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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


我がために鐘は鳴る





 ようやくここまでやってきました。
 ユウナ殿、私はあなたを手にいれて、スピラをも手に入れる。
 すべてを無に返すために……。

 こんな悲しみしかない世界など。
 こんな苦しみしかない世界など。
 こんな憎しみしかない世界など。
 こんな……憐れな世界など……。
 誰もそれができないのなら、死すべき人の世を、私が滅ぼしてさしあげよう。
 これは、そのための第一歩。

 さあ、ユウナ殿……。




「お身体の具合は、いかがですかな? シーモア様」
 見開いた私の目に映る物は、生きていた頃と寸分の変わりもない。
「トワメル…か」
「はい、シーモア様。誠に勝手ながら、そのお身体になられること、このトワメルめがお手伝いさせていただきました」
「…………」
「もしも、差し出がましいこととお気を害されたのなら、このトワメル、身命を賭しまして……」
「……よい」
「は…?」
「よくやってくれた、と言ったのです。この身体、気にいりました」
「ははっ、身にあまるお言葉…」
「私にはまだ、やらなければならないことがあります」
「はっ、左様でございますとも」
 トワメルは知らない。
 私がこのスピラを滅ぼすつもりでいることを。
 おそらくは、グアドの族長としてスピラを制覇し、君臨することを望んでいると考えていることだろう。
 ふふ、それはそれで私にとっては好都合というもの。
 可哀想ではあるが、最後の最後まで私の役に立ってもらうとしよう。
 そしてそれは、トワメル、お前も望んでいることだろうから。

 ユウナ殿、いっそ私はあなたにお礼を言いたい。
 よくぞあの時、私を倒してくれたと。
 今、生者であった頃よりも、遥かに力が漲ってくるようだ。
 おそらく、同類と寄ってくる幻光虫を私が拒まず取りこんでいるためだろう。
 私は死人であることを恥はしない。むしろ喜んでいる。
 ひとたび死出の旅路を歩んだことで、死への恐怖を乗り越えた。
 死の枷から解き放たれた私に、もはや恐れるものは何もない。
 それが、あの男、アーロンと私の違いであろうな……。
 ………なるほど、マイカ殿があれほど精力的なのは、こういう訳だったか。
 こういうことならば、もっと早くに……。
 いや、過ぎたことはどうでも良い。
 同類となったことで、私は今まで以上に総老師の信頼を得た。
 もうキノックなど物の数ではない。早々に排除するのみ。
 どうやら死人となったことで、召喚の力は失ってしまったらしい……。
 だが、それさえも私は悔いていない。
 母の影から解放されて、これから私がやろうとしていることへの躊躇いがなくなった。
 もはや召喚など取るに足らぬほどの力を得た私は、己のみで我が望みを叶える。
 総老師の積極的な協力も得られるだろう。
 そして、最後にはマイカも私が………。
 その手始めとして、ユウナ殿、私はあなたを手にいれる。



 ベベル廊の鐘が鳴る。
 幻光虫どもが上空を無数に群れ飛ぶ中、高らかに鳴り響く。
 純白のドレスに身を包んだユウナ殿、美しいその瞳に浮かぶは嫌悪の情だろうか。
 無理もない。あなたはとうにお気づきなのでしょう? 私が死人となったことを。
 そうです、死人であるこのシーモア=グアドとあなたは結婚する。
 どのような決意のもと、あなたは私の隣を歩んでいるのか……。
 強い視線の中に見え隠れする、あなたの抵抗を、私が気づかぬとお思いか?
 従順なフリをしていても、ひたむきな瞳は隠せはしない。
 ユウナ殿、あなたのその緑蒼の瞳が、あなたの本心を私に伝えている。
 ……可愛い人だ。
 容姿だけでなく、その真っ直ぐな意志も、自己犠牲的な決意も、すべてがあなたは美しい。
 純粋な精神、穢れのない存在、あなたはまさにスピラの民の理想の象徴だ。
 そんなあなたを、死人の私が蹂躪してさしあげよう。
 いつか私によって殲滅させられる、スピラの未来と同様に。
 こんな土壇場になっても、まだあなたは迷っていますね。
 何があなたの決意を揺るがせたのか……、想像に難くない。
 過去の亡霊に踊らされるとは、ユウナ殿らしくもない。
 それがあなたの美徳の一つでもあるのでしょう。
 だが、それゆえに、もはや現世に何の憂慮も持たぬこのシーモアに、抗うことなどできますまい。
 さあ、行きましょう、ユウナ殿。
 スピラの滅びの途を、我が手を取りて。


