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夜は全てが逆になる。人は眠り、他の物が活発に動き出す。周りからざわめきが聞こえ
る。人の物ではない、他の生物達の物だろう。動物なのか、或いは人に害を成すものか。
どちらでもいい。耳を澄ませ、この夜の歌を聞きつつ、ただ時を待つ。
燃え上がる地平線(前編) from FINALFANTASY IV
リディアのお産の為、彼女の故郷であるミストの村に来ていた。リディアから聞いた話
では、嘗てセシルらが滅ぼしてしまったと言う。今になってみれば、その痕跡は殆ど見ら
れない。
今でも召喚士の村だと言う。だがとてもそんな風には見えない。誰もが普通の仕事をし、
普通の生活を営んでいる。リディアは嘗て彼女の家があった所を借り、そこで出産すると
言う。産婆さんも住み込みで来て頂いて、その間俺は村の作業を手伝うことにした。
共に働いた人が召喚士である、と言われても本当に実感が湧かないほど、ごく普通の人
たちだった。作業の後リディアが大きくなったお腹を抱えながら、全員に水と簡単な食事
を持ってきた。
「すまん。だが起きていていいのか? 予定日は今日だろう?」「いいのよ。何だか動いておきたいのよ。皆さんも頑張っておられるし」 既に日が暮れていた。皆はリディアに礼を言い帰っていった。
「良い人たちだなあ」自然と口をついて出てきた。 「そうね。あの頃と変わってないわ」
リディアの目は遠い昔を見ている。いや、それほど時は経っていないはずだ。それはリ
ディアの年齢からも明らかな通りだ。かつて生き残りだった人も、成長したリディアの姿
を見て、彼女だと気付いた人はいなかった。
「俺たち、結構歳が違うんだな」「今更気になる?」 「いや、別にそう言うわけでは」
歳なんか気にならない、と言えば嘘を言ったことになる。リディアの歳を知った時は本
当に驚いたからだ。だけど、このままでいいさと、あの時はそう思った。リディアは再び、
遠い時代に思いを馳せていた。
と、その時リディアが陣痛を訴えた。俺は、リディアを抱え家まで運んだ。今夜生まれ
ると言う。産婆さんに任せて家を出た。
既に辺りに闇が満ちている。涼める場所を探すと、丁度木の陰が適していたので、根元
に腰を下ろした。自分の気持ちを整理したかった。心が波立って落ち着かない。世間の、
父親と呼ばれる人は皆経験したのだろうか。落ち着くまで夜の音に耳を済ませていようと
思う。
風が吹いた。木々が枝を揺らし、頭上を木の葉が舞う。クナイを取り出し、木の葉を貫
く。全て、刃に収めたはずだった。しかし……
「一枚落としたか」
やはり、落ち着かないのか、それともただ単に腕が落ちたのか。もし、後者だとしたら、
俺はこんなんで大丈夫なのか。夜も更け、引き返そうとした時だった。
遠方から、何かが近づいてくる。姿こそ見えないが、激しい悪意と焼け付くような熱気
を伴っていた。村雨と正宗と抜き身構える。直に来る。
やがて、焦げ付く匂いと、遅れて火の粉が見えてきた。前方から近づいてきたのは、ボ
ムの群れだった。何故この近辺にボムが、と気になったが今はこいつらを村に近づかせな
い事に専念しなければ。
クナイを取り出し、群れ目掛けて投げた。ボムの群れは左右に分かれ難無くかわした。
二手か、と舌打ちしたが、こうなったら片方ずつ片付けていくしかない。多い方の右手に
狙いを絞った。
「こっから先は行かせねぇ!」
印を組み集中する。今度はかわされないように、群れの中心に狙いを絞った。指先から、
炎が迸る。火遁は群れに直撃し、炎の柱を上げる。炎を吸い上げたボムは巨大化する。多
少荒っぽい方法だが、時間が無いので致し方ない。更に、もう一撃を放った。益々巨大化
したボムは、猛り狂ってこっちに突進してくる。
(そうだ、こっちに来い)
ギリギリまで距離を絞り、最後の一撃を放った。
かわしたつもりだったが、かなりの火傷を負った。最初の一匹が炎の吸いすぎで爆発し、 続けて後方のボムが次々誘爆していった。数が数なので、その爆炎は凄まじく、後一歩引 き際が遅かったら、今頃灰になっていただろう。右手右足の火傷が、かなり痛む。先に行 ったボムがまだいたはずだ。舌打ちし、痛む足を引き摺りながら村を目指した。
