ねぇ、だから私と手をつなごう!
【FFVII】 | |
≪Side:AERITH≫ 遥か彼方まで続く緑の海。 風がその上を気持ち良さそうに撫でていく。 緑のうねりが、次々と足元に押し寄せる。 ミッドガルでは触れる事の出来なかった惑星(ほし)の息吹に、エアリスの心は自然と高揚していく。 見上げれば、青い空を白い雲が渡っていく。 まぶしい日差しに、いっそ融けてしまいたいと思うぐらいに、彼女は惑星の命を感じていた。 母なる惑星の鼓動。 それは何よりも彼女を安らかな、そして満たされた気持ちへと誘(いざな)ってくれる。 歩みを止め、瞳を閉じて陽の光を全身に受ける。 目を瞑っていても、キラキラと光る粒子を感じる事ができるようだ。 そんなエアリスの脳裏に、ふと懐かしい情景が浮かんだ。 それは“彼”と、初めてのデートで、初めて手をつないだ記憶。 その時もこんな風に、草の匂いに包まれていた。 確か場所はエアリスの家の庭だったと思う。 別れ際、庭の背の高い花たちの陰でそっとエアリスの手をとり、ザックスはこう言ったのだ。 『いつか、見渡す限りの広い草原を、エアリスに見せてやるよ。』 エアリスは瞳(め)を開けた。 まぶしい光が容赦なく差し込んでくる。 洪水のような光の中に、あの時のちょっと照れたザックスの顔が見えるような気がする。 と、ちくりと、心臓に針を刺されたような痛みが走る。 優しくて、でも思い出すと胸が苦しくなる…ステキな思い出。 ―― ザックス…私は今、広い草原を歩いてるよ。 エアリスは瞳を閉じて、そっと胸に手を当てる。 まるでそこに、大切な何かをしまってあるように。 その時。 さあっと一陣の風が舞いエアリスを包んだ。 耳元から風の音楽が消えた時、エアリスはそうっと瞼を開けた。 エアリスの瞳に、“彼”によく似た背中が見える。 同じように大きな剣を担ぎ、同じようにほんの少し猫背気味だ。 けれど、髪の色は漆黒の闇のようではなくて、きらきらと金色に輝いている。それが“ザックス”とは違う。 ―― ザックス…私、あなたにそっくりな人、好きになっちゃった。 揺れる髪が、逞しい肩の線が、エアリスの心の糸をそっと弾いていく。こうして彼を眺めているだけで、心がじんわりと温まってゆく。 ―― ごめんね。もうあなた以外好きにならないって決めてたのに。 ザックスが消息不明と聞いた夜、もう絶対に恋なんてしないと思ったのに、どうして人はまた人を好きになる事が出来るのだろう?しかも相手は元ソルジャー。今も危ない旅の途中だ。 クラウドだって、自分より先に死んでしまう事があるかもしれない。そう考えただけで、エアリスはこの腕にクラウドを思い切り抱きしめたくなる。 ―― でもね。人を好きになる気持ちって、止められないの。 胸から溢れ、こぼれてしまいそうなぐらいに膨らんだ想いは、エアリスの身体を動かしてゆく。 小さくなってゆくクラウドの背中に引かれるように、エアリスは歩き出す。足の運びが次第に早くなる。 その時、気配を感じたのか、クラウドがふと立ち止まり振り返った。 一番後ろを歩いているはずだったのに、いつの間にかエアリスが自分よりも遅れていた事に気がついたようだった。 「エアリス!」 クラウドがエアリスを呼ぶ。 その声が再び彼女の心の糸を揺らす。その分だけ想いが募り、溢れた想いが声になる。 「クラウド!」 エアリスは駆け出していた。まとわりつくスカートの裾がもどかしい。 しかし程なく、エアリスはクラウドに追いつく。 息を弾ませながら、いきなりエアリスはクラウドの手を自分の手で包みこんだ。 ![]() 「なっ!?おい、やめろ。」 引っ込めようとするクラウドの手をしっかと握り、エアリスは半ば強引に手をつなぐ。 「ね!手、つなごっ!」 満面に、笑みをたたえて。 「……離せ。」 クラウドの頬が、見る間にばら色に染まってゆく。 「またみんなに遅れちゃうかもしれないでしょ?ね?」 それでもエアリスは手を離さない。 それどころか指を絡ませて、ぜったい解けないようにしている。 「………ったく。」 クラウドは諦めたように抵抗を止めた。 ふう…と、エアリスにまで聞こえそうな大きな溜息をつく。 そんなクラウドの横顔を盗み見ながら、エアリスはくすりと笑った。 「ほら見て、クラウド!」 エアリスがつないでいない方の手で、地平線を指す。 「キレイね。空の青い色と、草の色がかすんで溶け合ってて。」 「……そう、だな。」 今度はその指をそのまま上に向ける。 白い指先に釣られるようにクラウドの視線が上へと向けられる。 「空もね、吸い込まれちゃいそうなぐらい、青いでしょ。」 「……そうだな。」 「すごいよね、自然って。」 自然は美しい。 生命は美しい。 けれどそれは有限の美しさであって、空の色一つでも今日とまったく同じ色は二度とない。 限りあるものだからこそ切ないほど胸に迫ってくるのだという事を、エアリスは知っている。 「ね、クラウド。」 「……なんだ。」 