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〜 FF NOVEL <FFVI> 〜
by テオ


<テーマノベル>
HAPPY BIRTH DAY 【FFVI】

− 瞳の中のあなたへ −




柔らかな陽射し、穏やかな午後のモブリズ村。

質素だが、子供たちの賑やかな声が満ちている暖かな家。

「ティナママー、こぼしちゃったー」
「はいはい」

「これ、おいしー、おかわりー」
「いっぱい食べていい子ね」

「あ、それ、ぼくんだぞ、とったなー」
「こら、けんかしないの」

食事時は、いっそう賑やかである。
でも、ティナはにこやかに甲斐甲斐しく子供たちの世話をする。

この子たちに、ティナは必要とされている。
絶対の信頼と愛情を持って。
そして何より、人として。
それを常に感じさせてくれるこの子供たちを、ティナこそが必要としていた。


あの日からもう二年。


ただの兵器として扱われていた自分が、人として生まれ変われた日。
戦うことしか知らなかった日々がまるでウソのように、今のティナはたくさんの感情を知った。その多くがこの子たちと、かつて一緒に戦った仲間たちのおかげだ。以前は自分に新たに生まれた感情にとまどい翻弄されて、幾度もトランス状態に陥っていたりもしたが、今ではもうだいぶコントロールできるようになっている。

『ふふ、この子たちに振り回されていちいちトランスしてたんじゃ、身体なんかいくつあっても足りないものね』

苦笑しながら子供たちを見守るティナの眼差しは、限りなく優しい。


そのティナが未だに持て余している感情があった。
苦しいような、もの悲しいような。
でも、それ以上に………。

理解できないその想いに、いつも途方にくれるしかないティナだった。





「よっ! 元気か? ティナ」

「ロック! また、そんなとこから!」

大きく開け放たれた窓を乗り越えて現われたのは、その感情をもたらしてくれる人物。
相変わらずの青いバンダナを風になびかせて、ティナの心をも波立たせてくれる奴。
ロック=コールは、悪びれもせず無邪気に破顔する。

「悪りぃ、悪りぃ。つい〜」

「もうっ! 子供たちがすぐに真似するからやめてって、いつも言ってるのに」

口調は怒りながらも、ティナの顔は笑っている。
最近、ロックは頻繁にこの家を訪れる。それはすなわち、ティナの感情が乱れる回数も増えているということでもあるのだが、ティナはロックが来てくれるのを心待ちにしている自分に気がついていた。

