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by 茉莉子
―― それは、悪夢から幕を開けた ―― 「俺が祈り子になってやるぜ。」 「・・・ありがとう。ジェクト。」 二人の男は、そう言ったきりお互いを見つめ合っていた。 まるで声にならない言葉を、そのまなざしで交わしているかのように。 アーロンは、二人に向かって叫ぼうとした。だが声が出なかった。 ならばその体に触れようと、アーロンは腕を伸ばした。しかし、その指先さえも二人には届かなかった。 「じゃあな。」 「アーロン。ユウナを・・・頼む。」 二人の男が、そろってアーロンに向かい、微笑みかけた。 その微笑は、神々しいまでに美しく、そして凪いだ海のように穏やかだった。 自らの生命で人々の笑顔を守ろうとする、その覚悟がさせる穏やかで美しい微笑みだった。 (止めなければ!) アーロンの身体中の細胞から、その身を焦がしそうな程の熱い想いが溢れてきた。 (駄目だ!行っては駄目だ!究極召喚ではスピラは救えない!) アーロンは再び声を出そうとした。しかし唇はまるで鉛で塗り固められてでもいるかのように重く、開かない。 (今のままでは無駄死だ!) アーロンの思いを余所に、二人の男はくるりと背中を向け、歩き出した。 アーロンは二人の歩みを止めようと、必死に追いかけようとした。でも足は動かなかった。まるで大地に根を張っているように重く、渾身の力を込めてもピクリとも動かない。そして見る間に、二人の背中が遠ざかって行った。 (行くな!ジェクト!ブラスカ様っ!!!) アーロンは僅かでも二人に近づきたいとでも言うように、必死に腕を伸ばした。けれど、二人の背中はすでに小さくなり、平原にたゆたう霧の海へと消え入ってしまった。 (行くなぁっ!!) アーロンはその場に崩れ落ちた。そして耳を塞いだ。 やがて遠くから風の音に混じって、二人の断末魔が聞こえてきた。 その声とも叫びともつかない音は、見えない刃となってアーロンの身体を切り刻んだ。 アーロンの噛みしめた唇から、一筋の血が流れた。 ふと気づくと、アーロンの前には妖艶な美女が立っていた。 そのしなやかな肢体とは裏腹に、彼女の周囲には人ならざる者の気配が漂っていた。 その表情の無い美しい顔には、鮮血が飛び散っていた。返り血らしい。 アーロンが、己の体に目をやると、ざっくりと斬られた傷から、どくどくと黒みがかった赤い液体が流れ出していた。 (俺は、ここで死ぬ訳にはいかないのだ) 流れ出す血と共に、自らの命が失われてゆく。 流れ出す「命」を留めようとするかのように、アーロンは傷口を両手で押さえた。 死の淵に立った時、彼は友から託された願いの重さを、改めてその身に感じていた。 やがて失われた血は彼の視界を奪い、アーロンは独り、漆黒の闇の中に落ちていった。 手を伸ばしても、彼の手は空を掴むだけだった。 (ジェクト!ブラスカ様!) 暗闇の中に、友たちの最期の微笑みが浮かんだ。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X (ジェクト!ブラスカ様!) アーロンは、自分の上げた声で目を覚ました。実際には声にならぬ声だったらしい。仲間たちは、まだ皆眠っている。辺りを見回すと、遠くの岩肌が明るく光り、やわらかく辺りを照らしていた。うるさい程に飛び回っていた幻光虫が、さっぱりとその数を減らしている事からして、もう夜明けの時間を迎えているようだ。 アーロンは両手で顔を覆った。 見ている間から、夢と判る夢だった。 それは10年前から、何度となく見ている夢だった。それでもこの旅に出てからは見なくなっていたのだが、ザナルカンドが近づくにつれ、まるで記憶の中に棲む悪魔がその存在を誇示するかのように、この夢を見る回数が増えてきていた。特に今朝の夢が、ひときわ鮮明で生々しかったのは、この特異な場所に因るのかもしれない。 アーロンは、悪夢の残骸を振り払うように、2,3度頭こうべを振ると立ち上がった。 少し早いが今日の探索を始める事にした。誰かに告げて行こうかと考えたが、見れば誰の寝顔にも疲れの影が浮かんでいた。この洞窟内に閉じ込められて丸2日になる。ルールー以外は、まださほど影響を感じていないようではあるが、この空間に満ちている、絡みついてくるような死人の怨念は、生身の人間には堪えるのだろう。起きて活動している間は、皆いつもと変わらないように振舞っているが、寝顔には隠し切れない消耗が見てとれた。 アーロンはこのまま黙って行く事にした。もし何事か起きても、きっと誰かが叫べば聞こえるだろう。 