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目を閉じると、行き交う人々の足音がくっきりと響いてくる。 子供たちがはしゃぎながら走りすぎる足音、カツカツというヒールの音。それに大股のリズムで歩くのは若者だろうか。 リンドブルムの商業区は、本当に賑やかだ。さまざまな音や声に満ちている。 その中でも、ほら。 私はあの子の足音を見つけることができてしまう。 なぜかな。彼女の独特のリズムが、私には心地よいのだ。素敵な足音だ。オーケストラのソロシンガーのような存在感がある。周囲とはちがう、のびのびとした音。雑踏の中でもそのリズムは隠しようがなく、とてもリアルだ。 あと、十メートル、五メートル……。 もう少しで見えるぞ、ほら。 タ、タタン! 私はゆっくりと目を開けた。 行き交う人々の中で、彼女が立っている。 私を見つけて、笑顔を浮かべている。 彼女だ。 間違いなく、私が待っていた人物だ。エアーキャブの駅前で一時間もの間、私に待ちぼうけを食わせた張本人にまちがいない。彼女に会うために、私はこうして二十本の薔薇の花束を抱えた姿で、ただひたすら待っていたのだ。 今日の彼女は明るいオレンジ色のロングスカートと、清潔な白いシャツを着ている。短いウェーブの髪を激しくゆらしながら、肩で息を整えていた。顔は笑っているが、辛そうだ。 なんだ、私のために走ってきたのかい? ああ、女の子って本当に可愛いな。 本当にそう思うよ。誓ってもいい、君はとても可愛い。 自分にとても正直だし、私は羨ましくなってしまう。その心意気に応えたくなってしまう。いても立ってもいられなくなる。私をあらゆる感情の波の中に追いやってくれる。まるで夕日の美しさに打たれる時の気分だ。私をどこかへ連れ去って離さない、その引力に引きつけられる。 「ラベンナ!」 私は走り出した。 焦りすぎて、慌ててしまうほどに、私は急いだ。 彼女がやっと来たのだ、嬉しくないわけがない。一時間だぞ。いや、一週間前に彼女をデートに誘ってから、ずっとこの時を待っていたのだ。いろいろと想像をめぐらしたりもする。互いの関係がどうなるんだろうと思うと、スリリングでたまらない。 私は彼女に一刻も早く声をかけたくて、走った。 子供たちが指差して笑っている。 行商たちが振り返る。 走って、走って。走ったすえに石につまづいて、地面へもんどりうった。 ラベンナが「大丈夫?」と、仰向けの私を覗きこむ。 「ああ、これを君に渡したかったんだ」 私はなんとか潰れないようにと、腹に抱えた花束を、彼女に差し出した。 「わあっ!素敵ね……。ありがとう、とっても嬉しいわっ!」 「それ、その顔が見たかったんだっ!!ラベンナは笑ってるのがとっても可愛いんだもんなあ。大好きだよ」 「やだっ、もう恥ずかしい。こんなところで、みんな見てるじゃない……」 「あっはは。さあ、行こうかっ」 「……というわけで、今日は充実した一日だったんだ、バクー。彼女は想像していたよりも素敵な女性だったし、私たちは甘酸っぱい青春を充分に楽しんだよ。別れ際の彼女のさびしそうな顔といったら、二度と離したくとさえ思ったぐらいだ。ひょっとすると彼女かもしれない」 私はデートの後に工業区に住んでいる、友人に会いきた。 すっかり夜の帳は下りている。 友人の方は図面を計測用のコンパスを動かしながら、半分くらい私の話を聞き流している。もう半分は、図面にある設計を頭の中で組み立てているのだ。まったく器用な奴だと、いつも感心させられる。 バクーはコンパスを机に置くと、図面をくるくると折りたたんだ。 「毎回そのセリフを言ってねえか、シド」 「毎回だなんて、人聞き悪いなあ」 「あっはっは!人聞き悪いってえ、自覚はあるわけだ。シド・ファブール、リンドブルム王子は人聞き悪いことをしてるってえな」 バクーは二人ぶんの珈琲を手に、私の向かい側に座った。 