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<マリフェス・ゲスト>

【愛の人(1)】
FFIX









 目を閉じると、行き交う人々の足音がくっきりと響いてくる。
 子供たちがはしゃぎながら走りすぎる足音、カツカツというヒールの音。それに大股のリズムで歩くのは若者だろうか。
 リンドブルムの商業区は、本当に賑やかだ。さまざまな音や声に満ちている。
 その中でも、ほら。
 私はあの子の足音を見つけることができてしまう。
 なぜかな。彼女の独特のリズムが、私には心地よいのだ。素敵な足音だ。オーケストラのソロシンガーのような存在感がある。周囲とはちがう、のびのびとした音。雑踏の中でもそのリズムは隠しようがなく、とてもリアルだ。
 あと、十メートル、五メートル……。
 もう少しで見えるぞ、ほら。
 
 タ、タタン!

 私はゆっくりと目を開けた。
 行き交う人々の中で、彼女が立っている。
 私を見つけて、笑顔を浮かべている。
 彼女だ。
 間違いなく、私が待っていた人物だ。エアーキャブの駅前で一時間もの間、私に待ちぼうけを食わせた張本人にまちがいない。彼女に会うために、私はこうして二十本の薔薇の花束を抱えた姿で、ただひたすら待っていたのだ。
 今日の彼女は明るいオレンジ色のロングスカートと、清潔な白いシャツを着ている。短いウェーブの髪を激しくゆらしながら、肩で息を整えていた。顔は笑っているが、辛そうだ。
 なんだ、私のために走ってきたのかい?
 ああ、女の子って本当に可愛いな。
 本当にそう思うよ。誓ってもいい、君はとても可愛い。
 自分にとても正直だし、私は羨ましくなってしまう。その心意気に応えたくなってしまう。いても立ってもいられなくなる。私をあらゆる感情の波の中に追いやってくれる。まるで夕日の美しさに打たれる時の気分だ。私をどこかへ連れ去って離さない、その引力に引きつけられる。
「ラベンナ!」
 私は走り出した。
 焦りすぎて、慌ててしまうほどに、私は急いだ。
 彼女がやっと来たのだ、嬉しくないわけがない。一時間だぞ。いや、一週間前に彼女をデートに誘ってから、ずっとこの時を待っていたのだ。いろいろと想像をめぐらしたりもする。互いの関係がどうなるんだろうと思うと、スリリングでたまらない。
 私は彼女に一刻も早く声をかけたくて、走った。
 子供たちが指差して笑っている。
 行商たちが振り返る。
 走って、走って。走ったすえに石につまづいて、地面へもんどりうった。
 ラベンナが「大丈夫?」と、仰向けの私を覗きこむ。
「ああ、これを君に渡したかったんだ」
 私はなんとか潰れないようにと、腹に抱えた花束を、彼女に差し出した。
「わあっ!素敵ね……。ありがとう、とっても嬉しいわっ!」
「それ、その顔が見たかったんだっ!!ラベンナは笑ってるのがとっても可愛いんだもんなあ。大好きだよ」
「やだっ、もう恥ずかしい。こんなところで、みんな見てるじゃない……」
「あっはは。さあ、行こうかっ」