太刀を背負い、彼は廃墟の街へと歩き出した。 仲間達は、ここに閉じ込められ足止めを喰っている事に焦りを感じ始めている。しかしアーロンは、脱出する為に、皆に死人を探す様に指示しつつも、どこかで安堵している自分を感じていた。なぜならば、ガガゼトの頂いただきを越えれば、もうザナルカンドの遺跡だ。 仲間達は、確かに皆、逞しくなった。 旅立ちの頃の、赤子のよちよち歩きのような頼りなさは消え、アーロンの背についてくるだけでなく、自ら考え、行動しているように思える。各地で、『シン』の爪あとをまざまざと見、ベベルでは寺院の横暴や嘘にも触れた。そして今、『シン』がティーダの父、ジェクトである事を知って尚、この旅を止めようと言い出す者はいない。 (強くなった・・・) アーロンはうなずいた。 今、彼らを頼もしく思うのは事実だ。けれど、それでもアーロンの不安はぬぐえない。 彼の地で彼らを待っている「真実」は、きっと今までの体験など比べようも無い程に、過酷な物となるだろう。それは10年の昔、アーロン自身にとってそうであったように。 彼らに、その「真実」を見せる為に、道標として存在してきた己ではあるが、仲間と、10年前の自分を重ね合わせると、そこには消しがたい不安が生じていた。 ―― 「真実」を知った時、彼らはどうするのだろう?―― 嘆き悲しみ絶望するのか? 自暴自棄に陥って、アーロンを責めたてるのか? いや、かつての父達のように、たとえかりそめでもスピラに安寧をもたらす為に、 その身を投じようとするのか・・・ それとも。 (それを決めるのは、俺の役目ではない。) 歩きながら、アーロンは再び頭を振った。 自分は道標。それ以上でも以下でもない。 スピラの未来を考え判断するのは、この世界に生きている人間の権利だ。 しかし 自分は、友たちの遺志へと導く道標でありたい。 真にスピラを救う道への道標でありたい。 そうでなければ、このような忌まわしい存在になり果ててまで、この世界に留まっている意味が失われてしまう。けれども、果たして仲間達は、「その選択」を選び取ってくれるのだろうか。 この胸に、抑え切れない焦燥感が溢れる。 アーロンの脳裏に、金髪の凛々しい少年の顔が浮かぶ。 そして悲壮な瞳めをした、美しい少女の顔が浮かぶ。 彼らの顔が「真実」によって苦痛に歪む時、果たしてどの選択を選び取るのか、アーロンには想像できなかった。 (結局、俺はあいつらを信用していない、という事か。) アーロンは、ふっと笑った。それはとうの昔に癖になってしまった、己が身を嘲る笑いだった。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 街のはずれまで歩いた時だった。 辺りを漂っていた幻光虫が、ふいにその数を増やし、まるで霧が立ち込めるようにアーロンの周囲に集まってきた。 はっとして、アーロンは歩みを止めた。身体中が総毛立った。 ―― 絶望、そして深い孤独。 そんな「想い」が、突然アーロンの五感を通して体内に流れ込んできた。 それはまるで自分の神経が、身体を通り越してこの街中に広がっているかのような感覚だった。 確か、ここに足を踏み入れた時も同じような感覚に襲われた。が、それは今感じているものに比べたら、ごくわずかな物だった。今ならば、この閉じられた空間の全てを感じ取れるような気さえする。そこら中を飛び回っている幻光虫を、手足のように使うことさえ出来そうだ。 アーロンは思わず辺りを見回した。廃墟の街には生気はまったく感じられず、淀んだ空気は、ここは亡者の国だと知らしめているようだった。 (何も変わりない・・か) そう思った時、アーロンの視線が一点に凝固した。 廃墟の街の、乾いた砂の上に、二人がいたのだ。 それは、10年間片時も忘れた事などない、彼にとってかけがえのない二人だった。 「ジェクト・・・?ブラスカ様・・・・」 アーロンは思わず声に出していた。 二人は、アーロンに最後の微笑みを見せた時のように、穏やかに笑っていた。 「これは・・幻か?」 自分自身に言い聞かせるように、アーロンはつぶやいた。 ―― 彼らが現れる道理はない。これは何かしらの罠だ ―― アーロンの頭の中で、理性がそう警告していた。しかし、太刀を握る手に力を込めながら、彼の心の中にはほんのわずかな迷いが生まれていた。 「・・・・・」 アーロンが、無言のまま二人を凝視していると 「う・・ううう・・・・うぉぉぉぉっ!」 突然不気味なうなり声と共にジェクトの姿が歪み、半人半獣の異形の者に姿を変えた。 それは、大きさこそ人だった頃と同じ程度だが、かつてアーロンが見た召喚獣となったジェクトの姿だった。