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〜 【Relational Novel】 〜

【Relay●MoonLignt Baby】

第一話 〜島唄〜 キミにはナイショの小夜曲






風で、木々がざわざわと揺れた。
鳥たちが、音を立てて飛び立っていく。
 
あたしは独り、空を見上げた・・・。

蒸し暑くって、だけどあたたかくって。
みんなすごく優しいし、心やすまる村。
スピラの南に位置するここは―・・・


 ―― ビサイド村 ――





 MoonLight Baby 
 第一話 −島唄− キミにはナイショの小夜曲セレナーデ



「え〜!!?ユウナんいないのぉ!!?」
 
静かな寺院に、あたしの声だけが響き渡った。
その予想以上の大きさに、慌てて手で口を塞いだ。
  
「あと数日でお帰りになると思うのですが・・・」
親切にそう教えてくれる僧官さん。
あたし、小さく溜息をついた。
 
久しぶりに・・・ビサイドまで遊びにきたっていうのになぁ・・・
  
「ワッカとルールー・・・ティーダも、みんな一緒でしょ?」
あたし、ちらっと僧官を見上げた。
 
だって、そうだ。
ユウナが出かけたってことは、きっとみんな・・・ついて行ったに違いない。
同じユウナのガードなのにっ!!・・・なんて。
ちょっとだけ不安になってみたりも、して。
少し遠くに住んでいる分、なかなかみんなに会えないのが、実はちょっと・・・寂しい。
 
「いえ、ティーダさんはルカで行われるブリッツ交流会に行かれましたよ。今夜遅くか、明日の早朝には帰ってこられるかと・・・」
「あ、そうなんだ?」
 
ちょっとだけ、安心した。
あたしだけおいてけぼりじゃ、なかったんだ。
きっと、急な用事ができて出かけたに違いない。うん。
 
「もうすぐ日も暮れますし、今日は寺院にお泊りになってください」
って、僧官さんが微笑んでくれるから。
あたしにも笑顔が戻るんだ。
「うん、ありがとう。そうさせてもらうね」
飛空艇も帰っちゃったし、もう真っ赤な夕日は今にも沈みそう。

「それでは、ティーダさんがお帰りになったら、リュックさんがいらしてることをお伝えしておきますね」

ティーダだけでも戻ってくるのなら・・・待ってても、いいかなぁって。
それから一緒に、ユウナを待てばいいんだから。
「ありがとう」
 
 
 
