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by テオ
な に も な い 上 も 下 も な い 空 も 海 も 山 も 人 も ―― オ レ 自 身 も ―― そ っ か こ れ 夢 な ん だ ぜ ん ぶ ―― ゆ め ―― 全 部 が ”夢” だ っ た ら 良 か っ た の に ―― X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 「ザナルカンドに行こう」 ふわふわと浮遊していた意識を、オレはいきなり自覚した。 自分の声に……いや……自分の思いに揺り起こされたみたいに。 「ザナルカンドに行こう」 最初にはっきりと意識してそう言ったのは、いつだったか……。 あれはミヘン街道、だったかな?
目の前を幻光虫がひとつ、流れていった。 あれ? これって、夢、なんだよな? 幻光虫って夢の中にも……。 あは、夢はなんでもアリか……。 その幻光虫の中に、微かにユウナの心配そうな顔が見えたような気がした。 「ティーダ、ティーダ、目をあけて…」 ……ユウナ。 そうだ。 あの時も、降るような星と煌めく幻光虫に囲まれてたんだっけ。 初めて、ユウナの涙を見た……夜。 マカラーニャの泉で……。 「ザナルカンド行こう」 その言葉で、ユウナを泣かせてしまったオレ。 そのせいだけじゃないって、わかってるけどさ……。
あの時、オレは誓ったんだ、オレ自身に。 絶対、ユウナ守ってやるって。 死なせないって。 だから、一所懸命考えてたんだ。 リュックと一緒に。 また、幻光虫が現れたと思ったら、今度は薄くリュックの姿が見えた。 あはっ。夢って便利だな…。 考えたら、相手の姿が見えるって? でもそのリュックは、なんかすごい悲しそうな顔してこっち見てる…。 「つらいよね……お父さん、倒さなきゃならないのって…」 どうしたんだろ? ……そうだよな。 1000年かかって誰にもわからなかったことなんだ…。 そんな簡単に考え付くはずないのはわかってたけどさ。 それでも、ずっとずっと考えてた。 必死で、探してた。 ユウナを死なせずに済む方法を。 それなのに……。 なんだってんだよっ! なんで、オレが消えなきゃならないんだ? そんなこと…。 急に言われて、信じられるかっての!
そうか。 やっと思い出した。 なんかさ、あの時と似てるんだ。 あの、湖の底の見えない壁に触れた後、強烈な光を浴びた。 あれは、ガガゼトの祈り子たちの像に触れた時の感触に酷似していた。 オレ、また気を失って倒れているんだろうな……。 きっとまた、ユウナが心配してる……。 ユウナのことを想ったら、案の定、また幻光虫が現れた。 祈るような瞳でオレに語りかけている。 「今度はキミの番だよ。戻ってきてくれるよね…きっと」 確かに、そう聞こえた…。 ごめん。 ここんとこ、オレ、ユウナに心配かけっぱなしだな…。 だけど、オレが望んでそうなったわけじゃない。 あの時は、バハムートの祈り子がオレを呼んだ。 ……オレのザナルカンドに。 あんなに帰りたかった、ザナルカンドに。 けど……。 オレが帰りたかったザナルカンドは、もう、ない。 オレをスピラに連れてくるために、オヤジの『シン』が”夢”のザナルカンドに侵入したせいなんだろうか。そこはもう、オレのよく知っているあの華やかだったザナルカンドじゃなかった。 そうだ、もう違う。 人っ子一人いないザナルカンドなんて、オレの帰りたい場所なんかじゃない。 いつも賑やかで光に溢れていた、眠らない街、ザナルカンド。 大勢の人たちがいて、たくさんの友達やファンがいた。毎日のように、ブリッツの試合があってさ。ザナルカンド・エイブスのエースのオレがいて。試合して、勝って、負けて。試合終わった後に仲間や女の子たちと遊びに行って。夜明けまで遊んで帰って一眠りしてから、今度は子供たちにブリッツ教えてやったりしてさ。 楽しかったオレのザナルカンドは……もう、ない。 オヤジや母さんがいて、オレが生まれて。オヤジがいなくなって、母さんが死んで。ちゃんと人としての営みだってあったのに。 それが全部、”夢”だったなんて。 信じられない。 信じたくない。 だけど、きっと……本当なんだ。 祈り子が、こんな手の込んだウソをつくなんてない。……それに。 あの閑散とした街並みが、それが真実だってことを、伝えていた。 オレのブリッツの試合中に襲ってきた『シン』。 ……オヤジ。 オヤジの『シン』に破壊されたザナルカンドは、今、きっと再生を待っているところなんだろう。また、新たな歴史を紡ぐために。……”夢”のザナルカンドの歴史を。 そこにはオレもオヤジも、いない。 オヤジは『シン』に、オレはスピラに来ちゃったんだから。 ”夢”じゃない、現実のスピラに。 今までにもこういうことあったんだろうか。 いや、たぶん、なかったんだろうな……。 だから、”夢”のザナルカンドも……スピラも変わらなかった。 それを変えるために、オヤジは敢えて故郷でもあるはずのオレたちのザナルカンドを破壊したのか。