全身毛だらけの彼は、ずんぐりとした体つきにも関わらず、意外にモテる。なんでも世の女性に言わせると、「そのたくましい腕に抱かれてみたい」だそうだ。 しかしそれを鼻にかけないのが、彼の良いところだ。 私は湯気だつ珈琲を手にとって、バクーに言った。 「愛こそ全てだ、バクー。ラブ、イズオール。何度、口にしても色あせることがない。愛は時代を、民族をこえるんだ。素晴らしい!世界が愛に満ち満ちていたら、そんなに幸せなことはないだろ?私はそう思う」 「おぅ、シド。おめえの言うとおりだ。ライラちゃんも、リーナちゃんも、アステルちゃんも、キャシーちゃんも、サラちゃんも、み〜んなおめえの『愛』とやらの虜になったってえ、そういうわけだ」 「うっ……」 「何が『う』だ。おめえのことだろう」 「今は、ラベンナとマリー一筋だ」 「それは、一筋って言わねえ」 「はっ!しまった、私としたことが……」 男二人が、言葉の掛合いに興じていると、ぽとりと机に影を落とす人物がいた。 先に気がついたのは、バクーだ。 視線を追って見上げると、そこには緑色の豊かな髪をたくし上げて、女が立っている。 ロウィーナだ。大きめの口で闊達に笑うと、まいどのごとく毒づいた。 「あんたら、ほんまに仲いいなあ。なんや、どこぞの双子の道化師みたいやでえ」 彼女は最近リンドブルムにやってきた娘で、私の誘いを受けない数少ない女性だ。なんでも風来坊の自分に、リンドブルムの王子は身に余るとか、なんとかで。謎の多い、不思議な女性だった。世界をまたにかけて旅をつづけているらしい。バクーはリンドブルムに来たばかりで右往左往していた彼女を助け、以来すっかり仲良くやっている。 しかし、そうだな……。 まだ、そういう関係ではないらしい。 けれど、バクーがその関係を大事にしようとしていることは、私にも分かっていた。 「ほら、さしいれ」 重そうなバスケットを机の上にどんと置いた。 「ありがてえ、ちょうど腹が減ってたんだ。おい、シド。夜食にすっぞ」 「ああ、いただこう。ロウィーナ、珈琲でいいか?」 「うん、自分でいれるわ。バクー、キッチン借りるで」 「おう」 「ところでさ」 ロウィーナは慣れた手つきで珈琲メーカーをいじりながら、キッチンから話しかけた。 「みたでえ、商業区の色男!めっちゃ派手に転んでたなあ。あんな花束持って、恥ずかしないんか?」 「何が?」 「何がってえ……、薔薇の花束やで?いまどき、薔薇!それも花束!!そんな古典的なプレゼント、誰もせえへんやん。それを満面の笑みを浮かべて、『君にあげたい』なんて言われたら……。うわあ、言ってる自分がはずかしいなってきた」 ロウィーナは珈琲を片手に私たちと同じテーブルにつき、手でひらひらと風を作って顔をあおいだ。 「別に恥ずかしくないけどなあ……。私の思いがこもってるんだ、何が恥ずかしいんだ?プレゼントなんて気持ちの問題さ。私は彼女の喜ぶ顔が見たくて、めいっぱい悩んだあげくに選んだのが、たまたま薔薇の花束だっただけだよ。彼女はとても嬉しそうだったし、私もますます嬉しい」 「ぬけぬけと……。そんな無邪気な顔されちゃ、気が抜けるわ。ほんま、あんたには負けるなあ。なんとか言ったてえや、バクー」 「どうせ一ヶ月も経ちゃあ、別の女の子に同じことをしてるさ」 「むっ!!今度の私は本気だぞっ」 「はいは〜い、ストップ。喧嘩はなしやでえ」 「でもっ!」 私は思わず、声を荒げた。 「……でも、ひょっとすると彼女じゃないだろうかって、本当にそう思ったんだ」 私が小さく呟くと、バクーはやれやれと椅子に座りなおした。 ロウィーナは、私のセリフをすぐには飲みこめないのだろう。ぽかんとしている。 「え……と、彼女じゃないかって、どういうことやの?」 