〜 【Relational Novel】 〜
◇◆◇FINAL CRYSTAL◇◆◇

エピソード8<FFVII>







何時頃からだっただろう

ソレが私の前に姿を現わし始めたのは





〜 ナイトブルー・ララバイ 〜





あれは、私がまだ幼い頃。
長い闘病生活の末、母がついに力尽き、私の元から逝った日だった。取り巻く大人たちのうわべだけの悼みの言葉に、子供ながらもいたたまれなくなって逃げ出した。急にいなくなってしまった母を求めて、それこそ屋敷中を捜し歩いた。庭の片隅にある、母が丹精込めて手入れをしていた薔薇園の中にやっと微かに残る母の香りを感じ、その残り香をまといしイバラに隠れるようにして泣いていた時。

初めてソレを見た。

最初は太陽のかけらが落ちてきたのかと思ったほどだった。母の薔薇の繁みの上で中空に浮き、あたりを明るく照らしていた。まるで励ましてくれているかのような温かい光に包まれ、私は思わず泣くのも忘れ、しばらくソレに見入ってしまっていた。

「かあさま?」

だが掴もうと手を伸ばした途端に、ソレは消えた。
不思議に思いながらあたりを探してみたが、ソレはもう二度と見つけることはできなかった。だが、おかげで止まらなかった涙が乾き、穏やかな心地になっていたことは覚えている。




以後、ソレは幾度となく私の前に現われた。




ある日、世界随一のカンパニー・神羅のプレジデントだった父が魔洸を何のために研究し、何を犠牲にしているかを知ってしまった。
その余りの非道さに激昂して、父に食ってかかった。
しかし、逆に跡継ぎとしての有り様を諭され、かつ威圧的な態度の前に私は成すすべもなく反論を失ってしまった。自分の青さと不甲斐なさに我と我が身を呪いつつ彷徨ったダウンタウンの片隅で、再びソレを見つけた。
薄汚れた廃屋と思しき屋根の軒下に、今にも消えそうに見え隠れしていた。急いで近づいていったが、ソレは私の到着を待たずに消えた。

『あれはいったい何なのだろう?』

この時、初めて私はソレの存在に疑問を持っていた。回りの様子からして、どうもソレが見えているのは私だけらしいのだ。
何の為に私の前に姿を現すのか。

そして、何故すぐに消えてしまうのだろうか、と。





その父がジェノヴァの影に葬られた際に一度、そして、父の遺志を継ぐという形で(実際はどうあろうと)神羅の新社長として就任した時にも、ソレは姿を見せた。




その頃の私は、父の意のままにならぬ為に、父の言葉に従っていた。自分の思うように生きたければ、まずはこの父を越えねばならないことを悟ったからだ。言われるがままに帝王学を身に付け、父を補佐し、部下を使う。実子という理由からだけでなく、神羅の中での私の地位はもはや揺ぎ無いものになっていた。もう父の一挙手一投足に怯えることもない。むしろ、老いを見せ始めた父を哀れむようにさえなっていた。

『こんな老いぼれに、私はあんなにも恐れを抱いていたのか?』

昔の剛健な覇気は見る陰もない。己の欲望に妄執しているだけの、醜く太った哀れな老人。権力欲の傀儡。よけいな摩擦や障害を避けるため、表向きは父に付き従う振りをし副社長という肩書きに甘んじていたが、神羅の実質的な最高権力は既にこの手中に収めていた。

テロリストとしてレッテルを貼ってやった邪魔者たちを追う反面、プレジデントである父との交代の時期を見極めるためにタークスをも私の直下で暗躍させていた。だが、もちろんタークスのメンバー全員がそのことを知っている訳ではない。ツォンが私の命令をプレジデントの言葉としてメンバーに伝えている。
実のところ、今の私があるのはツォンの働きなくしては有り得なかった。まだ青臭い正義を振りかざしていたころから、私の片腕として辣腕を振るってくれたツォン。始めは側近として常に私の傍らにいたが、神羅内部を掌握し始めたころからツォンは自ら進んで地下に潜ってくれた。
すなわち、タークスのリーダーとして私の目的の邪魔になる輩たちを排除するために。

そんな矢先、プレジデント神羅が何者かに暗殺された。すぐに暗殺者の正体は解明した。常識では考えられない惨状だったのだから。だが、その主犯の存在を明らかにする訳にはいかないと思案に暮れようとしていた、ちょうどその時、うまい具合に場に居合わせた奇妙な一団。

