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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


<テーマノベル>
イヴの夜空はあの人と(アーリュ)
- 幻光舞詩 -




ここはビサイド村。

今夜は、イヴ。

村人たちは誰もその準備のために大忙しだった。
今も、小さな女の子が手いっぱいの荷物を持って足取りも軽く走っていく。
その楽しげな様子にリュックはひとり、ポツンと取り残されたように佇んでいた。
別に忙しくないわけじゃない。
イヴの準備のためにやることは山ほどある。
その手伝いをするために、家族を放り出してわざわざここまで来ているのだから。
だが、いざビサイドに着いてリュックは「来なきゃ良かった」と思ってしまった。

「なんかさ、あたし、あてられに来てるみたいじゃん・・」

ユウナとティーダは常に二人一組で行動している。
他の手などまったく必要なさそうだ。
ワッカとルールーにしたって、喧嘩ばかりしているようだが、ハタから見たらじゃれあっているとしか見えない。
キマリは村の子供たちの人気者で、仕事の合間に(仕事中も)遊んでもらおうと纏わり付いて離れない子達をあしらうのにかなり苦労しているようだった。まるで荷物を抱えるごとく、子供たちを肩に乗せ、目的地まで運んでやる。このちょっとした遊びが、子供たちにはもうたまらないらしい。いくら忙しいから後で、と言っても全く諦める気配も見せずキマリの後をくっついてくる子供たちに、キマリは閉口しながらも、たまに仕事の手を休め、相手をしてやっていた。子供たちと遊んでいるキマリの顔が、やさしく微笑んでいるように見えるのは決して間違いではないのだろう。

「いいよねー、みんな。相手がいてさ・・」

  あたしは・・・・・

胸の中に、こころの奥底に、暗い大きな空洞がある・・・
その虚ろな空間にリュックの精神はもちろん、この身体でさえも吸い込まれてしまいそうだ・・

  こんな想いを、これからずっと抱えていくのかな・・・


『何をなくしてしまったのか わからないくらい 多くのものを なくしました・・・』

  ホント、そうだよね。ユウナん。
  なくし過ぎて、何が大事なものだったのかさえもわからなくなってる・・

リュックはそっと村の喧騒から離れていった。
その背後から、村人たちの忙しそうな、けれど弾んだ声が聞こえてくる。

『賑やか担当のアタシがこんなじゃ、せっかくの楽しい雰囲気ぶち壊しだもんね・・』



リュックは一人、浜辺へとやって来た。
万が一を考えて、船着場から遠く離れた入り江へとさらに向かう。

同じ浜辺ではあっても、そこはまるで隔離されたようになっている。
すでに夕陽は姿を隠し、暗い海面にかすかに残された朱いきらめきが残っているばかりだ。

一人になりたかった。
年に一度のイヴの夜。
一緒にいたかった人は、もう、・・いない・・・。

『ユウナんはいいよね。でも、アタシは・・』

同じ辛さを共有していたはずのユウナは、ティーダが戻ってきたことでリュックと正反対の立場になってしまった。

砂浜に腰を降ろし、立て膝をギュッと抱きしめる。

考えまいと頑張った。
普段はそんな素振りなど微塵も感じさせないほど明るく、いつものリュックを、演じていた。

だけど、こんな夜は・・・・。


軽口ばかり、叩いていた。
いつもいつも、小娘と馬鹿にされながら、反発を繰り返していた。

でも。

「楽しかっ、たぁ・・・」

いちいちかまってくれるのが、嬉しくて嬉しくて、ついまた反抗して・・・。

膝を抱く両手が震えている。
知らず知らず、全身に力が入っているようだった。
唇をキュッと噛みしめながら、リュックは顔を両腕の間に埋めた。

「ぁー・・。さびしい、よぉ・・」

思わず、小さく本音が漏れる。
そうしなければ、この訳の分からない気持ちの奔流に押し流されそうな気がして・・。

  泣きたくない。
  絶対、泣くもんか。
  泣けば、あたしは弱くなる。
  そしたら、ひとりで立っていらんなく、なるよ・・・

しばらくそのまま、まるで耐えるかのようにジッとしていた。


「?」


何かに、誰かに呼ばれたような気がして、リュックは顔を上げた。


「!!!」


そこには、幻光虫がいた。

あたり一面を覆いつくすように、リュックの回りを囲んでいた。

「な、なに?これぇ?」

そのあまりの数に、リュックは自分が幻光虫の海の中にでも迷い込んだのかと錯覚しそうだった。
幻光虫たちは、リュックの身体のまわりだけを僅かにあけ、霧のように静かに漂っている。
まるで幻光虫の海のごとく・・・・・。

リュックは幻想的なその光景に、しばし我を忘れて見入っていた。

と、その中の一匹がリュックの方に近づいてくる。
静かにふわふわと・・・。
悪意らしきものは、まったく感じない。
リュックはそのまま、その幻光虫を見守っていた。

すると、フッと幻光虫がリュックの身体を通り抜けた・・・。




       その瞬間





       想いが




       流れる






   ・・・・なみだが・・・・





   ・・・あふれて・・きた・・・






   ・・・アーロン・・・!









     幻光虫が 舞う

       幻光虫が 舞う

     伝えられなかった この想い

       せめて心の ひとかけら

     届けて欲しいと 請い願う



     幻光虫が 舞う

       幻光虫が 舞う

     淡くはかない その様は

       まるで私の 心もよう

     あてなくさまよい 涙する



     幻光虫が 舞う

       幻光虫が 舞う

     硬く閉ざした いましめの

       心のとびら 解き放つ

     まぼろしのひかり あたたかく・・・






「アーロン!」





幻光虫が届けた、想い・・・。

あたたかくつつみこむような・・・・・。


  アーロンも、アタシと同じ気持ちで、いてくれたんだね・・・。

  うん。

  がんばるよ。アタシ。

  イヴにこんな素敵な贈り物もらっちゃったら、いつまでもくよくよなんてしてられないもんね。



涙でぐしょぐしょになってしまった顔を拭いもせずに、リュックは唇を噛みしめながらもふっきれたように泣き笑う。


「はあ〜〜」


そのまま後ろに大の字に倒れこみ、幻光虫のさざなみの中、覗く夜空を眺める。まるでそこだけポッカリと穴が空いたように星空が見える。幻光虫の幻想的な海の中、淡い光りの洪水も、星の煌きには遠慮しているかのように・・・。


  今夜はこうして幻光虫に囲まれて眠っちゃお・・・。

  いいよね。今夜、だけ・・。

  ね、アーロン。



夜空の真中、ひときわ高い位置にある青白く光る星が、まるで返事をするかのごとく、瞬いた・・・。







               -- END --



<テーマノベル>として「一緒にTALK」に投稿した作品です。

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