「彼女が私の、『たった一人の人』じゃないかなってことさ」 バクーは私の顔を見て、うんざりしたようにロウィーナに告げた。 「シドはお姫さまを探してんだ」 「お姫さま?」 「それも、そこらへんの女じゃねえ。自分の心を引きつけてやまない、魅力的な引力のある女性だそうだ」 「引力……」 「まあ、アレだな。恋に恋する、なんとやらだ」 「はあ……、王侯貴族の考えることはけったいやなあ。『たった一人』かあ、シドはロマンティストって奴やな。分かってたけど」 「周囲の期待を裏切らねえ奴なんだ」 「なるほど。んで、バクーのたった一人は誰なん?」 ブホッと珈琲を吹き出しながら、バクーは咳き込んだ。「うわ、汚い」とかなんとかロウィーナに言われながらも、楽しそうに見えてしまうのだから、恋って素敵だ。 彼らにとっては冗談の域でも、私にとって「たった一人の人」を探すことは、真剣そのものだった。 「ロマンティストやな」なんて評価されるような夢物語ではないのだ。 幼い頃からその女性を探しつづけているのだ。私にとっては現実であったし、リアルワールドだった。それが日常なのだ。呼吸するのと同じぐらい、ごく自然に。ありのままに。 ゆえに、私の恋は常に真剣だった。 多くの女性と付き合ってきたが、誰一人として向い合わずに逃げるようなことはしていない。結果はさんざんなものだったが、さんざんでも最後までお互い思いやってた。それは嬉しい実感として自分の中でも感じている。 けれど反面、不安でもあった。 もう10年も同じことを繰り返している私に、「たった一人の女性」を見つけることができるのだろうか。すっかり心構えを整えてしまっているだけに、その存在が現れてくれないことには、私は心に空白を抱えたまま生きていかなくてはならない。 それを思うと、私はたまらなくなる。 クルトンの入っていないコーンスープのようなものじゃないか。 何か、物足りない。 心の中に助手席を設けて、いつでも迎え入れる準備をしているというのに、誰もその席に座ってくれる人がいなのだ。私はたった一人ぼっちで、走り続けている。 平たく言ってしまえば、さびしくて、欲求不満だった。 飢えているのだ。 自分自身では、癒すことの出来ない不満。 私には誰か、水を差し出してくれる人が必要だった。 誰かに、助手席に座ってもらう必要があった。 私は常に、どこか満たされないものを感じながら、心の残りの半分を埋めてくれる存在をさがしているのだ。 城への帰り道、私はそんな選のないことを考えていた。 バクーとロウィーナを相手にカードゲームに熱中していて、気付くと朝になっていた。三人の、お決まりのコースだ。それから数時間の睡眠をとって互いに別れを告げ、今ようやく家路についている。 心地よい疲労感の中、城へ続くゲートも上機嫌で通り過ぎようとした。 夕暮れ時。辺り一面が赤く染められ、リンドブルムが一番美しい時間だ。 私は階段を降りていると、ふいに真っ白なパラソルが目に飛び込んできた。 (おっ……!?) 反射的に、パラソルの人物を確認するために、覗きこもうとする。 雨も降っていないのに、傘を差しているということは、日傘だ。日傘は若い女性がさすものだ。女性と分かっていて声をかけないなんて、男じゃない! ということで、よこしまな期待に胸をふくらませながら、私はいそいそと階段を降りようとした。 しかし、私が彼女に声をかけるより早く、彼女が振り返った。 その瞬間を、私は一生忘れないだろう。 タンタンタンと三段降りて、私は思わず足を止めた。 真っ赤なリンドブルム城を背にたつ少女。 振り返る彼女は私を見つけると、ほころぶように、にっこり微笑んだ。 金色の髪を甘く夕日の色に照り返して、真白い頬を夕暮れ色に染めて。彼女はほんのすこしだけパラソルを下げると、恥らうように目を隠した。 匂いたつような、美しい娘だった。 