『シン』になっちまったオヤジなら、きっと全部わかってたんだろうな…。 そして、オレを連れ出した。 先に、きっとオヤジが連れてきたんだろうアーロンと供に。 オヤジは消えたがっている。 オヤジ、オレも消えるってこと、知ってんのかな? ……『シン』になっちまったオヤジ。 もう、そんなこともわからないのかもしれない。 わからない。 オレだって、全然わかんねえっつうの。 ユウナの親父さんとアーロンとの旅で何があったのか。 なんで、オヤジが『シン』になったのか。 でも、変えたがってる。 消えたがってる。 オレに倒して欲しいって。 最強の『シン』は、きっと自分から消えるなんてできないんだろうから……。 ”夢”が続けば、スピラが犠牲になる。 スピラを救うためには、”夢”を消さなければならない。 なんで? とか、どうしたら? なんて、まだわかんないけどさ。 きっと、そういうことなんだよな。 ユウナを助けるために、オレが……消える? だったら……。 ―― 仕方ないか …そ…うか…… なんか、わかっちゃったな、オレ。 今までのユウナの気持ちが、さ。 そうか、こういうことだったんだ。 自分の大好きな人たちが、目の前で死んでいって、 自分の大切な人たちが、死んだって聞かされて、 何にも出来ない自分が苛立たしくて…。 そんな時。 もしかしたら、その人たちを助けられるかもしれないなら、 そういう人たちを一人でも助ける力が自分にあるってわかったら、 召喚士なら、『シン』を倒せるって、 その召喚士になれるかもしれないって、わかったら……。 きっと、そうする。 オレだって……。 ユウナを助けるためになら、どんなことだって出来るって思ってる。 今のオレなら。 実際に相手の立場になってみないと、本当のことはわかんないんだって、 昔、母さんが教えてくれたことがあった……。 うん、母さん、今ならよくわかるよ。 自分がどんなになっても、 この人にだけは生きていて欲しい、って心の底から思える人に出会ったから…。 だから、今までの、いや、今のユウナの気持ちが……わかる。 胸が……痛いほど、よく……わかるんだ……。 何も知らないオレに、ずっと黙っていたってことも。 できたら、ずっとオレに知らずにいて欲しかったんだってことも。 最後の……瞬間まで。 「最後まで お願い……します」 「最後じゃなくて…… ずっと」 「……ありがと」 ごめん、な。 ……ごめん。 ……ごめんな、ユウナ。 ずっと、って約束、オレ…… ……オレっ… ―― 守れそうにないんだ…… ……っ、でもさ、きっと。 ユウナの最後なんかじゃない、オレの……最後、までは…… ずっと、ユウナのガードでいるから。 ずっと。 最後まで、ずっと……。 オレさぁ。 みんながずっとオレに黙ってたこと、怒ってたんだよな。 なんで、オレだけ知らなかったんだ、って。 どうして、教えてくれなかったんだ、って。 ユウナが死んじゃうんだってことをさ……。 なんで黙ってたんだって、あの時は腹が立ってしょうがなかったけど。 でも……。 やっぱり、今なら、わかる。 祈り子が、言った……。 「キミは 夢を終わらせる夢に なれるかもしれない……」 ”夢”は『シン』だ。 その”夢”を終わらせられるかもしれないって、祈り子は言ったんだ。 ”夢”が終わるってことは、『シン』を倒せるかもしれないってことだ。 今まで終わることのなかった”夢”を終わらせる……。 究極召喚がどんなものなのか、まだ知らないけど。 でも、祈り子は究極召喚のことは言ってなかった…。 それって、究極召喚じゃなくても『シン』を倒せるかもしれないってことだよな? それで本当に”夢”だけじゃなく、 『シン』も蘇らないようにできるかなんてわかんないけど。 究極召喚じゃなければ……ユウナは死なないですむかもしれない…。 祈り子が言ったんだ。 きっと、出来るさ。 いや、必ず終わらせてみせる。 ……オレが。 『シン』を、オヤジを倒して…。 そして。 オレ自身さえも……。 ……だから。 その瞬間がくるまで、誰にも言わない。 『シン』が消えたら、オレも消える……。 こんな大事なこと、知らされないってどんなに寂しいか、よくわかってる。 オレも、そうだったから。 だけど、こんなことだから言えないんだって気持ち。 ユウナなら……わかるだろ? 避けられない事実なら、せめて、迷いや悲しみを少しでも先に。 どうせ襲ってくる現実なら、最後の時まで知らずに、って。 オレ一人のために、『シン』を倒すの止めるなんてできやしないから。 オレのために、ユウナやスピラの人が犠牲になるなんて、絶対に嫌だから。 ユウナがオレのために苦しむ姿なんて、見たくないから、さ。 だから、最後のその瞬間まで。 オレが消えるってことを……。 ―― 誰にも知らせない。 理由もなく消されるのなんて、我慢できるはずないけど。 オレが消えることで、ユウナが死なずにすむのなら。 その可能性が少しでもあるのなら。 ―― ユウナの笑顔を守れるのなら ―― オレの存在 『シン』と、祈り子たちが召喚しているっていうこのザナルカンドがどう繋がっているのかは、今はまだわからないけど。きっとこれからわかってくるんだと思う。 そう、”夢”じゃない本当のザナルカンドに行ったなら。 ザナルカンドは、もうすぐそこだから。 だから、こんな夢の中でのうのうとしてる場合じゃないんだって! そう言えば……。 今度は”誰”がオレを呼んだんだろう? 『 違 う 』 え? 『 あなたが、私たちを呼んだのよ…… 』 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X 「! アーロンさんっ! みんな! ティーダがっ!」 重く、すっかりくっついてしまったようになっている瞼を苦労して開くと、そこには心配そうな顔してるけど、いつもの強い意志を湛えて覗き込んでいるユウナの瞳があった。 「ほんと?」 真っ先にリュックの声が聞こえてきて、近づいてくる足音がする。続いて複数の足音と仲間たちの声も。 「え? 本当?」 「お、やっと起きたかぁ」 やっとの思いで全部目を開ききると、ユウナの背後に立っている緋色の衣が目に入ってきた。 「やっとお目覚めか。随分と長い休息だったな。いい身分だ」 そう嫌味を言い置いて、衣の裾を翻しアーロンが視界から去っていく。 ―― そんな言い方しなくったっていいだろ ―― オレだって好きで…… ユウナに助けてもらいながらやっと起き上がったところにそんなことを言われて、思わずティーダが言い返そうとしたら。 「おっちゃん! そんな言い方ってないじゃん! ティーダだって自分から好きで倒れたワケじゃないんだからさあ」 代わりにリュックが噛み付いてくれていた。 「ふん」 横目で見て鼻で笑ったアーロンは、そのまま行ってしまった。 「サンキューな、リュック」 すぐ後ろの崩れかけた壁に寄りかからせてもらったティーダは、やっと自分の声でそう言うことができた。けれど、かなり長いこと声を出してなかったせいか、すっかりかすれ声になってしまっいて自分でも驚く。 「オレ、どれくらい寝てたんだ? それに、ここって?」 心配と安堵の入り混じった表情をしたユウナに尋ねた。 しかし、ユウナの答えも歯切れの悪いものだった。 「う…ん、それがね。よくわからないんだ、私たちにも」 「わからない?」 「うん……」 それから、ティーダが倒れてから起こったことを、仲間たちがかわるがわる話したのだった。 話を聴きながら、ティーダはそれぞれの様子を見て思う。 ―― みんな、だいぶ疲れてるな…… 程度の違いはあれど、皆、疲労と焦りが色濃く表情から滲み出ていた。 それはそうだろう。どうやら幻光虫の増減で昼と夜を計っていたらしいが、それも定かではなく時間の感覚そのものも狂っているようだとルールーが説明していた。それでも、6回は夜としての休息を取ったという話だったから、一週間近くも閉じ込められていることになるのだ。 ユウナの旅の目的地、ザナルカンドはもう目と鼻の先だというのに……。 「そうか……。んじゃ、ここはあの湖の底ってこと?」 「うん」 「オレが寝てる間、みんな頑張ってたんだな……」 そう言ってみんなの顔をもう一度ゆっくり見回すと、その中でも特にルールーの顔色が悪い。元々白かった肌の色が、今ではまるで紙のように生気も薄れているようだった。それでも、聞いた話からすると一時期よりはずっといい状態らしい。 「あのさ。ユウナんがずっとキミに付き添ってくれてたんだよ。ちゃんとお礼言いなよね」 「そっか。ありがとな、ユウナ」 ユウナは少しだけ首を振って、ううん、と笑ってくれた。 「みんなにも心配かけて、ごめん」 座ったまま、両手を開いた膝に置いて、ティーダはペコっと頭を下げる。 「ああ、まあ、なんだ。気がついて良かったよ、なぁ? ルー」 「そうね。それにしても、あんた今回は目が覚めるまで随分とかかったわね。また、夢でも見てたの?」 「あ、ああ……。うん、いろんな夢、見てた……」 最初の方のはまだ話せるけど、後からの夢は……。だから、言葉を濁すしかなかった。 「まあ、長かったと言ってもどれくらいの時間が経ってるのか、本当のところは私たちにもわからないんだけど…」 「そうなんだよなぁ。なぁんか腹も減らねぇしよ。眠ってもちゃんと寝てるんだか起きてるんだかイマイチ実感ねぇし」 不可思議なこの状況をワッカとルールーが話してくれている時、ティーダの中で何かが引っかかった……。 「それもこれも、その死人たちが関係してるって?」 「うん、たぶんそうなんだと思う。そんなふうにも言ってたし…」 ユウナの言葉の後を継いで、ワッカがいかにも言いにくそうに話し出す。 「それにな。アーロンさんやキマリとも話してたんだけどよ……」 「うん?」 「私たちには消えたように見えた死人たちも、単に執着が消えただけで存在そのものは消えてないんじゃないかってことなの」 「それって……異界に行ってないってことか?」 ワッカの代わりにルールーとユウナが理路整然と説明する。 「うん、そうなんだ。