<テーマノベル> イヴの夜空はあの人と 〜 ちょこっとラブコメ・FFVI 〜 |
妙齢の美女が走っていく。 ものすごい形相で、いや憤怒の顔で、もとい般若の・・・・・ とにかく、すごく怒った顔をしてその女性・セリスが走っていた。 気だるい夕陽の名残り陽が、厚い雲の隙間からわずかに朱く彩る港町。 その高台の坂の上。 古い石造りの洋館を目指して。 目的地は、もう、すぐ目の前。 バアァーーーン 「ローーーーーックッ! ロック・コーールッ!」 勢いよくドアを開け、ロックの家へと撲りこ・・・入っていった。 家の中には、当のロックと他二人。マッシュとエドガー。 三人はただ今、今夜のイヴ・パーティーのごちそうをつまみぐい中・・・。 セリスの勢いに、ギョッと一瞬手が止まる。 だが、ロックはキョトンと 「はへ?へひふ?」(あれ?セリス?) 口いっぱい頬張ったケーキをモゴモゴ、お食事中。 しかも、その口のまわりにはケーキのクリームべっとりと。 「ほうひはんら?」(どうしたんだ?) もごもぐ・・・・ゴックン ドアを入って仁王立ちになっていた、セリス。 つかつかとロックの前に進み出て、掴みかからんばかりに襟をとる。 が、口のまわりのクリームに気づき、一瞬、怒りも忘れて、微笑んでしまう。 『まっ!ロックったらいつまでたっても子供みたいなんだから・・・』 そこは、それ、恋人同士。 今の今までカンカンに怒っていたのも忘れ去り、自分で立ち上がらせたロックの斜め上の口元へと爪先立ちで背伸びして、 ペロリ ロックの口元のクリームを思わず舐め取る、セリス。 「!」「?」「?!」 びっくりしたのは、その場に居合わせた三人ともども。 ア然として、開いた口が塞がらない・・。 しかし、ロックは何を勘違いしたのか、そのまんま、 セリスを逆にガバッと抱きしめて、いきなりそんなの、ディープキーッスッ! 「んん?!? んんん〜〜〜〜!」(ロック!? 何を・・・・!) ・・・・・ ・・・うっとり・・・ 予想外の行動にされるがままのセリスもすぐに、ケーキの甘さも手伝ってロックの首に手を回し、恋人たちの甘々タイムに突入中〜。 情けなくも手にしたチキンもそのままに、ポカンと事の次第を見ていた二人。 エドガーとマッシュ、あたふたと眼のやりばを模索中・・・。 マッシュは慌てて両手で、眼を塞ぐ。しっかり、指の間から覗きながら。 エドガーはさすがに恋の練達者。軽くそっぽを向いただけ。これもしっかり、横目でチラリ。 外野の様子もお構いなくの、恋する二人のラブシーン。延々続きそうなその雰囲気に、さすがに咳払いのひとつでもしようと思ったその時に、その場に似合わぬ声一つ。 パタン 「パイも焼けたわよー」 となりのキッチンから何も知らずに入ってきたのは、エプロン姿も可愛らしいティナだった。 当然、目の前の様子に驚き、動きが止まる。が、驚いたのはこちらの恋人たちも同様で。 「!」 「!」「!」 ハッと気づいて、パッと飛びのくロックとセリス。 今更ながらにみんなの前だと気づいた二人。 ちょっとモジモジ照れながら、先に我に返ったのはティナを見つけたセリスだった。 「あ。そうだった!」 自分がここに怒りながら来た理由。やっと思い出したのは良かったが、先ほどの怒りはもう既に雲散霧消の彼方へと・・・。 『まったく、いつもこの手でごまかされるんだから・・・』 チッと舌打ちしたい思いのセリスだったが、なんとか塵となった先ほどまでの怒りをかき集め、やっと話が先へと進む。改めてロックの方へと向き直り、セリスが詰め寄るその話とは。 「ロック!あなた、<オレが守ってやる>って他の人にも言ってるんですって?」 へっ?と驚いたのはセリス以外の皆々様。 『いまさら?』 そう、ロックのそのセリフはもう有名。困っている女性を見るとついそう言ってしまう、ロックのもう習性と言ってイイほどのその事実を、まさか今の今まで知らなかったのか、セリス・・・。 なんとも複雑な顔をしているみんなの様子から、知らなかったのは自分だけだとやっと悟ったセリスだった。 キッとティナに視線を定め、詰め寄るように問い掛ける。 「まさか、ティナ、あなたも?」 「あ、と、その、え〜と・・・」 パイを手に持ったまま、しどろもどろの可哀相なティナだった。 「そう、そうだったの。今まで私だけが知らなかったって訳ね」 沸々と湧き上がる新たな怒りに身を震わせて、セリスは芝居ッ気たっぷりに悲劇のヒロインよろしく嘆きの仕草。