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<マリフェス・ゲスト>

【愛の人(3)】
FFIX










 ここが正念場だぞ、シド・ファブール。


 私は王子らしいいでたちで、この場に臨んでいた。
 ビロードのマントを羽織り、ヒールの高いブーツ、シルクのパンツに、レース編みのほどこしてある服。さりげなく宝石をあしらったシルバーのバッチを胸につけ、ピンと背筋をのばして座っていた。
 目の前にあるのは、十人がけのテーブルに、山盛りの料理たち。リンドブルムお抱えの腕自慢たちがこぞって腕をふるったフルコースディナーだ。上等のワインもよく冷えている。
 今日は私のお見合いパーティー。
 リンドブルムの王子の、婚約披露パーティーだった。
 私はヒルダにも参加してもらおうと思い連絡をとろうとしたが、気がついた時にはすでに全ての準備が整っていた。あげくに、私は再び部屋へ閉じ込められてしまったのだ。まったく、準備のよいことだ。私の両親ときたら。とくに母さまは「真剣なおつきあいを覚えても良い頃です」と言い張って、父さまも驚く早さで今回のパーティーを仕立て上げた。二ヶ月くらい、かかっただろうか。
 案外、母さまは私の状況が見えていたのかもしれないな。


 午後18時を知らせる鐘が鳴ると、次々と招待された娘たちが現れた。
 私は彼女たちを笑顔で迎え入れつつ、気が気ではなかった。
 私は今日のパーティーで、全てをはっきりさせるつもりだった。母さまにも、父さまにも、もちろんヒルダにも言っていない。バクーにも、ロウィーナにも言っていない。
 私が決めた、私だけの思い。
 私だけの考え。
 どこかでうっかり口をすべらせたら、誰が聞きつけて邪魔をされるか分かったものではないから、私は誰にも打ち明けずにここまで来た。周囲からすれば迷惑はなはだしいだろうが、迷惑をかけてでも貫きたいものがあるのだ。
 19時になると、広間は人だかりでいっぱいになった。
 リンドブルム、アレキサンドリア、トレノに、ブルメシア。
 各国の貴族や、王族たちの自慢の娘が集まった。
 みな華やかに着飾り、美しく見せるために化粧をし、流れるような優雅さで扇子をあおいでいる。壮観だった。どこから湧いて出たのかと思うほど、美しい眺めだ。
 父さまが合図の手を叩いた。
 鳴り響く鐘の音。
 パチン!
 一同が一斉に扇子を閉じる。
 ざわめきはどこへやら、辺り一面は沈黙に覆われた。
「さて、今宵お集まりいただいた皆々さまにはご足労でありました。リンドブルムもわたくしの代になり数十年、懇意にしてきた方々の姿が今もこうしてご健在であられることを、今夜は共に祝いたい。しかし私もいささか年をとりすぎました。そろそろ息子に王座を譲っても良い頃だと思っておる次第です。まだまだ若輩者でありますが、どうか暖かな目で見守ってやってもらいたい。そしてこの息子の、よき理解者、よき相談相手、よき伴侶となってもらえるであろう方に、特に今宵はお集まりいただいた。息子もきっと……」
 私は父の口上を聞きながら、手に汗を握っていた。
 タイミングを逃すと、あっという間にパーティーは流れてしまう。
 そうなると、止められないのだ。
 今か、まだか?
 私は父の話しに耳を傾けている。
 そして父が楽隊に合図を送ろうと、手を上げかけた、その時だ。
「待ってくださいっ!!」
 それは、私の声ではなかった。
 ロウィーナだ。
 女優業で鍛えぬかれた声量は、何百人もいるホールの中でもよく響く。彼女は開かれた扉の前で、いつか見た劇場用の大袈裟なドレスを着こんで立っていた。
 バクーも一緒だった。バクーの方も、正装だ。
(なんで、こんな所に……!?)
 私は思わず立ちあがった。
 ホールは突然のことに、ざわめき始める。
 父さまが私に“座れ”と命じる。
 バクーを見ると、彼が頷いたので、私は黙って座った。


 彼らは何百人もの合間を縫って、つかつかと大勢の前に歩み出た。ロウィーナは深く会釈をし、丁寧に膝を折ると、父をまっすぐ見上げる。再び沈黙が落ちた。
「ご無礼を承知で申し上げます。このようなパーティーは、シドには相応しくありません」
「ほう、相応しくないとな。なぜ、そのようなことを申す?」
「実は……」

