−真夏の夜の夢−
湯けむり秘湯・スピラ編 「ん〜、気っ持ちい〜っ!」 「いいお湯だねー」 「ほんと、生き返るわね」 湯けむりの中、見え隠れするのは白い肌。 きゃいきゃいと女性たちの楽しそうな声が響く、ここはガガゼトの山の奥。 ことココに至るまで、少し時間を逆のぼる・・・。 それは、ガガゼトの細い雪道をユウナたちが雪に足を取られながら歩いていた時のことだった。 頃は夕刻近く、傾き始めた太陽がわずかに赤みを混じえた光を山の雪肌に反射させている。 「こんなとこで襲われたら大変だね」と言ってる傍からモンスターに襲撃されてしまったのである。 皆の通り路を確保するために、最前列にいたワッカとティーダがいち早く駆け出しモンスターに対峙する。 だが、ただでさえ足場の悪いところに、モンスターの放った一撃がちょうどユウナとルールーの目前で炸裂し雪道が崩されてしまった。 「きゃぁっっ」「あっ!」 バランスを崩したユウナを支えようと急ぎ駆けより差し出したティーダの手はむなしく空を切り、為す術もなく雪と共に谷底へと滑り落ちていくユウナとルールー。 「ユウナっ!」「ルーっ!」 とにかくも怒りに任せてモンスターを忽ちのうちに片付けはしたが、二人の落ちていった後を覗いてみても、パックリと黒い口を開けた谷間は深く何も見渡せない。 「仕方ない。同じように滑り降りるしかなかろう」 アーロンの意見にコックリと頷いた皆は、キマリ・ワッカ・リュック・ティーダ・アーロンの順に次々と滑り降りていったのだった。 幸いにもあまり急な傾斜ではなかったおかげで、全員怪我一つなく底まで辿りつくことが出来た。 しかし、谷底に着いたもののユウナとルールーの姿がどこにも見えない。 しかも早く探し出さないと、もうすぐ日が暮れてしまいそうである。 すぐに薄暗い雪明りを頼りとして、一行はあたりを探索し始めた。 「おーい! どこだぁ! ルー!」 「ユウナぁっ!」 「ユウナ〜ん! ルールーっ、返事して〜!」 すると、雪山に詳しいキマリが一同を諌めた。 「大声をあげてはいけない! 雪崩れが起きる」 「う…。そっか…」 そうこうしているうちに、遥か前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「ここだよー。ちょっと来てっ」 「ユウナっ」 途端に駆け出したティーダの後を、一同も足取り軽く追いかけて行く。 すぐに視界が開けたそこは、なんだかそこはかとなく暖かい…。 しかも、今まで回りを囲っていた雪もすっかり消え、ゴツゴツとした岩肌が露出している。 そしてその代わりに、ほんわりとした靄が立ち込めている。 「ここって?」 キョロキョロとあたりを見回していたティーダの目の前、靄の中からいきなりユウナが現われた。 「わっ! びっくりした!」 「ふふ。あのね、すぐそこにね。温泉が沸いてるみたいなんだ」 「温泉?」 「そう。いわゆる秘湯ね」 続いて姿を現わしたルールーが説明を続ける。 二人して谷底へ落ちた後、上に登る道はないかと探していて見つけたらしい。 「たぶん御山の動物たちが浸かってるんでしょうね。ちょうどいい湯溜まりもあるのよ」 「びしょ濡れになっちゃったし、すっかり冷え切っちゃったことだし」 「温泉〜♪ いいじゃ〜ん。入ろ入ろっ!」 すっかりその気になってしまった女性陣に主導権を取られ、ひとっ風呂浴びていくこととあいなった……という事の次第なのである。 「すっご〜い♪ このお湯ぅ。なんか、お肌スベスベだよ〜♪」 「ほんと。ツルツル。気持ちいいねぇ」 「きっと美容にいい効用があるのね」 女性たちの華やかな話し声を靄越しに聞きながら、少し離れた岩陰に寄り掛かり腰をおろして膝を抱えたティーダとワッカがため息をつく。 「スベスベ、だってよ…」 「美容、ツルツル……」 「ぶふっ・・・」 「刺激、強いっス・・・」 風呂に入ってもいないうちから、のぼせて倒れそうな二人であった。 「あれ? そーいえば、アーロンは?」 一番信頼のあるキマリは女性たちのたっての願いで、湯溜まりの前で見張りをしている。 他の男性どもは近くに寄らせてももらえない状態だった。 「そういや、さっきから姿が見えねぇな。まあ、アーロンさんのことだから、あたりでも調べに行ったんじゃないか?」 キョロキョロと一通り見回してみても、どうもそのあたりに居そうにもない。一人納得しているワッカと違い、アーロンを良く知るティーダは訝しげな顔をしている。 「んー、そっかなぁ。結構、油断なんないだけど、あのおっさん…」 「おまえなぁ…」 「ま、いっか。おっさんのことなんか。それより、ユウナたち、まだかなぁ」 「仕方ねーさ。