村には既に火の手が回っていた。不甲斐なさに、わが身を呪いたくなる。少し修行を怠
ければこれか。
だがこの時、初めてこの村の人間の正体を見た。この時、改めて実感した、召喚士の噂
は本当だったと。火の手が回るも、村の召喚士達はボムの群れ相手に善戦していた。足を
引き摺りながら、参戦した。ミストドラゴンのブレスで動きを封じられたボム目掛けて、
雷迅を放つ。ボムは叫び声を上げて倒れた。
リディアの産婆さんが駆け寄ってきた。「ありがとう御座います。助かりました」 「そっちの方は無事か?」 「ええ、全員非難しました。でもリディアがまだ家の中です」 直に家のほうに向かった。
火の周りが異常に早い。このままではリディアの身にも危険が及ぶ。しかし、まだ気が
抜けない。ボムの群れなら、一匹マザーボムがいるはずだ。今までそれらしい物に会わな
かった。そいつに先を越されたら厄介だ。
幸いにも、リディアのいる所までは、火の手は回っていなかった。早く連れ出そうとし
た時だった。敵が上空から、炎の弾を飛ばしてきた。動きにくい足と、一瞬の不意を付か
れて、完全にはかわしきれなかった。爆風に吹き飛ばされ、壁に激突した。余りの衝撃に
気を失いそうになるも、今見据えている敵が、マザーボムだと確信していた。よろめきな
がらも、もう一度敵を睨み身構えた。
「手前の相手は俺だ」
クナイを取り出し、片っ端から投げた。ボムは難無くかわしていく。構う物か、と更に
投げまくった。敵の炎をかわしつつ、位置を変えながら、敵の位置と微妙にずらしつつ投
げまくった。
やがて、敵も異変に気付いたようだった。もう殆ど身動きが取れていない。クナイは全
てボムの影を封じていた。
「気付くのが遅すぎたな。もう四方八方何処にも手前の逃げ場はねぇ」
完全に影を縛られて、ボムはもがいている。最後の力を振り絞って跳躍し、家の屋根を
蹴って空中で印を組む。空気中の水という水を集め、凄まじい水圧をボム目掛けて叩き込
んだ。
完全に押しつぶされたボムは、叫び声を上げつつ、絶命する間際にリディアのいる家に
目掛けて、炎を吐いた。
「くそっ、何しやがる」
もう一度、集中し水を集めて放った。だが一向に炎が消える気配が無い。
「畜生、何故だ…」
手の開いた人が、駆け寄ってきた。昼間一緒に仕事をした人だった。
「大丈夫ですか?」「俺は、平気だ。だが火が消えない」 「ボムの呪いですよ。執念を持ったボムの火は死後も尚対称を焼き尽くすまで消えない んです」 「こうなったら…」 今度は自分自身に水を纏う。 「何をするつもりですか?」 「止めるな」
静止を振り払いつつ、燃え盛る炎の中に飛び込んでいった。
朦朧とした意識の中で、朝を迎えた。無残に焼け落ちた村を、朝日は静かに照らす。怪
我人は続出したが、幸い死者が殆ど出なかった。村の外れの木陰で、リディアの手を握り
つつ、何度も大丈夫だ、と呟いた。もう直生まれる。男でも、女でも名前は既に決めてあ
る。後はこの子には、最初に何を見せようか、と目の開く時の事を何度も想像した。やが
て、大きな産声を上げて、新しい命を迎えた。
「もう、行くのかい?」 「ああ。こちらも色々忙しいからな。復旧作業を手伝えなくてすまない」 チョコボに荷物を載せつつ村の人に言った。 「また、来ますね。この子が大きくなったら」 子供はリディアの手に抱えられたまま寝ている。 「いつでも帰っておいで。待っているからね」 まるで、直に里帰りするみたいだな、と笑った。 「さて、もう行こう。次はカイポだ。そこを経由してダムシアンに行く」
三人を乗せて、チョコボは走った。行く手には広大な砂漠が広がっている。焼け付いた
大地は、熱気で歪んで見える。燃え上がる地平線だ。俺は、そんな中をこれからもリディ
アとこの新しい命を守ってゆくだろう。
(了)
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