 ああ、どうやら来たようですね、奴らが。
 この厳重な包囲網の中、いかなる策を弄するかと思えば……こう来たか。
 ほう、なかなか派手なご登場のことだ。
 けっこう。せいぜい張り切って、ここまで辿り着くがいい。
 追い詰められた鼠が足掻く姿は、存外楽しませてくれるもの。
 もしも辿り着いたときは、よろしい、ユウナ殿の枷としてお前たちの役割を果たしてもらおうではないか。
 ユウナ殿、あなたの決意がどれほど固くあろうとも、自分のガードたちを見捨てることなど出来はしまい。
 その時あなたがどのような顏を見せてくれるのか……今から楽しみにするとしよう。


「ユウナ!」
 やっと来たか。案外、ベベルの兵士どもも不甲斐ないものだな。
 だが、ユウナ殿、あなたを行かせるわけにはいかない。
 ほう、ようやく杖を取り出しましたか。
 私を異界送りすると?
 無駄なことだと、まだお分かりにならないのか。
 ・・・・・幻光虫が・・・・離れていく……。
 やはりあなたは優秀な召喚士のようだ。
 もしも、あなたがもっと早くに私と出会っていたならば、私の中の、この果てし無い闇を払ってくれたのでしょうか……。
 人とアルベド族との混血。この私と同じように…。
 私と似た環境で育ったあなたならば、私のことを理解してくれただろうか。
 この絶望を…癒してくれたのでしょうか……。
 夢を…………見続けることが…できたのでしょうか。
「やめい!」
 ほほう、マイカ総老師も危なかったと見える。
 それほど生き長らえていながら、まだ異界に赴く気はないと…。
 浅ましきは、生に執着するその醜さか……。
 そんなに生きてなんになる! すべてはまやかしの、このスピラで!

 さあ、ユウナ殿。
 私に、誓いのくちづけを。
 あなたに、死の接吻を。
 捧げなさい、お前の清く儚い唇を。
 尊き乙女の純潔を、この死人に。
 …………やわらかい。そして、あたたかい。
 穢れのない、ユウナ殿。
 あなたに触れれば、もしや、とも思った。
 それは、人としての私の最後の願いでも……あった。
 しかし、もう遅い。
 私は死人。
 もはや。
 引き返す場所など、私たちに残されてはいない…。
「殺せ」


 あなたは飛ぶのか、ユウナ殿。
 私の元から飛び立っていくのか。
 やはり、思うようには事を運ばせてはくれぬか…。
 ならば。
 私はあなたを追っていく。そして……。
 あなたのガードたちをすべて抹消するのみ。
 今の私には、容易なこと。
 あなたさえ我が手中にすれば、虫けらのごとき奴らなど放っておいてやったものを。
 むしろ、光栄と思うがいい。このシーモアの手にかかるのだから。
 ユウナ殿。たとえ仲間がすべて倒れても、あなたは一人ザナルカンドを目指すだろう。
 万が一あなたが辿り着けずとも、この私が必ずザナルカンドへと導く。
 最後の選択のことは、まだあの男…伝説のガードとやらから知らされてはいない様子。
 ユウナ殿、如何なることがあろうとも、あなたが最後に選ぶのは、この私、シーモアだ。
 あなたは私を祈り子として、究極召喚を行い、命を落とす。
 その後のスピラを見ずに済むだけ、あなたは幸せです。
 あなたがもたらすはずの「ナギ節」を、夢見たまま逝けるのですから。
 そう、私はあなたにより『シン』となって、永遠のナギ節を作りましょう。
 すべての生ける者たちを滅ぼして、完全なる死が支配する永遠のナギ節を。
 まやかしの希望しかない、悲しみと絶望しかない、死の螺旋が支配するこのスピラにおいて。
 それが、スピラにとっても最上の方策なのです。

 それが、私、シーモア=グアドがもたらす、永遠のナギ節。



   <了>





○あとがき○
今作は、KEIさんへの98765のキリリク進呈品です。
リクは「FFX・ベベルでの結婚式シーモア視点で」とのことでした。
一応、リク内容はクリアしているかと思うのですが、何故か老師様の一人語りに・・・(大汗)
しかも、場面がちょこちょこ飛んでますし・・・。
自然にこういう形になってしまったので、KEIさん、許されて〜。

本作を書くにあたり、シーモアのセリフ他にruiさんのご助言をいただきました。
ruiさん、本当にありがとうございました。助かりました。
それでもまだ完璧とはほど遠い出来ですが、これが今の私の力量いっぱいいっぱいだと思っています。(でも、まだこれからだって頑張るしっ)

少しでも楽しんで(怖がって?(笑))いただければ、嬉しいですー。

Photo by (C) RARURU. 北の大地の贈り物

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