ブラスカとアーロンしか知り得ない、ジェクトの究極召喚だ。 「何者だ!」 アーロンが叫ぶと、その獣は身体を震わせて唸った。 「どうして・・俺が・・『シン』を倒した俺が・・・『シン』にならなきゃいけねぇんだ。」 異形の獣は、確かにそう言った。いや、その発した「音」が、アーロンにはそう聞こえた。その「音」はアーロンの記憶の中の、ジェクトの声にそっくりだった。 「それで俺を騙したつもりか?」 アーロンは不敵に笑うと、その獣に太刀を向けた。その時、背後からの声が彼の歩みを止めた。 「アーロン。」 懐かしい声を聞いて、思わずアーロンは振り返った。 そこには ―― 血の海の中に立っている、ブラスカの姿があった。 ブラスカは身体中から血を流し、その顔は苦痛に歪んでいた。 「!」 その姿は、幻影まやかしと呼ぶにはあまりにも生々しく、アーロンの動きが一瞬止まった。 「どうしてユウナを独りにしてしまったんだい?君が守ってくれると思えばこそ、私は心残りなく戦えたというのに。」 「・・・」 アーロンは地面に目をやった。眼前に、ブラスカの身体中の血が流れ出たのではないかと思えるような血溜りがあった。この情景は、以前見た事がある。そう、忘れるはずもない。これは、会話の内容こそ違えど、あの日の情景そのものだ。 (そうだ、あの時もブラスカ様は身体中の血を流したようだった。) アーロンの唇が、固く結ばれる。眼前に繰り広げられている「まやかし」は、まるでアーロンの頭の中から辛い記憶を引き出してなぞったように、あの日の光景を再現していた。 「君は、感情のままにユウナレスカに挑んだ。けれどすでに私のナギ節は成っていた。君が命を落とした所で、スピラは何も変わらなかった。」 ブラスカの言葉は、氷の棘のようにアーロンの身体を刺した。それはとても生前の姿からは想像できない、冷たい響きだった。 「そうだ、おめえはただ死にたかったんだ。俺たちだけを無駄死させた後悔から解放されたくてな。」 異形の獣が唸った。いや、喋った。ジェクトの声で。 「おまえ達・・何者だ?幻光虫が俺の思念に反応しているのか?」 アーロンの歯が、ギリ・・・と嫌な音を立てる。何かの罠だと思いながらも、背中を冷たい汗がすべり落ちていく。 「何言ってやがる。俺様はジェクトだ。おめえが犬死させた挙句、『シン』にされちまったジェクトだ!」 獣は更に唸った。こちらの言葉に反応するという事は、単に幻光虫が作っている幻ではないらしい。 「おめえに恨み言の一つでも言いたくてな、こうして現れたって訳よ。」 「ふっ。俺を惑わせようとは、いい度胸だ。」 アーロンの眼が鋭く光る。と同時に、背負っていた太刀を獣に向かって構える。相手が何であれ、友たちを侮辱する者を見逃す事など出来ようはずもない。 しかし心の中で沸々とたぎるこの怒りは、もしかしたら過去の自分に向けられたものではないかと、彼は思った。なぜなら目の前の「まやかし」が発した言葉は、アーロンが己に問いかけている言葉、そのものだったからだ。 その時、アーロンはもう一つの「存在」の気配に気づいた。 それは自分と似たような種類の「存在もの」だった。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 「おまえの仕業か!」 アーロンは振り向きざまに、その「存在」に向かって叫んだ。 そこに立っていたのは、若い女だった。うつむきがちに立ち、長い茶色の髪が顔を覆うように肩に流れている。なんとか顔立ちが見えるのは、女が額の上に巻いている飾り布の所為だった。どこにでもいる若い女のようであったが、その姿はこの世の者ではないようにぼやけている。 初めてこの街を訪れた時に垣間見た、死人の一人に間違いないようだった。 しかし。 死人の顔を見た瞬間、ア-ロンの視線がその上で止まった。 それはずっと記憶の奥底にしまっていた顔によく似ていたのだ。 その「顔」は、アーロンを見るなり、野原に咲く名も無き花のような、人の心を癒す微笑みを浮かべた。 『・・・待っていたわ。』 直接頭の中に聞こえてくるように、女の声が響いた。 すると女の服が、見る間にベベルの僧官の服に変っていった。 「おまえは・・・誰だ!」 アーロンは乾ききった喉から搾り出すようにして言った。 『会いたかった・・・どうしてもっと早く・・・来てくれなかったの?』 女の表情が一転した。恨めしそうな目でアーロンを見上げている。 その深淵の入り口のような暗い瞳は、確かにどこかで見た覚えがあった。 「・・・・・」 アーロンは、隻眼を二度三度しばたいた。やがて徐々に記憶の箱が開いて、アーロンの脳裏に像を結んでいく・・・ 「どうして私ではいけないの?