私が異界送りできればいいんだろうけど……」 ユウナが意味ありげな視線でティーダを見ていた。 そして、他のみんなも。 「死人に会っていないのは、後はティーダだけだ」 皆の気持ちを代弁して、少し離れたところに腕組みして立っていたキマリが言った。 「いくつかの強い思いは消えても、まだ異界に行く程には思いきれていないらしい」 いつの間に戻ってきていたのか、アーロンがティーダのすぐ横に立って見下ろしていた。 「おそらく、鍵はおまえだな」 アーロンの言葉にちらりと目を上げたティーダは、今度は少し立てた膝の上に肘を置いて、考えこむように両手の親指を口元に当てる。 「うん。……たぶん」 おや? という顏をしたアーロンが再び声をかけてきた。 「何か心当たりがありそうだな」 ティーダは気を失う前に聞いた声と、目覚める前にも聞こえてきた声とを思い出しながら言う。 「あの光を見て意識がなくなる前にさ、確かに聞いたんだ。『目覚めさせることができるなんて』って。それに……」 「それに?」 ユウナが小首を傾げて真剣に聴いている。リュックも身を乗り出し、他の皆も同様だった。 ―― そうだよな、オレと違ってみんなずっとここに閉じ込められてて、まいってるんだ ―― 身も心も… ―― 早く出たいんだ、ここから、一刻も早く…… 「……オレが呼んだ、って」 「キミが? 呼んだ?」 「うん…」 「どゆこと〜?」 リュックが身を乗り出して訊いてきた。他の皆も眉を顰めて訳がわからないといった様子だった。 ―― 驚くのも無理ないよな…… ―― オレだってよくはわからないんだから 「たぶん……ザナルカンドが、オレのザナルカンドが関係してるんじゃないかな?」 ティーダは実際に思っていることとは少し違うことを口にする。 今ここで言えることではなかったから。 「それって、これから行くザナルカンドのことじゃないんだよね? ……1000年前の?」 「えーっ?! キミのザナルカンドって1000年前のなのぉ?」 次第にまずい方向へと話題が迫ってくる。早々に話を切り上げることにした。 「だから、オレもよくわかんないんだって。でも、レギスタンって1000年前に滅んだんだろ? ザナルカンドと一緒に」 「キマリはそう聞いている」 「オレのザナルカンドとは違うとは思うんだけどさ。でも、シーモアんとこで見た1000年前のザナルカンドって、すごくオレのザナルカンドに似てたんだ。まるでそっくりだった」 シーモアと聞いて、キマリの眉がピクリと跳ね上がる。しかし彼は意志の力でその思いを抑えこんでいた。 そしてもう一人。 アーロンが、口角を下げ隻眼を眇めていた。ティーダ以外で唯一、そのザナルカンドを知っている人物だったから。 「だから、何か関係あるんじゃないかってか? なぁんか説得力ねーけどよ。まあ、とにかくおまえが死人に会わなきゃ収拾つきそうもねーわな」 我ながらちゃんと皆が納得できるように説明できていないと思っていただけに、ワッカのこの大雑把なまとめ方にティーダはいち早く乗った。 「そういうことッス!」 間髪あけず、ティーダがすっくと立ちあがる。 「ちょうどいい具合に、向こうから来てくれたみたいだしな」 街の中央、ティーダが真っ直ぐに見つめた先に、幻光虫が集まり始めていた。 この廃墟の街中の幻光虫が集まったのではないかと思えるほど、ものすごい数が密集している。それなのに、それぞれの思いの強さで姿を保っていたはずの死人が、いつまでたっても明確な人型を為し得ていないのは、これまでの仲間たちの努力の成果なのだろう。 「行ってくる」 そう言い置いて、ティーダはそれに近づいていった。 「ティーダ!」 振り向くと、ユウナが期待と懇願、そして何より不安と心配とが溢れている表情で見つめていた。 「気を……つけてね」 ティーダは、片手でグッと拳を握って中空に掲げる。 「おう! まかせろって」 今までとは違う。 それまでは姿形は違ったとしても、ちゃんと人型として見えていた。それ故なのか、対峙した仲間たちは口々に、死人に敵意は感じなかったと言っていた。もちろんユウナも。 だが、今回はそうではない。 ティーダが近づいていっても、幻光虫たちが人型になる様子はまったくない。 おまけに、ほんの僅かではあったが、あきらかに敵意らしきものが伝わってくる。しかも人型をしていないということは、直に語り合うことはできない。それがユウナには心配でならなかった。 ―― どうやって? ティーダ……? しかし、どうやらユウナと同じように考えたらしい仲間たち ―― 現にワッカとリュックは既に駆けだそうとしていた ―― を、ズイと前に出たアーロンが片手を真横に差し出して制していた。 「あいつにまかせよう」 「でも、アーロンさん」 ちょうど胸元を抑えられた形になったワッカが言い募る。すると、フッと笑ってアーロンが言ったのだった。 「今のあいつなら、大丈夫だろう」 確信の笑みだった。 ―― この洞窟に入る前と、今とでは ―― 瞳の色が違うからな…… 気を失っている間に何があったのか、いや、それよりもガガゼトの峠で倒れた時に何があったのか。