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〜 【Relational Novel】 〜

【Relay●MoonLignt Baby】

第五話 〜 Eyes On Me 〜 ママの気持ち・パパの気持ち





「月がキレーだね。」

月の光を浴びて、隣を歩く彼に話しかける。

「ああ、そうだな。」

お月様みたいな優しい笑顔をくれる彼。

「誰もいない、私たち2人だけの夜の海。
 なんだか素敵っ!!」

サクサクサクっと砂を踏みしめて彼よりちょっとだけ前に出る。波の、寄せては返る心地良い音を聞いて、両手を広げる。

「転ぶぞ。」

背後から、呆れたような、それでいて優しい大好きな声。

「平気ですー。」

クルッと振り返る。
ここは、スコール達育った孤児院の近くの浜辺。1度は荒れ果てて廃墟となった孤児院だったけど、先達ての魔女大戦の所為で増えてしまった孤児のためにガーデンの支援のもとで再開された。出来るだけ犠牲を出さないように、って頑張ったけど魔女の力に影響されて凶暴化したモンスターによって少なくない犠牲がでてしまった。
まま先生ことイデアさんが相変わらず子ども達の世話をしていて、私とスコールはガーデンから孤児院の視察に出向いている。(みんながイデアさんのこと「まま先生」って呼ぶから、自然と私もそう呼ぶようになっちゃってる。イデアさんも「それでいいですよ」って言ってくれたし。私もみんなと同じ思いを共有してるみたいで、ちょっと嬉しいんだ。)
でも、視察なんて名前だけで実際にはまま先生のお手伝い。人手が足りてないから。昼間はバタバタしちゃって全然スコールと一緒にいられなかった。だからこうして真夜中にこっそり2人で孤児院を抜け出してきたのだ。

「わっ!?」

急に足元に寄せてきた波に驚いて飛び退いた瞬間、思わずバランスを崩して転びそうになる。

バスッ

砂が舞い上がる。思っていたより、痛くない…?

「!!スコールッ!?」

痛みを感じてないのは、彼の上に転んだから。
仰向けに転んだ私の下に、同じく仰向けのスコールがいたから。

「うわっ、ごめんね。大丈夫?」

慌てて彼の上から降りて、彼を起こすために腕を引っ張る。

「あーあ、砂だらけ。」

綺麗なプラチナの髪についた砂を優しく落とす。

「だから転ぶぞって言ったんだ・・・」

呆れたように言って、革ジャンの砂を叩く彼。

「ごめんなさぁい。」

私が転びそうになったとき、彼はとっさに私を支えようとしてくれたらしい。が、足元が砂場の所為で2人揃って転んでしまったみたい。
確かに、転ぶ一瞬前に彼を感じた気がする…かも。

「怪我、してないか?」

「うん、私は平気。スコールこそ、平気?」

「俺はいい。」

そう言ってそっぽを向いてしまった。
答えになってない応え。
そんな彼がおかしかった。人一倍心配症のくせに、誰かに心配されることになれていないみたいで。多分、心配されてるのが照れくさいんだ。照れ隠しのためにそっぽを向いてる。私にもその照れてる姿を見せてくれないんだもん。

「な〜んか可愛いぞっ!」

そんなスコールの姿を見ていると、嬉しくて仕方なくて思わずそっぽ向いてる彼に飛びつく。

「うわっ!」

まさか飛びつかれるなんて予想もしていない彼の短い驚きの声。そして

ボスッ

私たちは、もう一度砂の上にダイブ。
二度目は流石におかしくて、2人顔を合わせて吹き出してしまった。
冷たい砂の感触。暖かい彼の体温。とてつもなく幸せを感じて心がふわふわしてる。

「え?」

私たちを照らしてた月の光が消えていく。雲でもかかった?ううん、今日は雲1つない快晴だったはず。

「リノア!」

彼が大声で、慌てた声で私の名を呼ぶ。彼が指差す先に空。月?

「な…何あれ!?」

空を見上げた私も素っ頓狂な声を上げた。

「月が…なくなって……?」

丸い月がすでに半月になっている。普段の月の満ち欠けじゃない。本当にアッという間って感じで月がどんどん欠けていく。満月が半月に。半月が三日月に。そして三日月が・・・・消えた。月食?ううん、違う。だって月食はものすごく長い時間をかけて月が欠けていくって、本で読んだ気がする。月食に似てるけど、全然違う。何?