空には星が輝きはじめ、夜の闇が優しくビサイドを包み込む。
見上げれば、満天の星空。
聞こえてきた波の音に、あたしは少しだけ足の動きを速めた。
 
寝る前に、なんだか星空を見たくなって・・・。
で、見るならやっぱり海かなぁと思って、静かなあの村を抜け出してきた。
 

「うっわ〜、キレ〜・・・」
 
木々がざわめく暗闇の中。
真夜中のビサイドを優しく照らすのは、怖いくらいの輝きを見せる・・・大きな満月。
引いては寄せる、波の音。
 
「すっごいキレイな満月〜・・・吸い込まれそう」
 
すべてが・・・幻想的で、美しくって、魅力的で
まるで違う世界にいるような、そんな気分にさえさせられてしまう。
 
一歩、そしてまた一歩。
浜辺に足を、踏み入れた。
 
 
サクサク
サクサク
 
小さな、音。
あたしのブーツに張り付いては零れ落ちる砂。
静かな、静かな―・・・海。

桟橋に座ろうと思って近づいたんだけど
 
「・・・あれ?」
 
サク・・・
 
ふと、足を止めた。
「なんだろ、あれ」
 
 
不思議な、光。
それが、橋のそばにあったんだ。
満月の光に照らされて、だけどそれよりも淡く、そして優しく光る。


恐る恐る、それに近づく。
もし、魔物だったら・・・
左手をポケットに突っ込み、手榴弾をしっかりと握り締めた。
 
 
その光まであともう少し。 
 
あたし、再び足を止める。
これは―・・・魔物なんかじゃ・・・ない



「・・・赤ちゃん?」
 
 
手の力を緩め、その光のそばへと腰を下ろす。
不思議な光を放っているのは、赤ちゃんを包む柔らかそうなその布。
濡れている様子もないし、砂だって全然ついていない。
  
「なんか不思議な色・・・こんな布、見たことない・・・」
 
その、不思議な光の布の中には、かわいい赤ちゃん。

柔らかそうなほっぺた。ちっちゃい手、顔、足・・・
まんまるな、ぱっちりした瞳と、視線がぶつかる。
どうしたらいいのか分かんなくって、戸惑ってるあたしに・・・
  
「あ、笑った」
 
赤ちゃんは優しく微笑んでくれた。
だからあたしも、つられて笑顔になる。
でも。
 
「でも、どうして・・・?」
 
どうしてこんなところに、赤ちゃんがいるんだろう・・・
あたりを見渡しても、もちろん親らしき人は見当たらないし。
どうしたらいいのか、分からないけど
こんなところに赤ちゃんひとり、置き去りにするわけにはいかない。
っていうか、そんなことできない。
 
とりあえず、そっと・・・赤ちゃんを抱き上げてみる。
「あ〜・・・」
ちっちゃくそう言って、笑う赤ちゃん。
かわいくって、思わずその頬に触れた。 
「あったかい」
 
抱き上げて、改めてその布を見つめた。
 
「ほんっと・・・不思議な布―・・・」
 
ふわふわしたような、さらさらしたような。手触りまでもが不思議な感じ。
でもすごく温かくって、優しくって。
そして―・・・

「でも、なんか・・・なつかしい・・・?」
 
そんな、感じがした―・・・。


赤ちゃんがずり落ちないように、しっかりと抱きしめる。
「ビサイドの村に、帰ろっか?あたしと一緒に、ねんねしようね」
そう言って笑いかけると、やっぱり赤ちゃんはほやっと笑ってくれる。
 
だから、
大事に大事に抱えて、寺院へと帰ったんだ。






「リュック〜?」
 
遠くから、そう名前を呼ばれた気がした。
聞きなれない鳥の声に、あ、そうか。ビサイドにきてたんだっけ・・・。
なんて思いながら、目をこすった。
 
「リュック〜起きてるっスか〜?昨日の夕方から来てくれてるんだって〜?」
突然そう響いた声。誰の声だかすぐに分かっちゃう。
 
 
まったく・・・あたしが起きてなかったらどーするつもりなんだか・・・
ティーダの声が、足音と共に近づいてくるのが分かる。
 
まだぼんやりとした頭で、やっと上半身を起こした。
ちょうど、その時

 
「朝飯作るからさ、一緒に食・・・」
 
バタンと音がして、その声が飛び込んできたのだけれど・・・。
なぜだかそこで、言葉が途切れた。
寝ぼけたまま、彼を見れば、目を見開いた驚きの顔。
 
「おはよ・・・。なに?どうしたの、ヘンな顔して・・・」
 
ティーダの驚いた顔に、あたし、首を傾げる。
 
「リュ、リュック・・・それっ」
 
彼が「それ」と指差したのは、今まさにあたしがいるベッドの上。
「え・・・?」
と視線を移せば、手に触れる温かな小さい体。かわいい、寝顔
 
「も、もしかして・・・」

なんだか頭が真っ白になって、ティーダが次の言葉を発するより先に・・・思わず叫んだ。


「ち、違う!!あたしの子じゃないよ!!!」



・・・なに、言ってんだか―・・・。





「へぇ・・・海に?」
「うん、そうなんだぁ。でもさ、ほっとけないじゃん?あんなところに赤ちゃんひとり・・・」
 
着替えをして、赤ちゃん連れて。
ここは、ティーダの家。
あったかい野菜スープとパンを頬張りながら、昨日の出来事を説明する。

さっきは、寝ぼけておかしなコト言っちゃったんだけど。
おかげですっかり・・・目が覚めた。
あたしの大声で目を覚まし、泣いちゃった赤ちゃんも今はまたおとなしく眠ってくれてる。
 