アーロンでさえ推し量ることしかできなかったが、それでも。 ―― あの時から見えていた迷いが、今はない 本人は必死で隠していたつもりだったのだろうが、あれだけ動揺していればわかるというものだ。ただ、ティーダが知られたくないと思っているのなら、知らぬフリをしているしかなかった。 けれど、今はその迷いの色がきれいに払拭されていた。 「けどよ……やっぱ…なぁ?」 アーロンに言われても心配を拭い切れないワッカが仲間たちを振りかえる。すぐ後ろにいたリュックを、ルールーを、キマリを、そしてユウナを。 ユウナがコックリと頷いていた。 「わぁ〜ったよっ」 言うと同時にどっかとその場に腰を下ろし、ワッカも覚悟を決めたのだった。 幻光虫の塊にゆっくりと近づいていくティーダ。 近づくにつれ、引き寄せられるような感覚と弾き飛ばされるような感覚を、ティーダは合わせて味わっていた。 ―― 苦しんでるんだな…… 相反する思いが交差する幻光虫たち。 かのレギスタンの人々の思い。 ―― たぶん ―― オレが一番、あんたたちの気持ちが……わかる ―― 1000年前のザナルカンドで繋がってるから…… 次の瞬間。 ティーダは幻光虫の群れに取りこまれた。 仲間たちは、その様子を固唾を飲んで見守っているしかなかった。 X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X
X X XX XXX XXXX XXXXX XXXX XXX XX X X ユウナたちが見守る中、無数の幻光虫の群れにティーダが取り込まれた後しばらくの間、時間が止まっているようだった。そして、見る見るうちに光が薄れてきたと思ったら、幻光虫たちが一瞬のうちに飛び散った。 凝縮していた光が霧散して、あたり一面に飛び交っている。 まるで星の光を乱反射するさざなみのように……。 その中心に、今まで幻光虫たちに隠されて見えなかったティーダの姿がぼんやりと現れた。 「ティーダ!」 「まだだ!」 思わず駆け寄ろうとするユウナをアーロンが一喝した。それにルールーが続く。 「ユウナ、今よ! 異界送りを!」 「!」 一瞬のためらい。けれど、すぐに己の使命を果たすべく、ユウナは杖を握り締める。 「はいっ!」 ユウナが踊る。 地上にうごめく苦しみの光を、天上の至福へといざなうために。 ユウナが踊る。 想いに捉われ、長き時に揺蕩 ユウナは、踊る……。 一つの光が、先ほどから一歩も動いていないキマリの元へと流れてきた。 『俺の…居場所……』 キマリが、静かに頷く。 『……安らげるところへ……』 ほどなく薄れて完全に消え去るまで、キマリはその光を目を細めて見つめていた。 小さな光が、リュックの頭上へと辿り着く。 『楽しかったよ…』 弾むように揺れてリュックの周りを何度か回って。 「……。うん、あたしもね」 そして、すぐ隣にいるワッカとルールーの間を通り抜ける、光。 『今度生まれてきたら……きっと……』 「ああ」 「きっと…ね」 きつく唇を噛んだリュックと、寂しげなワッカの笑みと、愛おしむようなルールーの眼差しに見送られて、光は消えた。 最後まで形を保っていた光が、アーロンの前で漂う。 『……あなたも……いつかは……』 フッと俯き瞑目した男は、瞼の裏に浮かぶ二つの友の面影を追う。 「そう…だな」 それを見届けたかのように、光は踊っているユウナの所へ向かい、そのまま消えていった。 『諦めない…で……最後まで…』 それまで無心で踊っていたユウナが、その声にハッとして動きを止めた。 その時には、もうすべての幻光虫が綺麗に掻き消えていた。 「…………はい」 幻光虫たちが完全に消え去った後、その場に一人、目を閉じて立っていたティーダが鎖から解き放たれたようにフラリとよろめき倒れた。 「ティーダっ!」 一番近くにいたユウナの叫び声を合図に、仲間たちが駆け寄る。 いち早く駆けつけ、ティーダを助け起こしたのはキマリだった。 「大丈夫だ、ユウナ。今度は意識がある」 「ほんとう? ……良かった」 キマリの言葉にユウナが心底ホッとした顔をして、抱き起こされたティーダのすぐ脇に座り込んだ。うっすらとは開いていたらしい瞳をティーダがゆっくりと見開いていく。それと同時に彼の手足に、身体中に、感覚が戻ってきていた。 キマリの腕から身を起こし、ユウナを見つめ、自分の周りに集まっている仲間たちを見て、そしてまたユウナに視線を固定して、ティーダが言った。 「終わったんだよな…」 「……うん」 その時ユウナは、ティーダの瞳の中に一抹の例えようもない”何か”を見た。……気がした。 「あいつら…あのレギスタンの人たち…行った……」 ティーダはユウナから目線をずらし、空洞の上方を眺めるような遠い瞳で呟く。 「ちゃんと自分たちの逢いたい人がいる場所へ……」 「…うん」 「行っちまいやがったな、あのガキ…」 ユウナの後ろから片膝を立てて覗き込んでいたワッカが、ほんの少し寂しげな様子で隣のルールーを見やる。 「ええ…そうね」 ルールーもまた、ワッカと同じ色合いの瞳で静かに頷いてた。 