「お待ちくださいっ!!」
 
 ホールに、二度目の待ったコールが響いた。
 凛とした張り詰めた張りのある女性の声だ。
 信じられない。
 聞き間違いか?
 いいや、聞き間違えるわけがない。
 その声はこれまでいくども私のあらゆる体の機能を乱してきた、かの人の声に他ならないのだから。私はその人の姿をこの目で確認しなくても、素早く思い描くことができる。それほどまで、私には慣れ親しんだ人なのだ。
 ああ、どんなにか彼女に会いたいと願ったことだろう。
 どれだけ彼女を抱きしめたいと思ったことだろう。
 今、その彼女がここにいる。
 なぜ、どうして?
 信じられないが、彼女はそこにいる。
 走り出したい。
 大人しく椅子に座ってるなんて、そんな殊勝な性格だっただろうか、私は。
「ヒルダッ!!」
 私は叫んだ。
 せいいっぱい、思いが届くように。
 彼女の名前を、愛称を、思いのありったけをこめて叫んだ。
 彼女は私を見つけると、ぱあっと花開くように満面の笑みを浮かべた。
 豪華なドレスの裾を翻しながら、彼女はホールにいる女性たちからの痛い視線を全身に浴び、こちらに駆け寄ってくる。
 客に深く会釈をして、そして父に会釈をして、見上げた。
 一連動作に、迷いは微塵も感じられなかった。
「わたくしたちは今日と言う日のために、幼い頃から教育を受けてまいりました。今日と言う日を夢見ながら、生きてまいりました。こちらの女性がおっしゃるように、王子様にはふさわしくないかもしれません。ですが、このホールに集まった、全ての女性に代って申し上げます。どうか、わたくしたちにもチャンスをください。お願いいたします!」
 彼女は額を床につけて、深く深くお辞儀をした。

 パン、パンパン。
 パンパンパンパン……、パチパチパチ……!

 わあっと会場中から拍手が沸き起こった。
 他でもない、ヒルダに向けられた拍手だ。
 彼女は、彼女自身の力で、会場にいる女性たちを一瞬にして味方につけてしまったのだ。彼女は驚いたのだろう、立ちあがって周囲を見まわした。大勢が、手を叩いている。彼女の意見に賛成だと、手を叩いている。でっぷりした男性貴族も、彼女より幼い婚約者候補も。みんなが拍手をしている。
 彼女は私を探した。
 私は笑顔で頷く。
 ロウィーナと、バクーが、互いに顔を見合わせながら、小さく肩をすくめていた。
(なあんだ……)
 私はふらりと立ちあがる。
 父が私を制止しようとしたが、私は首をふって客たちの前に進み出た。
 できうる限り敬意を表せるよう、ゆっくりと正しい姿勢で御辞儀をしながら、用意してきた自分のセリフを頭の中で反芻させる。
「皆様」
 第一声が震えるのが分かった。
「皆様、わたくしは今日のこのパーティーで素晴らしい女性たちとの、たくさんの出会いを大切にしようと思ってまいりました。しかし、わたくしは人生の伴侶をたった一晩で決めることに、率直に申し上げると、強い抵抗を感じます。たった一晩です。これだけお集まりいただいた皆様に、それは誠意のある時間でしょうか。わたくしはそうは思いません。わたくしの友人も、わたくしの伴侶を決めるにあたって、あくまで政略的な結婚をするのはわたくしに相応しくないという弁護をお願いしたく、今日こちらにおいでいただきました。ですから、皆様!」
 私は振り返って、父と、母をみた。
「父さま、母さま……」
 それから呆然としているヒルダの手を取って、
「お嬢さん、お分かりいただきたいのです。わたくしはあくまで、愛に生きる男です。一人の女性も幸せにできない男に、国を幸せにすることなどできない、それが私の信条です。今日はたくさんの女性と出会うことでしょう。そして私は、私の好きな方に、後日改めてプロポーズをさせていただきたいのです。それは今夜、こちらで出会った誰かかもしれない。それとも、もっと別の方かもしれない。どうか、皆様。わたくしにも公平なチャンスを!!」
ヒルダの手に社交辞令なくちづけを押すと、私は彼女の手を離して、改めてお辞儀をした。
 そして待つ。
 いつのまにか鳴り止んでしまった拍手の中で待つ。
 恐ろしく長い沈黙だった。

 パン!
 最初の音は、私のすぐ隣でなった。バクーだ。バクーが手を叩いている。

 パン!
 更にその隣。ロウィーナだ。

 パン、パン!
 そして、ヒルダが。

 後はもう、誰が誰だか分からない。拍手の波の矛先は、私に向けられて押し寄せてきた。会場中から沸き起こる、拍手の嵐。枯れ果てた砂漠に降り注ぐ、慈愛の雨のような拍手。胸に暖かな、嵐だった。
 わたしは頭をあげ、もう一度頭をさげた。言い尽くせない感謝の気持ちで、あふれ出そうになり、自然に頭が下がった。
「あい、分かった!」
 厳かに、父が立ちあがった。
「息子もこのように申しております。皆様、一期一会と申します。今日は心ゆくまで踊り、歓談し、交友を深め、新しい出会いを、今日という夜を、共に楽しみましょうぞ。さあ、楽しい宵に相応しい音楽をっ!!」
 わああっと、拍手が盛りあがった。
 ロンドがなる。軽快なロンド。
 手に手をとって、ダンスフロアは翻るドレスたちで、すぐに埋まった。
 私はヒルダの前でひざまずき、
「一曲、お願いできませんか?」
込み上げる笑いをかみ殺しながら懇願した。
 ヒルダは心の中で怒りをかみ殺しているだろうかと思うと、可愛くて仕方がないのだ。案の定、彼女は無表情のまま私の誘いに応えた。
「こちらこそ」


