瑠璃色のとき | |
「ユウナ……」 「…あ…」 優しくユウナを背後から抱きしめていたはずのティーダの手が、ゆっくりと意志を持って動き始めている。 柔らかなふくらみを手の平におさめるように。 カッと顔を赤らめて、ユウナは急に落ち着かない気分になっていく。 ―― わかってる、わかってるんだけど… 無駄なあがきと思いつつ、身体をこわばらせ、ずらそうとしてしまう。 服の上からでもわかってしまう、そのユウナの微妙な変化に、ティーダはピタっと動きを止めた。 ―― ユウナ、恐がってる? けれど、決して嫌がっているのではないことだけは、わかる。 ならばと、ティーダはユウナの背後から、ほんの少し髪から覗いている耳に唇を寄せた。 ピクンと竦 耳元に、首筋に、頬に、目元に。 そして、手を添えられて振り向かせられた、くちびるに。 「…あ……ぁ…」 ティーダの唇が触れたところから、次々と火がついて、ユウナはもう身体全体が熱くほてってきてしまっていた。 ふと、違和感を覚えたティーダの動きが止まり、ボソっと小さく呟いた。 「これ、邪魔。」 「?」 何だろうと、ユウナが熱で潤んだ瞳を向けると、ティーダがグローブを乱暴に脱ぎ捨てているところだった。 「……ふふっ。」 今頃そんなものを外すなんて、ティーダもユウナと同じく緊張していたんだとよくわかる。 ―― うん、おんなじなんだよね。 離れていた距離と時間を、早く埋めてしまいたいこの気持ちは。 求めて求めて、でも、いざとなると恐くて…… ―― だけど… ティーダが脱ぎにくいグローブをやっと外して顔を上げると、ユウナが真っ直ぐにこちらを向いていた。 そのまま、露 「あったかいね…」 重ねた自分の両の手ごと、ユウナの方から頬を摺り寄せる。 薄紅に上気した、やわらかくてしっとりとしたユウナの頬。 「…っ! ユウナっ!」 その瞬間、なるべくユウナを恐がらせないようにと気遣っていたティーダの意識が飛んでしまった。 ティーダの脳裏にあるのは、ただただ、ユウナへの愛おしさだけ。 狂おしく求め続ける、ユウナへの、この想いだけ。 ティーダは激しくユウナを抱き寄せて、むさぼるようにくちづける。 息をするのも忘れるほどに、長く……熱い、くちづけ。 大きく開いた窓の外から、新月だというのに星明りが騒がしく瞬いて明るく二人を照らしている。 遠い潮騒と近くの木々のざわめきが、静かな瑠璃色 ユウナが息も絶え絶えになった頃、白い布に皺を寄せて寝台に倒れこんだ二人。 もどかしげに脱がされていく衣服。 その間にも、ずっと繰り返されるくちづけは、ほんのひと時の間でも離れていたくないという二人の想いそのもので…。 若さゆえ、もうお互いに何も考えられず、ただ一つになることだけを追い求めていく。 「……んっ…ティ……ダっ!」 ユウナの白い肢体が、ティーダの褐色の肌に覆われる。 互いの肌の触れ合った部分が、火傷しそうなほどに熱くて熱くて……。 「ユウナ、ユウ…ナ…」 名前を呼び合うことしかできない。 だけど、それだけで、充分過ぎるほどの幸せを二人は感じていた。 「…あ……ぁ……―――――― っっ!」 初めて、二人一つになれた時、ユウナの蒼と翠の瞳から清らかな雫がこぼれ落ちた。 それを、自分も潤んだ目をしながら、ティーダがそっとに静かに唇でぬぐいとる。 今まであった様々なことが、瞼の裏を通り過ぎていく。 決死の覚悟。 悲しい現実。 辛かった別れ。 信じて、待ち続けた時間 支えてくれたたくさんの人たちへの感謝の気持ちとともに、それらすべてが、互いの吐息の中に甘い夜のしじまとなって折り重なり融けていく。 白き腕を薄闇に舞わせて、ユウナがティーダの両頬を包み込む。 「これからも、ずっと…一緒だね…」 そう言ったユウナの至上の微笑みに、一瞬、目を細めて、ティーダが強く頷く。 「ああ! ずっと!」 そして、再びティーダの唇がゆっくりと降りていった。 若い二人の果てのない幸せな夜は、これからも続いていく…。
Illusted by Yusuke
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○あとがき○ |