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二通の手紙・前編(FF8・ED後)
雪道を勢い込めて滑りゆくそりの跡を思わせるような、達筆な文字が封筒に記されていた。 バラムガーデンの住所と彼の名前、裏をめくれば差出人である懐かしい女性――エルオーネの名前が整然と並んでいる。 小花の押し模様で控えめに飾られた開封口から、薄桃の便箋が姿を現した。白い貝殻を開くと拝める淡い色と、丁度よく似ていた。
初めてお手紙致します。 なんて格式ばってみたものの、何を続けていいものやら悩んでいます。 時節の挨拶をするのも、二人がいる国のどちらも余り季節の変化がないから、おかしいですよね。 再会した貴方はとても無口になっていたので、簡単に会える距離にいないことですし、手紙ならいいかなと思ったのですが。 最初で行き詰ってどうするのでしょうね。おかしなものです。 こんな“おねえちゃん”の気まぐれに、少しだけお付き合い下さいね。
まずはスコール、元気にしていますか? あの孤児院の皆がガーデンに集まっているんだから(まませんせいまでいるんですものね)、さぞや楽しいんだろうな、と勝手に想像しています。 そう書くとあなたは照れてふて腐れるかもしれませんが、せっかく平和になった世界です、どんどん楽しんで、素直に満喫して下さい。 あなたの手がなければ、この世界は訪れなかったのですから。 幸せに、なって下さい。それが、わたしの幸せでもあります。
結果的にあなたのお父さんをあなたから引き離し、あんなに慕われていたのにわたしはあなたから離れてしまいました。 あなたの泣き顔、わたしは今でも忘れられない。 ですから、今度会う時は沢山の笑顔を見せて欲しいです。虫がいいお願いで、ごめんなさい。 あなたに素敵な彼女が出来ていて、あなたが幸せになれそうで本当に良かった。
あなたはもう、わたしの手を必要としなくなって。二人とも別の人生を歩んでいて。 それでも、だからこそなのでしょうか。わたしはあなたを近しい存在に思えてなりません。多分、きょうだいってこんな感じなのかな、なんて。 わたし一人の自惚れかもしれないですね。
わたしの願望ばかりつらつらと書きたてて、自分の近況を報告するのを忘れるところでした。 それとも、興味がないかしら? こういう時、すぐ相手の反応が返ってこないのはいい場合もありますね。スコールには、“興味ない”なんてはっきり言われそうだもの。 エスタではますます忙しくなってしまったラグナおじちゃんの仕事をお手伝いしつつ、その合間にわたしの不思議な力を調べて貰うべく、オダイン博士の研究に協力しています。 スコール達が使うGF(ガーディアンフォース)と、わたしの力は原理として同じですから、GFの記憶を失う副作用を改良出来ないものか、その為の研究だそうです。 この研究によって未来の人が魔女アルティミシアに苦しめられるのかなと、罪悪感がよぎることもありますが。 未来は決まっていない、この言葉を信じたいのです。 スコール達がアルティミシアを倒す以外の、もっと別の、より犠牲の少ない打開策が見つかるかもしれない。そんな僅かな希望にすがっています。
時々、わたしなんか生まれて来なければ良かったと、そう感じたりもします。何故こんな、わけのわからない能力を持ってしまったのかと。 その度に、何の力も関係なく、わたし自身を好いてくれたラグナおじちゃんと、スコール。あなたの存在を貴重に感じるの。 いつの間にか愚痴になってしまって、ごめんなさいね。 それでは、失礼します。
読み始める前も、読み終えた後も、スコールはいつもの仏頂面を崩さなかった。元の三つ折りにたたんだ便箋を、胸に乗せたまま腰を下ろしていたベッドに仰向く。 目をつぶって沈思の海に潜ろうとした彼を、ちりちりした視線が待ったをかけた。 「可愛らしいお手紙、誰からですか〜?」 その言い草も嫉妬丸出し、開けっぴろげなリノアらしい反応だった。瞼のシャッターを上げたスコールに、 「おハロー」 と、とりあえずいつもの挨拶をする。しかし笑顔はお預けらしい。 「おね、……エルオーネからだ」 これで安心するだろうと思いきや、リノアの表情は晴れなかった。怪訝にスコールが身を起こす。 「嘘じゃない」 「わかってる。そんなこと思ってないよ」 「じゃあ、どうしたんだ」 リノアは下唇を噛んで、どう言葉を紡ごうか必死になっている。 「スコールのこと子供の頃から……いっぱい知ってる女(ひと)、だよね」 「そうだな。それで?」 「うらやましいの」 「仕方ないだろう」 にべもないスコールに、突っ立っていたリノアの身体が震えた。頬を紅潮させ、子供っぽく唇をとがらせる。 「ないものねだりってことも、わかってるもん」 「そうだな。それで、俺はどうすればいいんだ? エルオーネと縁を切れば満足か?」 「……やさしくないなぁ、もう!」 スコールは少々呆れ気味で、正論で応酬した。 「無茶言ってるのはリノアだ。孤児院の皆やおねえちゃんがあって今の俺がいる。動かしようのない互いの過去にたちうち出来るわけがないだろう」 「理屈では充分わかってる、感情で持て余しちゃうんだってば」 「それをいうなら……俺だってそうだ」 サイファーと昔、何があったか気にならない筈がない。しかし、聞いたってどうしようもないと、スコールは承知している。 彼の内心が正確に読めたのだろう、眉根と眉尻がシーソーみたいに上下を交替し、彼女の眉は反省の八の字になってしまった。 「ごめんなさい。……わがままで」 独占欲に手綱をつけて御しておくのは難しいと、未熟者は首(こうべ)を垂れた。 「今の俺が、リノアといる。それだけじゃ駄目か」 スコールが、しょんぼりした相手に片手を伸ばした。右の五指を、彼の人差し指が優しく弄んでくれるのに、リノアの面が見る見る綻んでいく。 「えへへ、駄目なわけないっ」 言って彼女は、スコールの膝を指定席にしている特権を早速行使するのだった。
「エルオーネが、近々ここに来るかもしれない」 「そうなの? じゃ、色々スコールのこと聞いちゃおうっと。楽しみ〜」 「そうか」 スコールの意識が自分とはあさっての方向にある――恐らくは絶対に手紙の主について考えを巡らせているのに、またしてもリノアはほんの少し焼き餅を焼いてしまう。 されど悋気は恋の命、致し方ないのかもしれない。
「スコール」 リノアが彼の首に両腕をまわす。 「ん? んっ……」 強引に唇を奪われて。現在も尚奪われ中のスコールは、降伏のしるしとばかり、瞑目するしかなかった。
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