「だよな〜・・・。で、これからその子、どうするつもり?」
 
ティーダのその言葉に、あたし手の動きをぴたりと止めた。
これから・・・なんて、何も考えてなかった。
でも、でも
 
「とりあえず、親か育ててくれる人が見つかるまでは・・・あたしが面倒、見る」

赤ちゃんの育て方なんて知らないけど。
でも、そうするほか、ないと思う。
あたしに、どこまでのことができるかなんて・・・わからないけれど
 

「じゃ、オレも協力するっス!」
 
「え!!?」
 
予想外の言葉に、思わずあたし、身をのりだした。
まさかそう言ってもらえるとは思ってなかった。
 
「ブリッツもちょうどシーズンオフで、これからしばらくは休暇もらってるし・・・」

・・・やっぱり優しいなぁ・・・ティーダは。
 
「赤ちゃんの扱いなんてわかんないけど、さ。
 なんていうか・・・ほっとけないっつうか・・・。赤ちゃんも、リュックも」
 
一人で一生懸命赤ちゃんの面倒を見てる自分を想像しちゃってただけに・・・
誰かが一緒にいてくれるっていうのは心強いなぁ、なんて。
ちょっとだけ感動してみたりも、する。
 
「あ、ありがと」

なんだか顔が熱くなるのが分かって、そう口にすると同時に立ち上がった。

カチャカチャと音を立ててあたしの分とティーダの分の食器を手に取る。
「あ、あのさ。ご馳走してもらっちゃったし、あたし片付けるよっ!!」
有無を言わせぬ速さで、ティーダへと背中を向けた。
「サンキュー、リュック」
あたしの背中へ、そう投げられた言葉。
大股で歩き出そうとしたあたしの足は、一度ピタっと止まる。
かる〜く深呼吸して、顔だけティーダのほうへと向けた。

「赤ちゃん、見といてねっ!!」
 


流れる水の音と、重なり合う食器の音。
ユウナがいつも使っているであろうかわいいスポンジに、レモンの香りの泡いっぱい。
シャボン玉なんかも・・・作ってみちゃったり、して。
ジャバジャバと流れ出る水が、あたしの熱い手と、どっきどきの心臓をほどよく鎮めてくれる。


・・・まったく、あたしってやつは・・・。
 
なぁに・・・浮かれてんだか。
あんな些細なことで、喜んでどうする!? 
大変なのは、これからで。彼はそれを「仲間として」手伝ってくれようとしてる。
うん、ありがたい。


「ホント、ムダに優しいよなぁ・・・」

小さくそうつぶやいて、ふわふわ浮かぶシャボン玉へと息を吹きかけた。
そのシャボン玉が、ちょうどあたしの目線まで到達した・・・そのときだった。

「ぎゃあああぁぁぁっっ」
「!!?」
 
突然の泣き声に、あたし思わずスポンジを泡の中へ投げつけた。
手を洗って、蛇口をひねって。
 
次に響いたのは・・・あたしの足音だった。




「どうしたの!?」
 
駆けつけた先には、狂ったように泣き叫ぶ赤ちゃんと、おろおろとあたしへ視線を向ける、ティーダの姿。
 
そっと、赤ちゃんに近寄って抱き上げると、さっきまでの泣き声が、まるで嘘のようにぴたりと止まった。
「よしよし。ど〜したの?おに〜ちゃんにイジメられた?」
そう言って赤ちゃんをあやすあたしに、少し不満そうなティーダの声が聞こえる。
「違うって。目を覚まして笑ったから、ちょっと抱っこしようと思ったらさ・・・泣き出しちゃって・・・」
「ホント?あっやしいなぁ〜」
意地悪く、そう言ってみた。そして赤ちゃんの頬を滑り落ちる涙を、そっと指でぬぐう。
「ホントだって!!」
って。あんまりムキになって言うもんだから。今度は笑顔を向けて見せる。
 
「冗談だって。キミがそんなコトするヤツじゃないって、ちゃんと分かってるよ」
 
そしたら、ちょっとだけ安心したように。いつもみたいに。
彼は笑顔を向けてくれたんだ。

「ね、おしめとかミルク。買いに行こ?」
すっかり笑顔に戻った赤ちゃんを抱きかかえたまま、ティーダへとそう言った。
「そうだな!オレ荷物持つよ」
って、両手のふさがっているあたしの代わりに、小銭入れを拾い上げてくれる。
「じゃ、行こっか!!」