「スコール……」

急に怖くなって、彼の上着を握りしめる。
彼は頷いて、目で合図を送ってきた。私も頷いてそっと立ち上がる。
こんな時は焦ったり慌てたりしちゃダメなんだ。冷静に、現状把握が最優先。それがガーデンで教わったこと。
彼もゆっくりと立ち上がった。光のない暗闇の中を目を凝らして辺りの様子をうかがっている。
怖い。暗闇は、キライ。独りで居るような気がするから。この真っ暗な世界にたった独りになった気がして、イヤ。

「大丈夫だ。」

耳元で、スコールの声がした。

「うん。」

そう返すだけで精一杯。怖さよりも、安心感の方が大きくなった気がする。

夜空から、一筋の光が差した。
光は、一ヶ所に、浜辺の私たちが居るところより少し離れたところに集中していた。

「スコール!月が!!」

私は思わず叫んだ。
さっき消えてしまった月が、再び姿を現し始めたのだ。暗闇に細いラインの三日月が現れ、三日月が半月へ、半月は満月へと形を元へと戻していく。

月が、完全な満月に戻ったその瞬間

辺りをまばゆい光が包んだ。

「きゃっ!!」

「くっ!」



どれだけの時間がたったのだろう。すごくすごく長い時間が経った気がする。

「リノア。」

優しい大好きな声がして、私はゆっくりと目を開けた。
辺りは、何一つ変わらない静かな夜の浜辺。

「何だったの?」

「あれだ。」

彼はゆっくりと指差す。彼が指した先は、ちょうど光が集中してた場所。そこに、何かの固まりが見える。

「なに?」

思わず身を強張らせて聞く。だって、今の私たちは武器も持ってないし、ジャンクションだってしてない。それは、動く気配こそないものの、敵じゃないとは言い切れない。

「分からない。」

そう答えたスコールが、歩き始めた。

「見てくる。」

それだけ言って。

「あ、私も行く!!」

とっさに追いかけて、彼の隣を歩いた。
1人になりたくない気持ちより、彼1人を危険な目に遭わせるのは嫌って気持ちの方が勝った。何があっても、一緒がいい。

サク サク

一歩、また一歩と近付くに連れてその物体の全貌が少しづつ明らかになってくる。
真っ白の固まり。あんまり大きくない。動かないし、割と小さい?それに、敵意とか邪悪な気とかも感じない。

「スコール、あれってさ……」

何となくそれの正体が分かって、私は足を止めた。

「なんだ?」

「赤ちゃん、じゃないかな?」

真っ白のおくるみに包まれてて、動かないのは多分寝てるからで、大きさ的にもちょうどいい。

サク サク サク サク

「ほら、やっぱり。」

小走りで駆けていて、それを覗き込む。
やっぱり、よおく眠ってる赤ちゃんだった。

「可愛い〜。どうしたんだろう、こんなトコで。
 キミは捨てられちゃったの?それとも置いてきぼり?」

慣れない手つきで抱き上げる。
近寄ってきた彼に見せてあげる。

「何でこんなトコに赤ん坊が……?」

「私にも分かんないよ。
 でも、放っておけないでしょ?とりあえず、孤児院まで連れて帰ろ。それから考えようよ。
 じゃなきゃ、さすがにこの子も風邪引いちゃうかも知れないし。」

