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〜 FF NOVEL <FFX> 〜
by テオ


幻光河に想いを馳せて
《アーロン回顧録》


シパーフがゆっくりと幻光河を渡っている。


「ねえ、見て!」

ユウナがティーダを呼び寄せ、川底に沈んでしまった廃墟を見ている。
その様を見ていたアーロンは、軽い既視感(デ・ジャ・ヴ)に隻眼を細める。

遠い昔、同じ様に川底を覗き込んでいた二人。
懐かしい日々が今も鮮やかに蘇る・・・。



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「何をぐずぐずしているんだ。ジェクト!もうブラスカ様はシパーフ乗り場の方へ向かわれたんだぞ!」

いきり立つアーロンを横目で見ながら、幻光河の河岸に横向きにゴロンと不貞寝(ふてね)をしていたジェクトは、さも面倒臭そうに片手で支えていた頭だけ上げて答えた。

「ああん?ナニそんなにキリキリしてんだ?アーロン。急ぐ旅でもねーんだろ?」

その能天気な言い草に、アーロンはキレそうになる自分を必死で抑えながら怒鳴り返す。

「なっ! 誰のせいでこんな所で二日も足止めされたと思っているんだ!」

「!」

ジェクトの今一番痛いところを、突かれた。

「・・ってるよ」

小さ過ぎるジェクトの声に聞き返すアーロン。

「今、何と言ったんだ? ジェクト」

さすがのジェクトも上体を起こし、うつむき加減に答える。

「わかってるさ。オレのせいだよ。だから、もう酒はやめたつっただろーが」

いつになく殊勝なジェクトの態度に、アーロンは多少面食らう。
だがそれでも言い足さずにはいられないかった。

「わ・わかっているなら、何故こんなところでウロウロしているんだ?」

アーロンの言葉を聞いているのかいないのか、ジェクトは改めてあぐらを組みながら、遠い目で幻光河を眺めて言った。

「ただ、ちぃーとばかしよぉ。思い出しちまってな」

今度は怪訝な顔で訊ねるアーロン。

「思い出す、とは?」

今まで見たこともない穏やかな、寂しさのない交ぜになった表情を見せるジェクトに、アーロンの先ほどまでの語気の荒さが消えている。

「いや、なんてこたぁねーんだけど、よ」

アーロンに振り向くことなく、ジェクトはまるで独り言のように呟く。

「あれは、あいつがいくつの時だったか・・・。
 ガキがよ、酒をやめろって言い出したことがあってよ。
 いつでもやめられるんなら、今すぐやめろ、ってな」

そこでジェクトは1回言葉を切って、小さく笑った。

「へっ!あん時、やめてやりゃ〜良かったか、ってな。
 そうすりゃ、あんな無様な真似を晒すこともなかっただろーしな。
 それに・・・」

いつものジェクトの尊大な態度からは推し量ることなどできない微かな憂いを感じ、先を促すアーロン。

「それに?」

「それによ。
 あん時やめてりゃ、ガキを泣かすこともなかっただろーに、ってな・・・」

「・・・・・」

アーロンは、初めてジェクトの父親としての姿を垣間見たと思った。
いつもはただの乱暴者としてしか映らない、ジェクトのもう一つの顔。
子供のいない自分には、こんな時なんと言っていいのか解らない。
ブラスカ様なら何か気の利いた言葉のひとつでも掛けてやることも出来るだろうに・・・。

ジェクトは軽く首を振り、自重気味に再び笑う。

「は! 今更言ったって、しょーがねーことだけどよ。 さ、行くかっ」

言うが早いか掛け声と共にジェクトは立ち上がると、真剣に考え込んで立ち尽くすアーロンをそのままにサッサと歩き出す。そして行きがけにクルリと振り向いて、大声でアーロンに呼びかけた。

「おい! 行っちまうぞ、アーロン! なにボケっとつっ立ってんだぁ?」

遅ればせながら、置き去りにされたことに気が付いたアーロンも慌ててその後を追う。

「あ、おい! 待て、ジェクト! まったく、迎えに来たのは俺なんだぞ!」



ジェクトが酒に酔ってモンスターと間違え切りつけたシパーフは、ブラスカの回復魔法のおかげで外傷は癒えたものの、ショックはすぐに消えるものでもなく、急遽別のシパーフが用意されていた。いつものんびりと日々を過ごしているハイペロ族たちにはいい迷惑だったことだろう。しかも事件を起こした当の召喚士一行のために、事を急がなければならなかったのだから。


悠々と歩いてくるジェクトの後から、何故か迎えに行ったはずのアーロンの方があたふたと走ってくる。
シパーフ乗り場の前で待っていたブラスカは、いつの間にか立場が逆転している二人をにこやかに出迎えた。

「待っていたよ。遅かったねぇ。アーロン」

「も・申し訳ありませんっ! ブラスカ様っ!」

少しだけ乱れた息を整えながら、はからずもブラスカを待たせてしまったことにアーロンはすっかり恐縮してしまっている。その様子に苦笑しながら、今度はジェクトに話し掛けるブラスカ。

「ジェクト。少しは落ち着いたかい?」

「ぁあ? ああ。 ぁー、その、悪かったな、ブラスカよぉ」

「!! ジェクトっ! お前またブラスカ様を呼び捨てに・・」

「ああ、いいんだよ。アーロン。私は別に気にしてないから」

「俺が気にするんですっ!」

「ったくよ、んなことでいちいちカッカすんじゃねーよ。ケツの穴の小せー野郎だな」

「!!! けっ、ケッ、ケツの・・・(絶句)」

「だぁ〜はっはは。なぁ〜に顔真っ赤にして笑ってやがんだぁ〜、アーロン」

「・・く・くっくく」(笑っている)

「俺は笑っているのではないっ! ブ、ブラスカ様まで。ひどいですっ」

「ま、まあ、アーロン、落ち着いて。 ・・く・くく・・・」(まだ笑っている)

「もういいですっ! 俺、先に行きますっ!」

プンプンと頭から湯気を出しながら、シパーフ搭乗用のカーゴに乗り込むアーロンだった。ジェクトとブラスカも腹を抱えながらその後に続く。いつものように。


シパーフに乗ってしばらくすると、初めての光景に興味津々であたりに見入っていたジェクトをブラスカが呼んだ。川底に沈んでいる廃墟を見せるために。それを見てジェクトは思わず息をのんだ。


「すっげー、な」


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思い出の情景が、現実のそれに重なる。

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「すっげー、な」


これはティーダの声だ。

アーロンは思い出から現実へと意識を引き戻し、目の前の二人をまざまざと見直した。

ブラスカとジェクト。
ユウナとティーダ。

そして、どうしてあの時のことをこんなにも鮮明に思い出したのかを納得した。

『やはり、親子、だな』

無意識の行動の端々に面影がチラつく。
ユウナとブラスカにも当てはまることだが、それでもティーダとジェクトの比ではない。
思い切り反発していても、口ではいくらけなしていても。
親子、なのだ。まぎれもなく。


幻光河が見せた真昼のまぼろしに、遥か昔に過ぎ去ってしまった日々を垣間見た。


つらくとも懐かしい楽しき旅を。



幻光河の淡いひかりにけぶる向こう岸へと、アーロンは夢幻の想いをその視線に乗せて、見つめていた。



「一緒にTALK」に投稿した作品です。

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