「・・・え?品切れ?」
きょとんとして、顔を見合わせるあたし達。
「そうなの。ごめんなさいね。小さな村だから・・・あんまりなんでもは置いてないのよ」
すごく申し訳なさそうに、そうつぶやいたおばちゃんが、なんだかすごく気の毒になる。
「いえ、いいんです〜・・・なんとかなりますから」

そう言ったものの・・・あたしもティーダも、腕の中の赤ちゃんを見つめ途方にくれる。
「・・・どうする?」 
あたしの顔を覗き込んでくるティーダに、あたし首を傾げる。
「う〜ん・・・」
 
なんとかなる、とは言ったものの・・・。
昨夜から赤ちゃんはなんにも口にしてないし、おしめだって、いつ必要になるか分からない。
「・・・」
しばらく考え込んで、あたし大きくうなずいた。
こうなったら、奥の手を使うしかないっ!! 
「お!?もしかして、なんかいい案思いついた!!?」
目を輝かせるティーダに、あたし力強くうなずいた。
「アルベドの通信技術を甘く見ないでよッ!」
片手でなんとか赤ちゃんを支え、ポケットからちっちゃな機械を取り出した。
「なんスか、それ?」
それを、ティーダに手渡すと、あたししっかりと赤ちゃんを両手で抱えた。

「それ、こっちに向けてくれる?」
「こう・・・?」
あたしの口の前でぴたりと動きをとめたその物体に向かって、あたし大声で叫んだんだ。
 

「助けて!リンさんっ!!!」 





ヒュンヒュンヒュンヒュン ・・・

青い空に、白い雲。そして、まぶしい太陽。気持ちがいいくらいの、晴天。
その中を、ゆっくりと降りてくるヘリコプターみたいな乗り物、『巡回公司2号』。
『巡回公司』をより速く、より高く!それを目標に作られたのが『2号コレ
』。珍しくそれに乗ってきたところをみると、飛空艇に乗ってるオヤジ達はどこか遠いところまで出かけたらしい。

それが発生させている風が、意外と強くって・・・。
あたし赤ちゃんをしっかり抱っこした。
「すっげぇ風・・・。大丈夫?」
ティーダが、あたしと赤ちゃんを交互に見るから、「大丈夫だよ」って。また少しだけ腕に力を込めた。
その布の隙間から、ちょろっと出てる小さな手。ティーダがそれに触れようと手を伸ばした。

「うぇぇぇ・・・」
 
今まで笑っていたはずなのに、今にも泣き出しそうになる。
「・・・なんで!?」
手を引っ込めると、また赤ちゃんは笑顔に戻るんだ。
「・・・なんで、だろ?」
 
少しだけ、不満そうに。そして・・・寂しそうに、ティーダは苦笑いした。
そして、着地した『巡回公司』へと視線を移す。
 
「おや、お二人ともお揃いで」
 
いつものように笑顔を見せるリンさんの元へ、あたしもティーダも駆け寄った。
「驚きましたよ、いきなり『助けて!』ですからね」
「あ、あはは。ごめんね。驚かせちゃって」
そう言って笑うあたし達を、リンさんは交互に見て・・・突然、衝撃の言葉を発した―・・・。
 
「こうしているとあなた達、なんだか親子みたいですね」
 
「!!!?」
 
 
驚きで、声も出なかった。
ただ、隣でティーダが「そっスか?」なんて笑って誤魔化してるのは・・・見えたんだけど。
もう笑って誤魔化す余裕もなくって、あたし思わずムキになって反論した。
 
「な、なに言ってんのさ!!そんなこと、あるはずないじゃんっ!!」
 
そこで・・・はっと、した。
よく図星指されて、奇妙に反論しちゃう人っているでしょ?
まさに、そんな感じだった。
顔が・・・赤くなってくのが分かって、黙ってうつむいた。
 