私がお嫌いですか!?」 (そうだ、あの時の瞳めだ。) あの、絡みつくような暗い瞳。あの時の女の目と同じだった。けれど、あの時の「彼女」がここにいるというのは、有り得ない話だった。そう、アーロンの知っている「彼女」は今もベベルにいるはずなのだから。 けれどその姿は、信じられない程に記憶の中の女性と瓜二つだった。 女は、呆然としているアーロンに近づくと、愛しげにその肩に寄り添った。 すると、それを合図とするように、アーロンと女の周囲がひときわ濃い幻光虫の塊で覆われた。 その塊に触れた途端、ジェクトは元のジェクトの姿になり、ブラスカは生前の穏やかな微笑みを浮かべたブラスカになり、そして女は、よりはっきりと、「彼女」になっていた。 「俺に、こんなまやかしは通じん!」 アーロンは女を振り払った。すると女の顔が驚きと戸惑いが入り混じった表情になった。 『どうして?私たち、ずっと一緒にいようって誓い合ったじゃない?一緒に暮らそうって。』 女の姿がすうっとアーロンに近づき、再び腕をからませる・・・ アーロンはふいに眩暈を感じた。 これが果たして夢なのか現実なのか、五感が全て薄いベールで覆われてしまったようだ。 「さあ、アーロン、ジェクト、今日は近くの村に行きましょう。」 ブラスカがにっこりと微笑んだ。 (ああ、そうだ。ブラスカ様の笑顔は、いつも俺を包み込むように優しかった。) ぼんやりとした意識の中で、アーロンは思った。 「おらっ!行くぞ、アーロン!いつまでベタベタしてやがる!」 ジェクトが豪快に笑った。 (ジェクトは破天荒だが明るいヤツだった。) アーロンはふっと笑った。 「ねえ、アーロン。今日のお食事は何が良いかしら?」 アーロンの腕にまとわりついている女が、そう言った。 「そうだな。」 アーロンはそう返答していた。まるで何かの「役」を演じているかのように、自分の意志とは別に唇が動く。 「何でも良いさ。食べられる物が作れるのならな。」 「まあ!ひどいわ!」 女は、口をとがらせて不満気だ。二人のやりとりに、ジェクトとブラスカも笑っていた。 ブラスカの足にまとわりついている幼い少女は、ユウナだろうか? 「父さん、早くかえってきてね。」 父の服の裾を掴みながら、少しはにかんでいるようだ。 ブラスカは少女に微笑み返すと、抱き上げた。 「うん、わかったよ。ユウナも良い子にしてるんだぞ。」 「うん、だいじょうぶだよ。ユウナ、いい子にしてるもん。アーロンさんも、ジェクトさんも気をつけてね。」 小さなユウナは、父に抱かれたままジェクトとアーロンに微笑んだ。 それはビサイドの太陽のように明るく、ガガゼトの雪のように無垢な微笑みだった。 (これは俺たちが旅をやめた世界なのだろうか。) アーロンは思った。 もしもあの時、究極召喚を諦めて帰っていたら、今でもこのように仲間たちと穏やかな時間を過ごす事が出来たのだろうか。ブラスカも、ジェクトも、ユウナも、そして自分も、こんなにも優しく微笑んでいられる世界・・・ (なんと穏やかな時間なのだ。) 10年前のあの日、肉体を失ってから、 いや、かけがえのない人たちを失ってから、こんなに心安らかな瞬間は、今まで無かったように思う。それ程、毎日がまるで研ぎ澄まされた刃の上を歩いているような張り詰めた日々だったのだ。と、アーロンは、その背中に追った重い荷物が、ふっと消えたような気分になった。気がつくと、鼻の奥がツンとして、熱いもので眼が濡れている。 穏やかな日々の幻は、羽毛のように柔らかくアーロンを包み込み、その精神こころを侵食していった。まるで天使の翼のような美しい白い羽で、アーロンをゆるゆると窒息させるかのように。 いまだ果たせぬ約束。永遠に続く後悔。真の想いを語れる相手のいない、深い孤独。 何も知らぬ人々は「伝説のガード」と誉めそやす。友を無駄死にさせてしまった己を、まるで神を見るような眼まなこで見る。誰も、何も知らないのだ。この世界が絶望に満ちたものだという事を。 叫んでしまいたかった。この世界の真実を。 誰でも良い、耳を傾けてくれる人がいるのならば。 そしてこの荷を、代わりに背負ってくれる人がいるのならば。 ―― そんな思いを心の底に沈めて、頑なに他人を拒み続けてきた日々 ―― それは全て、自分で選んだ道だった。その荷の重さを承知で、この世界に留まってきたはずだ。 けれどこの10年の歳月は想像以上に長かった。アーロンの精神こころは自分で感じている以上に擦り減り、傷ついていた。彼の担った使命は、一人で背負うにはあまりにも大きかったのだ。 『ね?・・・ここで、ずっと一緒に過ごしましょう?』 