クラウドを見上げるエアリスの瞳と、エアリスを見るクラウドの眼差しが交差する。 エアリスは握った手に力を込める。 温かなクラウドの手から、エアリスの手に温度が移ってゆく。 手をつないでいるだけなのに、まるで心まで繋がって、エアリスの気持ちがクラウドに流れ込んでゆくような気がする。 頬が熱い。 心臓が駆け足をするように、鼓動が速くなっていく。 たとえこの恋が、惑星の命から見たらうんと儚いものだとしても、この瞬間の熱い気持ちは、きっと生命に刻まれて永遠に忘れない…たとえ自分の生命が、ライフストリームに還る日が来ても。 エアリスはそっと背伸びをして、クラウドの耳元に唇を近づける。 「あのね…………だいすき。」 二人の間を、ひやかすように風が吹き抜けていった。 |
≪Side:CLOUD≫ 遥か彼方まで続く緑の海。 あたり一面に咲き乱れる、花々。 草原の匂いが、風に乗って髪を肌をくすぐっていく。 星の息吹の恩恵を受けて、溢れる命の象徴。 こんな風景を見ていると、俺はいつもあの日のことを思い出す。 「ね! 手、つなごっ!」 なんで、この人は、こうもストレートなんだろう。 出会った最初から、俺はあんたに振りまわされっぱなしだ。 いつも、自分の感情に素直なエアリス。 対して俺は、自分のことさえ、自分の感情さえよく理解できないでいた。 そんな頃だった。 エアリスが、これでもかと好意をぶつけてきてくれるほど、戸惑っていた俺。 今思えば、あんたはそんな俺のことを、どんな風に思ってたんだろう…。 ―― 本当のあなたに、会いたい… エアリスは知っていた、んだと思う。 俺が本当の自分を見失っていたことを。 でも、最後まで、本当に最後まで、何も言わなかった。 だけど、エアリス。 あんたが知らなかったことを、俺は知っている。 あんたが、俺を取り越して、誰を見てたかってことを…。 最初に会った時、俺の大剣を見て驚いていた。 俺の仕草を見て、時々、辛そうな顏をしてたこともあった。 あんたは自分じゃ気づいてなかっただろうけど、俺は俺を見るあんたの視線が遠いことを知っていた。そして、それがいつも不思議だったんだ。いったい、誰を見てるんだ、と。 あんたが、ザックスのことを話してくれた時。 やっと、わかった。 いや、正確には、しっかり理解できたのは、もっと後だったけど。 俺にあいつを重ねて見ていたんだって、わかった。 本来なら、ここにいるべきはザックスだったんだ。 あんたと今、こうして手を繋いでいるのも、本当なら………。 ザックスのことは俺もよく覚えている。 あいつなら、あんたに手を繋ごうと言われても、すぐに手を差し出しただろう。 少しだけ居心地悪そうにしながら。 それでも、あんたと同じように自分の感情を隠そうとはしない奴だったから。 繋いだ手を、しっかりと握り締めてくれただろう。 ![]() 俺は…。 俺の気持ちでさえ、よくわかってなかったから。 手を繋ぐなんて、照れくさいばっかりで。 やっぱり、俺よりもザックスの方が良かった……。 …………。 こんなこと言ったら、あんたに殴られそうだな。 うん、わかってるさ。 ![]() あんたは、ちゃんと俺のことも見てくれていた。 ザックスはザックス。 俺は、俺。 エアリス、あんたは、そう言いたかったんだろう。 ザックスのことは、ちゃんと別の思い出として胸に刻んで。 俺という存在を、真っ直ぐに見つめてくれていた、エアリス。 すべてに関心のない素振りを見せていても。 何にも興味ないと言おうとも。 ―― あなたは、ここにいるのよ そう瞳で語りながら、いつも手を引いていてくれていた……。 今なら、そう思えるんだ…………エアリス。 見上げると、空が青い。 染み入る光が、目にいたくて。 眩しいあんたの微笑みみたいに。 思わず瞼を閉じて、涙が滲みそうになるほど…。 流れていく風の声が優しい。 俺を追い越し、包み込んで。 まるで、あんたが「だいじょぶ」と囁いてくれてるように。 記憶の奥底で、こだましている……。 そして、生き生きとし生けるすべての生命(いのち)の輝きが。 遠くから聞えてくる潮騒が。 さえずり鳴く鳥の声が。 草の匂いが、花の香りが。 エアリス、あんたの存在の煌きを運んできてくれる。 今も ―――― これからもずっと。 |
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――― ねぇ、だから、私と手をつなごう ! ――― Illustration by ゆうき様(エアリス)&Seth様(ザックス)&秋吉要様(クラウド) Novel by 茉莉子様(エアリスサイド)&テオ(クラウドサイド)
2005.1.15〜2005.3.31 《 Novel & Illustration collaboration 》 -ノベイラコラボ- 初出
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○あとがき○ | |