 
「頼まれていた物は、これで全部でしたよね?」
 
おしめ、ミルク、それに着替え。それらを袋の中から取り出して、ちらりと見せてくれる。
うつむいたままのあたしの代わりに、ティーダがそれを受け取った。
「うん、これで全部!わざわざありがとう、助かったよ」
そこで、あたし・・・やっと顔を上げる。
一度小さく深呼吸。
 
「ありがとう、リンさん」
 
「あなたの頼みは断れませんから」
そう言って、笑ってくれる。リンさんってばホント、優しくって頼りになる。
『巡回公司』に乗り込み飛び立とうとするリンさんへ、あたしもティーダも大きく手を振った。
手を振るリンさんを乗せたヘリコプターは、あっという間に青空の中へと吸い込まれていった・・・。
 
 
 
 
 
 
ユウナのコップが日に照らされてキラキラ光る、キッチン。
さっき片付けた昼食の食器は散乱したままだけど。今はそれどころじゃなかった。
あたしの手には、粉ミルクと哺乳瓶。
はっきり言って、全然作り方もわからない。
ミルクの缶とにらめっこしながら、手にスプーンを握って。
「あ〜っ!!もう、わっかんないっ!!」
そう叫んだとき。また・・・赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたんだ。
 
「今度はどうしたの!?」
また慌てて走っていった先には、泣き叫ぶ赤ちゃんと、おしめを片手に固まるティーダ。
「あのさ・・・たぶんおしめ換えろってことだと思うんだけど、さ」
そうつぶやいて、赤ちゃんのほうへ視線を戻す。
あたしも赤ちゃんのほうへ視線を移した。衣服が、湿ってるのが分かる。
 
「ホントだ!換えてあげなよ!」
「だって、オレが近づくと泣くじゃん!!」
 
ティーダの力いっぱいのその言葉に、あたし小さく溜息をついた。
赤ちゃんに泣かれたの、相当ショックだったみたい・・・。
 
「分かった・・・。あたしがおしめ換えるから、ミルク作ってきて」
 
そう、彼へとつげる。「わかった」とキッチンへ急ぐティーダ。
その背中へ向けてもう一言。
「ちゃんとミルク冷ましてね!!」
「了解〜・・・うわっ!」
ティーダの返事とともに、聞こえてきたカシャンって音に、あたし少しだけ不安を感じながら視線を戻した。
「今換えてあげるからね〜」
 

なんとかおしめを換えて、ぐしょぐしょの衣服を脱がせて。
「ティーダぁ!この布ここに置かせといてね!!」
そうキッチンへ向けて叫び、部屋の隅に置いた。
新しい服に身を包まれて、だけど・・・それでもぐずる赤ちゃんをあたし優しく抱き上げた。
「ミルクできたっス!!」
元気いっぱいにミルクを持ってきたティーダ。そのミルクを受け取って、そっと赤ちゃんの口元へと近づける。
それを、ゴクゴクと勢いよく飲む赤ちゃん。
やっぱり、お腹も空いてたんだ・・・。
 
ミルクを飲み終わると、赤ちゃんに笑顔が戻る。
あたしもティーダも、ほっと一安心。
抱っこしてゆらゆらとゆすってあげると、ほやっと笑った。
「かわいいね」 
って、ティーダの顔を覗き込めば
「ホント、かわいいよな」
って、優しい笑顔で、赤ちゃんを見てる。
 
だんだん、眠たくなってきたみたいで、赤ちゃんはあたしの洋服をつかんだまま目を閉じた。
そのちっちゃな手が、かわいくってそっと触れる。
 

「天使のような寝顔」って、よく聞くけど・・・。本当に、そんな感じ。
見てるこっちまで、幸せな気分になれる。
 
「なんか・・・いいよな。子供って」
 
赤ちゃんを抱っこしたまま座ったあたしの隣に、ティーダが腰を下ろした。
すごく優しい瞳で、赤ちゃんを見つめてるんだ。
「ホント・・・なんか優しい気持ちになれるよね」
ほわほわして。あったかくって。
あたしの心の中まで、ほわほわにしてくれる。
 