女の声が、頭の中に響いた。 アーロンの精神こころは二つに切り裂かれて、片方の精神こころが、今まさに女の声にうなずこうとしていた。 (待て。) アーロンの半身が呼びかけた。 (良いのか?それで。) 半身は、うなずいた。 (良いではないか。俺に何の存在理由があるというのだ。導いてきた仲間を信じる事もできず、変える事の出来ない過去に囚われ続けている。そして何より、この重荷から解き放たれたいと願っているのだから。) 半身がそう告げた時、アーロンの身体が、細かい砂でできた物のように崩れていこうとした。 アーロンの身体は、想いだけが支えとなって形作られている。その想いが消えて無くなってしまえば、当然の事だが、身体を維持する事は不可能だ。 (結局、俺はこの程度の男だったという事か。) アーロンが、唇の端に自虐的な笑みを浮かべた、その時。 『この大馬鹿野郎!!』 脳裏にジェクトの声が響いた。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X アーロンがジェクトの声を聞いた、その時。 『あなた・・・違う?』 アーロンの肩にもたれかかっていた女が、ぼそっとつぶやいた。 その瞬間、まるで一陣の風に吹かれたかのように、アーロンを包み込んでいた幻光虫の塊が穏やかな世界と共に消えて、彼はいきなり現実に引き戻された。 目の前にいるのは、友でも「彼女」でもなく、見慣れぬ服を着た死人の女だけだった。 その優しげな顔立ちは「彼女」に似てはいるが、こうして見るとまったくの別人だと分かった。 女は、それまで愛しげにからめていた腕を素早く振りほどくと、薄茶色の瞳に隠しようの無い失望を浮かべて、正面からまじまじとアーロンを見つめていた。 『違う。あの人じゃない!』 女は悲痛な声で叫んだ。まるで女の痛みがその声に潜んでいて、聞く者の心を斬りつけるような叫びだった。 『違う・・違う・・・』 女は両手で顔を覆うと、崩れ落ちた。アーロンの身体にも、女の絶望が嫌というぐらい流れ込んでくる。 それは悪夢の中でアーロンを包み込む深い闇によく似ていた。 『どうして・・・来てくれないの・・・』 女は、もうそこにいるのが誰でも構わないように、いや、もう誰がいてもいなくても関係ないかのように、ぼそぼそと喋り始めた。まるで正気を失くしてしまったように。 『閉じ込められてからずっと、ここを堀り続けてた。きっと向こう側・・・外の方から、あの人も掘ってくれているに違いないと思って・・・掘って、掘って、でも水が押し寄せてきて・・・皆、死んだわ。それでも彼も掘ってる、きっと助けにきてくれる、そう思って、私は掘り続けた・・・でも、意識が遠くなって・・・身体が軽くなって。』 アーロンは、ふん、と鼻で笑った。このレギスタンという街を襲った惨事が目の前に見えるようで、不快だった。 『私の身体、無くなってしまったけど・・・それでも彼はきっと来てくれる。だって、私がこんなに会いたいって思っているんだもの。』 アーロンは腕を組み、ただ女を見下ろしていた。 『たとえ・・・死人、でも・・・でも、もう一度・・・会いたい・・・会いたいの!』 女のつぶやきに、アーロンの眉がピクっと動いた。 ―― 会いたい ―― もう一度、ジェクトに、ブラスカに会いたい。 会って、この心のうちを、二人がいなくなってからの10年間を、語りたい。 けれど、二人を無駄死にさせ、さらに自らも肉体を失ってしまった自分に、そんな甘えを言う事が許されるはずもない。 ―― そうだ、自分はこの女と同じなのだ。 スピラを真に救う為の道標 ―― そんなご大層な言い訳をした所で、結局、自分は死人だ。 友の最期の約束を果たす使命を忘れて、自分の力量も考えずに命を落とした大馬鹿者だ。 それでも、友と再び言葉を交わしたいという想いが、この胸を焦がす。 ・・・10年の時間を遡る事ができるなら・・・けして叶うことの無い願いが、この心を真綿のように締めつける。 その時、アーロンの脳裏に、再びジェクトの声が響いた。 その声は、たった今交わした言葉のように、生々しい声だった。 「息子を、頼む。」 アーロンが覚えている、ジェクトの最期の声だ。この言葉を残して、ジェクトは祈り子となった。 いつもいい加減だったジェクトの、一番真剣な声だった。その短い言葉に託された幾千の想いを、あの時アーロンは確かに感じ取った。 「アーロン、今までありがとう。」 そしてブラスカの最期の声が、頭に響いた。 ブラスカは、決戦前にユウナの事は何も言わなかったが、その気持ちは痛い程伝わってきた。 言葉に出来ない程に、遺してゆく子の事が心配だったのだ。 