「……というわけで、今日は充実した一日だったんだ、バクー。彼女は想像していたよりも素敵な女性だったし、私たちは甘酸っぱい青春を充分に楽しんだよ。別れ際の彼女のさびしそうな顔といったら、二度と離したくとさえ思ったぐらいだ。ひょっとすると彼女かもしれない」
 私はデートの後に工業区に住んでいる、友人に会いきた。
 すっかり夜の帳は下りている。
 友人の方は図面を計測用のコンパスを動かしながら、半分くらい私の話を聞き流している。もう半分は、図面にある設計を頭の中で組み立てているのだ。まったく器用な奴だと、いつも感心させられる。
 バクーはコンパスを机に置くと、図面をくるくると折りたたんだ。
「毎回そのセリフを言ってねえか、シド」
「毎回だなんて、人聞き悪いなあ」
「あっはっは!人聞き悪いってえ、自覚はあるわけだ。シド・ファブール、リンドブルム王子は人聞き悪いことをしてるってえな」
 バクーは二人ぶんの珈琲を手に、私の向かい側に座った。
 全身毛だらけの彼は、ずんぐりとした体つきにも関わらず、意外にモテる。なんでも世の女性に言わせると、「そのたくましい腕に抱かれてみたい」だそうだ。
 しかしそれを鼻にかけないのが、彼の良いところだ。
 私は湯気だつ珈琲を手にとって、バクーに言った。
「愛こそ全てだ、バクー。ラブ、イズオール。何度、口にしても色あせることがない。愛は時代を、民族をこえるんだ。素晴らしい!世界が愛に満ち満ちていたら、そんなに幸せなことはないだろ?私はそう思う」
「おぅ、シド。おめえの言うとおりだ。ライラちゃんも、リーナちゃんも、アステルちゃんも、キャシーちゃんも、サラちゃんも、み〜んなおめえの『愛』とやらの虜になったってえ、そういうわけだ」
「うっ……」
「何が『う』だ。おめえのことだろう」
「今は、ラベンナとマリー一筋だ」
「それは、一筋って言わねえ」
「はっ!しまった、私としたことが……」
 男二人が、言葉の掛合いに興じていると、ぽとりと机に影を落とす人物がいた。
 先に気がついたのは、バクーだ。
 視線を追って見上げると、そこには緑色の豊かな髪をたくし上げて、女が立っている。
 ロウィーナだ。大きめの口で闊達に笑うと、まいどのごとく毒づいた。
「あんたら、ほんまに仲いいなあ。なんや、どこぞの双子の道化師みたいやでえ」
 彼女は最近リンドブルムにやってきた娘で、私の誘いを受けない数少ない女性だ。なんでも風来坊の自分に、リンドブルムの王子は身に余るとか、なんとかで。謎の多い、不思議な女性だった。世界をまたにかけて旅をつづけているらしい。バクーはリンドブルムに来たばかりで右往左往していた彼女を助け、以来すっかり仲良くやっている。
 しかし、そうだな……。
 まだ、そういう関係ではないらしい。
 けれど、バクーがその関係を大事にしようとしていることは、私にも分かっていた。
「ほら、さしいれ」
 重そうなバスケットを机の上にどんと置いた。
「ありがてえ、ちょうど腹が減ってたんだ。おい、シド。夜食にすっぞ」
「ああ、いただこう。ロウィーナ、珈琲でいいか?」
「うん、自分でいれるわ。バクー、キッチン借りるで」
「おう」
「ところでさ」
 ロウィーナは慣れた手つきで珈琲メーカーをいじりながら、キッチンから話しかけた。
「みたでえ、商業区の色男!めっちゃ派手に転んでたなあ。あんな花束持って、恥ずかしないんか?」
「何が?」
「何がってえ……、薔薇の花束やで?いまどき、薔薇!それも花束!!そんな古典的なプレゼント、誰もせえへんやん。それを満面の笑みを浮かべて、『君にあげたい』なんて言われたら……。うわあ、言ってる自分がはずかしいなってきた」
 ロウィーナは珈琲を片手に私たちと同じテーブルにつき、手でひらひらと風を作って顔をあおいだ。
「別に恥ずかしくないけどなあ……。私の思いがこもってるんだ、何が恥ずかしいんだ?プレゼントなんて気持ちの問題さ。私は彼女の喜ぶ顔が見たくて、めいっぱい悩んだあげくに選んだのが、たまたま薔薇の花束だっただけだよ。彼女はとても嬉しそうだったし、私もますます嬉しい」
「ぬけぬけと……。そんな無邪気な顔されちゃ、気が抜けるわ。ほんま、あんたには負けるなあ。なんとか言ったてえや、バクー」
「どうせ一ヶ月も経ちゃあ、別の女の子に同じことをしてるさ」
「むっ!!今度の私は本気だぞっ」
「はいは〜い、ストップ。喧嘩はなしやでえ」
「でもっ!」
 私は思わず、声を荒げた。
「……でも、ひょっとすると彼女じゃないだろうかって、本当にそう思ったんだ」
 私が小さく呟くと、バクーはやれやれと椅子に座りなおした。
 ロウィーナは、私のセリフをすぐには飲みこめないのだろう。ぽかんとしている。
「え……と、彼女じゃないかって、どういうことやの?」
「彼女が私の、『たった一人の人』じゃないかなってことさ」
 バクーは私の顔を見て、うんざりしたようにロウィーナに告げた。
「シドはお姫さまを探してんだ」
「お姫さま?」
「それも、そこらへんの女じゃねえ。自分の心を引きつけてやまない、魅力的な引力のある女性だそうだ」
「引力……」
「まあ、アレだな。恋に恋する、なんとやらだ」
「はあ……、王侯貴族の考えることはけったいやなあ。『たった一人』かあ、シドはロマンティストって奴やな。分かってたけど」
「周囲の期待を裏切らねえ奴なんだ」
「なるほど。んで、バクーのたった一人は誰なん?」
 ブホッと珈琲を吹き出しながら、バクーは咳き込んだ。「うわ、汚い」とかなんとかロウィーナに言われながらも、楽しそうに見えてしまうのだから、恋って素敵だ。


