夢路の果てに 【FFVII Inter ED After】 完結編 |
「ザックス、ほら、もうすぐミッドガルだ」 俺たちは、今、ミッドガルへと向かう野性チョコボに乗っている。 通常一人乗りのチョコボに、無理して二人で乗ってるものだから、その足は極めて遅い。 それでも、いいさ。もう急ぐ旅じゃない。 シドに連絡を取って飛空艇で迎えに来てもらうこともできたが、俺はこの状態のザックスをまだ人目に晒させたくなかったんだ。特に仲間たちには…な。 そりゃあ、いつかは皆に紹介しなければ、とは思っている。 だけど、それは今じゃない。 ザックスがもう少し以前の状態に近くなるまで。 俺みたいに、思い込みで別人格になったって何だっていい、とにかく普通に会話ができるようになるまでは……。 待っていてくれるさ、あいつらなら。 だから、ミッドガルに着いてもまだバレットやティファに会うつもりはない。 たぶんもう知ってるだろう、俺の旅の目的、ザックスを探し当てたことも知らせるつもりもない。 二人でどこかで暮らすための準備を整え次第、すぐにミッドガルを出る。バレットもティファも、このことを知ったら火が点いたように怒るだろうけどな。 魔晄中毒は、一般には手の施しようがないと言われている。 しかし、現に俺は二度の中毒から這い上がってこれた。 このザックスとティファのおかげで。 もちろん、それなりの耐性がないとはなから無理だろう。 だが、普通の人間なら不可能なことでも、俺にできたことなら、ザックスにできないはずはない。 要するに………キッカケ、なんだと思う。 何かが原因で、強く心が揺り動かされた時、凍り付いたはずの記憶が呼び覚まされた時、自分を取り戻せるんじゃないかと、俺は考えている。 そう、俺ほどの経験者は他にはいないはずだからな。 皮肉にも、ザックスを元通りにするための協力者として、俺が一番の適任者ってわけだ。 ミッドガルが見えてくる前に、俺が旅立つ時に立ち寄ったあの丘が視界に入ってきた。 俺とザックスが最後に別れた、あの丘。 もう、最後に別れたという形容詞は過去のものだ。 俺の目には、前は忌むべき象徴にしか見えなかった丘が、ザックスを見つけることができた今は、何か懐かしい風景に変わっていくのを感じていた。 「………う……うう…ぁぁ…」 ふいに、俺の前でおとなしくチョコボに乗っていたザックスが声を出した。 何かを訴えているように聞こえて、 「うん? どうしたんだ、ザックス?」 聞いてきた俺の問い掛けに応えるように、進行方向とは違う方角に顔を向けている。 「………? 向こうに何か気になるものでもあるのか?」 すぐさま、俺はチョコボを操って進路変更する。 今はどんな小さなことだっていい。ザックスのキッカケになりそうなことなら、何だってする。 そう決めていたから。 積載重量オーバーのチョコボの足取りは相変わらず遅いままだったが、それでもしばらく行くとポツンと荒野の向こうに何かが見えてきた。 一軒の……家らしきもの、が。 ―― ……………あ・あれ・は……?! それは、小さな、崩れかけた廃屋。 目眩いがするほど強烈な、デ・ジャ・ブ(既視感)が俺を襲う。 近づいていくほどに、その家は俺が夢に見たあの家にそっくりだった……。 「…ま、さか……こんな…ことって…」 あるわけがない。 しかし、今、俺たちの目の前にある廃屋は、あの夢の中に出てきた俺たちの「なんでも屋」の前身である家に、あまりにも酷似し過ぎていて…。 ―― あれは……予兆だったのか? もしくは、予知夢だったのかもしれない、と。 本気で俺は、そう思わずにいられなかった。 チョコボを降りるのを手伝ってやって、ザックスと一緒に廃屋の方へと歩いていった。 長い間使われなかった筋肉は、さすがのザックスでもすぐに元通りという訳にはいかず、ただ普通に立つも歩くにも俺が肩を貸してやっとという状態だ。それでも、重度の魔晄中毒な身体で歩けるってことだけでも、充分奇跡に近いことなんだ。 野生のチョコボは一度降りてしまうと即行でどこかに行ってしまうから、この後の足に困るんだが、まあ、たぶん大丈夫だろう。 きっとこの近くにはチョコボを捕獲できる場所があるはずだ。 夢の中で、そうだったように。 壊れてキィキィと音を立てて風に揺れている扉のところまで来て、俺は改めて確信した。 ―― これは、俺の夢の中に出てきた、あの家だ あの夢を見た時から、何かが繋がり始めた……。そんな気がした。 ふいに、俺の肩にかかっていたザックスの腕が外され、身体が離れた。 ―― え? 見ると、あいつはまた別の方角を向いて立っていた。 自分の足で。 一人で。 「……ザ…ックス」 俺は、もうそれ以上、言葉にならなくて……。 眼の奥から込み上げてきそうになる熱いものを堪えるのが、精一杯で……。 ザックスの隣に並んで、彼の見ている方向に同じように顔を向けた。 そこに、俺は予想していたものを見た。 遥か地平の彼方、僅かに見える海に姿を隠そうとしている太陽の姿を。 まっすぐに伸びてくる清廉な朱金の光の帯を……。 そして、俺は、それを聞いた。 蒼い瞳を閉じることもできず、次々と溢れてくる熱い雫を頬へとしたたらせながら。 「‥‥ク‥‥‥ラ‥‥‥‥‥‥ド‥‥」 ― 完 ― |
○あとがき○ |