自分にとって、この二人の願いよりも大切なものが、この世界に存在するだろうか? 後悔が、孤独が、どんなにこの身を苛さいなめようと、それが友との約束よりも、至重しちょうであるはずもない。 アーロンの心を蝕んでいた闇が、二人の声で消えていった。 (そうだ) アーロンは天を仰いだ。 その眼には、岩盤の向こうのザナルカンドが見えていた。 (俺は大馬鹿者だ。) アーロンは喉の奥で笑った。 友が、その身を贄にえとして教えてくれた、スピラの真実。 それを知る者は、この世界にたった一人、自分しかいない。 自分が投げ出してしまったら、友が信じたスピラの可能性の芽は摘まれてしまうのだ。 ザナルカンドで、仲間がどんな決断を下すのかアーロンには分からない。 けれど、たとえその瞬間彼らがどんな選択をしようと、悔いは無い。 <無限の可能性を秘めた>仲間達のその目に「真実」を見せる事が、アーロンの10年来の目的であり、友の願いであるからだ。 スピラの不幸は、このままでは永遠に抜け出す事のできない、死の螺旋そのものだ。 スピラ中の生命いのちを吸い上げ永遠に続く螺旋。 そしてそれを利用し、この世界の真実を闇に葬った寺院の欺瞞ぎまん。 こうして作り上げられた箱庭のような世界を、けして不幸な事ではないと言う人もいるかもしれない。 確かに、与えられるだけの世界で生きていく事は、何も考える必要が無い。寺院の教えのままに、引かれたレールの上を進むだけの人生は、はるかに楽であろう。けれど、その人生は「生きている」と言えるのか? (否!) アーロンは頭を振った。 本当の「生の喜び」とは、たとえ辛くとも、自分の眼で真実を見、判断し、 自らの血肉を糧としながら、作り上げていくものなのではないか? 友たちはそう思い、わずかな可能性を信じてその身を投じた。 結果、いまだ螺旋は閉じられたままであるが、それを今度こそ壊す為に、自分が在るのだ。 友の犠牲の上に、自分は究極召喚がけして<救い>では無い事を知ったのだから。 そう、今度こそ全てを悔いなくやり遂げて、あの日の友のように一点の曇りも迷いもない笑顔かおで再会するのだ。 (独りでも、構わん。) アーロンはうなずいた。もし、仲間たちがその選択を選び取れなかった時は、独りででもジェクトを救うのだ。 (いや・・・独りではなかったな。) アーロンの、固く結んだ唇がほころんだ。 (志を一つにする者として、俺は永遠に友たちと繋がっているのだ。) X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 『もしかして・・・』 黙思していたアーロンに女が声をかけた。女は冷静さを取り戻した様子で、アーロンをじいっと見つめていた。 『あなたも・・・死人?』 アーロンが視線をやると、女は、まるで絶望の中に一筋の光でも見出したかのように、祈るような表情でアーロンの顔を見つめていた。 「だとしたら、何だ。」 アーロンは、自分にまとわりついてくるその視線を払いのけるように言った。脳裏に、昨日のキマリの話が浮かぶ。キマリは男の死人にそそのかされそうになったと言っていた。とすれば、今日は自分が試されているのだろうか・・・? 『あなたも、ここで私たちと一緒に暮らしましょう?この場所は、あなたにとって過ごし易いはずよ。』 アーロンは、ふん、と笑った。 「確かにな。」 そう、ここの空気は死人であるアーロンにとって確かに過ごし易い。 アーロンは岩の天井を見上げ、そして再び視線を女に戻した。この閉じられた世界は、たぶんこの死人達の残留思念によって作られた世界なのだろう。自らをこのような檻に閉じ込めて、果たせなかった夢を想い続けているのだろうか。 「哀れだな。」 アーロンはまるで溜め息をつくように、そう言った。 「ここに居ても、おまえの恋人には永遠に会えんぞ。」 女は息を飲んだ。そしてアーロンの言葉から自分を守るように背中を向けた。 『・・・そんな事、判っているわ。』 声が震えていた。 『判って、いるのよ。』 その声はかすかに笑ってさえいるかのように聞こえる。 「もう、現実を受け入れろ。」 アーロンは腕を組み、ただ鋭い視線を投げかけていた。女の肩が小刻みに震えているのが見えた。 『・・・いや・・・』 女の感情が、その小さな声とは裏腹に昂ぶってきている様子が感じ取れる。小さな亀裂から、せき止めた水があふれ出てくるように。 『ここで待っていると、約束したんですもの。ここに居れば、あの人が迎えに来てくれる。いつかきっと・・・きっと会える。』 女は静かに振り向きながらそう言った。その声はか細かったが、祈りにも似た強い気持ちが満ちている。 