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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


ザナルカンドへ
《若かりし日のアーロンの最後》




(これはゲーム時の10年前、スピラからザナルカンドへ行く時の若きアーロンの話です)





ナギ平原。

その片隅、大きく削り取られた後のような崖の淵にアーロンは横たわっていた。

無謀にもユウナレスカに挑みかかっていった後、アーロンは致命的な重症を負っていた。
だが、そこですぐに倒れる訳にはいかなかった。

約束がある。
もう既にこの世のものではない、二人との。
否。
ブラスカは確かにもういない。
しかし、ジェクトは・・・・・。


ザナルカンドに到達し、ユウナレスカにまみえた。
驚愕の真実に晒された直後、
二人はその過酷な運命に踊らされることなく自らの道をすぐさま選び取っていた。
だが、アーロンは。
もがいていた。
受け入れられない、そんな運命など。
他に、何か、道があるはずだと。
敢えていうならば、そういうアーロンがいたからこそ、二人は今自分たちがすべき最善の道を選びえたのかもしれない。




今は無理でも、未来を託すことができる
たとえ、自分たちが他の道を選んだとしても
この歪みきった世界を変えることはできないだろう
ならば、今、この時からだけでも
未来を変えるための布石となろう

未来を託すべき、子供たちがいる
そして、その掛け橋になるべくおまえがいる
それがどんなに困難な道のりであろうとも
きっと成し遂げてくれる

だからこそ、笑って逝ける
信じられる物があるから
信じられる人がいるから




瀕死の身体を酷使して、ザナルカンドからやっとここまで辿り着いた。
アーロンにとって幸運だったのは、ガガゼト山でキマリと出会えたことだ。
もしもキマリと会えなかったら、途中で息絶えていただろう。
そして、ブラスカとの約束を託すこともできなかった。
二人との約束。
もちろんアーロンは一人しかいない。
同じ場所にいるならばともかく、ジェクトの子のことは何も解らないに等しい。
この身一つでは果たすべくもない。

彼だ。

キマリに出会った時、瞬時に悟った。
彼ならば俺の役目の一端を担ってくれると。
屈強なロンゾの体躯に、激しい屈辱と悲しみに覆われた瞳を持つキマリ。
言葉少なに「ベベルにいるブラスカの娘のことを頼む」と。
ただそれだけで、キマリは了承した。
傷つけられた矜持を持つ者同士。
おそらく通ずる物があったのだろう。
覚悟を決めている男の身体を気遣うなどという無駄をせず、
キマリはたった今誓った約束を果たすため、アーロンをそこに残し、すぐさまベベルへと発っていった。

それを横たわったまま横目で見送り、アーロンは安堵の吐息を一つ吐く。

ここは他の例にもれず、ブラスカが究極召喚を行った場所。

いつも違う顔をみせる海の、一瞬だけ覗かせる穏やかな時間。
無風状態の静かな平和な時。
それを凪(ナギ)という。
それに因んで名付けられたナギ平原。
ナギを呼ぶための直前の激しい戦い。
自分はただ見ていることしかできなかった。
何もできない己を呪いながら。

「シン」を倒したブラスカの召喚獣が、戦いの後この崖の向こうに姿を消した。

アーロンは息も絶え絶えになりながらも、待っていた。
究極召喚獣となったジェクトが戦いの後、姿を消す直前に、離れた場所から一部始終を見守っていたアーロンに思念を送ってきた。
確信はない。
だが、確かにジェクトからの言葉をアーロンは受け取っていた。

『一段落したら、ここに戻ってきな』

ジェクトは解っていたのだろう。
アーロンが納得していないと言うことを。
もう一度ザナルカンドへ戻るということを。
その結果、アーロンが命を落としたかもしれないことまでも。
だが、アーロンは三度ここに戻ってきた。
自分自身にけじめをつけ、ブラスカとの約束を果たした。
そして最後のジェクトとの約束を果たすために。
満身創痍の身体を横たえ、ただひたすらアーロンは待っていた。


風が舞う。

大地が鳴動する。

圧倒的な存在感と共に、底なしの谷の奥からそれは現れた。


『シン』


いや、今はまだシンに変化はしていない。
ブラスカの究極召喚獣だ。
シンが倒された現在、ナギ平原に他に人影はない。
それは静かにアーロンの元へと近づく。

もはや身体を動かすこともままならないアーロンは、目線だけでその姿を確認する。

俺はもうすぐ死ぬ。
だが、まだ異界に逝くわけにはいかない。
ジェクト、おまえとの約束を果たさぬうちは。
もう既にこの世界の理を超えてしまったおまえにはすべてのことがわかっているのだろう。
そうだ。
だから、後は頼む。
俺におまえとの約束を果たさせてくれ。

アーロンの心の声がまるで伝わったかのようにブラスカの究極召喚獣は一つ大きく身震いをした。

アーロンの意識が次第に薄れていく。

いずこからか幻光虫が集まってきていた。

アーロンの身体を幻光虫の群れが覆い始める。

その身体が幻光虫に覆い尽くされたその時、おもむろにそれは回りの物を自分の中に吸い込み始めた。

茫洋と広がるナギ平原に一巡の激しい竜巻が巻き起こる。

そしてそれは唐突に終わった。


吹き返しの風の舞うナギ平原に、動くものの姿は何一つなかった。







「一緒にTALK」に投稿した作品です。

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