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「ああ、もうっ、見えないですっ」 人垣の後ろで、ぴょこぴょこと飛び上がっている女性が一人。 賑やかに華やいでいる人々の中、オロオロと歩き回っている。 「どうしたら……。せっかくユウナさまが私のために席を用意して下さったのに」 彼女、シェリンダは今にも泣き出しそうな顔をしていた。 〜 もう一つの恋物語 〜 ここは、ルカ・スタジアム。 今、まさに世紀の一大イベントが行われている真っ最中である。 大召喚士ユウナとブリッツボールのスター・ティーダの結婚式。 【永遠のナギ節】の到来から、一年。 ユウナは不可能と思われていた【永遠のナギ節】をスピラにもたらしてくれた最後の大召喚士。 それまで『シン』におびえ暮らしていた人々に、真の安寧を与えてくれた。 その名を知らぬものは、おそらくこのスピラには一人もいないだろう。 ティーダは平和になったスピラに最初の熱狂をもたらしてくれたブリッツ選手。 万年最下位だったオーラカ・スピリッツを率いて、常勝の名を欲しいままにするまでになった。 今ではその名を知らぬものも、おそらくはスピラにはほとんどいないであろう。 その超有名人の二人が結婚するのだから、スピラ中が浮かれたっているのも当たり前というものである。 最初は質素に式を挙げるつもりだった二人だったが、結局、人民の総意には逆らえなかった。 結果、現在のルカ・スタジアムでのスピラ中を挙げてのお祭り騒ぎとなってしまったのである。 もちろん、式後には特別セレモニーとして記念ブリッツボール大会も予定されている。 カードは、おなじみオーラカ・スピリッツとルカ・ゴワーズ。 いくら当人の式後セレモニーとはいえ、常勝の名を奪われた恨みをはらすいい機会とばかりに、多いに張り切っているルカ・ゴワーズの面々。 一方、ビサイド・オーラカの方も、当事者に恥をかかせるわけにはいかないとやる気満々である。 式直後の試合開始のため、準備に時間のかかるティーダの代わりに、特別に引退したはずのワッカが前半だけ出場し、後半にティーダと交代することになっていた。 何故かワッカの根強いファンも多く、そのために余計スタジアム内はヒートアップしていた。 そんな中。 会場内に主役の二人が姿を見せたらしい。 ドッと場内の人々がどよめいた。 「あっ!」 興奮した人々に押され、小さな身体のシェリンダはやっと潜り込んだ群集の中からはじき出されてしまった。 そのままペタリと座り込んでしまい、途方にくれるシェリンダ。 「大丈夫ですか?」 ふいに頭の上から、落ち着いた控えめな声がかけられる。 「え?」 シェリンダが顔をあげると、眼前にそっと手が差し出された。 「立てますか?」 「は、はいっ!ありがとうございますっ」 思わずその手にすがり、立ち上がるシェリンダ。 −−−あたたかい 手・・・ ささっと立ち上がり、年頃の娘らしく乱れた衣服をパタパタと手早く直す。 それから改めて目の前の人物に目を移した。 その人は静かに微笑みを湛えて、シェリンダを見つめていた。 「あ、あの、どうもすみませんでした。おかげで助かりました」 あたふたと頭を下げるシェリンダを、なおも笑いながら気遣ってくれる。 「怪我はないようですね。シェリンダさん」 「え? あの、どこかでお会いしてます?」 恐る恐るたずねるシェリンダの様子に、途端に相手が爆笑する。 「あははは、まあ無理もないですね。ベベルにいた頃は僕は地下にいましたから」 相手は自分を知っているのに、自分が相手を知らないというのはとても失礼にあたるのでは?という思いに捉われたシェリンダは、先ほどよりも尚一層オロオロとしてしまう。 その顔も申し訳なさでいっぱいの半泣き顔である。 「いや、失礼。僕はイサール。召喚士です。元、ですが」 名乗られて、やっとシェリンダも納得がいった。 シェリンダも旅をしていたのだから、さすがに召喚士としての彼の名前は知っていたのだった。 「ああ、すみません、すみません。お名前はよく存じ上げてます。でもお顔を知らなくて…」 一方イサールは、混乱期のエボンをベベルの監督官として、なんとかまとめようと懸命に奔走していた彼女をよく見知っていた。 ぺこりぺこりと何度も頭を下げるシェリンダを制して、イサールが宥め役にまわる。 「いいんです。お互いちゃんと名乗りあったことなどなかったのですから」 「はぁ、そうですよね」 なんとなくそうかなぁ、という風な顔で小首をかしげるシェリンダ。 そこでまた、イサールがクスッと笑って尋ねた。 「どこかへ行こうとしていたのではないのですか?」 「あ! そうなんですっ! ユウナさまが招待して下さって… でも、どうやってそこへ行けばいいのか…」 更に困りきった様子のシェリンダに触発されたのか、イサールはさっと彼女の手を取った。 「だったら、ここからじゃ行けないですよ。別の出入り口があります。さ、急いで」 「え? あ、あの、あ……」 ぐいぐいと手を引かれて、引きずられるように着いて行くしかないシェリンダ。 心なしか、その小さな顔を火照らせながら。 −−−やっぱり、あったかい手、です しばらく転びそうになりながらもイサールに連れ歩かれて、やっと来賓席の出入り口へと辿りついた時には、かなり急いだせいでシェリンダは息も絶え絶えといった風情だった。 「さあ、早く中に。もうすぐ式が終わってしまう」 「はぁ。は、はい。はぁ。あ、はぁ、ありがとう、ご、ございま、した…」 よろよろしながらも、早速、扉を開けて中に入ろうとしたシェリンダだったが、その場に残ろうとしているイサールに疑問符を顔いっぱいに浮かべて振り返る。 「あ、あの、イサール、さん、は?」 「僕は弟たちが別の場所で待っていますから」 「はあ、そうなんですか」 少しだけがっかりした顔のシェリンダに、明るい顔でイサールが答える。 「ほら、急いで」 「はい。それじゃ失礼したします」 扉が閉まる瞬間、耳に飛び込んできた声。 「また、すぐに会えますよ。僕が」 会いに行きます、という言葉は閉じられた扉に遮られて、シェリンダには届かなかった。 けれど。 せっかく間に合ったというのに、肝心のユウナとティーダの豪奢で華麗盛大な結婚式も、今のシェリンダの瞳にはまったくと言っていいほど映ってはいなかった。 −−−また、会えるって −−−イサールさんは、確かにそう言ってましたよね −−−それは、いつなんでしょうか? −−−いいえ、でも −−−必ず、会えるんですよね −−−私、待ってますね −−−きっと会えるって信じて…… 希望に満ちて嬉しげに微笑む彼女を不審に思うものなど、この日この時この場所では、唯の一人もいるはずもなかった。 そして、更に一年後。 ユウナとティーダ夫妻に見守られ、新生エボンの若き力強き指導者として、 再度このルカ・スタジアムにて盛大な結婚式をあげた二人の話は、 また、別の物語・・・・・。 Copyright (c) 2002 テオ
■あとがき■ |