愛情と友情 ―― その違いはあっても、身体を引き裂かれるようなせつない思いは、アーロンとて同じだった。だからこの女の叫びは理解できる。もしかしたら仲間たちの誰よりも、この女はアーロンの心境に近い所に居るのかもしれない。―― だからこそ。 「俺たちを閉じ込めたところで、誰もおまえの恋人の代わりにはならない。・・・違うか?」 アーロンの淡々とした声に、女の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。泣いている、と自分ではわかっていないのかもしれない。表情はそのままで、ただ涙だけが、後から後から青白い頬をすべり落ちていった。 「容易たやすい事だ、現実を受け入れれば良い。仲間には召喚士がいる。現実を受け入れさえすれば、おまえは異界に行ける。」 女は泣き続けた。その心は、アーロンには手に取るように分かる。女の感情がアーロンの身体に入り込んでくるからだ。 「何故この場所にこだわる。どんなに願った所で、時間を遡る事は出来ん。ここにしがみついている限り、おまえの願いは永久に叶わん。」 『あなたも、過去に戻りたいのでしょう?』 まるで追い詰められた鼠が噛み付くように、女は言った。女にもアーロンの心が見えているのだろう。 『あなたも、その人たちとまた旅がしたいのでしょう?時を遡りたいのでしょう?』 「くだらん!」 アーロンは吐き捨てるように言った。 「時は二度と戻らん。俺は在るべき場所で友に再会する。その為の旅だ。おまえも真に願いを叶えたいと思うのなら、在るべき場所に帰れ!」 絶望と孤独が支配する闇が、再び女の心を覆っていった。その様は悪夢に苦しむ自分自身を見ているようだと、アーロンは思った。思わず女から視線をそらした。 「・・・・・その悲しみを、糧にしろ。」 まるで自分自身に言い聞かせているようなアーロンのつぶやきに、女の双眸から涙が止まった。 『あなたは・・・・・』 何かに気が付いたように女が言いかけた、と、アーロンはそれを遮るように言葉を重ねる。 「俺たちを解放しろ。」 その言葉は鋭い眼光と共に、女を圧した。 女の身体が、風に吹かれたように、2,3歩後退った。すると、徐々にその身体が透き通ってきた。 「もう一度言う。俺たちを解放しろ!」 アーロンの呼号に、女は諦めたのか、悲しみに歪んでいた顔が次第に表情を失くしていった。しかしその眼だけは、アーロンをじっと見据えていた。 『会いたいの・・・消えたく・・・ない。』 女の言葉に、アーロンはもう言葉を返さなかった。ただ射殺す程の殺気を帯びた瞳で、睨んでいるばかりだった。その間にも、女の身体から幻光虫が舞い飛び、さらに輪郭がぼやけていった。 やがて女の唇が、いや、と動いたように見えた後、その身体が淀んだ空気に溶けるように、さあっと消えていった。 「逃げられたか?・・・それとも・・・」 アーロンは、しばし女のいた空間を眺めていた。そして 「消滅・・・できたのなら、幸福かもしれんな。」 そうつぶやいた。 気が付くと、アーロンの周囲には、ひとつ、ふたつ、幻光虫が舞い始めていた。 もう夕暮れの時間を迎えたのか、その数は瞬く間に増えていった。 まるで蛍のように、幻光虫が緑の尾を引いて舞い飛ぶ中、アーロンは仲間の待つ野営地に向かって歩き出した。 歩きながら、アーロンは思いを馳せた。 3人で旅したあの日。喧嘩も衝突も絶えなかったが、アーロンの人生で一番輝き、幸福だった日々を。 (ジェクト・・) アーロンの脳裏に、今は息子に託された剣を携えて豪快に笑う、ジェクトの姿が浮かんだ。 (今回は、おまえに助けられたな。) 思い出の中のジェクトが、笑った。 (ブラスカ様・・) 脳裏に、いつも微笑みを浮かべていたブラスカの姿が映し出される。穏やかで、けれども凛としていた、アーロンがその人生でただ一人敬愛していた、大切な先輩。 (必ず、やり遂げて会いに行きます。) ブラスカが優しく微笑んだ。思い出の中にあっても、全てを包み込み赦すような微笑だった。 (そして・・・) アーロンは、もうずっと思い出す事もなかった、「彼女」の顔を思い浮かべた。 (あの時、あの一途な気持ちから、俺は紛れも無く逃げたのだ。すまなかった。) 思い出の中の女は、ただにこやかに笑っていた。 (あの死人は、俺のそんな弱い部分に、つけこんだのかもしれん。) アーロンは、唇の端に笑みを浮かべた。しかしその笑みはいつもの嗤笑ししょうではなかった。 (だがな、俺は、もう迷わん。) アーロンは天を仰ぎ見た。3人の笑顔が、そこに見えたような気がした。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 「あ、アーロンさん!」 