眉間にしわ寄せて考え込むスコール。相変わらずだなぁ。

「ほら、早く帰ろ。」

いまいち納得のいってない表情の彼を促して、砂を踏んで帰路についた。


ー翌朝

「んぎゃあ、んぎゃあ、んぎゃあ」

けたたましい泣き声に起こされる。

「あー。どうちたの〜?はいはい、泣かないで〜?」

私のベットで一緒に寝てた赤ちゃんを抱き上げる。うー、まだ眠いんですけど……
全然泣きやむ気配もないし、私の方が泣きたいよぉ。

「どうした?」

隣のベットで寝ていたスコールまで起こしちゃった。彼は寝起きの掠れ声で聞いてくる。

「突然泣き出しちゃって。どうして良いか分かんないし……
 ね〜、お願い泣かないで〜?」

だっこしたまま室内をウロウロしてみるけど、効果はまるでなし。

「スコール〜、助けて〜。」

もうお手上げで、とりあえず彼に赤ちゃんを託す。

「お、おい。」

彼はおっかなびっくり、見ているこっちの方が怖くなるほどの手つきで赤ちゃんをだっこしている。

コンコン

「スコール?リノア?入りますよ。」

控えめなノックと上品な女性の声。

「まま先生!」

救いの神の出現に、私たちはほっとした。
ガチャリと音を立ててドアが開かれ、まま先生が顔を出した。

「どうしました?何の騒ぎです?」

「それが、昨日砂浜で赤ん坊を拾って……」

スコールの言葉を聞きながら、まま先生は赤ちゃんを受け取った。

「よしよし、どうしたの?お腹が空いているのかしら?」

器用に赤ちゃんをあやしていくまま先生。次第に、泣き声が小さくなっていく。

「リノア、ミルクを作るから手伝ってちょうだい。」

「あ、はい。」

私はスコ−ルを残して、まま先生をキッチンに向かった。

「赤ちゃんの扱い、慣れてるんですね。」

「そうね、私には子どもがたくさん居たから。
 はい、少し抱いていてあげてね。」

キッチンに着くと、彼女は戸棚から粉ミルクの缶やら哺乳瓶やらを出して、手際よくミルクを作っていく。その鮮やかな手さばきに少しだけ見とれた。

「もう少し待っててくだちゃいね〜。」

「あー。」

私の言葉が分かるのかな?泣きすぎて鼻が真っ赤になった赤ちゃんが答えてくれる。

「はい、出来ましたよ。あ、飲み終わったら縦に抱っこして背中をさすってあげるのを忘れないでね」

「え?どうしてですか?」

ミルクを受け取りながら聞くと、まま先生は人差し指を立てて教えてくれた。

「飲んだミルクを吐いてしまわないように、ゲップをさせてあげるのよ。」

「へぇ〜、さっすがまま先生。そんなの全然知らなかった〜。」

哺乳瓶の先を赤ちゃんの口元に近づける。

「うわー、飲んでる飲んでる!」

赤ちゃんは哺乳瓶に小さな両手をあてて、んぐんぐとミルクを飲んでいく。

「そうしていると、まるで母親のようね。」

まま先生がクスクスと笑う。

「やだ、何言ってるんですか?!」

「その子のために、おむつやおもちゃやいる物を準備しましょうね。」

そういって、彼女はキッチンを後にした。
母親、だなんて照れくさい。まだ花嫁さんにもなってないのに。
でも・・・

「私がママなら、パパはスコールだね。」

そっと呟くと、胸の奥がむずむずしてくる。ママだって。

「あー。」

「あれ、もう全部飲んだの?早いねー。」

哺乳瓶を口元から離して机の上に置く。
そうそう、えーっと背中をさすってあげて・・・「ケフッ」小さなゲップ。よし、これで大丈夫。

「お腹いっぱいでちゅかー?」

赤ちゃんは笑顔。もう大丈夫みたいだね。

「リノア?」

後ろからスコールの声。

「スコール、見て見て!!ミルク飲んだらね、笑ってるの。か〜わいいよね〜。」

「あー。」

赤ちゃんはスコールを見ると、手をバタバタさせた。

「なんだ?」

「きっと、スコールにだっこして欲しいんじゃない?」

この子も、スコールをパパだと思ってるのかな?

「はい。」

赤ちゃんをゆっくり彼の腕に預ける。相変わらずのおっかなびっくりの手つきで、でも優しく赤ちゃんを抱いた。

「スコール、パパみたい。」

彼に赤ちゃん、と言うのが意外にも似合って私は思わずそう言った。

「ならリノアはママだな。」

優しい瞳で赤ちゃんを見ながらさらりと言った。

「……へっ?」

あまりにも自然な言葉で、思わず聞き流してしまうトコだった。

「今…なんて」

「んぎゃあんぎゃあんぎゃあ」

私の言葉を遮って、またけたたましく泣き出した赤ちゃん。

「今度はどうちたの〜?」

ちょっとイートコだったのに、邪魔されて少し不機嫌。もちろん答えてくれるわけないって分かってるけど聞いてみる。言葉が通じないって大変。
彼の腕から赤ちゃんを抱き上げる。そして、すぐに泣いてる理由が分かった。