   この感情には覚えがある。
   だけど、前よりもより鮮明になってきているような気もする……。
   何だか落ち着かない。
   そう、落ち着かない。

   何なんだろう、この気持ちは。

ロックを見つめながら、自分の思考に顔を曇らせてしまったティナを見て、ロックが能天気に声をかける。

「ん? ティナ? どうかしたのか?」

まるで自分の考えを見透かされたような気がして、ティナは慌てて言葉を探した。

「え? う、ううん。あ、あの、今日は何の用なの? ロック」

しどろもどろに応えるティナに、ロックは苦笑しつつおどけて答えた。

「あれぇ? 用がなきゃ来ちゃダメなのか?」

「あ、ううん。いえ、違うの。その……」

ロックの意地悪な問いかけに、ティナはなお一層あたふたとしてしまう。
その様子を楽しそうに眺めていたロックに、可愛い声が足元から届いた。

「ねぇ、あかちゃん、いつ、くるの?」

「へ?」

食卓を離れた小さな女の子が、スプーンを持ったままロックのすぐ傍にきて小首を傾げていた。

「なんだって?」

思いもよらない言葉を聞いて、更に尋ねるロック。
女の子はにこっと愛らしい笑みを浮かべて、満足そうにティナとロックを交互に見上げながら言った。

「こないだね、かたりーなのあかちゃんきたの。だから、ティナママのあかちゃん、いつ?」

一瞬お互いに顔を見合わせて、二人同時に吹き出してしまった。
ロックは空いた椅子に腰掛けながら、笑いをこらえて聞いてみた。

「でも、どうして、それをオレに聞くんだ?」

目の高さが近くなったことで、女の子は嬉しそうに、だけど少し恥ずかしげに答える。

「だって、でぃーんにきいたら、ろっくにいうといいよって」

今度は、二人とも絶句してしまう番だった。
いち早く気を取り直したのは、さすがに親代わりのティナ。

「でも、いい子にしてないと赤ちゃんは来てくれないのよ? ちゃんとお食事しようね?」

「はーい」

ティナに優しく諭されて、女の子は素直に返事をすると、トコトコとテーブルに戻っていった。
その姿を見やりながら、ロックは小さくつぶやいていた。

「まいったな……」





大騒ぎのランチタイムもようやく終わり、子供たちは元気よく外に遊びに飛び出していった。

「遠くへ行ったり、危ないことしたらダメよー」

両手をメガホン代わりに大きな声を張り上げながらその姿を愛おしそうに見送り、ティナは盛大に汚されたテーブルを片付けにかかる。逆向きに座った椅子の背に重ねた両手に顎を乗せ、カチャカチャと皿を重ねるティナを見つめるロックの瞳もまた優しげに細められている。

「ティナ」

台所へ皿を運び終わり、戻ってきたティナにロックはおもむろに近づいていった。

「なぁに? ロック」

ティナの目の前で立ち止まったロックは、苦笑いしながら片手を差し出す。

「実は今日来たのは、これ、渡そうと思って」

「え?」

その手の中にあったのは、小さいけれどキラキラと七色に輝く石が嵌め込まれたイヤリング。

「これ、を? 私に?」

キョトンと見つめるティナの大きな瞳に、ロックの顔が映っている。

「ああ。こないだ探索した遺跡で見つけたんだ。ティナに似合うと思って細工してもらった」

「嬉しい、けど。どうして?」

喜びと困惑が入り混じったティナの、瞳の中のロックの表情が引き締まる。

「誕生祝い、かな?」

「え……? ロック?」

ひときわ大きく見開かれた瞳は、しかし、映しているロックの輪郭が少しぼやけ始めていた。

「ちょうど二年、だろ? 俺たちが会ってから」


   −−人として生まれ変わってから−−


「………」

瞳のロックは、ゆらゆらと揺れている。

「一年前はあんなことのあったすぐ後で、二人ともそれどころじゃなかったしな」

「ロック…」

もう、ティナの瞳にロックは映ってはいない。
そこは既に、想いが湧き出す泉となってしまっていた。

「これからも、できたら毎年、受け取って欲しいんだ。ティナに…」

「それって…」

思わずティナが両手で口元を押さえた途端、ついに溢れて、頬を伝い落ちる淡いきらめき。
初めて、嬉しさによって流した涙。
それは、ロックの手の中のイヤリングの石よりも清く輝いている。
目的を邪魔するティナの両手を、ロックが片手で優しくはずす。

「好きだよ、ってこと」

大きな手に握り締められて抗えない両の手を引き寄せられる。
もう片手で上向かせられたティナの零れた涙で濡れたくちびるが、今度はロックのそれで濡らされる。


 ほんの短い間だったけれど。


ティナの体温が一気に上がる。
幾度も覚えのある、暖かい、けれども激しい感情が押し寄せる。
ティナの意識が一瞬途切れそうになる。

すかさずロックはティナをギュッと抱きしめた。

「おっと。トランスはやめてくれよな」

わずかに笑いを含んだ声で、ティナの耳元に囁きかける。

「いつも近くにいてくれないと、守ってやれないだろ?」

艶やかに染まるティナの目元に笑みが浮かぶ。

『あいかわらず、なんだから』

ティナはロックの言葉で穏やかな流れとなった感情の心地よさに身を任せてみる。


   落ちつかなくて
   すごくドキドキして
   苦しくて
   そして、そう、切なくて
   でも、とても嬉しくて

   しあわせ で


『これが、好き、ということ…』


うっとりと愛しい人の胸のぬくもりに酔っていたティナの耳もとに、羽のようなキスと一緒にロックの囁きが聞こえてきた。

「赤ちゃん、いっぱい連れてきてやろうな」

そっと頭をあげ、あらためてロックを見つめなおすティナ。

その瞳にとめどなく浮かび上がる、照れたロックを映す雫がいくつもいくつもこぼれ落ちる。

ティナが震える声で答えようとすると、一層強く抱きしめられて声ごと奪われる。



 言葉がなくても伝わる想いを、ティナは  初めて・・・知った・・・









<テーマノベル>として「一緒にTALK」に投稿した作品です。
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