「おまえたちはなんだ?」

多種多様な者たちと相容れぬ会話の後の戦い。この一戦は言わば儀式のようなものだ。なにしろ彼らにプレジデント暗殺の罪を被ってもらわねばならない。そして私がその犯人たちと戦ったという事実こそが重要なのだ。このまま神羅を名実ともに統べるために。

「キミとは友だちになれないようだな」

頃合いを見計らい、ツォンがヘリを回してきた。下ろされた縄梯子を掴み空に逃れる。その時後を追うように迫ってきた青い瞳の青年の胸元に、ソレがあった。

「!」

驚愕のため思わず手にした縄を取り損ないそうになり、私は慌てて縄を握り直す。しかし、もう一度見直した時にはソレは既に青年の前から消えていた。

『アイツが私と何か関わりがあるというのか?』

ヘリの内部へと移り、豪奢な椅子へと身を沈めた後も私はむっつりと押し黙っていた。私の身を案じて声を掛けるツォンへの返事も上の空で考え続けたが、答えが与えられるべくもなく空しく堂々巡りを繰り返すだけだった。





しばらく(のち)に行なわれたジュノンでの社長就任パレードの後、自室でツォンに報告を受けた時のことだった。

報告を終えたツォンは、いつものようにベランダから退辞した。今回のツォンの任務は隠密裏に行われているものだ。堂々と表から出入りできる種類のものではなかったからこその配慮だろう。何も言わずとも、正式な指令との報告方法さえ分別しわきまえているツォンに、私は全幅の信頼をおいていた。
そのツォンの去り際、僅かにキラリと背中が光った。

『?!』

思わず声をあげかけた私の不審な態度に気づき、ツォンが振り返る。瞬間、ソレは現れた時と同じく唐突に消えてしまった。

「なんでもない!早く行け!」

何事があったのかと問いただしたげなツォンを無下に促し、私は自分の狼狽(ろうばい)をひたすら隠した。
ツォンが闇に紛れて完全に気配を消してしまってから、私は一人物思いに耽る。
ソレは確かにあった。
しかも今までで一番見えていた時間も短かった。しかし・・・。


私はその時、初めて気づいたのだった。

ソレは現われる度に少しずつ色を変えていたのだ。

明るい昼の色から、次第に、暗い夜の色へと。

まるで私の心の闇を映し取っているかのごとく。


今ではもう自分の生き方に疑問など持ってはいない。私は帝王として君臨すべく生まれ、育てられてきた。もちろん疑問を抱き、悩んでいた時期もあった。だが、これも運命なのだとしたら悪くないかもしれない、と。例え不満だらけの世の中だとしても、私が手に入れた後で望むように作り変えればいいのだ。そしてそれができる場所に、私は居る。後は、邪魔なものを取り除き、手順を確固たるものにしていけばいいだけのはず。


なのに、なんだ?


何故、ソレを見たことでこんな荒涼感に襲われるのか・・・


この時を最後に、私はソレを二度と見ることはなかった。



黒マテリアを巡って、妙に気にかかるアイツと最大の難物であるセフィロスとが対峙した時でさえ・・・





そして、今。



緊急警報装置が、赤い光と耳障りな騒音をあたり構わず撒き散らしている。



ウェポンがまた現われたのだ。
セフィロスと同時期に目覚めてしまったウェポン。奴の出現は計算外だった。セフィロスのメテオでさえ持て余しているというこの時期に大きく立ちはだかる未曾有(みぞう)の障害。
ウェポンは途中からミッドガルへと進路を向けた。おそらく奴が狙っているのはミッドガルではなく、この神羅ビルそのものなのだろう。優先破壊目標として。

星の守護という使命を帯びているウェポン。
だがそれも今やセフィロスに支配されてしまっているらしい。
いや、それともその両方から敵視されているのか。

どうやら私は星そのものからも有害という烙印を押されてしまったらしい。
私の中のどこかで、微かにチリリと痛みを伴う感覚があった。
僅かばかり口の端を上げ、強引にそれを黙殺する。

もう後へは引けない。

ウェポンは海を渡り始め、真っ直ぐにこちらに向かって来る。こういうこともあろうかと、つい先日魔晄キャノンをジュノンからミッドガルに移しておいた。これの前では、いかにウェポンといえども一溜りもないだろう。


いよいよ近づいてきた。
奴は確実にこのビルを狙っている。

「よし、シスター・レイの発射準備をさせろ。 最高出力だ! 出力が足りないようならミッドガル中のすべてのエネルギーをまわせ! 他の機関がすべて止まってもかまわん!」