「スコール〜、おもらしだぁ。」

指先に感じる生暖かく湿った布の感触に思わず顔をしかめる。彼も苦笑するしかない。

「まま先生がおむつとか用意してくれるって言ってたけど…」

戻ってくる気配はない。

「探してくるから、部屋に戻ってろ。」

「うん。」

おもらしの赤ちゃんを抱いて部屋に戻る。とりあえず気持ち悪そうな濡れた布を取る。この布一枚で、布を取れば裸んぼ。

「っくしっ。」

小さなくしゃみ。

「ごめんね、寒い?」

慌ててベットから毛布を取ってきて掛ける。

「早く来ないかなぁ、まま先生とスコール。」

毛布の上からだっこして、室内をウロウロ。

コンコン

「リノア、入りますよ。」

上品な声がして、ドアが開けられる。まま先生とスコールが荷物を持って入ってくる。

「まずはおむつを代えましょうね。リノア、よく見て覚えていてね。」

「はい。」

まま先生の指示に従って赤ちゃんをベットに寝かせる。ちょっとご機嫌斜めかな?バタバタ暴れちゃって手に負えない。
それなのにまま先生は手際よく両足を持ち上げてお尻を柔らかい布で拭いて、おむつを取り付けた。

「あとは、これを着せてあげましょう。」

そう言って、白くて小さな、つなぎみたいな赤ちゃん用の服を着せてあげた。

「さあ、これでいいわ。」

「あー、あー。」

服を着せて貰った途端にご機嫌になったのか、手足をバタバタ。

「甘えん坊さんね。だっこして欲しいみたいよ?」

まま先生が眩しそうに微笑んだ。

「はいはい、キミはだっこが好きね。」

抱き上げてやると、嬉しそうに私の顔に触れてくる。

「何かあったら、また呼んでちょうだい。」

おもらしの白い布を持って、まま先生が出ていく。

「うー。」

突然にご機嫌斜めになる赤ちゃん。さっきまでご機嫌だったくせに。

「眠いんじゃないか?」

ベットに腰掛けてスコールが言った。

「仕方ないなぁ。」

私も彼の横に腰を下ろす。
時刻はお昼頃かな。この子の所為でバタバタしてご飯も食べてないや。

―Whenever sang my song On ths stage,on my own
私は優しく歌い出した。

「私が小さい時ね、良くこうして歌ってもらったの。」

そう言って、赤ちゃんの背中を叩きながら続けた。

―Whenever said my words Wishing they would be hard
 I saw you smailing at me Was it real or jast fantasy

私の腕の中でウトウトし始める赤ちゃん。

―You’d always be there in the coner Of this tiny little bar

今なら、これを歌ってくれたママの気持ち、少しだけ分かるよ。

―Darling,so they you are with that look on your face 
 As if you’re never hurt As you’re never down
 Shall I be the one for you Who pinches you softly but sure
 If frown is shown then I will know that you are no dreamer

ママの恋、教えてくれたんだ。
私の腕の中でとっくに夢の中の赤ちゃん。やっぱりおねむだったんだね。

「スコール、寝ちゃったよ。」

小声で隣のスコールに話しかける。…が、肩に感じる重力。

「なんで寝ちゃうかなぁ。」

スコールまでも夢の中。私の肩にもたれちゃって。私の歌はスリプル効果あり?でも、2人とも可愛いな。血の繋がりなんてないけど、同じ顔して寝てる。
赤ちゃんをベットに下ろして、それからスコールをベットに寝かせる。うーん、スコールおーもーいーってば。もお、人の気も知らないで気持ちよさそうに寝ちゃって。・・・寝顔が可愛いから許すけど。もう少し真ん中行ってくれないとベットから落っこちちゃうよ。あー。あんまりそっち行くと赤ちゃん潰れちゃう〜!わ、まつげ動いた?起きちゃった?起きてない、よね。起こさないようにそっとね。やっと2人をベットに寝かせて毛布を掛ける。疲れたぁ〜。

「おやすみ、お昼寝組さん。」



「う…ん……」

目を覚ますと太陽は西に傾いていた。
確か、リノアが子守歌を歌ってやってて、それを聞いて俺も寝たのか…。
ふと見ると、隣では赤ん坊が眠ってる。起こさないようにそっと体を起こす。
小さな体。触ると折れるんじゃないかってくらい、儚く見える。俺もこんな風に小さく頼りなかったのかと思うと不思議な気分だ。指先で、ふくよかな頬に触れてみる。暖かく、柔らかく、リノアに似てる。

「うー。」

赤ん坊が小さな目を開けた。

「あー、あー。」

起きた途端に元気なヤツで、手足をバタバタさせる。壊れないように、優しく抱き上げる。すると、俺の顔にペタペタと触れてくる。でも不快じゃない。俺も変わったな。子供なんて興味もなかったし、人に触られるのも苦手だった。今はこいつを愛しいとさえ思う。
あいつも、ラグナもこんな風に感じているのか?俺のことを。あいつは俺の小さな頃を知らないし、俺も知らない。だからこそ、成長した俺に小さい頃に注げなかった「愛情」とやらを注ごうとしているのか?いい迷惑だ、なんて思っていたが、今度会うときくらいはあいつの息子でいてやっても良いかも知れない。
不思議だな。今までこんな風に感じたコトなんてなかったのに、こいつといる所為で変わってきたみたいだ。「父性」ってやつか?

