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おっちゃんの苦手なもの(FF10)
【教訓編】 リュックは今、真剣に考えている。 深い彩りで道行く人を魅了する、マカラーニャの青い鉱石群も顧みず、足と頭を動かすことに集中していた。 それこそどうすれば大切なユウナんが助かるかという問題と、ほぼ同じ比重でもってこの難題に取り組んでいたのである。 伝説のガードの弱点を、何としても探り出さねばならない。 雷平原でリュックが弱点をさらした折、アーロンの態度たるや殊に無慈悲で情け容赦がなかった。リュックを前進させる為にわざと手厳しくしたのかもしれない、そんな風に親切にとらえてやる必要はない。あれ以降こちらが向ける敵意のマナザシをご丁寧にも鼻であしらってくれて、彼女の神経は逆撫でされまくっているのだから。 今度は彼女があざ笑ってやる番だ。冷血親父に一矢を報いてやるべく、リュックは早速調査を開始した。 仲間内で当てになりそうなのは、召喚士を背に守るようにして先頭を行く少年だけである。話題にする人物はしんがりを務めている、リュックはついていた。 ユウナの隣に駆け寄って、擬装(カムフラージュ)もばっちり。はやる心で、リュックは目的を果たしにかかった。 「ねね、キミはさ、おっちゃんとの付き合い長いんだよね?」 猫撫で声に少々引っかかるものを感じつつも、ティーダが素直に答える。 「ん、まあ……かれこれ十年かな。最近音沙汰ないなって思ってると、丁度良くぶらっとうちにやって来てさ。何か心得てるんだよな、おっさんって」 指摘されれば本人は真っ向から否定するであろうが、アーロンについて語る少年の表情は柔らかだ。ユウナが彼を微笑ましく見つめる。 「じゃあじゃあ、おっちゃんの泣き所って、何か知らない!?」 「そうッスねー、アーロン恐いものなしだからなぁ」 「全く隙なし?! たとえば嫌いな食べ物なんかも皆無ってわけ? 無敵の完璧人間だっての?!」 拳を震わせて詰め寄るリュックの勢いに、ティーダはおののき後ずさる。 「いや、うーん、あ、そういえばザナルカンドでは」 「なになに!?」 「女の人に群がられるの、いかにも嫌そうだった覚えがあるよ。昔はさぞや生真面目な僧兵だったんだろうなー」 「今見つけたジェクトさんのスフィアでも、上司の娘との縁談を持ちかけられたけど断ったって、父さんが漏らしてたね」 「だったよな」 頷き合ってはそこはかとなくいい雰囲気を出す男女に、疎外感を与えられながらも、リュックはめげずに話を続けた。 「でも女の人が苦手ったって、おっちゃんあたし達には平然としてるじゃん」 「まあ、四六時中一緒でいちいち意識はしないだろ。ユウナは仕えてた人の娘だし、な?」 「アーロンさん、ルールーにはちょっと堅いかもしれない」 「お、ユウナ鋭いっ」 「……じゃ、いじめられおちょくられ配慮の欠片もなく扱われてるあたしは、一体何なのさ」 「そりゃ、おっさんからしてみたら女性ってより、周りをちょこまかしてる小動物みたいな……え?」 ユウナが彼の袖口を必死で引っ張り、失言を中断させた。しかし、もう遅い。 「悪かったねーーーー!!」 既にリュックの右手には手榴弾が握りしめられていた。 「お前ら、余りはしゃぐな。ユウナを巻き込んだらどうする」 「わかってんのかよ……みんなあんたのせいなんだよ!」(←どこかで聞いた台詞) 諫めるアーロンに、ティーダが煙を吐いて八つ当たりする。色素の薄かった髪も焦げついて、よろしい感じに染まっていた。 的を外さなかったリュックはといえば、ユウナの傍で知らんぷりを決め込んでいたりする。 もう絶対他人には頼るまいと、くれぐれも自戒しながら。 【返討編】 リュックは今、標的を監視している。 マカラーニャの森は薄暗く、従って偵察も行いやすい。先頭にいるままと見せかけて、結晶の陰に潜みアーロンを待ち伏せしていたのだった。 腐っても伝説のガード、腐るどころか現役のツワモノである。細心の注意を払い、彼の死角である斜め右後ろへリュックはいざってゆく。額から頬までを縦断する痛々しい切り傷が、アーロンの右目から視力を奪っている、そこにつけ込んでの作戦である。 尾行されているとは及びもつかないのであろう、敵は悠々たる足取りだ。藍のベールを背景にしょって緋の衣を揺らめかす背中は、中々どうして絵になっている。 決定的な弱みはこれから握るとしても、後ろを追っている現況にリュックは結構満足していた。さすがのアーロンにも行き届かないところがあったのだと、彼女はほくそ笑む。 直後、彼が素早く振り向いたので、リュックの心臓は飛び上がった。 緊迫した顔つきで、アーロンが進行方向と逆の一歩を踏み出す。リュックは息を殺し、硬直するしかない。 確実に距離を縮めていかれ、挙句、二人の間にはリュックをぎりぎり隠してくれる茂みしかなくなったところで。あろうことか彼は大剣を振りかぶった。 「きゃあっ!!」 白刃一閃、黄色い声を上げたリュックのすぐ横を風が通り抜けていった。同時に、断末魔の叫びが上がる。 敏捷さを持ち味とする大蜥蜴(とかげ)、シュメルケが紫の血反吐を滴らせ、どうと倒れた。いつの間にか忍び寄られていたのだ。 「油断するな」 血糊(ちのり)を払い、アーロンが言い放つ。 「……あたしがいたの、わかってたの?」 