〜 Finale 〜
窓からまぶしい朝陽が差し込む中… おかあさんは、ベッドに横になっていて… 疲れているみたいだったけど、とっても明るくて優しい顔をしてたんだ。
おかあさんが見つめている先にはおとうさんがいて、 おとうさんが、白い布にくるまれたものを大切そうに抱きかかえていて、 おねえちゃんがおとうさんのそばでピョンピョン飛び跳ねていて、 あたしも、早く見たくて、おとうさんにぴっとりくっついて… おとうさんは椅子に腰かけ、やっと赤ちゃんの顔を見せてくれたんだ。
「うわぁ……」
なんて言ったらいいのか分からなかった。おねえちゃんも、たぶん同じ気持ちだったんだと思う。 想像してたより、ずっと小さくて、細くて、か弱そうで… 真っ赤な顔をしていて、ちょっと、くしゃっとした顔をしていて… 小さなツノのある頭には、髪はまだあんまり生えてなくて、なんだか……
「なんか、おサルさんみたいね〜。パパに似たんじゃないの〜?」
おねえちゃんがそう言うと、おかあさんがクスクスと笑った。
「ミーネとミオンが生まれたばかりの時なんて、 もーっとおサルさんみたいな顔してたわよ。 誰だって、生まれたばかりの時はこんな感じなのよ。 まだ、狭いお腹の中から出てきたばっかりなんだから…。」
「じゃあじゃあ、このコ、ミーネよりかわいくなるかもしれないの?」
「ふふっ。そうね〜。どうかしら。 でも、この子は男の子だから、きっと、大きくなったら、 お父さんみたいにカッコよくなるかもしれないわね。」
「わぁ〜。」
「ハハッ。まあ、オレみたいにカッコよくなれるかどうかは分からないけど、 今だってオレにはこの子がすごくかわいく思えるぞ。 ほら、こんなに小さいのに、生きてるんだ。 これからの長い時間、長い道のりに向かって、もう歩き始めてるんだぞ。」
今にも泣きそうな赤い顔で、まだほとんど見えない目でぼんやりと、ゆっくりあちらこちらを見つめ、小さな口をパクパクと動かしては、時々「あー」と声をもらす。 確かに、確実に、こんな小さくてもこの子はしっかり生きてるんだ。 あたしも、かわいいなぁって、思ったよ。
まだはっきりとはしていないけど、その小さな瞳は、ほんのり紫色をしてる。 あたしの瞳の色と、おねえちゃんの瞳の色の、中間。 頭に生えているまだ小さなコブみたいな白いツノは、成長すればきっとあたしやおねえちゃんのと同じようなツノになるのかな。 この子は、確かに、あたし達の弟なんだよね。
「ねえねえ、このコにも、ネコちゃんのシッポ、ついてるの〜?」
「ああ。見てみるかい?」
おとうさんが、おかあさんの寝ているベッドの脇に赤ちゃんを寝かせ、くるんでいた布を取ると… ハダカの赤ちゃんの、小さな脚の間…お尻のほうから、薄い毛に覆われた小さなシッポが確かに生えていた。
「わぁ、まだちっちゃいね。かわいいニャ〜。 これ、ミーネ達とおんなじシッポになるのかな〜。 あ、ねえ、ミオンちゃん、見て見て〜! こっちのも、ちっちゃくてかわいいよ〜!」
「オイ、あんまりつっつくなよ。それは男にとって大切な…」
「こっちのはパパのみたくなるのかな〜?! パパのよりもおおきくなるといいねっ!!」
「あ、ああ……」
おとうさんとおねえちゃんの楽しげな声が響く中、 おかあさんは、おとうさんとおねえちゃんと赤ちゃんを見つめていて… ふと、あたしのほうにも優しい顔を向けてくれたの。 あたしは、なかなか言い出せなかった言葉を、やっと言えたんだ。
「おかあさん、だいじょうぶ?」
すると、おかあさんは笑って言ったんだ。
「だいじょうぶだいじょうぶ。 あなた達を産んだ時のほうが、ずーっと苦しかったわ。 この子を楽に産むことができたのは… あなた達のおかげなのよ。」
「?」
「あなた達が先に産まれてくれたおかげで、 この子はあまり苦しまずに済んだのよ。」
「……おかあさんも?」
「うん。」
おかあさんは微笑んで、あたしの頬をなでてくれた。
「ねえ、ミオン。あなたも今日から、おねえちゃんなのよ。 しっかりしなきゃ、ね?」
「うんっ。」
大きくうなずいて、あたしも笑ったんだ。 それから、あたしもおねえちゃんの横に並んで、赤ちゃんを見つめて、おねえちゃんと、おとうさんと、いろいろおしゃべりしたんだ。
なんだろう。あたし、おかあさんに、いろんなこと言わなきゃいけないと思ってたんだけど…。 おかあさんの笑顔を見たら、思い出せなくなっちゃった…。 でも、いいんだよね。 きっと、おかあさん、あたしのこと、分かってくれてるんだよね。
あたし、まだまだ、伝えたい気持ちが、いっぱいあるような気がする…。 おかあさんにも、おとうさんにも、おねえちゃんにも…。 どう伝えたらいいのか、よく分からないこともいっぱいあるよ。 でも、あせらなくてもいいんだよね。 あたし、これから、少しずつでも、がんばって伝えていきたいなって思うんだ。
それで、いいよね? おにいちゃん…。
窓の外の、まぶしい朝陽に向かって、あたしは問いかけた。 なんだか、あの朝陽が、おにいちゃんみたく思えて…。 おにいちゃんが、あの朝陽のように、温かく微笑んでくれているような気がして…。
あたし、おにいちゃんのこと、忘れない。 おにいちゃんが、あたしに教えてくれたことも、忘れないよ。 おにいちゃんは、ずっと、あたしのおにいちゃん。 おにいちゃん、あたし、がんばるから、
おにいちゃんも、元気でね!
言葉にしなくても 伝わる時がある 言葉にしなければ 伝わらない時がある
言葉にして 伝えたい想いがある 言葉にならない 想いがある
たった一言が 傷つけてしまう時がある たった一言に 勇気づけられる時がある
想いを伝えることは難しいけれど 想いを伝えられないことは 寂しいよね?
想いを伝えたのに 何も返って来ない時は もっともっと 寂しいよね?
想いの キャッチボール 難しいけど 少しずつでも がんばっていきたいな
だから……
(Fin)
Copyright (c) 2002 HARUKA
|