ガチャリ

「あ、スコール。起きてたんだ。」

開かれたドアからリノアが顔を出した。

「赤ちゃんももう起きてるかなって思って、ミルク持ってきたの。やっぱりお目覚めね。」

そう言って、俺の腕から赤ん坊を抱き上げる彼女。
彼女の手から、嬉しそうにミルクを飲む赤ん坊。その姿がなんだか眩しくて、目を細める。

「スコールもお腹空いてるでしょ?今子供達が食べてるからもうちょっと待ってね。」

ああ、と答えると彼女は更に続けた。

「2人がお昼寝してる間にね、まま先生のお手伝いしてたの。洗濯とか、みんなにご飯食べさせたり、ご飯の用意や遊び相手とかケンカ止めたりとかね。
 私もママになったみたい。皆が私の子供みたいで。バトルするより疲れるけど、バトルするよりずっと充実してる気がするの。」

楽しそうに語る彼女はとても活き活きとしていた。

「慣れてないから、いっぱい失敗もしたけどね。」

バンドエイドだらけの指を見せてくる。

「楽しそうだな。」

自分の頬が緩むのが分かった。リノアの言うところの「優しい笑顔」と言うのを、自然と彼女と赤ん坊に向けていた。

「うん、楽しいよ。でもね、さっき赤ちゃんをだっこしてたスコールも幸せそうだった。」

「あー。」

そこでミルクを飲み終えた赤ん坊が騒ぎ始めた。

「どうした?」

今度は俺が抱き上げて、あやすように背中を叩いてやる。

「うー。」

弱々しい力で俺にしがみついてくる。

「ずーるーいー。」

横でリノアがふてくされた声を出す。

「何が?」

そう聞く俺を、黒い瞳がじっと見つめる。

「スコールにハグハグして貰えるのは私だけのハズなのに。相手が赤ちゃんでもなんかイヤ。」

彼女がフッと視線を外す。夜風が彼女の黒髪を弄ぶ。
子供が2人いるみたいだ、なんてことを言えばまた怒って拗ねるだろうから敢えて言わない。

「なんて、赤ちゃんにヤキモチ妬いても仕方ないね。」

大きく息を吐いて、彼女が顔をこちらに向けたその一瞬の隙をついて…
ーー唇を重ねた。

「らしくないぞー。」

唇が離れると、彼女は照れたように笑う。当然照れるのは俺も同じで…
急に照れてきて俯くと、赤ん坊の大きな丸いきょとんとした瞳が俺を見上げていた。

「子供も可愛くて良いけどね。」

ポツリと言って、彼女が俺に体を預ける。

「ん〜、スコールが取られちゃうのはヤダ、から……このまんまでいいかな。」

胸の奥から、心の奥底から暖かいものがこみ上げてくる。嬉しいような、気恥ずかしいような。

「そう、だな。」

自然と言葉が零れた。たまらなく、幸せだと思う。

「うっ、うっ、うっ……」

幸せの時を壊したのは

「うあああああん、あああん、あああん」

突然の大きな泣き声。

「やだ、どうしたの?」

あまりに唐突に泣き出したので、リノアが慌ててその辺に置いてあったおもちゃを使ってあやす。

「泣かないで〜、ね?よしよし。」

がらがらと音のするおもちゃを振ってあやしている。

「よしよし。」

俺も高い高いをしてあやしてやる。

「うー。」

やっと泣きやんで、赤ん坊はまた俺にしがみつく。

「ヤキモチ、妬いたのかな?」

「リノアに?」

「スコールにでしょ?」

2人で顔を合わせて、クックと笑い合う。

「やっぱりね、この子はここに預けよう、ね?私が引き取っても言いかなって思ったけど、、まだ早いよ。ここなら、まま先生も友達もいるから大丈夫だよ。
 いつか、誰かが迎えに来てくれるよ。」