助けてくれた相手に対して何なのだが、どうしたって非難がましくなってしまう。 「目に頼れぬ分、右側の気配には我ながら敏いようだな」 「ねえ! 最初から、あたしがつけてたの知ってたわけ!?」 「お前は、わかりやすい」 生彩を放つ明るい気を持っているからなと、本音を最後まで付け足してやればリュックの癇癪(かんしゃく)は回避出来たというのに、アーロンはつくづく口が足りなかった。 「うう、もぉーう! おっちゃんの意地悪っ! 性格悪っ! 根性悪ーっ!」 駄々っ子じみた文句の羅列に、アーロンが絶句する。そこへ、いつまでも追いついて来ないリュック達を迎えに来ていた少年が、呟いた。 「リュックの負け〜……」 虫の音より小さくティーダは発言したつもりだったが、リュックの地獄耳は聞き逃してはくれなかった。 「キミさぁ、本っ気であたしを怒らせたねーーー!!」 調合という名のショータイムが、始まってしまった。 「オーバードライブさせるなら、戦闘中を狙うことだな」 「へいへい、もう余計な口出ししませんよ……身に沁みました」 リュックが為した余りの仕打ちに、アーロンも同情を禁じえなかったようだ。満身創痍のティーダを手当てしてやっている。 「ふんっ!」 男共の会話を、リュックは憤慨の鼻息一つで蹴散らしたのだった。 【逆襲編】 リュックは今、ちょっと疲れている。 足下に敷かれている白熊の毛皮にならって、うつぶせに体を開いて寝そべりたいくらいだ。 マカラーニャの寺院まではあと少しなのだが、強く吹雪いてきたので一行は旅行公司に足止めされていたのだった。 意に染まぬ結婚を目前にして悩む者、それを複雑な思いで見つめる者達。店先の一堂に会しているというのに、時の流れが聞こえてきそうな静けさが漂っていた。 気だるさが行動する意欲を根絶やしてしまいそうで、リュックが投げ出した両足をばたばたさせると。 「やかましい」 ドスのきいたお叱りが飛んで来た。 「……おっちゃんはさぁ」 ついさっき完敗を喫したリュックは反論する気力も湧かず、丸机に背をもたせかけているアーロンににじり寄ると、内緒話を持ちかけた。 「ユウナんの幸せについて、どう思う?」 結婚、と限定せずに。召喚士の末路をも視野に入れての問いかけである。 「召喚士を守リ抜く、それがガードに許された領分だ」 「どこまでを守るっていうの?」 「最後まで……見届ける」 「……無事に究極召喚を遂げるまでってこと?」 親と子の二代に渡ってナギ節の犠牲にさせようなんて、この男が納得している筈がない。あるいはそれは、アーロンに対するリュックの願望なのかもしれないが。 案の定、アーロンは生来の渋面に輪をかけてみせると、強く言い切った。 「そうはさせない。いや、ならないだろうな」 「またなんでそんな、断定の口調なのかなぁ」 リュックには彼の自信がどこから来るものか、さっぱりはかれない。ユウナを死なせたくないという思いの深さはリュックだって負けてはいないが、いかんせん現実的に対処出来る方法が見つからなくて、苦しんでいるというのに。 「敢えて言うならば、そう、この巡り合わせからだ」 シンを倒した者の娘と、シンになった者の息子とが引き合わされた。その運命こそが、新たな悲劇を止めてくれよう。彼女と彼を繋いだ運命の駒であるアーロンには、確信があった。 「おっちゃんて、一人でわかっちゃっててズルイよね」 懐にはさぞかしたくさんの切り札を忍ばせているのだろう。リュックが不安の塊だというのに、アーロンは思わせぶりな態度ばかり。やっぱりどうしようもなく腹の立つおっちゃんである。 リュックが心中では賑やかな状態で、アーロンを凝視していたところに。 「話は終わりか? さっさと離れろ」 また憎らしいことを言ってくれるので、リュックは天邪鬼(あまのじゃく)と化した。理屈で勝負すると論破されそうなので、黙っている戦法を選んだ。 「……落ち着かん」 「ふーん、あっそ」 彼女は投げやりな返事をする。 「お前が逆の立場でも、そうだろうが」 凄味のある声と面(つら)の二重攻撃に、リュックはひるまなかった。強気のまま、正直な気持ちを口にしてみた。 「焦るね、それ。でも、嫌な気分じゃないよ」 「……そうか」 「うん、そう」 沈黙がじりじりと音を立てているようだった。その間は、お互いが実際より長きに渡る辛抱をしていた。アーロンにとっては一秒ごとが苦痛の響きであり、リュックには思わず顔が綻(ほころ)ぶのを耐えねばならない時であった。 リュックが悟った。始終戦いに身を置くアーロンが、苦手なもの。休息、安らぎ、ささいな触れ合い。こんな雰囲気。 すぐ傍の人にもわからぬように、リュックが勝利の声明を出した。 「アーロンの負け〜」 いとおしげに目を細め、リュックはその場を動かずにいた。動かずに、いたかった。 「ついさっき、おっさん呼ばわりしたら怒ってた癖に……」 膝を交えるご両人に、ぼやきが送られる。 「リュックもリュックだよ。チャッチャッと出発しようとか言ってたの、どこの誰ッスか……」 突っ込んだ人物は今回、幸運にもリュックのお叱りを免れた。 だが、黙殺される方がむなしいと、つくづくティーダは思うのであった。 本当の敗北は、彼にこそ与えられたのかもしれない。 Copyright (c) 2002 にじます
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