「うん……。そだね、良かったんだよね、これで……」 ワッカたちとはティーダを挟んだ反対側で、両手で膝に突っ支い棒して身を屈めていたリュックも、同じ気持ちを共有できる二人へと微笑みを送っていた。 「異界で、逢えるよね、あの子。……きっとさ」 ―― あんなに逢いたがっていた、家族に… 今は一歩距離を置いて下がっているキマリも、少し離れたところで皆に背を向けているアーロンも、それぞれの思いで瞑目していた。 しばらくそうして、短かったけれど一人一人に強い印象を残していったレギスタンの人々への思いを辿っていた。 ふと、ユウナが我に返り、自然に湧いてきた疑問を口端に乗せる。 「でも、どうしてキミが……」 「地面が濡れてきている!」 ユウナの言葉を、突然キマリが遮った。 「えっ!?」 全員が振り返る。 閉じ込められた時と同様に、キマリは腰を屈め手を地面に当てていた。 「こうなった原因がいなくなったからな。すぐにここは元の湖に戻るだろう」 真っ先に坑道の方へと歩き出しながら、アーロンが言い放った。 「そっそれって、やばいんじゃねぇか?」 「急ぎましょう!」 言うが早いか、皆、坑道の方へと登っていく。ティーダも起きる時だけはユウナに助けてもらったものの、その後は自分の力だけで歩けるほどには体力が戻ってきていた。が、来た時と違い、次第にぬかるんできている地面に上り坂ということも手伝って足が取られる。 先行していたアーロンが坑道の入り口だった場所へと辿り着いて振り向いた時には、影のように音もなく満ちてきていた水が、最後尾を苦労して登っているユウナとティーダのすぐ後ろまで来ていた。普段なら水など恐るるに足りないのだろうが、数々の異変の起こったこの場所では避けて通るにこしたことはない。完全に元の湖の姿に戻るまでは……。 「急げ! 呑み込まれるぞ!」 アーロンの声を聞いて、ユウナとティーダがハッとして振り向く。水は二人の足元すぐ近くまで来ていた。 「あっ!」 振り向いた途端、ユウナがバランスを失い転びかけた。 「ユウナっ!」 それを隣にいたティーダが支えようとして、彼もまた体勢が崩れそうになる。 無理もない。異質な空間にずっと閉じ込められて、精神的にも肉体的にも疲弊してい上にたった今異界送りを行ったばかりのユウナと、ずっと精神と身体が切り離された状態だったティーダだったのだから。 二人が水の中に転がり落ちる、と仲間たちが思った瞬間、水際ぎりぎりでキマリがガシっと二人を後ろから支えた。彼はわざと二人と並行して登っていたのだった。 そのまま二人を抱えるようにして、キマリは坂道を登りきっていた。 「ありがと、キマリ」 やっと水のこない場所まで着いてキマリから下ろされたユウナが、荒い息をつきながら礼を言っていた。ティーダもそれに倣う。 「助かったッス」 ロンゾの雄 「礼には及ばない。これがキマリの役目だ」 キマリもまた、一族の悲劇を乗り越えられたのは自分が”ユウナを守る”という使命があるからだということを、改めて己に刻み込んでいたのだった……。 「あ!」 今度はリュックが甲高い声をあげた。 またもや一斉に振り返る仲間たち。 「ど、どうしたんだ? リュック」 また何かやっかい事かよ、と明らかに不安が滲み出ている声でワッカが尋ねる。 「坑道が………開いてる!」 リュックが指差した先、皆が立っているすぐ背後に、確かに坑道の入り口があった。 閉じ込められてからというもの、何度も何度もその場所を確かめたのだから間違いはない。ずっと固い岩肌しか見せていなかった坑道が、今、その入り口をぽっかりと大きく開いていた。 いや、この場合、出口と言った方がいいだろうか……。 「やったな、やぁっと出られるぜ!」 「だねっ! ホント、良かったぁ」 手と手を取り合って喜ぶ、”自称”と”隠れ”の賑やか担当同士。 「本当に、もう洞窟はたくさんだわ」 うんざりした口調ではあっても、嬉しそうな声音を隠せないルールー。 キマリでさえも、その強面 「良かったね」 「うん」 お互いに心にひっかかるものがあったせいか、仲間たちのように解放の喜びに乗り切れないユウナとティーダは二人でぎこちなく微笑み合っていた。 ユウナは少しだけ目を伏せて、やはり気になるとばかりに先ほどの質問を続けようとした。 「あのね、やっぱり訊きたい。どうしてキミがあのレギスタンの人たち……」 「ユウナ!」 そこへアーロンの鋭い声がかかる。 「あっ、はい! アーロンさん」 「疲れているだろうが、先を急ぐぞ。だいぶ足止めされたからな」 「あ……はい……」 先に立って出口へと歩き始めたアーロンに言われて、ユウナは言葉を続けられなくなってしまった。 「ザナルカンドはもう、すぐそこだ」 ―― その前にもうひと波乱あるがな…… その時にならなければ明かせぬ真実を、今は黙って呑み込む漢 ―― そう……だよね ―― 今は、ザナルカンドに行くことだけを…… ―― ……考えよう 疑問も切ない想いも振り切って、ユウナは先を行く仲間たちの後を追った。 おそらくワッカもルールーもキマリも、ユウナと同じようにどんなに今回の顛末を問い質したいだろう。