私は彼女はまた向こうを向いてしまうと、はっとして階段を駆け下りた。 行ってしまう。彼女が、歩き出そうとしている。 止めたい。どうしても、こちらにもう一度振り向いて欲しい。 「お嬢さん!」 「はい……?」 「待ってください」 私は彼女の前まで走っていって、彼女の顔をまじまじと見た。 やはり、そうだった。 予想にたがわない、美しい娘だった。 小さな頭に、こじんまりした顔立ち。意思の強そうな目と、薔薇の花びらのように小さな唇。艶やかな髪をアップにして、白いうなじを外気にさらさせている。 「あの、わたくしの顔に何か……?」 「あ、いや、その……」 柄にもなく、私はドギマギしてしまった。 こんなとき、大抵は次ぎのくだりがさらさらと口をついて出てくるのに、今度ばかりは例外だった。美しいから、というのも一つの理由だったのだろうが、それ以上に、この娘の物怖じしない真っ直ぐな眼差しが、私には痛かったのだ。その瞳は私の顔の皮膚などいとも簡単につらぬいて、奥底にある何かを見とおすような熾烈さがあった。 嘘はつけない。 軽くあしらうこともできない。 かといって、逃げることもできない。 私は、私よりも幾分か若い、みずみずしいこの娘に、圧倒されてしまっていた。 「いえ、あまりにあなたが美しくて……、宜しければ名前をお聞かせいただけないでしょうか?」 「それは、光栄ですこと。ですが、どこの誰とも分からない方に、お聞かせするような名前は持っていませんことよ?」 「これは失礼しました。私はこの城に勤める者です。決して怪しい者ではありません。といっても、この身以外に潔白を証明するものなどないのですが……。どうしてもお名前をお聞かせ頂けないのでしょうか」 「……」 彼女は握っていたパラソルの柄を、細い肩に持たせかけて、首をかしげた。 少しだけ考えて、口を開く。 「ひとつ、教えていただきたいことがあるのです」 「なんなりと」 「こちらの王子様は、どういった方なのかしら?」 「はっ……!?」 「小さい頃から英才教育を受けてこられた、かた苦しい方なのかしら……」 目をくりくりと動かして、彼女は想像を巡らしていたようだが、やがてはぁっと重いため息を吐いた。私は面食らいつつも、娘の様子を興味ぶかく観察している。彼女にとって、『リンドブルムの王子様』が堅苦しいことは、ため息をつくようなことなのだろうか。おかしなものだ。 「では、お嬢さん。私はどうだろう?」 「え?」 「私は堅苦しいかな?」 「わたくしに声をかけるような殿方は……、おかしな方ね。堅苦しいわけがないわ」 「では、あなたの王子様もきっと、あなたが想像するよりもくだけた人物ですよ」 「なんで、あなたが堅苦しくないと、王子様も堅苦しくないの?へんね、おかしいわ。あなた」 彼女はくすくすと笑った。 私もつられて、「そうですね」と笑う。 「じゃあ」と、彼女は頭を垂れると、エアーキャブに向かおうとした。 私は振り返って、通りすぎた彼女をもう一度呼びとめた。 「待ってください!せめて名前を!!」 「ヒルダよ!ヒルデガルダ!!」 くるりとドレスを翻した彼女は、ぱっと花開いたように満面の笑みを浮かべた。少しは、信用してもらえたと思って良いのだろうか。 「明日も、ここで会えませんか!?」 「ええ!いいわっ!!」 毅然と唇を真横にひくと、少女に相応しい元気なくらいの足取りで、ヒルダは階段を駆け上がってゆく。 その後姿が小さくなって、見えなくなるまで、私は一歩も動けずに立ち尽くしていた。 転機がきていた。 本人の意思などまるで砂浜の一粒の砂のごとく軽くあしらわれ、海面下のすべての可能性を巻きこみながら、南国の風にあおられたビッグウェーブように、大波が押し寄せてきていた。それが思いも寄らない場所へ私を連れ去ろうとしていることなど、少しも気付かせずに。 「バクー!バクー!!」 私は翌朝、バクーの家の前にいた。 