく、全く治まりそうもない。
それどころか、だんだんひどくなる一方だ。
このままでは、建物も崩壊して下敷きになる恐れが出てきた。
ティファは慌ててクラウドの車椅子を押して、診療所の外へと出る。
途端に診療所は、崩れ落ちた。いや、診療所だけではない。
立っているものは建物も木々も倒れ、地面は割れて陥没し始めている。
「逃げなきゃ。早く、クラウドは私が守らなきゃ。」
ティファは気ばかり焦りながら逃げ惑う。
だが、歩くのさえ困難な大揺れの中、
どこにも逃げ場がない。
それでもティファは、走る。
車椅子を、クラウドを庇いながら。

突然、ティファとクラウドの目の前の地面がなくなった。
なすすべもなく、暗く深い穴に落ちていく二人。
襲い来る絶望感。
だが、ティファは落ちていきながら、かすかに明るい光を見た。
「あれは、・・ライフストリーム・・・」
ティファは、その光を見た途端、ほっと安堵した。
理由は、わからない。でも、きっと大丈夫。
何故か、そう思うのだった。

『きっと、この中で、私たちは二度目の再会ができる。
今度こそ、本当の・・・。クラウド・に・・。』
ティファの意識とともに、二人は深い闇の中に果てしなく落ちていった。

・・ to be continue FF7 ・・


BACK