さすが舞台経験者!慌てたのはもちろん、ロック。そんなつもりは無いものの、結果は騙したことになり・・。 「セリス、それはその・・・。確かに言ってるけど、オレが今好きなのは・・・」 「もう、いいわっ!もう、もう、ロックなんか知らないっ!」 何のかんのと言いながらも単なる痴話げんかに過ぎないのだが、そこに話を又ややこしくしてくれる奴の登場・・。 バサバサーーッ 「はっはっは、そうですか。セリス、やっと晴れて自由の身に・・」 暖炉横の大きな出窓からいきなり入ってきたのは、黒マントを粋に着こなすセッツァーだった。 「おいっ!おまえ、いったい何処から入って来てんだっ」 マッシュのツッコミもまったく無視して、セッツァーはここぞとばかりにセリスに迫る。 「常日頃からあなたに似合うのは私しかいないと、機会を伺っていたのですよ」 つい、とロックを指差すセッツァー。ロックはムッしつつも、言い返せない。 「こんな盗賊ふぜいよりも、大海賊セッツァーの方があなたにより相応しい・・・」 へ?海賊?どこが?という外野のツッコミの声にもまったく動じず、 どこから出したか、バラ一輪。セリスに差し出し、にじり寄るセッツァー。 しかし、こういう展開になってくると黙っていられないのが、フェミニスト・エドガー。 「ちょっと待ちたまえ。今更それはないだろう。セリスは私も狙って・・いや、眼を付けて・・コホン。その、機会があればと見守っていたのだ」 『ああ、兄貴。まただよ、あの悪い癖・・』 片手で額を覆いつつ嘆くマッシュを気にもかけず、エドガーもセリス争奪戦に参戦宣告! 当のご本人、セリスはと言えば、 『あ、あら、まあ、私って、意外と・・・。うふっ』 事の起こりもコロッと忘れ、自分を巡る争いの予感に思わず喜ぶのは女のサガか・・・。 が、ふと気が付き、セリスが部屋の隅に目をやると そろり (抜き足) そろり (差し足) そろり (忍び足) ツツツツツーーー ロックがセッツァーの入ってきたのとは反対側の出窓の方へ・・・。 「!!! ローーックッ!」 セリスが叫ぶと部屋のみんなも振り返り、ロックもビクッと立ち竦む。しかし、ロックは慌てず騒がず振り向き様にニッと笑い、セリスの方へと手を差し出して、 「おいでっ!セリスッ!」 「え。ええ?」 何がどうなっているのか、さっぱりわからないセリスだが、ロックの笑顔にだけはまったく弱い彼女であった。 「は、い・・」 引き寄せられるように近づいてきたセリスをバッと横抱きに、ダッと出窓から外へと飛び出すロック。 呆然と事の次第を眺めていた部屋に残された人々が、ハッと我に返り出窓に辿り付いた時既に遅し・・。 高台にあるこの家の出窓から下町の教会の屋根へと、いつの間に張ってあったのかロープが一本。 長いロープに滑車を掛けて、つり縄に二人で座れるほどの板を付け、まるでロープウェイのような物に乗って滑り降りるロックとセリス。それを見て、驚くよりも怒るよりも、呆れてしまったその場の人々。 「なあ、あいつ、いつもあんなの用意してるのか?」 「私に聞くな、私に!」 双子の掛け合い空しく響き、セッツァーも行き場のないバラ持て余し、一人ティナが楽しげに笑う。 『クスッ。やっぱり、ロックのやることって面白〜い』 取り残された人たちの思惑など知ってか知らずか、二人乗りブランコよろしく滑り降りる恋人たち。 物珍しい乗り物にセリスは怒っていたことなど、きれいさっぱり忘れ去り、うっとりロックにしがみつく。 すっかり日も落ちた、宵闇の中。 今日は星も見えぬほどの曇天模様。 風もいささか強くなり、肌指す冷気に、白い息。 「あ!ロック、雪よ!」 チラチラと舞い踊るスノーダスト。 その中をゆっくりと滑っていく小さなロープウェイ。 「その、ごめん、セリス。だけど、オレ・・・」 セリスは人差し指をロックの唇に押し当てて、 「もういいわ。でも、これからは他の人に言っちゃダメよ?」 さながら雪の精のようにニッコリ微笑む。 フワフワと舞う雪のように軽いタッチのフェザーキス。 ロマンティックなホワイト・イヴ。 至福の時が二人を包む。 と、その時。 ロックがいきなり、顔を背けた。 「う」 その行動に怪訝な顔のセリス。 「どうしたの?ロック?」 「・・・・・」 「???」 「ロープ・ウェ・・、う、よ、酔った・・う、うげ・・・」 「!!!」(怒) バッチィーーーン! その夜、雪の舞い散る空に、一瞬だけ星が光った・・・・ HAPPY END ? |