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〜 FF NOVEL <FFVII> 〜
by テオ


<テーマノベル>
= 桜 = 【FFVII】

- 桜 花 乱 舞 -



ゴトゴト、ゴトゴト

輸送トラックに揺られながら、直接振動を伝えてくる堅いシートに不満を覚える。山道なのだから仕方がないのだが、一緒に乗っているソルジャー二人が何も言わないのだから、一介の兵士にしかすぎない俺が不平を訴える訳にはいかない。いつもの気持ち悪さに拍車をかけるこの不快さを忘れようと、トラックの窓の外に広がる山桜の群生を眺めていた。
季節の終わりに一斉に咲くこの花もそろそろ盛りを過ぎようとしている。
しかし、最終目的地は荒れた山肌ばかりで、草木などほとんど無いような地だ。
こうして目を楽しませていられるのも今のうちだ。

それにしても、さっきから楽しげに動き回って元気だな、ザックス。
ソルジャーになってから初めての任務ともなれば、落ちつかなくてもしょうがないか。
だけど、今の俺はそれどころじゃない。
案の定、トラックに酔ってしまったらしい。
ううう、気持ち悪い…。
最悪の俺の状態に気がついたらしいザックスが、心配そうに声をかけてきた。

「気持ち悪かったら、マスクをとったらどうだ? クラウド」

「ああ」

ふぅ。
マスクをとったら少しは楽、かな。
僅かに元気を取り戻した俺は、視線をもう一人のソルジャーの方に移した。

セフィロス。

最高のソルジャー。

俺の憧れ。

彼のことを知って、俺はソルジャーになる決心をしたんだ。
神羅兵士たち、いや、神羅以外でもその名を知らぬ者などほとんどいないであろう畏怖の対象。
既にその存在自体が伝説として語られるほどの英雄。
だからこそ、そのセフィロスが参加しているこの任務がいかに重要なものなのか分かるというものだ。
そのことを知った時、俺は絶対にこの作戦に参加したいと願った。

幸運にも今回のこの作戦には、ソルジャーに昇進したばかりのザックスも参加していた。
そして、目的地を聞いたザックスは、案内役として俺を推薦してくれた。
唯一の親友とも呼べるあいつは、俺の出身地のことを知っていたから。



数年前、俺はソルジャーになると宣言してニブルヘイムを飛び出した。
だけど、ソルジャーになるためにはまず兵士として実績をあげなければならない。
兵士としての一番上のランクがソルジャーなんだ。
戦闘に勝って、勝って、作戦を成功させ、実績を残す。
神羅に安定をもたらす人物だと上層部に認めてもらえさえすれば。
そのための努力だって人一倍してきたつもりだった……。

だが、肝心なことを忘れていたんだ。

大きな作戦がなければ、たいした成果をあげられないということ。
そして、それがあったとしても参加させてもらえなければ意味がないということも。
神羅に知り合いもコネもない、実績もまだ何もない俺には頼りない『運』に縋るしか術はなかった。
ザコモンスターとの戦闘や排除、住民との小競り合いの平定。
そんなことばかりやっていても、到底ソルジャーへの道が開けるとは思えなかった。


その運がやっと、やっと巡ってきたんだ。
そりゃ、嬉しかったし、はりきってもいたさ。
しかも、今回のミッションは推薦してくれたザックスと一緒だという。
これほど心強いことはない。
考えてみると俺の一番の幸運は、ザックスと知り合えて友達になれたことかもしれないな…。
初めから妙に気が合った俺たちは、親しくなるのにそれほど時間はかからなかった。
明るくて人懐っこいザックスの性格のおかげが大きかったけど。

優秀な兵士でもあったザックスがソルジャーに昇進して、初めての任務。
通常の作戦で二人もソルジャーが参加することなど稀だ。
それもそのうちの一人は、あのセフィロスだ。
きっと重要であると同時に、かなり難しい任務なのだろう。
ここで成果をあげて、必ずソルジャーになるための足がかりにしてやると意気込んでいたのも束の間、俺は今回の目的地を聞いて愕然としてしまった。

ニブルヘイムだって?!



   ニブルヘイム−−−俺のふるさと。
   俺の母さんがいる村。
   そして、彼女に、ティファに宣言して飛び出してきた場所。

   「俺、ソルジャーになる!」

   まだ、身も心も幼かったあの日。
   でも、決意だけは誰にも負けてなかった。

   『必ずソルジャーになって、ここに戻ってくる!』



なんだってニブルヘイムなんだ!
俺、まだソルジャーになんてなってないっていうのに。
こんな状態でなんか帰れるもんか!