 彼らにとっては冗談の域でも、私にとって「たった一人の人」を探すことは、真剣そのものだった。
 「ロマンティストやな」なんて評価されるような夢物語ではないのだ。
 幼い頃からその女性を探しつづけているのだ。私にとっては現実であったし、リアルワールドだった。それが日常なのだ。呼吸するのと同じぐらい、ごく自然に。ありのままに。
 ゆえに、私の恋は常に真剣だった。
 多くの女性と付き合ってきたが、誰一人として向い合わずに逃げるようなことはしていない。結果はさんざんなものだったが、さんざんでも最後までお互い思いやってた。それは嬉しい実感として自分の中でも感じている。
 けれど反面、不安でもあった。
 もう10年も同じことを繰り返している私に、「たった一人の女性」を見つけることができるのだろうか。すっかり心構えを整えてしまっているだけに、その存在が現れてくれないことには、私は心に空白を抱えたまま生きていかなくてはならない。
 それを思うと、私はたまらなくなる。
 クルトンの入っていないコーンスープのようなものじゃないか。
 何か、物足りない。
 心の中に助手席を設けて、いつでも迎え入れる準備をしているというのに、誰もその席に座ってくれる人がいなのだ。私はたった一人ぼっちで、走り続けている。
 平たく言ってしまえば、さびしくて、欲求不満だった。
 飢えているのだ。
 自分自身では、癒すことの出来ない不満。
 私には誰か、水を差し出してくれる人が必要だった。
 誰かに、助手席に座ってもらう必要があった。
 私は常に、どこか満たされないものを感じながら、心の残りの半分を埋めてくれる存在をさがしているのだ。


 城への帰り道、私はそんな選のないことを考えていた。
 バクーとロウィーナを相手にカードゲームに熱中していて、気付くと朝になっていた。三人の、お決まりのコースだ。それから数時間の睡眠をとって互いに別れを告げ、今ようやく家路についている。
 心地よい疲労感の中、城へ続くゲートも上機嫌で通り過ぎようとした。
 夕暮れ時。辺り一面が赤く染められ、リンドブルムが一番美しい時間だ。
 私は階段を降りていると、ふいに真っ白なパラソルが目に飛び込んできた。
(おっ……!?)
 反射的に、パラソルの人物を確認するために、覗きこもうとする。
 雨も降っていないのに、傘を差しているということは、日傘だ。日傘は若い女性がさすものだ。女性と分かっていて声をかけないなんて、男じゃない!
 ということで、よこしまな期待に胸をふくらませながら、私はいそいそと階段を降りようとした。
 しかし、私が彼女に声をかけるより早く、彼女が振り返った。
 その瞬間を、私は一生忘れないだろう。
 タンタンタンと三段降りて、私は思わず足を止めた。


 真っ赤なリンドブルム城を背にたつ少女。
 振り返る彼女は私を見つけると、ほころぶように、にっこり微笑んだ。
 金色の髪を甘く夕日の色に照り返して、真白い頬を夕暮れ色に染めて。彼女はほんのすこしだけパラソルを下げると、恥らうように目を隠した。
 匂いたつような、美しい娘だった。


