エースたる者…
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ルカへと向かう船の上。 ティーダとユウナが甲板の舳先で気持ちのいい潮風を受けて、仲良く寄り添っている。 船はルカで行われるブリッツの大会へ参加する選手たちで満杯だった。 二人の仲睦まじい会話が聞こえてくる……。 「ねぇねぇ、あのね、私もブリッツやるんだよ」 「えっ!?」 心底意外そうなティーダの驚く様子を見て、ユウナは楽しそうに笑った。 「ふふふっ、リュックとパインもね、一緒なんだ。他にもアニキさんとか、ダチさんとか、シンラくんもね」 「……へ、へぇ…」 思いっきり不満そうな顏のティーダ。 あんな奴らと一緒にされたくない……という気持ちが、ありありと浮かんでいるような……。 「あ、そうだ!」 「なに?」 話題が変わりそうなことに、嬉々として先を促すティーダ。 「うん、そう言えばね。この間、やっとトレードできたってアニキさんが言ってたんだよね」 「…………………」 心なしか顔色が悪いぞ、ティーダ。 「カモメ団からトレードしたのは、この間入ったばかりのリンさんで。リンさんったらね、ゲームそっちのけで対戦相手に商売ばっかりしてるって、アニキさんが怒ってたんだ〜」 「ふ、ふ〜ん……」 気乗りしないティーダの様子に気づかないユウナ。 「でね、そのトレードした相手っていうのが……」 「あ、ほら、ユウナ! ワッカが呼んでる!」 そう言って、ティーダはちょうど甲板へと出てきたばかりのワッカを指差して、ユウナを追いたてる。 「え? ほんと? ワッカさんが? 私、聞えなかったんだけど……。なんだろ?」 実際には呼んでないんだし……。 「うんうん、だからほら、早く行くっスよ!」 「…うん、そうだね。えっと……」 「オレなら、ここで待ってるからさ。ほら、急いで」 「あ、じゃあ…。行ってくるね」 ワッカの呼び声が聞えなかったユウナは、半信半疑で、それでもティーダに急かされてワッカの方へと急ぎ足で歩いて行くのだった。 残されたティーダは、ユウナがいなくなると脱力したようにしゃがみこみ、ほぉっとため息をつく。 「あー、どうすっかなー。これから……」 自分でもどうしようもなく、頭を抱えて途方にくれるしかないティーダだった。 今ではビサイド・オーラカのれっきとした監督となったワッカは、今回はちゃんとリーグに出場するためにルカへと向かっている。 ルールーのお産も無事終わり、息子に父親として名前をつけたことで、ワッカも男として一段と成長していた。(成長?) 前回のリーグは、生まれてくる子供のことで頭がいっぱいで、ワッカはブリッツどころではなかった。ワッカもティーダもいないオーラカでは、リーグ出場もままならないとは、なんとも情けないことではあったが、事実なんだからしょうがない。 しかし、ワッカもやっと落ち着き、ティーダも復活した今、オーラカはまた以前のように活気を取り戻し優勝を目指して燃えていた。 「ワッカさん」 「ん? ユウナ?」 「用事ってなに?」 別に呼んだ覚えなどないから一瞬戸惑うワッカだったが、ユウナの明るい顔を見て思い出したことがあった。 「ああ、そういや、ユウナ」 「うん」 ニコニコと小首を傾げ、両手を後ろに組んでワッカの問いかけを待つユウナ。 「おまえ、今度のブリッツの試合に出るってホントか?」 「うん、そうだよ。カモメ団として」 「ほぉ、やっぱりそうだったか。いや、俺ぁオーラカの連中がそう言ってても、どうにも信じられなくてな」 「ふふっ、そうかもね。前の私だったらとても考えられないことだもんね」 「……変わったんだな、ユウナ」 「でしょ? 私も自分でそう思う」 ころころと楽しげに変わる表情は、以前は決してみられなかった。