しかし、せっかくザックスが推薦してくれたんだ。
俺がニブルヘイム出身だからという理由で。
それに、既に発せられた命令は絶対だ。
断ったりしたら、おそらくもうずっと平の兵士のままだろう。
しかも、待ち望んだ大きな作戦なんだ。
絶対にこのチャンスを逃がす訳にはいかない。

だから、俺はニブルヘイムに帰ることを誰にも知らせなかった。
母さんにも、ティファ、にも。
兵士のマスクを外さなければ、俺だとは誰も気づかないだろう。
そう決心していた。
だけど、ニブルヘイムに近づくにつれ、乗り物酔いの気持ち悪さも手伝って、どうしても気分が沈んできてしまっていた。


そんな俺を心配して、ザックスが頻りに話し掛けてくれる。
最初はニブルヘイムのことを聞きたがってたが、俺の口が重いのを見て取ると、今度は自分のことをあれこれ話し始めた。
ソルジャーになってから初めての任務の意気込みだとか。
最近、ちょっと気になる花売りの女の子がいるんだとか。
こちらが聞きもしないことまで話してくれる。
そういう何でもないことを話しているうちに、次第に俺の気分も良くなっていった。
ザックスのこの明るさが、窓越しに広がる薄桃色の山桜のカーテンと共に、俺の凝り固まっていた不安を柔らかくほぐしてくれたのだった。




ドォォーーーンン!


「モンスターだっ!モンスターが襲ってきたっ!直ちに排除しろっ!」

前方から命令が伝わり、すぐさまザックスたちが飛び出していく。
俺も例外でなく、自分の武器を急ぎ掴むとトラックから飛び出した。
できればザックスと一緒に戦えたらいいな、とチラリと思いながら。

外にはモンスターが待ち構えていた。
それも小物ではない。
俺がそれまで見たこともないような大きなドラゴンだった。
初めての大物モンスターに、俺は当然怯んだ。
その隙にザックスや他の兵士たちは次々とそいつに挑んでいった。
出鼻を挫かれて、呆然と立ち尽くしていた俺に鋭い声が掛かった。

「ボヤッとしてるんじゃない! 次が来るぞ!」

モンスターは一匹じゃなかった。
もう一匹が俺たちの背後から悠然と姿を現わしていた。
だが、それよりも俺が驚いたのは、その声の主。

セフィロス!

彼に声を掛けられたのは初めてだった。
今回の輸送トラックの中でさえ、ただ瞑目して座っているだけ。
おそらく俺のことなど眼中になかったのだろう。
当然と言えば当然のことだが。
それが、俺の隣りで『正宗』を構えている。
こんな大物たちとの対峙に、俺は一瞬立ち竦む。

次の瞬間、俺は闇雲にドラゴンに挑みかかっていた。
たぶん半ばパニック状態だったんだと思う。
覚えているのは、ただめちゃくちゃに突っ込んでいったことだけだ。

案の定、実戦経験もろくにない俺なんか相手になるはずもなく、あっけなく弾き飛ばされた。
かなり強烈なダメージを受け、もうダメかと意識を失いかけていた、その時。

「アレイズ」

すかさずセフィロスが復活呪文をかけてくれた。

   セフィロスが?! 俺を助けてくれた!

それは仲間ならば当然の行為だったのかもしれないが、その時の俺はえらく感激してしまった。
なにしろセフィロスに助けてもらったんだ。

その後も、お荷物にしかならなかっただろう俺を庇いつつ、セフィロスは華麗に舞った。
そう、舞っていたんだ。
魔法を詠唱し、『正宗』で切りかかる。
それは闘うというよりも、むしろ…

−−−詩吟を諳んじながら、合間に剣舞を踊っている−−−

そんな様相だった。

俺は戦うのも忘れ、見入ってしまっていた。


   すごい・・・

   やっぱり、セフィロスはすごい

   英雄として称えられるのも当たり前だ…


強力なモンスターであるはずのドラゴンもセフィロスの前では赤子も同然だった。
あっという間に片付けられてしまっていた。
そして、セフィロスは何事もなかったかのように輸送車へと戻っていく。

たった今繰り広げられた戦いの旋風が巻き上げ散らしている桜吹雪の中を。

その身に纏った黒いマントを桜風になびかせながら。

ひときわ強い風に舞い踊る花びらの渦の中、俺の記憶に鮮やかなシルエットを残して……





−−−<安らぎと生を与えてくれる 親友>−−−


−−−<いざないと破滅をもたらす 英雄>−−−


この二人のソルジャーが、その後の俺の運命を大きく左右することになるとは


・・・この時の俺は、まだ知る由も無かった・・・






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