野営地に戻ったアーロンを一番に見つけたのは、ユウナだった。 「まだ目覚めん・・・か。」 アーロンは、野営地の小高いステージに上り、いまだ目を覚まさない金髪に目をやった。 穏やかな顔をして、ただ眠っているだけのように見えるが、その固く閉じられた瞼の向こう側で、きっとこいつも戦っているに違いない。アーロンはそう思った。 ここの死人が何故覚醒したのかは定かでないが、どうも自分たちの旅の邪魔をしたいらしい事は確かだ。 ならばティーダが目を覚まさないのは、そういう死人の都合が存在しているのかもしれない。 「変わりないか。」 アーロンは顔を上げると視線をユウナに戻した。 「ええ・・」 ユウナの顔が曇る。アーロンは、その細い肩に無言で手を置いた。ティーダとユウナ。たぶん彼ら二人が、この旅で一番苦しんできただろう。それまでの自分の「常識」はおろか、自分の存在意義すら否定された。普通の人間なら自暴自棄になって投げ出してもおかしくない旅だった。それでも、お互いに支えあい、新たな「生きる目的」を作り上げている。その姿は、もう親無しに生きられない雛鳥のそれではなかった。力強く大空を羽ばたいていける逞しい翼が、アーロンには見えた。 「ここの死人は、何やら俺たちを試そうとしているのかもしれんな。」 アーロンが発した言葉に、一同の視線が集まった。 「アーロンさん!会ったんですか!」 どんな手がかりも見逃したくない、といった必死の表情で、ユウナが見上げる。 「な・・何があったんッスか?」 ワッカも遠慮の無い好奇心一杯の眼で見ていた。 「いや・・昨日のキマリと同じだ。俺の前に現れたのは、女だったがな。」 アーロンはティーダの傍から、ゆっくりと皆が輪になっている場所へと移った。 「やはり奴等は、すんなりと此処を通したくないようだ。」 そこまで報告すると、アーロンは口を閉ざした。 ・・・今は、まだ言えない。これ以上はまだ話せない。いずれ時が来れば全てを語り合える日が来るだろう。その瞬間ときを迎えるまで、今ひと時、自分の胸に全てをしまっておこう・・・そう思いながら。 アーロンは、壁に背を預けると、思い思いに休んでいる仲間たちを見回した。どの顔も、焦りと疲労が見え隠れしてはいるが、その会話は普段と変わりなかった。 「ったくよぉ、死人のヤツ、なーに考えてやがるんだ。俺は絶―対っこんな所出てやっからなっ!」 ワッカが気を吐く。皆を勇気づけようとしているのだろう。 「あんたは・・口ばっかりね。今日も会えなかったんでしょう?死人に。会えなきゃ何も出来ないじゃないの。」 すかさずルールーが口を挟む。青い顔に汗を浮かべながら、それでもいつもの調子で喋ろうとしているのが、アーロンには見てとれる。 (いい面構えになってきたな。) アーロンは唇に浮かんだ得心の笑みを、誰にも見られないように少し顔を伏せようとした。 そしてふと、キマリの視線に気がついた。アーロンの秘密をずっと守ってくれているキマリ。再会した時、アーロンが一瞬別人かと思った程、彼は逞しく成長していた。今も、一族の悲劇を知って辛いだろうに、その表情はいつもと全く変わりない。 アーロンの脳裏に、昨日見かけたキマリの顔が浮かんだ。表情の少ないキマリだが、その金色きんの瞳には強い意志が宿っていた。キマリはその意志で、10年の間黙々と自分との約束を果たしてきてくれたのだろう。 (そうだったな。) アーロンは、キマリの無言の励ましを受け取る。 (この10年の間も、俺はけして独りで戦っていた訳では無かったな。) アーロンの心に、ひたひたと温かな波が押し寄せてきた。それはまるで湧き出でる泉のようにアーロンの心に満ちて、そして赤子を抱く母のぬくもりのように、その心を暖めていった。 (俺の歩んできた道は、間違っていなかったようだ。) アーロンは目を閉じた。 (こいつらなら、きっと成し遂げるはずだ。) ゆっくりと目を開け、岩の天蓋を見上げた。 (俺たちが為し得なかった、永遠のナギ節を。) 洞窟の狭い空には、満天の星の代わりに、幻光虫が長い尾を引いて舞い飛んでいた。 アーロンは何かに気づいたような様子で辺りを見回した。大事な仲間が一人欠けている。 ここ数日、従姉妹の命を守るための手段を考え続けている少女がいなかった。 その少女はニギヤカ担当と称していつも元気を装っているが、今、誰よりも思い詰めている様にアーロンには見えていた。 ここの死人は、アーロンが体験したように、人の想いに反応し悪い方向へと引き込む力を持っている。 (何事もなければ良いがな・・・) アーロンは、不吉な思いをその胸にしまった。 |