「そっち、行ったよー」
リュックの声がかかる。
「了解っすー」
オレは返事と共にフラタニティを構える。 マシン系はリュックに任せておけば大丈夫だ。 だから、オレたちはフラフラと宙に浮いてるこいつらだけに集中すればいい。
「ほれっ」
大きく振りかぶって、フラタニティを叩き込む。 だけど、こいつらは致命傷でない限り、だんだんと大きくなっていく。 やっぱり、ルールーかワッカに代わってもらった方がいいかな。 ちょっとどころか、かなりオレの剣との相性が悪いみたいだ。 くっそぉ、やっぱ、さっきのオオアカ屋で剣でも買っとけば良かった。
あ、一匹はおっさんがやったみたいだ。 へぇ〜、案外やるじゃん。 ああいうの苦手みたいなのにな。 おっと、んなこと言ってられないや。 もうこの一匹だけなんだから、さっさと終わらせなきゃ。
「はっ」
たぶんこれで終わりだと思い込んで、飛び込んでいったまでは良かったんだけど……。 僅かに致命傷じゃなかったみたいで、さ。
ボゥ〜〜ン!
結局、爆発しやがった!
「うわぁっ!」
「! ティーダッ!」
ワッカの声がしたような気がした。 だけど、その時オレはボムの爆発で弾き飛ばされて、細い雪道の横に大きく口を開けているクレバスの中に吸い込まれていた。
「ティーダ〜〜〜〜!」
雪と共に落ちて、次第にフェイドアウトするオレの意識にかすかに声が聞こえた。
『あれは、ユウナ?』
そこで、闇に落ちた。
「痛っ」
何かが頭に当たった衝撃で目が覚めた。 一気に頭をぶるんとふるって、ぼやける視界と意識の覚醒を早める。
『そっか。オレ、クレバスに落ちたんだっけ』
だけど、運のいいことに途中の岩棚か雪溜まりに引っかかったらしい。 どれくらい落ちてしまったのか、上を見上げて確かめようとすると、聞きなれた声がした。
「ティーダーっ」
オレは自分の顔がパッとほころぶのがわかった。
「ユウナッ」
「! ティーダ?! だいじょうぶ?」
オレの声にすぐに反応が返ってきた。しかも、すごく嬉しそうな声だ。 もっと安心させるために、オレも弾んだ声をあげていた。 てか、自然にそうなっちゃったんだけどな。
「うん!なんか大丈夫みたいだ」
声の反射もそれほど響かないところをみると、深く落っこちた訳でもないらしい。 それからは、リュックやワッカ、キマリとも話してロープを下ろしてもらい、無事にみんなのところへ戻ることができた。
なんてことはない、戦闘には付き物のちょっとしたアクシデントだったんだけど……。
今までと少し違っていたのは。
オレとユウナの距離。
マカラーニャの泉で、ユウナはオレの目の前で涙を見せた。 それまで張り詰めていたものが、ポロポロと零れるように。 一度、切れてしまった糸は脆くなりやすい。 オレの無事な姿を見たユウナは、目にいっぱい涙を貯めていた。
「心配、したんだよ」
「うん。…ごめん」
仲間たちが目配せしているのにも気付かないほど、お互いしか見ていなかった。
「先に行っている」
アーロンが声を掛けてくるのにもうわの空で答えていた。 みんなに、助けてくれた礼を言うのも忘れていた。 それくらい、ユウナしか目に入ってなかったんだ。
その時のオレは。
余りにも多くのことを語っている、ユウナの揺れる瞳に絡め取られて…。
複数の雪を踏みしめる音が背後に消えていく。 ユウナの森色の瞳の方から、一筋の滴が零れた。 どちらからともなく近づいて、しっかりと感じる暖かい身体。 ふわりと胸に飛び込んできたユウナをその冷たくなった両手ごと抱きしめる。 氷のような小さな手がオレの胸に触れる。 その冷たさに一瞬たじろぎ、思わず腕に力を込める。
腕の中の小さな頭がわずかに身じろぐ。
「どうしちゃったのかな? 私……」
「ん?」
少しばかり腕を緩めて、ユウナの顔を覗き込む。
「だって、こんなに泣き虫に、なっちゃった」
困ったような嬉しいような、そんなユウナの顔を見ていたら。
「あはっ! オレのせい? だよな…」
オレの前でだけ、自分の弱い所を隠せなくなったユウナ。 愛しくて、少しでも安心させてやりたくて。 おどけた素振りをしてみせる。
「ふふふ。…だね」
降りしきる雪も解けて恥らう、その笑顔。 ユウナに掛かる雪を、オレは自分の身体で覆い妨げる。
ひんやりと最初に触れた唇は冷たかったけれど。
互いの吐息で次第に熱く、溶けていく。
息をつぐ間も惜しんで交わすくちづけに、肌にかかる雪でさえ暖かく感じてしまう。
名残惜しげに離れた唇が、次に目指すはほのかに色づくユウナの頬の奥。
華奢な身体を抱く両腕に愛おしさを込めて、栗色の髪ごしにそっと囁く。
「好きだ ユウナ」
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