目的地寸前になって、強制的にこんなところに閉じ込められて、理不尽な目にあったのだから。 けれど、彼らはただ黙って旅の続きに戻っていった。人にはそれぞれ計り知れない事情があるのだということを、大人たちはよく理解していたから。話せる内容であれば、とっくにティーダの方から説明しているだろう、と。 そして、外へ出るための道すがら、容赦なく現れてくる魔物を排除して後続の仲間たちのための安全を確保しながら。 そんな頼り甲斐のある仲間たちに対して、ティーダはただ感謝の念を抱くしかなかった。 ―― ありがとう、みんな と、そこへ、まだ納得していないらしい一人が歩み寄ってきた。 「あのさ…」 「う……りゅ、リュック…」 「ナニさ。 なにオタオタしてんの?」 ―― まだ、リュックが残ってたっけ… どうやってやり過ごそうかと冷や汗ものでティーダが考えていると、意外なことにリュックの問いかけは彼の予想とは違っていた。 「ユウナんを助ける方法、考え付いた?」 「! あ、そっちのことか…」 あからさまにホッとした顔をするティーダに、リュックが訝しげな顔をする。 「何のことだと思ったのさー」 「い、いや、何でもないッス…」 思わず焦るティーダ。 が、ティーダのそんな様子も気にならないくらいにリュックは思いつめているようだった。 「キミが眠ってる間中さ、あたし、考えてたんだよ。チャンスなんだって。ゆっくり考える時間できたって。だって、ね……」 「どうしたんだ?」 リュックがらしくなく、言ってもいいものかどうか逡巡しているようだった。 「みんなには言えなかったんだけどさ、あんな雰囲気だったし。……なんかね、変なの」 「変?」 「うん。ほら、あたしアイテムいっぱい持ってるじゃん? んで、そん中に食べ物とかもあるんだけど……」 話がよく見えなくて、ティーダは生返事を返すしかできない。 「……うん」 「果物とかね……、傷んでないんだよ……ちっとも」 「え……? それってどういうことだ?」 「だからね、えっと、あたしたちだいたい7日…一週間はこの洞窟の中にいたって思ってたんだけど、本当はそんなに時間経ってないんじゃないかって……。中にはすっごい腐りやすい果物とかもあったのに、まるで昨日採れたみたいに新鮮でさ」 「……それ、オレ、わかる気がする…」 「んんん?」 「オレもさ、変な感じしてたんだ。オレ、その間ずっと寝てたってことだろ?」 「うん、そだよ」 「普通そんなに長いこと歩いてなかったら、起きてすぐこんな風に歩けるもんじゃないだろ?」 リュックも覚えがあるのか、なるほど、というように拳を顎に当てて考えこんでいた。 「そか……。あ、でも、よくそんなこと知ってるね?」 「あ、ああ。母さんが病気した後、よく起きてからフラついてたから……」 「……そっか。そうだよね。……ってことはさぁ?」 「誰かが、あのレギスタンの人たちかもしれないけど、オレたちに考えるための架空の時間を作ってくれた、って?」 「うん。きっと、そうだと思う」 真剣なまなざし。 ―― そんなこと、考えてたのか、リュック…… ティーダはさっき慌てた自分が少し恥ずかしくなった。 「うん……。そうかもな……」 しかし、リュックは両手で頭を抱えて、今にも泣き出しそうだった。 「でも、ゼンゼンだめ。考え付かない。あんなに時間、あったのに。……もう、どうしよう……」 「リュック……」 うん、と一つ頷いて。 「オレもどうしたらいいか、なんてやっぱりまだわかんないけどさ。ずっと……寝てたし、な」 ―― 夢は、見てたけど…… ―― オレの……意志を確かめるための……夢を 「ここに来る前、シーモアと戦う前にも言ったけどさ。きっと、ザナルカンドに行けばなんとかなるって」 「…………」 「あ、疑いの目」 「だってさぁ」 執拗に食い下がるリュックに向かって、ついこの間まではなかった自信を持って言ってやる。 「大丈夫だって。あ、ほら、アーロンだってさ、ザナルカンド行こう行こうって言ってるだろ? あれ、まだオレたちの知らない何かがあるんだ、きっと、ザナルカンドに」 「う…ん。そーなのかなぁ」 「ったく、いろんなこと知ってるくせにさあ、”他人の知識はアテにするな”とか言っちゃって、全然教えてくれないんだもんな、あのおっさん。ただ行くだけなら、オヤジたちみたいに……」 「あ……ゴ、メン…」 急にリュックがしんみりとした顔になって俯いた。 ―― そうだ… ―― リュックもついこないだ『シン』がオレのオヤジだって知ったばかりだったんだ 「いいよ…。オヤジは……どうやら、オレに倒して欲しがってるらしいから。気にすんなって」 ―― オレが慰める立場じゃないけど…… 「う、ん。…でもさ…」 リュックが死人の少年によって見せられた夢で、肉親を倒そうとする苦しみを理解できるようになっていたとまでは、ティーダにわかるはずもなく。 なんだか気まずくなって二人で言い澱んでいると。 「リューックー!」 見ると、ユウナとアーロンが立ち止まって二人を待っていた。 「何を道草食ってる。