・・・で。
あたしの隣に座って、赤ちゃんを見つめるティーダを見てたら・・・
さっきリンさんに言われた言葉を、思い出してしまったんだ。

『こうしているとあなた達、なんだか親子みたいですね』
 
・・・実は、ちょっとだけ・・・思ってたりもしたんだ。
だから余計、あたしの心の中を見透かされちゃったみたいで、驚いた。
あの時、あたしの気持ちがバレてしまったんじゃないか・・・なんて、
今さらながら恥ずかしくなってしまったりも、して。
 

・・・そんなこと、あるはずないのにね・・・。
 
絶対、叶うことのない夢。
絶対、届くことのない想い。
 
キミには・・・ユウナがいるんだから。
 

「ユウナんも・・・子供好きそうだよね・・・」
「え・・・?」
 
ぼんやりと考え事なんかしていたら、ついそう口にしてしまっていた。
気がつけば、ぽかんと口を開けてあたしを見ているティーダと視線がぶつかる。
 
「そうだなぁ・・・。ユウナも子供好きそうだよな」
 
ぽつりとつぶやいたキミが・・・一瞬すごく、幸せそうだったの。
それを、あたしは見逃さなかった。
現実ってやつを、思い知らされる。
 
 
「だよ、ね。それに、優しい・・・し。ほんっとキミは、幸せモンだよ」
 
って、笑ってそう言ったつもりだったけれど。うまく・・・笑えてなんかいなかった。
「そうだな」
なんて笑ってるキミの顔を、まともに見ることさえ出来なくなってた。
 
ユウナがいない間に、キミとこうして赤ちゃんをつれてるなんて。
おかしい・・・よね。
しかもここは、ユウナとティーダのお家なわけで。
あちこちにあるユウナとティーダのおそろいグッズが、ちょっと・・・いやかなり羨ましくって。
そして、辛くも・・・ある。
 
「ね、ねぇ・・・。お布団貸してもらってもいい?赤ちゃん寝かせたいんだけど」
あたしのその言葉に、はっとしたようにティーダが立ち上がった。
 
「そっスねッ!ずっと抱っこしてたら手がしびれるもんな」
そして「こっち、こっち」とあたしを案内してくれる。
だから赤ちゃんを抱っこしたまま、あたしティーダの後へ続いた。
 
「ここ、客間なんだ。あ!!リュックも今日泊まってけば?」
「うぇ!?」
 
布団の上に赤ちゃんを寝かせながら、思わず奇妙な声を・・・上げてしまった。
赤ちゃんが一瞬ぴくんっと動いたけれど、またスヤスヤと寝息を立てる。
 
「ほら、夜中とか一人じゃ大変だろ?オレでも・・・ミルクぐらいは作れるし」
 
ホント―・・・優しすぎだよ・・・。
 
もちろんティーダは、あたしの想いなんか知るはずもないし。
まぁ・・・知ってもらわなくっていいと思ってる。
あたしはあたしの心の中で、徐々にそれを消化していく・・・『覚悟』だったんだ。
キミと、再会した時から。
だって、キミはユウナのことを・・・ずっと好きだったでしょう?
そんなの、言われなくたってすぐに分かった。まぁ、シーモアのことがあったから・・・余計、だったんだけど。
 
「うん、ありがと」
 
 
 
 
昨夜に引き続き、月が輝く夜空。
泣き出した赤ちゃんを、どうすることもできなくてあたし海までやってきたんだ。
ミルクも飲んでくれないし、おしめも濡れてない。
だけど海岸へたどり着いたとたん、赤ちゃんは突然・・・おとなしくなった。
 
「・・・なんで、かな?」
不思議だったけれど。実はちょっとだけ赤ちゃんへ感謝した。
だって・・・今日はいろいろ考えすぎちゃって。ティーダと一緒にいるのが、ちょっとだけ辛かった。
 
「はぁ・・・」
小さく、溜息。
赤ちゃんの世話を二人でする。
それがすごく嬉しかったし、楽しかった。
だけどやっぱり・・・苦しかったんだ。
どうしてもあたしの頭の中からは、ユウナへの思いが消えることはないし。
もちろんティーダの心の中もそうだと思う。