 私は彼女はまた向こうを向いてしまうと、はっとして階段を駆け下りた。
 行ってしまう。彼女が、歩き出そうとしている。
 止めたい。どうしても、こちらにもう一度振り向いて欲しい。
「お嬢さん!」
「はい……?」
「待ってください」
 私は彼女の前まで走っていって、彼女の顔をまじまじと見た。
 やはり、そうだった。
 予想にたがわない、美しい娘だった。
 小さな頭に、こじんまりした顔立ち。意思の強そうな目と、薔薇の花びらのように小さな唇。艶やかな髪をアップにして、白いうなじを外気にさらさせている。
「あの、わたくしの顔に何か……?」
「あ、いや、その……」
 柄にもなく、私はドギマギしてしまった。
 こんなとき、大抵は次ぎのくだりがさらさらと口をついて出てくるのに、今度ばかりは例外だった。美しいから、というのも一つの理由だったのだろうが、それ以上に、この娘の物怖じしない真っ直ぐな眼差しが、私には痛かったのだ。その瞳は私の顔の皮膚などいとも簡単につらぬいて、奥底にある何かを見とおすような熾烈さがあった。
 嘘はつけない。
 軽くあしらうこともできない。
 かといって、逃げることもできない。
 私は、私よりも幾分か若い、みずみずしいこの娘に、圧倒されてしまっていた。
「いえ、あまりにあなたが美しくて……、宜しければ名前をお聞かせいただけないでしょうか?」
「それは、光栄ですこと。ですが、どこの誰とも分からない方に、お聞かせするような名前は持っていませんことよ?」
「これは失礼しました。私はこの城に勤める者です。決して怪しい者ではありません。といっても、この身以外に潔白を証明するものなどないのですが……。どうしてもお名前をお聞かせ頂けないのでしょうか」
「……」
 彼女は握っていたパラソルの柄を、細い肩に持たせかけて、首をかしげた。
 少しだけ考えて、口を開く。
「ひとつ、教えていただきたいことがあるのです」
「なんなりと」
「こちらの王子様は、どういった方なのかしら?」
「はっ……!?」
「小さい頃から英才教育を受けてこられた、かた苦しい方なのかしら……」
 目をくりくりと動かして、彼女は想像を巡らしていたようだが、やがてはぁっと重いため息を吐いた。私は面食らいつつも、娘の様子を興味ぶかく観察している。彼女にとって、『リンドブルムの王子様』が堅苦しいことは、ため息をつくようなことなのだろうか。おかしなものだ。
「では、お嬢さん。私はどうだろう?」
「え?」
「私は堅苦しいかな?」
「わたくしに声をかけるような殿方は……、おかしな方ね。堅苦しいわけがないわ」
「では、あなたの王子様もきっと、あなたが想像するよりもくだけた人物ですよ」
「なんで、あなたが堅苦しくないと、王子様も堅苦しくないの?へんね、おかしいわ。あなた」
 彼女はくすくすと笑った。
 私もつられて、「そうですね」と笑う。
 「じゃあ」と、彼女は頭を垂れると、エアーキャブに向かおうとした。
 私は振り返って、通りすぎた彼女をもう一度呼びとめた。
「待ってください!せめて名前を!!」
「ヒルダよ!ヒルデガルダ!!」
 くるりとドレスを翻した彼女は、ぱっと花開いたように満面の笑みを浮かべた。少しは、信用してもらえたと思って良いのだろうか。
「明日も、ここで会えませんか!?」
「ええ!いいわっ!!」
 毅然と唇を真横にひくと、少女に相応しい元気なくらいの足取りで、ヒルダは階段を駆け上がってゆく。
 その後姿が小さくなって、見えなくなるまで、私は一歩も動けずに立ち尽くしていた。





