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翼の誓い
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FINALFANTASY IV

断崖から身を投げ、空中でバランスを整え つつ身を捻る。そしてそのまま、大気の抵抗 を全身に受けつつ、凄まじい速さで近づく大 地を睨む。何度も繰り返し、今はあの頃より 遥かに上達したはずだ。もう、失敗はあり得 ない。
今日の最後の修行を終えると、もう日が沈 みかけていた。彼方の森の木々の更に向こう に日が姿を隠しつつある。薪を何本か取り、 結界の中に張ってあるテントの前で、火を起 こし、鎧を脱いだ。もう、4年になるだろう か、修行を続けてから。あいつ等と袂を分か ってから上達したのだろうか。確かに日々の 鍛錬で、確実に一日一日進歩してきたはずだ。 そう感じられない日も、昨日よりは今日、と 歯を食いしばって耐えてきた。だが、繰り返 すたび、父の姿には一向に近づかない、そん な気さえする。今だと、遥か彼方に遠ざかっ てゆく父の後姿が見えるだろう。結局、この 4年間で、技の上達はあったものの、精神の 部分での上達は殆ど無かったのだろうか。古 傷が痛む。最初の頃の失敗を思い出す。空中 を制する者に迷いがあってはいけない。迷い ――まだ、あの事を気にかけているのだろう か。そんなはずは無い。だが――
翌日、やはり向かう事にした。あいつらの 為に。そして、自身の迷いに決着を附ける為 にも、と。夜が明けて間もないうちに、早足 でミシディアに向かった。デモンズロードは、 何度潜ってもいい気分がしない。
バロンに帰還するのは久々だった。セシル の治世になってから、各地の復興も進んだよ うで、交易で更に盛んになっている。正面か ら顔を出すのは、やはり気が引ける。正面以 外からの侵入は、あそこを通るしかない。入 り口が開いていれば良いが。  地下水脈の入り口は、幸いにしてまだ鍵が 開いていた。入り口を潜ると湿って冷たい空 気が肌を刺す。何度となく水の中を歩き、電 気を帯びた魚のモンスターも、巨大な鰐も健 在だったが、今となっては物の数ではない。 水の中を延々進んでいれば、直にバロン城の 裏から侵入できた、はずだった。  それが姿を表したのは、出口付近の開けた 場所だった。背後に気を取られていなければ、 一瞬で吹き飛ばされていたかもしれない。気 配に気付いて、振り返るより先に、身をかわ した。改めて見据えると、巨大な烏賊が水の 中から姿を表した。足の一本一本が、丸太ほ どある。こんな時にと、憤慨したが冷静にな ってみれば、体の内から何か滾る物を感じて きた。久しく忘れていた、真の闘争本能に近 い物が。ホーリーランスを構え、敵を見据え た。敵の第二撃が来た。地面を踏み据え、そ のまま地面を蹴った。体は空に浮き、そのま ま体勢を整えつつ、敵に急降下する。槍を敵 の目に突き刺した。水路中に響くかと思うほ ど、凄まじい唸り声をあげ、更に足を唸らせ る。水の中に着地し、多少足が重たくなって も、難なく避けられた。更にもう一度、空中 で踊り、敵を刺した。今度はさっきよりも深 くに。敵は断末魔の悲鳴を上げ、水中に没し、 意気揚揚とあいつの所へ向かう……はずだっ た。
自力で這い出し、何とか気付かれないよう に城の中に入った。全身ずぶ濡れで、歩くた びに足跡が残る。早く移動しなければ、城の 者に気付かれる。まさか、あそこで油断する とは、不覚だった。
――敵は死んでいなかった。踵を返し、出 口に向かっていく時、途端に足を掬われ水の 中に引き込まれた。敵が最後の力を振り絞っ て、締め上げてくる。突然のことで、水を飲 んでしまい、取り乱してしまった隙に、敵も 俺を掴んだまま、岩にぶつけた。ここで、や られてたまるか、とランスを地面に突き刺し、 ダガーを抜き、渾身の力を込めて足を切り裂 いた。そしてすぐさまランスを抜き、敵の所 に近づき、ありったけ突き刺した。水が赤黒 く染まるまで、何度も突き刺した。
あいつの部屋はここだったろうか。もしあ の頃と変わっていなければそのはずだ。見上 げると、セシルの部屋があった所にテラスが ある。以前は無かったが、恐らく改装の際に 備え付けたのだろう。あの高さなら、問題な い。疲れきった体に鞭打って、もう一度足に 力を込めた。
セシルは、机の上で、書類に目を通してい た。今のあいつに声をかけるのは、あいつ以 外の人間にとっても邪魔でしかなく、後ろめ たい気もするが、さっきの余韻が消えないう ちにも、と部屋の中に進んだ。
「書類仕事か。らしいな」
セシルは、驚いて一歩飛びのき、立てかけ てあった剣を手に取った。俺の姿を確認して も、表情は変わらず険しかった。
「カインか? 何故そんな所から」
「すまない。個人的な用事でな。表から姿 を表しづらかったんだよ」
取り合えず、セシルは剣を下ろした。
「どうして、一言言ってくれなかったんだ。 そうすれば、皆で迎えたのに」
セシルは椅子に腰を下ろして言った。
「随分な慌てぶりだな。気配にも気付かな かったか?」
「ここ数年は戦争も無いんだ。誰のおかげ だと思ってるんだ? 所でローザも会いたが ってたぞ」
「ローザか。会えないんだよ、誓いを果す まではな。覚えているか?」
セシルはもう一つ椅子を持ってきたので、 そっちに腰掛けた。
「ああ、覚えているさ。親父さんを越える んだろ?」
「そうだ。だが考えても見ろ。俺が父を越 えたとどうやって証明する。来る日も来る日 もひたすら崖から飛び降りたり、モンスター 退治に明け暮れて、それの繰り返しでどうや って越えると言うんだ? 昨日幻を見たさ。 親父が遥か彼方に遠ざかっていくのを」
一呼吸置いて、セシルがコーヒーを持って きた。火傷しそうなほど熱かったが、さっき の戦いで冷えきった体に熱が戻って来た気が した。
「焦るなよ、カイン。それがお前の弱点だ ったんだろう? それにな、俺も正直言って、 自分と対峙するまでは、自分の、暗黒騎士の 姿に恐怖を感じていたんだ。自分を見つめろ カイン。そうすれば……」
「なあ、セシル。もう俺は限界なんだよ。 修行の日々に。一区切り打ちたい。そのため に帰ってきた」
俺は立ち上がって言った。
 「俺の相手をしろ。手前勝手で悪いと思う が」
「本気か…… 俺でよければ胸を貸すが」
 「すまない」
セシルも立ち上がり、テラスに歩いていった。
――だが言い忘れていた事があった。後にな っても結局言えなかったが、本当はローザに、 一瞬でもいいから会う為に、帰ってきたんだ と。

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