いくらがんばったって、あたしは「ガード仲間」「ニギヤカ担当のニギヤカ娘」。
だから、いつでも・・・笑ってなくっちゃいけない。
 
「でもちょっと・・・今日は限界っ」
声が、震えた。
いっそのこと、放っておいてくれればいいのに。
キミが優しすぎるから・・・なかなか心から離れてくれない。
 
桟橋へ座り込んで、赤ちゃんをしっかりと抱きしめた。
涙が溢れてきて・・・止まらなくなる。
 
届くはずのない想い。届けるつもりのない、想い。
甘い甘い夢の後は、残酷な現実へと・・・引き戻される。

だから余計。だからきっと・・・現実が、辛い。
 
ぽとん ぽとん
 
あたしの頬を伝って落ちる涙が、桟橋の上へと落ちる。
そして・・・水玉の模様を、作っていった。
 
でも。泣くだけないたらきっと・・・またティーダに笑って接することが、できるはずだから。
今だけは「ニギヤカ担当」から、外させてもらおう・・・。

 
涙の止まらないあたしの頬へ、温かいものが触れた。
「・・・」
ちっちゃな手。それが優しくあたしの頬を流れ落ちる涙を止めた。
ぎゅっと、抱きしめて頬を寄せる。
ミルクのにおいがして、なんだかふわっと・・・気持ちが軽くなれた気がした。
 
「・・・キミは、優しいね」
 
あたしの瞳から、最後の一粒の涙が零れ・・・頬を滑り落ちた。
その先には、赤ちゃんの手。
 
ぽとん
 
あたしの涙が、赤ちゃんの手へと落ちたその瞬間―・・・
 
「きゃッ!!」 
 
目の前が、真っ白に・・・なった。
すごい、光。
なにが光ったのかなんて、分からなかった。
ただすっごくまぶしくて、きつくきつく目を閉じてた。
 
そしたら急に、腕の中が軽くなって―・・・。
 
「・・・あ、れ・・・?」
 
目を開けたときには・・・腕の中にはもう赤ちゃんはいなかった。
 
「お〜いッ!!リュック!?」
 
遠くから聞こえてきたのは、ティーダの声。
あたし呆然と、そのまま海を見つめていた。
 
「リュック・・・?どうした?」
頭の上から聞こえた声に、あたしゆっくりと視線を動かす。
「あんまり遅いから、心配したっス」
そう言って笑って、だけどまた不思議そうな表情を見せる。
「なぁ・・・。赤ちゃんは?」
 
目の前が・・・まだチカチカしているような気がして、あたしもう一度瞬きをした。
月の光と、波の音。
腕の力が、すとんと・・・抜けた。
 
「消え、ちゃった・・・」
 
呆然と見上げた空には、昨日とは少しだけ形の違う、大きな月。
雲ひとつなくて、星達も輝く。
 
 
「・・・消えた?」
 
首を傾げるティーダ。あたしも、なにがなんだかよく分からない。
キミは・・・どうしてここへ、現れたの?
そして、どこへいったのだろう―・・・。
 
「リュック・・・?」
 
ティーダが、ふいにあたしの顔を覗き込んだ。
だから慌てて、涙をぬぐう。
 
「なんでも、ないよ。大丈夫っ・・・」
そう言って、立ち上がる。
「帰ろ?」
 
あたしの気持ちは、もう忘れよう。
ユウナとキミが、もっと幸せに―・・・。
それが、あたしの願い。あたしからのお願い・・・。
 

温かな風が吹く、夜の浜辺。
大きな月と、その光を受けて煌く海を振り返る。
 
「素敵な夢を、ありがとう―・・・」



                        

 
 ゆらり ゆらり
 
 海に彷徨う月明かり。
   
 星が揺れてこぼれた涙は
 
 小さな儚い想いのかけら。
 
 キミは届かぬ、愛の歌。
 


 キミにはナイショの、セレナーデ





     第一話 END

Copyright (c) 2002 小沢美月



BGM:「FFX」より「リュックのテーマ(C)」
MIDI提供:モコハウス



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