「私がどれほどまでに驚いたか分かるかい、ヒルダ?」
「いいえ、わたくしはてっきりご存知なのだと思っていましたわ」
「フィアンセが私だってことを、か?」
「いいえ、わたくしが今夜こちらに招かれていることを、です」
「これは、これは。ヒルダ嬢は私にぞっこんのようだ」
「なぜ、そうなるの?おかしな方ね」
「今夜私があなたを御招きしたのが、あなたはあなただけだとお考えだ。何百人といる婚約者候補の中で、私はあなただけを覚えている……つまりは特別視していると、あなたは考えいるわけだ。違いますかな、お嬢さん?」
「……」
 怒りを通り越して、呆れ返った顔をしている彼女は、これまで見てきたどのヒルダよりも可愛かった。つまり、図星だったってことだ。
 私は可笑しくて、ことこと笑った。
「……あなたが、こんなにいじわるな方だなんて、思いもしませんでしたわ」
「いじわるなものか。いつも言っているだろう、君がたった一人の人なんだって」
「なんだか、よく分からない理屈ですわね」
「愛している」
 私はヒルダとステップを踏みながら、彼女を見つめた。
 彼女は、少し首をかたげて考えたが、やがて嬉しそう口を開く。
「分かっているわっ!」
 くるくるステップを踏みながら、彼女は私の首に手を回し、ぎゅうっと抱きついた。
 もう離さない。
 私は強く、その背を抱きしめた。
 やっと見つけた私の『たった一人の人』を……。
 彼女こそ、私が夢にまで見た、待ち焦がれていた人だ。たくさんの糸の中から、迷ったあげくにたぐりよせた糸。その先にいたのは、他でもないヒルダなのだ。





 その夜は一晩中、音楽が鳴り止まず、父さまと母さまも笑顔で踊っていた。
 誰もが料理を楽しみ、ダンスを楽しんでいた。
 私は結局50人の女性と話し、20人の女性と踊ったが、中でもたった一人が私の心を捉えて離さなかったことは言うまでもないだろう。
 異様な盛りあがりを見せたパーティ―は、夜が明ける頃に終焉を迎えた。
 明け方の空の下、人の目を盗むように一隻の飛空艇が飛び立つ。
 その船に乗る、私の親しい二人の友人が交わしていた会話を、私は勿論、知る由もない。なぜなら私は、パーティー会場で眠い目をこすりながら、ラストダンスを踊っていたのだから。


「ロウィーナ、いいのか?」
「勿論や。潮時やて、思ってたし」
「しかしなあ、知らせるべきじゃねえか?仮にも、父親だろう?」
「いいんや、ウチは根なし草。子供が持てるってだけでも、充分過ぎるプレゼントやもん。バクー、シドに言うたらウチは本気で殺すで」
「言わねえよ、誰にも言わねえ」
 バクーは舵を握りながら、空の向こうを見ていた。
 ロウィーナは、そんな彼の腕に自分の腕を絡ませ、頭をことりと体にもたせかける。彼女の目は、彼と同じ空を追っていた。
「なあ……」
「んあ?」
「ウチらみんな幸せになれるかな……?」
 彼ははっとしたように、彼女の顔を見た。
 彼女はうとうとと、眠たそうな顔をして、空の向こうを見ている。
「シドも、バクーも、ウチも、この子も……。みんな、み〜んな、幸せになれるよな?絶対、幸せになれるよな?」
「おうっ……、あったりめえだ!オレたちが幸せになれなくて、誰がなるってんだっ!!」
「……バクー、泣いてる?」
「泣いてねえよ。気合をいれてんだっ!ほら、リンドブルムからアレクサンドリアまでは数時間だ。天気も良好、邪魔するものも何もない。オレたちは幸せになりにゆくんだ、ロウィーナ。シドも、おまえも、オレも、おまえの子供もだ。安心しろ、この調子で行けば、昼頃には到着する。夢から目を覚ます頃には、新しい生活がおまえを待ってっぞ。新天地、アレクサンドリアだ!!おい、聞いてんのか、ロウィーナ。ロウィーナ……?」







Copyright (c) 2002 さく


■あとがき■
最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!!

感無量、です。
投稿したのも久しぶりなら、ここまで書きたいものが書けたのも久しぶりっ。
読んで下さっている方には、どんな風に感じられたのでしょう?
かなり自己満悦的な作品になってしまったので、独りよがりになっていないか心配(-_-;)
……というか、この独りよがりがどんな風に受け取られるかが、心配(^^;。

この後、バクーとロウィーナがどうなるか?
どうなったと思いますか?
バクーとシドがふたたび再開するまで、また数年の時が必要です。
バクーはタンタラス団を結成するために、ふたたびシドに合間見えるのです。
そして、FFIXのゲームのお話につながってゆく……。ああ、ドラマティックですね。
世界をまたにかけるロウィーナも、きっとどこかで元気に暮らしていることでしょう。え、娘はどうなったかって?ふふふ、ほらバクーの側にいるじゃないですか。彼女ですよ、彼女っ!
さて、今回のお話はこれにて終了です。
どうですか、楽しんでいただけましたか?
この作品を最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。



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