俺にしがみついた赤ん坊の後頭部を撫でながら彼女が言った。

「そうだな。」

「また、いつでも会いに来ればいいし。」

寂しくない、と強がりを言っているように思えた。ここでこいつに会ってから1日にも満たないが、俺達は確実に変わっていた。

「もう少しここにいられるから、それまでは一緒にいてやればいい。」

「でも、大丈夫かな?ほら、ここだって人手が足りないし、まま先生に押しつけちゃって…」

「そうだな…」

まま先生はほとんど休む間もなく子供達の面倒を見ている。「少し休んで下さい」と言ってみたものの「私は大丈夫です。好きでやっているんですから」と返された。そんなまま先生を、これ以上忙しくさせるわけにいかないか…

「きっと、なんとかなるさ。」

赤ん坊の背中をぽんぽんと叩きながら言う。赤ん坊はその小さな手で俺をの服をしっかりと握りしめている。独りになるのを怖がっているように感じて、放っておけない。



「ふわぁ〜。」

昨夜は私もスコ−ルもほとんど眠れてない。赤ちゃんが夜泣きをしてくれちゃって、皆を起こさないように泣きやませるのが大変だった。

「ふわぁ〜。」

もう一つ大きな欠伸。散々泣いてた赤ちゃんは今頃ようやくぐっすり。どうせ寝るなら夜に一緒に寝てくれればいいのに。

「リノア。」

背後から呼び止められて振り返る。

「まま先生、どうしたんですか?」

「あなたとスコールにお客様がお見えよ。」

少し嬉しそうなまま先生。誰だろう?


「キスティス!」

居間で私たちを待っていたのはキスティスだった。

「ハーイ、お二人さん。久しぶりね。」

「うん、いっつも任務とかですれ違いだもんね。」

「どうした?」

「あなた達に伝令。学園長が早急に戻ってきて欲しいんですって。」

ドキンって胸がなった。まさか、こんなに早くお別れが来るなんて。もう何日か一緒にいられると思ってたのに…

「分かった、すぐに用意する。」

「スコール…」

あっさりと了解した彼が少し悲しい。そりゃ、任務だから仕方ないのかも知れないけど赤ちゃんと一時的にでも別れるの寂しくないの?辛いの、私だけ?それに、手の掛かる赤ちゃんをまま先生に預けるなんて無責任みたいで出来ないよ。

「その代わり、頼まれてくれないか?」

俯いてる私の横で、彼がキスティスに告げた。

「いいわよ。私に出来ることならね。」

「赤ん坊を預かって欲しいんだが…」

「ええ?!赤ちゃん?」

「スコール!!」

驚いたキスティスの声と喜んだ私の声が重なった。

「拾ったんだが、放っておく訳にもいかないし。ここに預けるにしても、今はまま先生も忙しいから。」

彼の言葉に私も続ける。

「私からもお願い。すっごく可愛い子なの。面倒見てあげて!!」

頭を下げる。キスティスなら大人だし、しっかりしてるからきっと大丈夫。

「よく分からないけど……いいわ。その赤ちゃんの面倒見ればいいのね。」

髪をかき上げて、呆れたようなため息をついたけど了承してくれた。

「ありがと〜。」

思わずキスティスに抱きつく。

「はいはい、感謝してるなら早く支度してガーデンに戻ってちょうだい。」



「じゃ、お願いね。」

赤ちゃんを抱いたキスティスとまま先生や子供達に見送られて孤児院を後にする。
少ししてから、そっと聞いてみた。

「寂しい?」

「まあ、少しは。」

「私も。」

少し沈黙。赤ちゃんのことを思いだしてしまう。
たった1日だけ だったのに、あの子がいるのが当たり前みたいで2人きりになると照れくさい。

「でも……」

彼がポツリと口を開く。

「2人きりなのは、今だけだな。」

「なんで?」

首を傾げて考える。ガーデンに帰ればみんながいるから?任務で別々になるから?他に何かあったっけ?

「子供が出来れば、2人じゃなくなる。」

「あ、そっか!」

彼の言葉に頷いてポンと手を叩く。

「………えええ?!」



パパの気持ちを知った彼と、ママの気持ちを知った彼女。
彼らがパパ・ママになる日は近い?



     第五話 END

Copyright (c) 2002 SORA



BGM:「FFVIII」より「Waltu for the Moon」
MIDI提供:DIORAMA



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