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〜 FF NOVEL <FFVII> 〜
by テオ


<テーマノベル>
−真夏の夜の夢− 【FFVII】

星に誓いを




人影のないミッドガル。
その更に最深部にあたるスラム。そこの思い出の教会へと俺は来ていた。
メテオによる星の規模の破滅は逃れられたものの、各地の、特にこのミッドガルの被害は尋常ではなく、スラムも例外ではなかった。復興するためにはかなりの時間を要するだろう。

あの悪夢の、いや、奇跡の時から数ヶ月、未だ荒れ果てたままのミッドガル。この都市を復興させるよりは新天地でやり直した方がいいと、ここを見捨てていった者が多い。しかし、舞い戻ってくる者もいた。

俺のように。

実際は、戻ってきた訳じゃない。気になることがあったから様子を見にきたと言った方が正しい。

俺たちを、と言うよりこの星を、救ったエアリス。
彼女がいつも花の世話をしていたこの教会がどうなったのか、気がかりだった。
被害にあって、壊れてしまったか。
もしかしたら、もう跡形もなく崩れ落ちているかもしれないと、いてもたってもいられなくてやってきてしまった。

だけど、教会はちゃんとあった。
確かに多少の被害は免れなかったようだったが、それでも健気に建っていた。

『良かったな、エアリス…』

心の中で、今はいないこの星の救い主に語りかける。
エアリスの思い出へと繋がるこの教会は、俺にとっても印象深い場所だ。

俺は教会のガタつく扉を、壊さないよう気をつけながら開けて中へと入る。

中は暗かった。
今は夜だから当たり前なんだが、壊れた屋根から微かに差し込む星明りで、なんとかぼんやりと内部は見渡せた。スラムの最深部にあたるこのあたりは日の光があたる場所など皆無と言っていい。しかし、何故かこの教会の中の一部だけにはどうした神のいたずらか、日が当たる場所があった。
そこで、いつも花の世話をしていたエアリス。

以前、一度だけエアリスがセフィロスの凶刃に倒れた後、ここを訪れたことがあった。
その時、俺は確かにエアリスの幻を見た。……気がした。
そのことを言っても、誰も信じなかったけれど。

『幻でもいい。もう一度会いたい、エアリス』

 会って、言いたいんだ。

 ………。

 何を? 何を言いたいんだ? 俺は…。


  ありがとう。

   ごめん。

  さよなら。


 どれも、正解のようで、違う。

俺はミシミシと音を立てる床を注意深く踏みしめながら、花畑のあった場所へと歩いて行き立ち止まる。今はすっかり荒れ果てて、花どころか雑草さえも生えていない。魔晄が供給されなくなってから、ミッドガルは地熱さえも下がり、夏だというのに全体的に冷んやりとしてしまっている。たまに来ていた子供たちも、あの時に近くの街に避難させられたまま、もうここに戻ってくることはないだろう。

『ごめん、エアリス。君の花畑、こんなに荒れてしまった…』



 <だいじょぶ、だよ クラウド>



ふいに。

声が聞こえた。

今、確かに…。

ハッとして、キョロキョロとあたりを見渡す。

誰も、何もいない。いるはずもない。

だけど…。

不思議に思って、俺が立ち尽くしていると。

頭上から柔らかい光が差し込んできた…。

ゆっくりと頭をもたげて、見上げると。遥か彼方のミッドガルの上空に。


月が、出ていた。


『エアリスが戻ってきたのかと、思ったのに…』

俺はそんな自分の考えに自嘲の笑みを洩らす。
そんなことは、ありえないとわかっているのに。
そう、思いたい自分の身勝手さに。

自分の思いに捕らわれながら、俺はそのままじっと月を眺めていた。
壊れた屋根の一部から覗く、月。
半壊と言ってもいいほどの教会は、前よりも大きく夜空が見える。
優しい光を送っている月と、その回りを取り囲む星々も。

月の明るさに負けないくらい、強く輝いている赤い星、一つ。

それがチカチカと瞬いたと思ったら、また、声がした。



 <この星を、お花でいっぱいにしてあげる>


 ――― エアリス ―――


背後で気配がしたような気がして、ふり返る。

月の光が細いスポットライトのように、一筋。

その光の中に、はっきりとエアリスの姿が見えた。

俺は急いで、心の中で告げる。

自然に胸に浮かんで来た、言葉を。


『君に、会えて良かった…』


たとえ、幻だったとしても。

言わずにはいられなかった、言葉。

雲がかかったのか、月の光が静かに薄れ消えていく。

光とともに掠れていくエアリスは、消える間際、にっこりと微笑んでいた。

差し込んでいた光が消えた後。

さっきは気がつかなかったのに、夜露に濡れた小さな花が一輪咲いていた。
俺は腰をかがめ、その花びらにそっと触れる。
指が触れると同時に、恥らうように揺れる名前も知らない薄紅の花。


  俺は絶対、忘れない。

  この星のすべてに、エアリス、君の想いが息づいていることを。

  忘れないよ。

  エアリス。





  Fin.




○あとがき○

久々の<テーマノベル>です。
今回のFFVII・クラエアは、このテーマを書くにあたってすぐに浮かんだんですが、つい最近モノカキ仲間の侑史さんに自分でリクエストしてたんでした。結局、自分でも書いてしまった…(汗)
その侑史さん作のクラエアも当サイトに掲載してありますから、そちらと読み比べてみても面白いかも、です。少々内容的に被ってるところも無きにしも非ずなので。

ついでに8/11はクラウドの誕生日。
誕生花は、8月がアンスリウム・ひまわり。花言葉はいろいろあって、アンスリウムは「情熱」「煩悩」。ひまわりは「あなたは素晴らしい」「あなたを見つめている」など。
8/11のは何だかもっといろいろあって(困)、一番多いのがゼラニウムかな?花言葉は「メランコリー」だそうです。メランコリーは「憂鬱な」という意味もあるけど、「深いもの思い」「もの悲しさ」の方がいいですね。もっと大まかに捉えると、「懐かしさ」「寂しさ」ってところでしょうか。
こういった想いを抱えてエアリスのことを思い出すクラウド。これらはこの作品を書いてから調べたんですけど、微妙に一致してるかな?(苦笑)
<おまけ>侑史さんに書いて頂いた方の小説は、エアリスの誕生花を題材にしてあって、「忘れな草=私を忘れないで」です。そっちのが、ぴったりだったりして……。(泣)

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