 転機がきていた。
 本人の意思などまるで砂浜の一粒の砂のごとく軽くあしらわれ、海面下のすべての可能性を巻きこみながら、南国の風にあおられたビッグウェーブように、大波が押し寄せてきていた。それが思いも寄らない場所へ私を連れ去ろうとしていることなど、少しも気付かせずに。
「バクー!バクー!!」
 私は翌朝、バクーの家の前にいた。
 家のドアをドンドンと激しくノックしたので、バクーは迷惑顔で玄関に出てきた。
「うるせえぞ」
「聞いてくれっ!」
「いつも聞いているじゃねえか」
「それが、大ニュースなんだ、大ニュース!!」
「なんだ、女に振られたか?」
「見つけたんだ」
「はあ?」
「見つけたんだよっ!」
「おめえ、なんのことかさっぱり分からねえぞ」
「私のたった一人の人を見つけたんだ!」
「この間も同じ事を言ってなかったか?」
「今度はちがう」
「それもこの間、聞いたセリフだぞ」
「本当に、本当に今度は違うんだ。あんなに綺麗な女は見たことがない。これまで私は女性を可愛いと思っていたが、そんなレベルじゃないんだ。なんて説明すればいいのか……この私をあそこまで圧倒させる女は、これが最後だと思う。何人もの女性と付き合ってきた私が言うんだ、信じてくれ。あの女は、そんじょそこらの女じゃないっ!」
「なんや、なんや、きいた声がするでえ。あら、シド」
 ひょっこり奥からロウィーナが出てくる。
 彼女は仕事前なのか、厚化粧と大仰な衣装に身を包んでいた。彼女は劇場区の人気女優だ。私はまるで女王様のような彼女の姿に苦笑をしつつ、「やあ」と挨拶をした。
「どないしたんや?」
「報告に来たんだ」
「報告?なんやの?」
「ロウィーナ、私はとうとうやったよ!」
「なんやの、話が見えへん」
「見つけたんだ、私のたった一人の人をっ!ああ、これが落着いていられると思うかい?私は今ならなんでも出来そうな気がするよ。いいや待て、まだ出会ったばかりだ。これから肝心だぞ。はっ!!」
「ど、どないしたんや!?」
「ああ、二人にはすまないが私はもう帰るよ。取り敢えず、報告したかったんだ。色々と二人には心配をかけたから。なんだ二人とも、私の幸せを喜んでくれないのか?」
 バクーとロウィーナは変な顔をして顔を見合わせ、あげくに二人して肩をすくめた。
「おめえが本当に幸せなら、嬉しくないわけがねえ。けどよ、オレはおめえが心配なんだ。本当に、おめえのたった一人の人か?今の段階じゃ、俄かには信じられねえぞ」
「同感や。ちょっと、性急やない?シド、もし期待どおりでなかったら、あとで傷つくのは自分やで?」
「そんなことは分かっている」
 私は感極まって、二人を腕に抱いた。
 ああ、そうだ。
 この二人はそうだった。
 だから私は彼らが大好きなのだ。
「ありがとう。君たちには本当に感謝してるんだ。私のことを心底心配してくれる、だからこそ、こうやって安心していられる。最終的には、いつも私の好きにさせてくれる。今回だって、そうだろう?」
「……」
「……」
 二人は無言だったが、腕を通して充分過ぎるくらい気持ちは伝わってきた。
 二人とも強く私を抱き返してくれたから。
「城の連中とはちがう、友人とはいいものだな。大好きだよ」
「ちっ、誰がおめえの心配なんぞするもんか」
「せやな。きりないもんなあ」
 ロウィーナは私の腕から開放されると、しっしっと、私を追っ払おうとした。おいおい、仮にもリンドブルムの王子にそりゃないぞ。
「ほな、早くいきいや。こんなところで、油うってるばあいやないんとちがうの?」
「ああ」
 バクーはロウィーナの仕草に笑顔を浮かべながら、満足げに頷いた。
「おう、ロウィーナの言うとおりだ。とっとと行っちまえ!」
「ああ、バクー、ありがとう」
「オレは何もしてねえぞ」
「素直じゃないなあ、まったく」
「うるせえ!とっとと行っちまえ!!」
 にやける口元をそのままに、私は走り出した。
 バクーの罵声を背中で受けながら。
 色々と、やることがあった。整理しなくてはならないこと、準備しなくてはならないこと。いろいろ。私とヒルダ、これからの二人の関係がどうなるのだろうかと想像すると、スリリングでたまらない。
 さあ、忙しくなるぞっ!





Copyright (c) 2002 さく


■あとがき■
さくと申します。

これまで、たくさんのマイナーキャラを起用してきました。
が、ここまでマイナーなのも私のモノカキ史上で2番目くらいです。
主人公がシド。ヒロインが、ヒルダ。その脇をかためるのは、タンタラスの団長であるバクー。そして、オリキャラのロウィーナちゃんです。
それも、恋愛一色なんて、かなり私にはめずらしい作品。
楽しんでいただけると良いのですが……。
ちょっぴり切なくて、たっぷり幸せなピュア・ラブストーリー。愛し愛されることで成長してゆく彼らの姿を、ぜひ最後まで見届けてください



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