重い責任から解放されて、ユウナは今、とても楽しそうだ。 眩しげに目を細めて、ワッカはユウナに宣戦を布告する。 「そうと決まりゃ、俺たちだって容赦はしないからな」 「望むところです。かかってらっしゃい」 手を腰にあてグイと胸を張るユウナに、プッとワッカは吹き出した。 「はははは! 言うようになったな、ユウナ。おっし、俺らも気合入れていくぞ!」 「前回の優勝チーム・カモメ団を甘くみると、痛い目にあうんだからね」 パチンとウィンク付きの偉そうなセリフも、ワッカをかえってやる気にさせる。 「おうさ、前回はオーラカが出てなかったからな。真の勝者は俺たちだってことを示してやるさ。うちのエースも戻ったことだしな」 「ふふっ、カモメ団だって、すごいエースがいるんだよ」 「へぇ、そりゃあ初耳だな。例のパインって子か?」 「ううん、今度ね、トレードでうちに来たみたい」 「みたいって、ユウナはまだそいつに会ってないのか?」 「うん、まだトレードできたばかりだから」 「ほ〜、そりゃ、対戦すんのが楽しみだな」 「ワッカさん、覚悟しておいてね」 「そっちもな」 そうして、お互い不敵に微笑みあって、その場を離れたのだった。 まだしょぼくれていたティーダのところへ、ユウナが戻ってきた。 「ティーダ、お待たせ」 ギョっとして立ちあがり、振り返るティーダ。 「おっお帰りっ」 ティーダの慌てように、キョトンとするユウナ。 懸命に取り繕って、ティーダが聞いてきた。 「えっえっと…ワッカ、何だって?」 内心大焦りしながらも、先ほどの自分のウソがバレていないか確認するように…。 「うん、今度の試合のことでね」 「そっそうか……」 勝手に言ったでたらめが、なんとかごまかせていたことにホッする。 「でね…」 「あっあのさ、ユウナ」 またさっきの話題に立ち戻っては一大事とばかりに、ユウナの言葉を強引に遮るティーダ。 「…? なあに?」 「えっと、えっと、…………そ、そう、カモメ団のみんなは? なんでユウナと一緒じゃないんだ?」 やっとのことで、別の話題を思い付いてまくしたてる。 「あ、そだね。あのね、みんなは一足先に飛空艇でルカへ行ったんだ」 「そ…そうなんだ…」 せっかくの話題も、あっという間に途切れそうで、ティーダは再び焦りまくる。 「私は……少しでもキミと一緒に…いたかったから……」 と言って、ほんのりと頬を染めるユウナ。 「…ユウナ」 いじらしい乙女心を惜しげもなく晒したユウナの言葉に、心の葛藤をしばし忘れてティーダは彼女の肩を抱く。そして、肩に回す手に力を込めて、囁いた。 「そうだよな、やっと逢えたんだもんな」 「……うん」 そのまま二人の世界に突入してしまった、彼らの傍に近づこうとする無粋な輩は誰もいなかった。 船は一路、ルカを目指す。 ティーダの重要な問題は、未解決のまま……。 そして、ブリッツの試合当日。 ティーダはルカスタジアム内を掛け回っていた。オーラカとカモメ団から逃げるために。 「おーい、ティーダー! どこだー! もうすぐ試合始まっちまうぞー!」 「どこに行ったんだー、うちのエースー! お〜い〜!」 今日のカードは、いきなり緒戦からビサイド・オーラカ対カモメ団。 当然ティーダはオーラカに選手登録されていて……。 そして、カモメ団に新しく登録されていた選手の名前は……。 <<エイブス・エース>> どこかの版権元の策略で、ザナルカンド・エイブスがチームとして登録されていたことも、いつのまにかエイブス・エースとしてカモメ団にトレードされていたことも・・・。 ティーダ本人の預かり知らぬところで、行われていたことであって・・・。 「どうすりゃいいんだよーっ!」 <おっしまいっ> チャンチャン♪ おそまつさまでしたっ m(__)m |
○あとがき○ |