〜 2004 Valentine Present Novel 〜



ザナルカンド幻想





「あっ! 痛っ!」
 それは、悠久の時を超えて眼前に広がる遺跡を、それぞれが深い感慨とともに見下ろして、ザナルカンドへと続く細い山道を降り始めた時のことだった。
 意気込みも露わに先頭を切って歩いていたユウナが、小さい叫び声を発すると同時に蹲った。
「ユウナ、どうしたの?」
 すぐ後ろを歩いていたルールーが駆け寄り声を掛ける。他の仲間たちも、何事があったのかと急ぎ近寄ってきた。
「あ、なんでもないんだ。ちょっと大きな石を踏んじゃっただけ…」
「…捻ったようだな」
 ルールーに続いて傍に屈みこんだアーロンが、ユウナが思わずさすっていた彼女の片方の足首の状態を見て、そう言った。
「これくらい平気です。ちゃんと歩けますから………っ!」
 いかにも虚勢とわかる態度で元気よく立ち上がったユウナだったが、捻った方の足に力を入れた途端、バランスを崩してよろめいた。それをユウナのすぐ後ろに控えていたキマリが、さも当然と言わんばかりに支える。
「無理はするな。まあ、これくらいなら少し休めば大丈夫だろう。だが、ここでは、な」
 心元ないほど細い一本道の、周りは切り立った崖である。こんなところで魔物に襲われでもしたら危険極まりない。アーロンに言われるまでもなく、それは仲間たちにもわかり過ぎるほどわかっていた。
「ちょうどザナルカンドの入り口に開けた場所がある。そこで休むとしよう」
「ユウナ…」
 アーロンの意を汲んで、ユウナを支えていたキマリが膝をつき、彼女に背を向けようとした。おぶっていこうというのである。
「待って、キマリ」
 それを、すぐ横にいたルールーが、キマリを意味ありげな静かな微笑みで制してから、後方を振り向いて言った。
「ほらっ! あんた、なにグズグズしてるの。早くユウナをおぶってあげなさい!」
 急に矛先を向けられた少年が、意外そうな顔で聞き返してきた。
「へっ? オレっスか?」
 いつものようにキマリがその役目なのだろうと思い込んで心配しながらも傍観していたティーダは、いきなりの展開に戸惑い気味だった。ユウナも同じで、慌てて手を振りながら言い募る。
「い、いいよ、ルールー。私、一人で歩けるから」
「無理するなって、今アーロンさんに言われたばかりしょう? ここは道が狭いからあんたに任せるわ。私たちは先に行って、安全を確保しておくから。いいわね!」
 前半はユウナに後半はティーダへと言い渡し、ルールーは事情がよく飲み込めず胡乱な表情をしたままのワッカを「行くわよっ」と引っ張ってさっさと先へと歩いて行ってしまった。アーロンも薄い笑みを口元に浮かべて何も言わずそれに続く。キマリでさえ、後方を気にしつつ、一つ頷いて下って行った。
「え、えっとぉ…」
 ワッカと同様、よく状況がわかっていないらしいリュック ―― ユウナを助ける手立てを考えこんでいて ―― はしばし躊躇っていたが、やはり「んじゃ、任せたかんね」と走って皆の後を追って行った。

 後に残された二人。
 途端に気まずい雰囲気になる。
「あの…ね…」
「ま、いっか。ほら、ユウナ」
 やっぱり自分で歩くと言いかけたユウナに、サッと彼女の眼の前で腰を落としたティーダが背中を見せる。
「いいよ、やっ…」
「ほら、早くしないとみんな行っちゃったぞ」
 急かされて、それでもまだもじもじしているユウナに、
「そんなにオレって頼りないっスか?」と眉をしかめるティーダ。
「え? ちっ違うよ。そんなんじゃ…」
 そんな風に言われたら、断れなくなってしまう。
「じゃあ、お願いします」
 少し赤らみ始めている自分の頬を自覚しながら、ユウナはティーダの背に身体を預ける。よっ、と少し前かがみになって、ティーダが軽々とユウナをおぶって歩き出した。
 その瞬間、ユウナの鼻を柔らかい香りがくすぐる。
―― キミのにおい、だね
 こんなに身体と身体を密着させたのは、あのマカラーニャの泉以来……。一歩一歩、歩くたびに、振動とティーダの体温が直に伝わってくる。
 とても幸せなはずなのに、この泣きたくなるようなせつなさはどうしてなんだろう・・・。

 仲間たちはかなり先行していて、もう既に何体かの魔物たちを片付けたようだった。
 二人は安心してゆっくりと下り道を進んで行くことができた。

「ごめんね、重いでしょ?」
「うん、ユウナ、意外と重いっスね」
「えっ! ひど〜い〜」
「わっ、ごめん、冗談だって! ユウナっ!」
 ティーダの軽口に、ユウナもわざと怒った風にポカポカと背中を叩いてじゃれあって。こうしていると、ごく普通の微笑ましい恋人たちにしか見えない。
―― ユウナ、こんな軽い身体に、スピラの運命を背負ってるんだな……
 正直、その軽さに驚いた。女の子なんだ、と改めて思い知った。
 坂道を降りる直前、ユウナが落とした遺言と思しきスフィアを、偶然拾って見てしまった。
 その、厳然たる覚悟。
 ただただ圧倒された。そして同時に。
 悲しかった。
 やりきれないほど…。
―― まだ、自分のことを思い悩んでる場合じゃない
 まずは、この華奢な身体で精一杯頑張っている愛しい人を助けること。
 おぶった最初は強張っていた身体も、今ではすっかり安心しきって彼の背中に全身をもたれてくれている。それがティーダには何より嬉しい。
 会話が途切れた少し後、ユウナがコトンとその小さな頭をティーダの肩に乗せ掛けてきた。

―― オレが、絶対にユウナを死なせない

 前方を睨んで何度目かの決意を固めた蒼い瞳に、目前に迫ったザナルカンド遺跡上空にひしめく幻光虫の群れが映る。幻光虫たちは物悲しい音色とともに、スピラの、自分たちの未来を映し出すかのように舞っていた。









Illustration by 安茂

○あとがき○

ε=ε=ε= 。・゜(゜ノT-T)ノ
ちっともヴァレンタインっぽくないっ!(殴) タイトルもな〜んかイマイチだし…。
ネタを探してやぁっと書き始めたと思ったら、なんでかこんなんなっちゃいましたー。あうう、皆様、ごめんなしゃい。
せっかくだからヴァレンタイン物を書きたかったのにぃ。
でも、書いちゃったから、いいかなー、これでも・・・。
しかも、ラヴラブを書くつもりが、なんだか甘さちょっぴり切なさたっぷりになってやんの。(おい)
まあ、10でヴァレンタイン物ってのがそもそも無理がありますしね。(一作だけそういうの書いたのもあるけど)

これはもちろん、FFXのあのオープニングの直前のエピソードです。
こういうことがあったから、オープニングでティーダがユウナを気遣うように肩に手をかけたんだ〜、とかなんとか妄想しております。(爆)

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