家のドアをドンドンと激しくノックしたので、バクーは迷惑顔で玄関に出てきた。 「うるせえぞ」 「聞いてくれっ!」 「いつも聞いているじゃねえか」 「それが、大ニュースなんだ、大ニュース!!」 「なんだ、女に振られたか?」 「見つけたんだ」 「はあ?」 「見つけたんだよっ!」 「おめえ、なんのことかさっぱり分からねえぞ」 「私のたった一人の人を見つけたんだ!」 「この間も同じ事を言ってなかったか?」 「今度はちがう」 「それもこの間、聞いたセリフだぞ」 「本当に、本当に今度は違うんだ。あんなに綺麗な女は見たことがない。これまで私は女性を可愛いと思っていたが、そんなレベルじゃないんだ。なんて説明すればいいのか……この私をあそこまで圧倒させる女は、これが最後だと思う。何人もの女性と付き合ってきた私が言うんだ、信じてくれ。あの女は、そんじょそこらの女じゃないっ!」 「なんや、なんや、きいた声がするでえ。あら、シド」 ひょっこり奥からロウィーナが出てくる。 彼女は仕事前なのか、厚化粧と大仰な衣装に身を包んでいた。彼女は劇場区の人気女優だ。私はまるで女王様のような彼女の姿に苦笑をしつつ、「やあ」と挨拶をした。 「どないしたんや?」 「報告に来たんだ」 「報告?なんやの?」 「ロウィーナ、私はとうとうやったよ!」 「なんやの、話が見えへん」 「見つけたんだ、私のたった一人の人をっ!ああ、これが落着いていられると思うかい?私は今ならなんでも出来そうな気がするよ。いいや待て、まだ出会ったばかりだ。これから肝心だぞ。はっ!!」 「ど、どないしたんや!?」 「ああ、二人にはすまないが私はもう帰るよ。取り敢えず、報告したかったんだ。色々と二人には心配をかけたから。なんだ二人とも、私の幸せを喜んでくれないのか?」 バクーとロウィーナは変な顔をして顔を見合わせ、あげくに二人して肩をすくめた。 「おめえが本当に幸せなら、嬉しくないわけがねえ。けどよ、オレはおめえが心配なんだ。本当に、おめえのたった一人の人か?今の段階じゃ、俄かには信じられねえぞ」 「同感や。ちょっと、性急やない?シド、もし期待どおりでなかったら、あとで傷つくのは自分やで?」 「そんなことは分かっている」 私は感極まって、二人を腕に抱いた。 ああ、そうだ。 この二人はそうだった。 だから私は彼らが大好きなのだ。 「ありがとう。君たちには本当に感謝してるんだ。私のことを心底心配してくれる、だからこそ、こうやって安心していられる。最終的には、いつも私の好きにさせてくれる。今回だって、そうだろう?」 「……」 「……」 二人は無言だったが、腕を通して充分過ぎるくらい気持ちは伝わってきた。 二人とも強く私を抱き返してくれたから。 「城の連中とはちがう、友人とはいいものだな。大好きだよ」 「ちっ、誰がおめえの心配なんぞするもんか」 「せやな。きりないもんなあ」 ロウィーナは私の腕から開放されると、しっしっと、私を追っ払おうとした。おいおい、仮にもリンドブルムの王子にそりゃないぞ。 「ほな、早くいきいや。こんなところで、油うってるばあいやないんとちがうの?」 「ああ」 バクーはロウィーナの仕草に笑顔を浮かべながら、満足げに頷いた。 「おう、ロウィーナの言うとおりだ。とっとと行っちまえ!」 「ああ、バクー、ありがとう」 「オレは何もしてねえぞ」 「素直じゃないなあ、まったく」 「うるせえ!とっとと行っちまえ!!」 にやける口元をそのままに、私は走り出した。 バクーの罵声を背中で受けながら。 色々と、やることがあった。整理しなくてはならないこと、準備しなくてはならないこと。いろいろ。私とヒルダ、これからの二人の関係がどうなるのだろうかと想像すると、スリリングでたまらない。 さあ、忙しくなるぞっ! Copyright (c) 2002 さく
■あとがき■ |