置いていくぞ」 そっけなく言って再び歩き出すアーロン。 「あ、まっ待ってよぉ」 リュックも、これ幸いとばかりに駆けていった。 先に行ってしまったアーロンに対して、ユウナはリュックを待ちながらティーダへと未だに揺れている視線を送ってくる。 ティーダは複雑な表情を浮かべて笑い返し、歩き出した。ユウナもそれを見て、追いついたリュックと並んで歩き始めていた。 ―― ……ユウナ 「ありがとな、アーロン」 結果、二度も助け舟を出してくれた形になったアーロンにティーダは小さく呟いた。 アーロンも今回の一件について正確なところがわかっている訳ではないだろう。だが、ティーダやユウナたちが知らない多くのことを知っている。10年前の体験と、そして、スピラと”夢”のザナルカンドの双方を知っている唯一の人物。ティーダのザナルカンドが”夢”であることまで知っているかどうかはわからないけれど…。 どうしてレギスタンの人々がティーダによって目覚めさせられたのか、そして、ティーダがどうして彼らを真に解放できたのか。それまで、仲間たちがそれぞれ逢った死人たちの執着を解き放ってやっていた、そして彼らを納得させるための最後の”鍵”がティーダだった。 ティーダの存在そのものが、彼らの在るべきを知らしめた、ということ。 ―― でも、それをみんなに話すということは ―― オレが”夢”のザナルカンドから来たからだってことを ―― 話さなければならなくなるから…… ―― 1000年前のザナルカンドを再現したという”夢”のザナルカンドから…… 1000年前に滅んだ都市、ザナルカンドとレギスタン。 おそらく、彼らはティーダの存在に自分たちとの共通性を感じとったのだろう。 その存在に対する嫉みとともに。 死人にもなりきれなかった彼らは、ただ漂い、儚い夢を見続けるしかなかった。 1000年もの永遠に近い時を、ただ夢見続けるだけの存在。 そこへ、ザナルカンドの夢の具現化であるティーダが現れたのだ。 彼らと同じ時代に在ったザナルカンドの匂いを感じた…。 何故? どうして? 長い…気が遠くなるほど、長い”とき”が経っているはずなのに…。 有り得るはずのない存在に、彼らの感情が交錯した。 驚愕、共感、懐古、羨望、そして、嫉妬。 それらの感情が一気に凝縮し膨張して、破裂した。 ―― だから、目覚めた…… ―― せっかく湖の底で静かに眠っていたのにな ―― オレが来たことで起こしてしまった…… ―― ごめんな ―― でもさ ―― そのままでいいはずないから…… ―― 今ここで、もしも目覚めなかったら ―― ずっと苦しみを抱えたままだっただろうから ―― これから先も、ずっと… ―― だからオレと出合ったんだ、と思う ―― だから、オレたちが来なきゃならなかったんだ、きっと 自分たちを目覚めさせたティーダが、自分たちを消滅させる最後の鍵なのだということを、彼らは本能的に感じ取っていたのだろう。だから、なかなか目覚めさせてもらえなかった…。ティーダ自身の迷いをも利用して、心を夢の世界に縛り付けられていた……。 けれど、迷いのない心には、もう甘美なだけの夢は要らない・・・。 そして。 想い出に執着して彷徨い夢見るレギスタンの人々と、ガガゼト峠でザナルカンドの夢を見続ける祈り子たちは、きっと同じ。祈り子となったザナルカンドの人々が、何故、あんなことになったのか、それはまだわからないけれど……。 ―― オレが… ―― 生きたい、と誰もが持ってる執着を ―― 自分から断ち切りに行くってことを ―― 大切な人のために ―― 自分で自分を消しに行くってことを ―― 本当の意味ってやつをさ ―― わかってくれたんだよな…… ―― 人は…… ―― 自分より大切だって思える人がいることが ―― どんなに、幸せかってことを、さ ―― わかってくれたよな…… 入り組んだ坑道の中ほどに、試練を解いた後に現れた飛び石の階段をティーダは一人上っていく。 階段の上部が洞窟の中とは違う明るさに満たされていた。ここを上りきれば、もうこの洞窟とはお別れだ。皆はもうとっくに洞窟の外に出て、新鮮な空気を肺一杯に吸い込んでいることだろう。 洞窟を出る最後の階段に足を置いて、ティーダはゆっくりと振り返る。 「一番大切なことを思い出させてくれて、ありがとな」 このガガゼトを越えれば、いよいよザナルカンドだ。 ティーダにとって初めて見る、スピラのザナルカンド。 たとえ、廃墟だとしても。 それが、自分のザナルカンドではないとしても。 そしてまだ、ユウナを死なせずに『シン』を倒す方法が見つからなくても。 ―― 見つけてやるさ! きっと! ―― もう、オレの心の奥の決意は揺るがないから…… ―― 必ず、ユウナとスピラを救ってみせる ―― オレの存在のすべてをかけて! ティーダが出て行った後、人気 1000年の昔から変わることなく。 1000年の時が経っても変わらずに……。 ― 終 幕 ―
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