ウェポン。
できることなら、このルーファウスの手に入れたかったが・・・
今更、言っても仕方のないことだな。

ミッドガルから発せられる迎撃の鈍い振動が伝わってくる。
次第に部屋の明かりが不規則に点滅を始めた。
命令通りにエネルギーが魔晄キャノンへと回され始めたらしい。

必ず返り討ちにしてやるという確信の裏に潜む、僅かばかりの不安と戦っていた時、連絡員からの緊急報告が入ってきた。

「リーブから苦情が来ている? 市民が騒ぎ始めたか。 無視しろと伝えろ! 万が一、ウェポンがミッドガルに到達でもしたら、そんなことも言ってられなくなる」

私が小馬鹿にした口調で伝えると、連絡員はおどおどと退出していった。目先のことしか見えない小者たちの相手をしている暇などない。ふと、もう二度と戻ってくることのないツォンのことを思い出していた。
今ここにツォンがいてくれたなら、どんなに・・・。だが、もうツォンはいない。


   ・・・私は 独りだ・・・


状況は回想に浸る間もなく切迫していた。
私の目的を、ひいては私の存在までをも否定しようとする目の前の脅威を退けねばならない。

エネルギー充填完了の報告があった。

もう少し・・・。

よし、今だ!

「シスター・レイ、発射!」


魔晄キャノンが火を噴く。

エネルギー砲発射の衝撃にミッドガルの街全体が、地響きとともに大きく(きし)む。

空気を引き裂き、凝縮されたエネルギー波がまっすぐにウェポンへと走る。

余りの密度の違いに大気が悲鳴を上げていた。

そして

狙いたがわず、見事にウェポンに命中した!


既に海中から陸へと進行していた巨体が斜めに(かし)ぐ。


しかしウェポンは最後の力を振り絞り、残された全生命力をエネルギーへと変え、一挙にミッドガルへ向けて放出した。



その数瞬後、ウェポンから発せられた脅威の一撃が、私のいる神羅ビル最上階を襲った。




何が起こったのか理解するよりも早く、巨大な光が目の前に迫っていた。





真っ白い閃光があたりを包む。






 瞬間、意識が霧消する。










 −それで 終わりだった−



































私は何もない空間を漂っていた。





私の生は、終わってしまった。

野望を抱えたまま。

だが、もう後悔もない。

自分の思うままに生きたのだから。

何の悔いが残るというのだろう。

できれば、もう少しこの世界で、この星で覇権を振るいたかったが。

もう、いい・・・

走り続けてきて、少し疲れたようだ。

いずれ私も星の一部として流れの中に埋没してしまうのだろう。

今、私にあるのは寂寥(せきりょう)とした喪失感だけだった。



そのままライフストリームの流れに呑みこまれようとした刹那(せつな)



ソレは私の目の前に忽然(こつぜん)と姿を現わした。



無駄と知りつつ意識の腕を伸ばしてみる。




しかし、今度こそ、ソレは消えなかった。




初めて触れたソレは。




今ではすっかり(あい)の色に染まったクリスタル。

認めたくない心の奥の絶望と悲哀の色にも似て。

クリスタルが淡く輝き始める。

安らかな眠りを誘う調べが、深く静かに染み渡る。

失くしてしまったものを、ひとつひとつ呼び戻すかのように。

疲れを癒す宵の闇にすべてを包み込みながら、クリスタルは私とともに融けていく。





   星は





 大いなるこの源は



我が身に害を為さしめたものでさえも許すのか


今までに感じたこともないほどの安らぎ


すべてと同化しようとしている 今


私はすべてを手にいれている


そう 初めから


何を焦ることがあったのだろう


星は最初から与え続けてていたのだ


私は いや 人は貪るように奪い続けた


我が身を削りながらも癒してくれる この存在を




クリスタルが伝えてくれる


星の願いを


慈しんできたモノたちのために



遥けき彼方の時代より謡い続ける  母なる()の地の子守唄を ・ ・ ・











エピソード8 FIN.







 逃れえぬ運命のまま生きてはいけないのか

 野望にその身を賭してしまった者は愚かなのか

 志半ばにして倒れてしまった未練は どこへ行けばいいというのだろう



  星はいつでも静かに見守っている



 星の意志の伝承者たる クリスタル

 クリスタルによって 清涼な響きを得た心は

 星を癒すために 戻っていく



     そして  クリスタルは ・ ・ ・ ・ ・






NEXT エピローグ







Copyright (c) 2002 テオ

back エピソード7 next エピローグ


BACK /  5000企画MENU