昔から女ってもんは長風呂って相場が決まってる」 腕組みをしながら、さも詳しそうにウンチクを垂れるワッカにティーダがすっかり感心している。 「へぇ〜、そうなのか。よく知ってるな、ワッカ」 「いや、俺も聞いただけなんだけどよ」 くっくっく、と顔を見合わせ笑いあう、ティーダとワッカ。 ふと、自分たちの後ろの岩を見上げてワッカが思いつきを口にする。 「そういや、この岩、やけにでかいな」 「う、ん。…あの、さ、ワッカ…」 「あん?」 「あっちで、ユウナたち風呂に入ってるはずだよな?」 クィと親指を立てて道の向こうをティーダが指差す。 「あったりめーだろーが!」 「でもさぁ、なんか、やけに声がはっきり聞こえてこないか?」 「・・・そーいや・・・そーだな・・・」 ピンッ! と、二人同時に思い当たる。 「まさか、この岩の向こうって・・・」 「・・・・だな。」 靄の立ち込める道筋を歩いていくと大きく迂回しなければならないが、二人の背後の大きな岩棚のすぐ後ろが女性たちが今まさに入浴している湯溜まりらしかった。 「・・・・・」 「・・・・・」 しばらく目を見合わせる二人。 「あ、あのさ…」 「行くぞ!」 遠慮がちに何かを云いかけたティーダを遮り、ワッカがおもむろに立ち上がる。 そして、すぐに岩棚を登り始めたのだった。 「ええぇっ! だ、だめだって、ワッカ!」 「ほらっ、お前も早く来いよ。こんなチャンス、二度とねーぞっ!」 「う、いや、でも…」 その時、再び女性たちの声が岩棚を伝って聞こえてきた。 「あっ、ユウナ〜ん。背中、流してあげる〜」 「うん。ありがと。リュック」(ゴシゴシ) 「相変わらず、ユウナ、色白いわね。羨ましいわ」 「ルールーだって。でも、そんなことより、やっぱりいいなぁ。その胸…」 「だよねぇ。いつかはそんなりっぱな胸に、アタシもなれるかなぁ」 こちら、男性二人組。 たった今の女性たちの会話に、ピキンと固まってしまった状態である。 そして、次の瞬間にはそそくさと二人揃って岩棚を登り始めた・・・。 四苦八苦して登りきった岩棚のてっぺんは、その先の湯溜まりの湯気なのかもうもうと湯けむりが立ち込めていて、まったくといっていいほど視界がきかなかった。 小さく身を屈めて、二人の『覗き』は話し合う。 「(ヒソヒソ)これからどーすんだよ、ワッカ」 「(ヒソヒソ)ここまで来ちまったんだからよ、引き返すって手はねーだろーが」 油断するとツルリと滑ってしまいそうな岩の上を、這いつくばって進んでいくと・・・。 ワッカの手が何かに触れた。 「おわっ?」 「何だよ? ワッカ。大声出すなって」 ワッカが、その(おそらく足らしき)モノの上方を、恐る恐る見上げると。 予想的中! 無表情なキマリの顔が、濃い靄の中に浮かび上がる・・・。 「不心得者は、キマリが許さない!」 「た、は、まっ待ってく・・・」 そして、湯けむりの遥か上空、二つの黒い点が飛んでいったのだった・・・。 「「うっぎゃ〜〜〜〜〜っ!!!」」 「ふっ。まだまだ、青いな…」 二人が吹っ飛ばされた岩棚とは反対側の、まだ少し雪が残るほんの少し小高い崖の上。 その、下の湯溜まりからは完全に死角になっている特等席に、アーロンが座していた。 背後に広がる茜色の空より緋い衣を風に静かになびかせながら、独り、酒を酌んでいる。 「空気は冷たい方から暖かい方へと流れるものだ。そんなことさえ知らんとは。バカな奴らだ」 眩しい白い玉の肌たちを酒の肴に、悦にいりつつ杯を重ねる、伝説の英雄であった。 〜 おしまい 〜 = その後の オマケ = (洗濯・ごしごし編) ティーダ「ワッカが覗こうなんていうから…。(ぐすん)」(ごしごし) ワッカ 「お、お前なぁっ! おめーだってすぐノッてきたじゃねーかよ」(ごしごし) ティーダ「う。。。」 ワッカ 「ったく。人のせいにばっかすんじゃねーや」 ♪パカン♪パカン♪ ルールー「ほらっ! 手がお留守よっ」 リュック「覗いた罰なんだからねー」 ユウナ 「そうそう。しっかり私たちの服、お洗濯してねっ(プン)」 ティーダ「わ・悪かったッスよ。だから、ゴメンって」(ごしごし) ユウナ 「(しばらくは許してあげないっ)知らないモン」 ティーダ「ユウナ〜(泣)」(ごしごし) ワッカ 「んでもよ。これ全部洗っちまっても平気なんか? 乾かすのに時間かかんじゃねーか?」(ごしごし) リュック「へっへ〜ん。大丈夫なんだもんねー」 ユウナ 「うん。濡れたまま着てから、私がみんなにバファイをかけてね」 ルールー「それから私がファイアを弱くかけるのよ」 リュック「そしたら、あっという間に乾いちゃうよぉ〜」 ティーダ&ワッカ「「んなっ、ホントかよーっ!」」 (おそまつ様でございました・・・) |
○あとがき○ |